病理学

病理学 · C/85

甲状腺炎/甲状腺機能低下・亢進

Thyroiditis, hypo- and hyperfunctions of the thyroid gland

応用トピック
甲状腺疾患の症状・診断・治療甲状腺炎甲状腺の炎症性疾患・変性疾患・腫瘍甲状腺の良性疾患と治療
疾患
バセドウ病甲状腺炎(亜急性・産後・無痛性・リーデル)甲状腺機能低下症
検査値
TSH受容体抗体抗TPO抗体

🧠 全体像:甲状腺炎は痛みの有無と経過で鑑別するのが実践的——De Quervainは有痛性でウイルス感染後に亢進→低下→という一過性の経過をたどるのに対し、橋本・Riedel・はいずれも無痛性でが背景にある。甲状腺腫の第1原因はで、T3/T4合成の低下がを押し上げ濾胞を過形成させるという単純なフィードバックの結果である。Graves病は受容体抗体(TSI)がを模倣し続けることで、甲状腺だけでなく眼窩・皮膚にまで及ぶになる。

甲状腺炎

概要

  • 甲状腺炎は甲状腺の炎症。
  • 急性型は稀、亜急性・慢性型がより多い。

A)橋本甲状腺炎(慢性リンパ球性甲状腺炎)

  • ヨード充足地域での甲状腺機能低下症の最多原因。
  • +無痛性甲状腺腫を来す自己免疫疾患。
  • 年齢45〜65歳、女性 ≫ 男性。
  • 小児も侵す → 小児甲状腺腫の主要原因。

発生機序(3機序)

  • CD4 Th1 → IFN-γ → マクロファージ活性化 → 甲状腺細胞傷害。
  • CD8⁺ T細胞介在性の直接的な甲状腺細胞殺傷。
  • 抗甲状腺抗体(抗、抗) → NK細胞結合 → → 細胞死。

形態

  • の減少、を伴う+Hürthle(好酸性)細胞に置換。

関連

  • 他の自己免疫疾患(1型糖尿病、、、SLE)。
  • B細胞のリスク増加——一般集団に比べ甲状腺リンパ腫のリスクが約60倍、のリスクも約1.6倍高いとされる1。甲状腺原発リンパ腫の組織型としてはMALTリンパ腫が代表的である。50研究の系統的レビュー(うち27研究の)でも(1.65)・リンパ腫(12.92)・(2.70)との有意な関連が確認された一方、・では有意差はなかった(の高い研究が多く前向き研究が必要)2。
  • HLA-DR3/DR5。

B)De Quervain甲状腺炎(亜急性肉芽腫性)

  • 35〜50歳の女性。
  • おそらくウイルス性・ウイルス感染後(、、麻疹)。
  • 濾胞の破壊 → 漏出 → 巨細胞を伴う肉芽腫性反応。
  • 症状:、発熱、甲状腺腫大。
  • 経過:甲状腺機能亢進で始まる(既成ホルモンの放出)→ 機能低下(破壊)→ 回復。
  • 自然軽快。

C)Riedel甲状腺炎

  • 甲状腺+周囲頸部構造の広範な線維化(岩のように硬い)。
  • 抗甲状腺抗体を伴うことが多く、組織像は関連疾患の甲状腺での局所型と矛盾しない。約3分の1の患者は後腹膜・膵、縦隔、肺、眼窩、唾液腺などの線維化も伴う3。
  • を伴うことがあるが、頻度は報告により約30%からMayo Clinicの19例中14例(原文の記載は78%だが、14/19は約74%)まで幅があり、甲状腺機能が保たれる例もある3。
  • 癌を模倣しうる。
  • ⚠️ 治療の位置づけが変わった。 歴史的には圧迫解除のための手術(切除)が中心だったが、関連疾患とみなす現在はグルココルチコイドが第一選択で、再発例には・メトトレキサート・リツキシマブなどの免疫調節薬を用いる3。

D)亜急性リンパ球性甲状腺炎(無痛性)

  • 産後に多い()。
  • +。
  • 自己免疫性(循環抗甲状腺抗体)。
  • 無痛性の、中年女性。

甲状腺腫

定義

  • 甲状腺の腫大。

型

  • びまん性対称性:通常誘発性、Graves病様の濾胞。
  • 多結節性・:長期のから発生 → となりうる()。

発生機序

  • 食事性 = 第1原因:
    • T3/T4合成を障害 → 増加 → 濾胞の肥大+過形成 → 腫大。
flowchart TD
    A["食事性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iodine deficiency'>ヨード欠乏</span>"] --> B["T3/T4合成の障害"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>の増加"]
    C --> D["濾胞の肥大+過形成"]
    D --> E["甲状腺腫大(甲状腺腫)"]

原因

  • :地域。
  • 散発性:女性 > 男性、ピークは(T4需要の増加)、(キャベツ、カリフラワー、カブ)、Ca²⁺。

甲状腺機能低下症

定義

  • 甲状腺ホルモンの産生・放出の不足。

原因

  • 一次性(腺の内在的異常):
    • (ヨード充足地域で第1位)。
    • (世界的に第1位)。
    • 薬物、手術(甲状腺摘出)、放射線。
  • 二次性(外因性):下垂体・視床下部不全。

臨床像

(成人)

  • 全般的な+精神++肥満。
  • (の蓄積):
    • の拡大。
    • 。
    • 嗄声(声の低下)。
  • 徐脈、腸運動低下(便秘)、乾燥肌、脱毛。

診断

  • 一次性:上昇+T4(遊離)低下。
  • 二次性:低下+T4低下。

甲状腺機能亢進症

定義

  • 甲状腺ホルモンの過剰放出。
  • = +T4の増加による代謝亢進状態。

⚠️ 甲状腺機能亢進症とは同じではない。 前者は甲状腺自体がホルモン産生を亢進させている状態(Graves病、・)を指すのに対し、後者はより広く「血中/T4が過剰で代謝亢進状態にある」ことを指す用語で、甲状腺の産生が亢進していなくても起こりうる——・De Quervain甲状腺炎のような(貯蔵ホルモンの漏出)や、外因性の甲状腺ホルモン摂取では機能は亢進していないのにになる4。

甲状腺中毒症の臨床像

  • 皮膚:軟らかく、温かく、、熱不耐+発汗。
  • 消化管:運動亢進、吸収不良、下痢。
  • 心臓:+頻脈(高齢者では心房細動)。
  • 神経精神:、振戦、、不眠。
  • 眼:大きく見開いた凝視(への交感神経過刺激)。
  • 食欲増加にもかかわらず体重減少。
  • 骨粗鬆症。

診断

  • T3、T4上昇+低下(一次性)。

Graves-Basedow病

概要

  • 米国など(ヨード充足地域)では甲状腺機能亢進症の第1原因。ただしは加齢とで増え、地域の高齢者ではGraves病より多いことがある4。
  • 自己免疫性、女性 ≫ 男性、-DR3と関連。

古典的三徴

  1. びまん性の機能亢進性甲状腺腫を伴う。
  2. 浸潤性 → 。
  3. (の浸潤性)。

発生機序(抗TSH受容体抗体)

  • 甲状腺刺激Ig(TSI):受容体に結合 → ホルモン放出。
  • 甲状腺成長刺激Ig:→ の増殖。
  • 結合阻害Ig:結合を遮断(模倣も阻害もしうる)。

形態

  • びまん性の甲状腺腫大。
  • 組織像:の枯渇+内腔へ突出するによる乳頭形成。
  • 甲状腺外:全般的なリンパ球過形成、の眼窩組織が眼球を押し出す。

臨床+検査

  • +T4上昇、低下。
  • 、、。
  • 治療:(をほぼ全例に用い、PTUは・・に軽い副作用がありや手術を拒む場合に限る4)、、手術、症状にβ遮断薬。

簡易比較 — 甲状腺機能検査

病態 遊離T4 抗体
橋本 上昇 低下 抗、抗Tg
Graves 低下 著増 TSI(抗TSHR)
De Quervain 低下→上昇 上昇→低下 —
亜急性リンパ球性 変動 変動 抗
Riedel 正常〜上昇 正常〜低下 抗・抗Tg(陽性例あり)、
二次性 低下 低下 —

💡 ポイント: 橋本 = の第1位(ヨード充足)、抗/抗Tg、+、MALTリンパ腫増加。De Quervain = 有痛性、ウイルス感染後、肉芽腫、亢進 → 低下 → 回復、自然軽快。Riedel = 岩様線維化、癌を模倣。亜急性リンパ球性 = 産後、無痛性。甲状腺腫 = 第1原因は。 = 先天性(+)。 = ++。Graves病 = 甲状腺機能亢進の第1位(ヨード充足地域)、TSI抗体、三徴:++、T3/T4上昇+低下。

まとめ

  • はヨード充足地域における甲状腺機能低下症の最多原因で、抗・を伴う自己免疫疾患。
  • De Quervain甲状腺炎はウイルス感染後に生じる有痛性の炎症で、甲状腺機能亢進→低下→という一過性の経過をたどる。
  • は岩様の線維化を来し癌を模倣しうる。組織像は関連疾患の局所型と矛盾せず、治療の第一選択はグルココルチコイド。
  • 甲状腺腫の第1原因は食事性で、T3/T4合成障害→増加→濾胞の過形成という機序で腫大する。
  • 甲状腺機能低下症の臨床像は先天性(:+骨格発達障害)と成人(:++)で異なる。
  • Graves病はヨード充足地域における甲状腺機能亢進症の第1原因で、受容体刺激抗体(TSI)による自己免疫疾患。
  • Graves病のは+浸潤性()+。
  • 一次性は上昇+T4低下、一次性機能亢進は低下+T3/T4上昇で診断する。

出典

  1. 1.Hashimoto thyroiditis: an evidence-based guide to etiology, diagnosis and treatment(Polish Archives of Internal Medicine・2022)橋本病は女性に男性の7〜10倍多い自己免疫疾患で、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)を介した自己免疫反応が濾胞細胞破壊を増幅すること、橋本病では一般集団に比べ乳頭癌のリスクが1.6倍、甲状腺リンパ腫のリスクが60倍高いこと("1.6 times higher risk of papillary thyroid cancer and 60 times higher risk of thyroid lymphoma"。リンパ腫の組織型は抄録では特定されていない)を抄録で確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Is Hashimoto thyroiditis associated with increasing risk of thyroid malignancies? A systematic review and meta-analysis(Thyroid Research・2021)50研究の系統的レビュー(うち27研究をメタ解析)で、橋本病は乳頭癌(オッズ比1.65、95%CI 1.04〜2.61)・髄様癌(2.70、1.20〜6.07)・リンパ腫(12.92、2.15〜77.63)と有意に関連したが未分化癌と濾胞癌では有意でなかったこと、甲状腺悪性腫瘍全体では1.36(1.05〜1.77)だったこと、バイアスリスクの高い研究が多く異質性も大きいため確実な結論には前向き研究が必要であることを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.IgG4-related sclerosing thyroiditis (Riedel-Struma): a review of clinicopathological features and management(Virchows Archiv・2023)Riedel甲状腺炎の組織所見はIgG4関連全身疾患(IgG4-RSD)の局所型と矛盾しないこと、全文で、約3分の1の患者が後腹膜・膵、縦隔、肺、涙腺、眼窩、唾液腺、胆嚢の線維化に伴う症状をもつこと、甲状腺機能低下の頻度は報告により約30%からMayo Clinicの19例中14例(原文は78%と記載するが14/19は約74%で、原文内で食い違う)まで幅があり残りは自己抗体陽性の甲状腺機能正常であったこと、歴史的には手術が中心だったが現在はグルココルチコイドが第一選択と考えられていること、再発例にはアザチオプリン・メトトレキサート・リツキシマブなどの免疫調節薬を用いうることを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis(American Thyroid Association・2016)表題自体が示すとおり甲状腺機能亢進症(甲状腺自体のホルモン産生亢進)と「その他の原因による甲状腺中毒症」を区別して扱うガイドラインであり、破壊性甲状腺炎や外因性ホルモン摂取のように甲状腺の産生が亢進していない甲状腺中毒症も対象に含むことを確認した。全文(Wayback保存の出版社PDF)で、Graves病は米国における甲状腺機能亢進症の最多原因だが、中毒性結節性甲状腺腫は加齢とヨード欠乏で増え、ヨード欠乏地域の高齢者ではGraves病より多いことがあると述べていること、推奨13(強い推奨・中等度の質のエビデンス)で、抗甲状腺薬を選ぶGraves病患者のほぼ全例にメチマゾール(MMI)を用い、例外は妊娠第1三半期(PTUを優先)、甲状腺クリーゼの治療、MMIに軽い副作用があり放射性ヨード・手術を拒む患者であることを確認した。閲覧 2026-08-27