薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B17 Thyroid drugs / 甲状腺薬 · 必修

チアマゾール

thiamazole

分類
Thyroid drugs / 甲状腺薬
商品名(日本)
メルカゾール
商品名(EU)
Thyrozol
科目
Pharmacology
トピック
B17: Thyroid and antithyroid drugs. Pituitary hormones. Hypothalamic hormones, hormonanalogs and antagonists
承認適応
バセドウ病中毒性多結節性甲状腺腫
副作用
皮疹発熱黄疸
監視検査値
甲状腺刺激ホルモン絶対好中球数
対象疾患
アミオダロン誘発性甲状腺中毒症中毒性腺腫
原因となる疾患
ANCA関連血管炎インスリン自己免疫症候群再生不良性貧血無顆粒球症薬剤性胆汁うっ滞

🧠 全体像:は()を阻害してホルモン合成そのものを止めるで、による甲状腺機能亢進症のである。「合成を止める」だけで「すでに濾胞内に蓄えられたホルモンの放出」は止められないため、臨床効果が出るまで貯蔵ホルモンが枯渇する2〜4週間を要するという時間差が重要になる。同じの()との使い分けは非対称で、通常はが第一選択(1日1回・肝毒性が少ない)だが、妊娠初期(第1三半期)だけはの催奇形性を避けてに切り替えるという一点に学習が集約される。

薬効群の中での位置づけ

甲状腺の薬は「補充するか、合成・放出のどこを止めるか」で整理すると位置関係がはっきりする。

薬 軸 機序 特徴
補充 合成T4を投与 甲状腺機能低下症の治療。本剤とは対極
抗(合成阻害) 阻害(酸化・・を阻害) 第一選択。1日1回、が長い
() 抗(合成阻害+末梢変換阻害) 阻害+末梢の阻害(T4→T3変換も抑制) 妊娠初期・の補助。⚠️重篤な肝毒性リスク
ヨウ素 抗(一過性) 高用量で 数日〜数週間の短期使用限定。で効果が切れる

⭐ との使い分けは「妊娠週数」と「肝毒性」の2軸で決まる。 通常はを使うが、は特有の催奇形性(後述)を避けてに切り替え、以降については扱いが分かれる。米国の添付文書は肝毒性を理由に第2・はへ切り替えるほうが望ましい場合があると書き1、 2016はの初めに切り替えてもを続けてもよいとして推奨を出していない(根拠不十分。切り替えが一時的な甲状腺機能異常を招く危険との副作用を比べて決める)2。第1三半期より後に新たに始めるならを用いる2。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thiamazole'>チアマゾール</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid follicular cell'>甲状腺濾胞細胞</span>内へ取り込まれる"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid peroxidase, TPO'>甲状腺ペルオキシダーゼ</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid peroxidase'>TPO</span>)を阻害"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iodide'>ヨウ化物</span>の酸化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organification'>有機化</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroglobulin'>チログロブリン</span>上の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tyrosine residue'>チロシン残基</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iodination'>ヨウ素化</span>)を阻害"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monoiodotyrosine, MIT'>モノヨードチロシン</span>(MIT)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diiodotyrosine, DIT'>ジヨードチロシン</span>(DIT)の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='coupling reaction'>カップリング反応</span>を阻害"]
    C --> E["新規のT4・T3合成が低下"]
    D --> E
    E --> F["濾胞腔内に蓄積した既存のホルモンは<br>そのまま放出され続ける"]
    F --> G["貯蔵ホルモンが枯渇するまで<br>(数週間)は血中濃度が下がらない"]

💡 はの取り込み()自体は阻害しない。 阻害するのはあくまで取り込んだを・する過程であり、ここがヨウ素の(そのものの過剰取り込みが引き金)とは異なるである点に注意する。

薬物動態

項目 値・特徴
吸収 経口で良好に吸収される
分布 甲状腺内に選択的に濃縮・貯留される
約4〜6時間と短いが、甲状腺内濃度が長く保たれるため1日1回投与で足りる
通過する(は避ける)
母乳移行 わずかに移行するが、通常量では授乳との両立が可能とされる
代謝・排泄 、

⭐ の短さと(1日1回で十分)は矛盾しない。 効果を決めるのは血中濃度ではなく甲状腺内濃度であり、これがPTU(甲状腺内への選択的濃縮が弱く1日2〜3回を要する)との上の違いでもある。

適応

領域 使いどころ
甲状腺機能亢進症 の。症状の慢性管理、または治療・手術前の甲状腺機能正常化
・で、(・手術)前の機能安定化
妊娠中 第2・(を過ぎてから)に使用。第1三半期はPTUに切り替える

用法・用量

軽症〜中等症では1日15〜30 mgを1回または分割で開始し、重症例ではより高用量から開始することもある。臨床的・生化学的に甲状腺機能が正常化したら1日5〜10 mg程度のへする。維持療法は、そのまま低用量を続ける「」と、高用量を保ちつつを併用して機能低下を防ぐ「」のいずれかで行う。実際の用量は重症度・年齢・妊娠週数・製剤で変わるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌:への過敏症の既往
  • ⚠️ は避ける。 ()、・などを含む「」と呼ばれる特徴的な催奇形性が報告されており、この時期はPTUに切り替える
  • ⚠️ のをする。 発熱・が投与開始後、特に最初の2か月以内に出現したら直ちに中止しを確認する。無症候例へのルーチンの血算モニタリングは有用性が乏しいとされるが、有症状時の確認は必須である
  • 肝毒性はPTUよりまれで軽度(主に胆汁うっ滞性)だが、皆無ではない
  • まれに関連血管炎を誘発しうる
  • 甲状腺機能が正常化すると代謝が落ち着き、併用中のワルファリン・ジゴキシンなどの必要量が変化しうるため、治療反応に応じて再評価する

副作用

頻度 内容
高頻度 皮疹・、悪心などの消化器症状、
注意 関節痛、(黄疸)
重篤・まれ (多くは開始2か月以内、発熱・が初発症状)、、関連血管炎

まとめ

  • を阻害してホルモン合成そのものを止める。の第一選択。
  • 合成を止めても既存の貯蔵ホルモンの放出は止められないため、効果発現まで2〜4週間を要する。
  • 甲状腺内に選択的に濃縮されるためは短くても1日1回投与で足りる。
  • は催奇形性のため避け、に切り替える。以降にへ戻すかは、米国添付文書が「望ましい場合がある」、 2016が「推奨なし(どちらでもよい)」と書き分けている。
  • と比べて肝毒性が少なく、末梢のT4→T3変換は阻害しない(この点は固有)。
  • は開始2か月以内に多く、発熱・は即受診・即中止の。

出典

  1. 1.PROPYLTHIOURACIL TABLETS, USP - Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration・2015)PDF全文(12頁、Reference ID 3699805)で確認した。PRECAUTIONSのPregnancyは逐語で「propylthiouracil may be the preferred agent during organogenesis, in the first trimester of pregnancy. Given the potential maternal adverse effects of propylthiouracil (e.g., hepatotoxicity), it may be preferable to switch from propylthiouracil to methimazole for the second and third trimesters.」と述べる。閲覧 2026-09-24
  2. 2.2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis(American Thyroid Association・2016)全文(出版社PDFのWayback保存版、2020-03-07取得分)で確認した。推奨80は妊娠第1三半期に抗甲状腺薬を用いるならPTU、第1三半期より後に開始するならMMIを用いるとする(強い推奨・エビデンスの質は低)。推奨88は、第1三半期にPTUを用いた妊婦は第2三半期の初めにMMIへ切り替えても、抗甲状腺薬が要るなら残りの妊娠期間をPTUで続けてもよいとし、利益と危険を評価する根拠が不十分なため推奨なし(No recommendation)とする。そのうえで、PTUの副作用の危険を、PTUで安定している妊婦に切り替えが一時的な甲状腺機能異常を招く危険と比べて考えるべきだとする。閲覧 2026-09-24