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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

流行性耳下腺炎

Mumps

別名
ムンプスおたふくかぜ
臓器系
感染症
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 3/27:パラミクソウイルス:ムンプス・麻疹ウイルス
鑑別疾患
シェーグレン症候群唾液腺炎・唾石症
合併症
卵巣炎急性膵炎精巣上体炎・精巣炎無菌性髄膜炎
続発疾患
感音難聴
関連疾患
風疹(先天性風疹症候群含む)麻疹
原因微生物
Mumps virus
症状
悪心倦怠感腫脹頭痛発熱嘔吐疼痛
検査値
抗体価
適応薬
MMRワクチン

🧠 全体像:は呼吸器上皮に感染した後、耳下腺を中心とした腺組織(膵臓、精巣、髄膜)へ向かうというで理解する。表面の(F)により細胞同士を融合させ合胞体を作ることで免疫から逃れながら増殖する点は近縁のと共通するが、狙う先が全身の皮膚・粘膜(麻疹)か腺組織()かで臨床像がまったく異なる。両者ともで予防でき、米国などでは1本の(麻疹・・風疹)にまとめられている——ただし日本のはMR(麻疹・風疹)で、はである(→「予防」)。

病原体と発症機序

Mumps virusは・エンベロープを持つの一員で、飛沫感染により伝播する。表面には(HA)、(NA)、(F)を持つ。

ウイルスは上気道上皮に感染した後、耳下腺を中心にを起こし、そこから膵臓・精巣・髄膜など他の腺組織・臓器へ波及しうる。F蛋白によるは、ウイルスが細胞外に出ずに隣接細胞へ直接伝播できるようにする免疫の機序である。

flowchart TD
  A["飛沫感染でMumps virusが上気道上皮へ"] --> B["F蛋白による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='syncytium formation'>合胞体形成</span>で増殖"]
  B --> C["耳下腺への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lytic infection'>融解性感染</span>"]
  C --> D["両側性・片側性耳下腺炎"]
  C --> E["膵臓へ波及:膵炎"]
  C --> F["精巣へ波及:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Orchitis'>精巣炎</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='testicular atrophy'>精巣萎縮</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired spermatogenesis'>造精機能低下</span>)"]
  C --> G["髄膜へ波及:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aseptic meningitis'>無菌性髄膜炎</span>・脳炎"]
  C --> H["感音難聴<br>(多くは片側性・難治性)"]

臨床像

臨床像は無症候から典型的なまで幅が広い。耳下腺炎では耳下腺の腫脹・疼痛に加え、発熱・頭痛・倦怠感を伴う。片側性のみのこともある。は平均5日持続し、多くは10日で消退する1。

潜伏期と感染性のある期間

  • 潜伏期は平均16〜18日(範囲12〜25日)と長い2。曝露から発症までのこの間隔が、集団発生で「気づいたときには次の世代がすでに感染している」状況を作る。
  • 感染性のある期間はの発現2日前から5日後までとされる(唾液からのウイルス分離は腫脹の7日前から9日後まで報告がある)2。腫脹が出る前から感染性があるため、症状が出てからの隔離だけでは伝播を止めきれない。
  • は診断時から発現後5日まで他者との接触を避けるよう勧めている2。日本ではは第十八条の第二種の感染症に掲げられ、の期間の基準は「耳下腺、又はの腫脹が発現した後五日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで」と定められている(第十九条第二号ニ)3。5日と全身状態の両方を満たす必要がある点に注意する。ただし同条第二号には本文に但し書きがあり、病状により学校医その他のが感染のおそれがないと認めたときは、この基準によらない3。

合併症

合併症 内容 報告されている頻度
(思春期後の男性) 片側性が多い。とを来しうる ワクチン未接種者で約30%、接種者で約6%1
髄膜炎(無菌性)・脳炎 による中枢神経系合併症。に先行することも、耳下腺炎を伴わず単独で起こることもある 近年の米国の流行では膵炎・難聴・髄膜炎・脳炎がいずれも症例の1%未満1
感音難聴(難聴) 多くは片側性で、高度以上に及ぶことが多く難治性 日本の健康保険レセプト解析で患者1万人あたり15.0人(668人に1人)4(→「難聴の頻度」)
膵炎 上腹部痛・を伴うとして顕在化しうる 同上(1%未満)1
女性でも起こりうるがに比べ頻度・重症度は低い とともに1%以下1

⚠️ がなくても髄膜炎・が先行/単独で出現することがある。 流行状況や歴と合わせて疑うことが重要。

💡 と「不妊」の距離を取り違えない。 は、は不妊との関連が示されておらず、とを来しうる、としている1。「おたふくかぜにかかると不妊になる」という説明は、実際のリスクより強い。ただし両側性後のは実在する障害であり、思春期以降の未罹患・未接種者にとっての意義が大きいことは変わらない。

ムンプス難聴の頻度

⭐ 「にかかった何人に1人が難聴になるか」には日本の実測がある。 2005〜2017年の被用者保険レセプトデータベース(0〜64歳の5,190,326人)を後ろ向きに解析した研究では、と診断された68,112人のうち102人が難聴を発症し、患者1万人あたり15.0人(95%CI 12.2〜18.2)=668人に1人であった4。

💡 「子どもの病気だから」で油断してよいのは発症数の話で、1人あたりのリスクは逆である。 同じ解析で、患者1万人あたりの難聴発症は16〜64歳が73.6人(95%CI 52.9〜94.4)、0〜15歳が8.8人(95%CI 6.4〜11.1)で、成人・思春期のほうが8.4倍高かった(P<0.001)。小児のなかでも6〜15歳の13.8人は0〜5歳の1.9人の7.2倍である。難聴の症例数は流行の中心である小児に多いが、罹患者を分母に取ると成人のほうが危ない——分子(症例数)と分母(罹患者数)のどちらを見ているかで印象が正反対になる典型例で、資料間で頻度が食い違って見える一因でもある。同研究は、国内の小児の推定罹患数(年43.1万〜135.6万人)に小児の発症率を当てはめると年378〜1,189人が難聴を発症すると推計している4。ただし同研究自身が、この年齢差の解釈には注意が必要で、小児と成人でへの認識・受診行動が違いうることを考慮すべきだと述べている。後ろ向きのレセプト研究であり、値は請求された診断名の付け方にも依存する。

日本学会が2015〜2016年の流行時に行った全国調査(を標榜する5,565施設への質問紙、回答3,906施設=回答率70%)では、少なくとも359人が発症し、詳細の分かる335人のうち難聴が320人(95.5%)、両側難聴が15人(4.5%)であった。難聴の290人(91%)が高度以上の難聴で、両側難聴でも12人(80%)はでも高度以上の難聴が残った。聴力の経過を追えた203人のうち55人(27%)は経過中に悪化し、そのうち52人(95%)はに至った一方、改善したのは11人(5.0%)にとどまる。発症年齢は就学前・学童期と、子育て世代である30歳代にピークがあった5。

⚠️ この全国調査からは頻度を出せない。罹患者数という分母を持たないからである。 「その2年間に何人が難聴になったか」に答えるのが全国調査、「にかかった何人に1人が難聴になるか」に答えるのがレセプト解析で、両者は別の問いである。どちらの数字を引いているのかを区別しないと、資料間の頻度が桁違いに食い違って見える。

診断

臨床的に耳下腺の腫脹・疼痛と発熱から診断できることが多いが、非典型例や合併症評価では血清学的検査を行う。

  • 、による特異抗体(IgM/IgG)の検出
  • 唾液・尿・髄液からのによるウイルス検出も可能

の鑑別は「両側か片側か」「繰り返すか」「食事に連動するか」で切り分ける。

鑑別 決め手
両側性が典型(片側のみのこともある)。発熱・頭痛・倦怠感を伴い、流行状況と接種歴が支持する。自然感染後の免疫は長く続くとされ、を何度も繰り返す病歴はまず別の原因を考える
(細菌性。Staphylococcus aureusが最多) 片側性で急な疼痛・発赤・発熱。導管口(耳下腺ではステノン管開口部)からの排膿が決め手。脱水・不良・によるが危険因子
反復性耳下腺炎(反復性耳下腺炎) 小児期に同じ側のを何度も繰り返す。1回ごとの症状は軽く発熱も乏しい。「おたふくかぜに何度もかかった」という病歴の多くはこれで、のではない
食事のたびに腫脹・疼痛が出て食後に軽快する。唾石の約85%はに生じるため、の原因としては相対的に少ない
他のウイルス性耳下腺炎(など) 臨床像だけでは区別できない。の流行がない時期の耳下腺炎ほど、他ウイルスの割合が上がる
自己免疫性(など)・薬剤性 両側の反復性腫脹に・を伴う

⭐ 「おたふくかぜを2回やった」という病歴は、まず別の原因を疑う。 反復性耳下腺炎・・のいずれか、あるいは最初の診断が臨床診断のみで誤っていた可能性が高い。の報告自体はあるが例外的なので、血清学的検査で罹患歴を確かめてから「もう免疫がある」と判断する。

治療

特異的な抗ウイルス治療はなく、対症療法が中心となる。

  • 、、安静
  • では局所安静・・鎮痛を行い、重症例では泌尿器科的評価を検討する
  • 髄膜炎は多くが自然軽快するの経過をとるが、意識障害や異常があれば入院管理・他のの除外を行う
  • 膵炎は一般的なの(絶食・輸液・鎮痛など)に準じる

予防

含有ワクチン(米国などでは=麻疹・・風疹の弱毒生混合ワクチン)によるが基本で、2回接種する。であるため妊娠中は禁忌であり、者にも投与を避ける。

⚠️ 日本ではワクチンはではなくである(2026年9月時点)。 厚生労働省がの対象疾病として掲げているのは麻しん・風しん・水痘・日本脳炎などであり、は含まれていない6。すなわち日本ので使われるMR(麻疹・風疹混合)ワクチンに成分は入っておらず、の予防を望む場合は別にを受ける必要がある。麻疹・風疹と同じ枠で自動的に守られていると誤解しやすいので、接種歴を聴取するときは「MRを受けたか」と「おたふくかぜワクチンを受けたか」を分けて確かめる。なおの対象疾病は法令・審議会の判断で変わりうるため、この位置づけは日付つきの事実として扱う。

💡 でないことの帰結は、難聴という不可逆なの数で現れる。 上のレセプト解析は、国内で年378〜1,189人の小児が難聴を発症すると推計したうえで、ワクチンをに含めればが減り、その結果として難聴も減るはずだと述べている4。難聴は治療でほとんど回復せず(→「難聴の頻度」)、予防以外に打つ手が乏しい。

罹患後・ワクチン未接種の流行下では、感染性期間中の(隔離、マスク着用)により拡大を防ぐ。既定の2回接種を済ませていても、当局が流行によりリスクが増加していると判断した集団(大学の寮生活など密な集団生活環境が典型)には、第3回接種が推奨される7。

まとめ

  • はの一員で、F蛋白によるを介して増殖し、耳下腺を中心とした腺組織(膵臓・精巣・髄膜)を標的とする。
  • 潜伏期は平均16〜18日と長く、感染性はの2日前から5日後まで——腫脹が出る前から他人へうつす。日本の基準は「腫脹発現後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで」。
  • 臨床像は無症候からまで幅広く、膵炎・・・感音難聴を合併しうる。はに罹患した思春期後男性のうち未接種者の約30%・接種者の約6%に生じるが、は不妊との関連は示されておらず・を来しうるとしている。
  • 難聴は日本の健保レセプト解析で患者1万人あたり15.0人(668人に1人)、16〜64歳では0〜15歳の8.4倍。全国調査では95.5%が性で、その91%が高度以上の難聴だった。「何人が発症したか」と「罹患者の何人に1人か」を混同すると、資料間の頻度が桁違いに見える。
  • 診断はに加え血清学的検査(、)やで補う。を繰り返す病歴は、のではなく反復性耳下腺炎・・を疑う。
  • 治療は対症療法のみで、特異的な抗ウイルス薬はない。
  • 予防は含有ワクチン(弱毒生、妊娠中禁忌)によるが中心。⚠️ 日本ではではなくであり、のMRワクチンに成分は含まれない——「麻疹と同じワクチンで守られる」のは MMR をとしている国の話である。

出典

  1. 1.Clinical Features of Mumps(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2024)耳下腺腫脹が平均5日持続し多くは10日で消退すること、精巣炎が思春期後の男性患者のうち未接種者で約30%・接種者で約6%に生じること、ムンプス精巣炎は不妊との関連は示されておらず精巣萎縮と造精機能低下(hypofertility)を来しうるとされること、卵巣炎・乳腺炎の頻度が1%以下であること、近年の米国の流行では膵炎・難聴・髄膜炎・脳炎がいずれも症例の1%未満で報告されていることを確認した。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Clinical Overview of Mumps(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2025)潜伏期が平均16〜18日(範囲12〜25日)であること、感染性のある期間が耳下腺腫脹発現の2日前から5日後までとされ、唾液からのウイルス分離は腫脹の7日前から9日後まで報告があること、患者は診断時から耳下腺腫脹発現後5日まで他者との接触を避けるべきとされることを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.学校保健安全法施行規則(昭和三十三年文部省令第十八号)(デジタル庁 e-Gov法令検索(令和五年五月八日施行の現行版)・2023)第十八条第一項第二号が流行性耳下腺炎を第二種の感染症に掲げること、第十九条第二号ニが出席停止の期間の基準を「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が発現した後五日を経過し、かつ、全身状態が良好になるまで」と定めること、同条第二号の本文に「ただし、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めたときは、この限りでない。」という但し書きがあることを確認した。閲覧 2026-09-05
  4. 4.Incidence of Mumps Deafness in Japan, 2005-2017: Analysis of Japanese Insurance Claims Database(Journal of Epidemiology(日本疫学会)・2022)被用者保険のレセプトデータベース(JMDC、0〜64歳の5,190,326人、2005〜2017年)の後ろ向き解析で、ムンプスと診断された68,112人のうち102人がムンプス難聴を発症し、発症率がムンプス患者1万人あたり15.0人(95%CI 12.2〜18.2、668人に1人)であること、16〜64歳の73.6人(95%CI 52.9〜94.4)が0〜15歳の8.8人(95%CI 6.4〜11.1)の8.4倍であること(P<0.001)、6〜15歳の13.8人が0〜5歳の1.9人の7.2倍であること、男女差が有意でないこと(13.2対17.0、P=0.194)、および小児の推定罹患数43.1万〜135.6万人/年に小児の発症率を当てはめると年378〜1,189人がムンプス難聴を発症すると推計されることを本文Results・Discussionで確認した。閲覧 2026-09-05
  5. 5.2015~2016年のムンプス流行時に発症したムンプス難聴症例の全国調査(日本耳鼻咽喉科学会(日本耳鼻咽喉科学会会報 121巻9号)・2018)耳鼻咽喉科を標榜する全国5,565施設への質問紙調査(回答3,906施設、回答率70%)で、2015〜2016年に少なくとも359人がムンプス難聴を発症し、詳細の分かる335人のうち一側難聴320人(95.5%)・両側難聴15人(4.5%)、一側難聴の290人(91%)が高度以上、両側難聴の12人(80%)が良聴耳でも高度以上であったこと、聴力を追えた203人中55人(27%)が経過中に悪化し、うち52人(95%)が重度難聴となり改善は11人(5.0%)にとどまること、発症年齢が就学前・学童期と30歳代の子育て世代にピークを持つことを抄録で確認した。罹患者数(分母)を持たない調査であり発症率は算出されていない。閲覧 2026-09-05
  6. 6.予防接種・ワクチン(定期接種の対象疾病)(厚生労働省・2026)2026年5月18日更新時点の定期接種の対象疾病一覧(RSウイルス感染症・ロタウイルス・ジフテリア・破傷風・百日せき・ポリオ・Hib感染症・小児の肺炎球菌感染症・B型肝炎・結核(BCG)・麻しん・風しん・水痘・日本脳炎・ヒトパピローマウイルス感染症・高齢者の肺炎球菌感染症・帯状疱疹・高齢者のインフルエンザ・高齢者の新型コロナウイルス感染症)に流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)が含まれていないことを確認した。閲覧 2026-09-05
  7. 7.Recommendation of the Advisory Committee on Immunization Practices for Use of a Third Dose of Mumps Virus–Containing Vaccine in Persons at Increased Risk for Mumps During an Outbreak(CDC / Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)・2018)定期の2回接種に加え、公衆衛生当局が流行によりリスク増加と判断した集団には、既往のワクチン接種歴があってもムンプス含有ワクチン(MMR)の第3回接種が推奨されることを確認した。閲覧 2026-08-02