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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 疾患

精巣上体炎・精巣炎

Epididymitis and orchitis

臓器系
腎・泌尿器感染症
科目
UrologyPediatricsPathology
トピック
泌尿器科学 U-16:前立腺と男性生殖器の炎症性疾患泌尿器科学 U-19:男性生殖器疾患の診断と治療小児科 16:精巣捻転・卵巣捻転、停留精巣病理学 C/80:精巣・精巣上体の炎症性病変/停留精巣/精巣萎縮
鑑別疾患
精巣捻転・卵巣捻転
関連疾患
前立腺炎
治療薬
セフトリアキソンドキシサイクリンレボフロキサシン
原因微生物
Neisseria gonorrhoeaeChlamydia trachomatis(D–K血清型)Escherichia coliムンプスウイルス(mumps virus)
症状
悪寒悪心圧痛下痢腫脹排尿痛発熱頻尿分泌物嘔吐疼痛
検査値
尿沈渣
元疾患
ブルセラ症流行性耳下腺炎
原因となる疾患
前立腺肥大症尿路感染症淋菌感染症

🧠 全体像の原因として最も頻度が高いが、同じの鑑別に必ず挙がるを除外できて初めて安心して抗菌薬治療に進める――この一点が臨床上の最重要事項である。起因菌は年齢と性行動歴で系統的に変わり(若年・性活動性の高い層=淋菌・クラミジア、高齢・尿路異常のある層=大腸菌などの腸内細菌)、経験的抗菌薬もそれに応じて選ぶ。

概要

  • 定義:精巣上体(精子の輸送・成熟の場)の炎症を、精巣実質の炎症をと呼ぶ。両者は隣接臓器であるため多くは連続して進展し、両方を巻き込む病態はと総称される。精巣単独の炎症はまれで、多くは精巣上体から炎症が波及する。
  • 疫学:陰嚢内炎症の中で最も頻度の高い原因であり、を来す代表的な3疾患()の一つ。
  • 年齢による起因菌の違い(35歳を目安に系統立てて考える)
背景 想定される主な起因菌 感染経路
若年(おおむね35歳未満)・性活動性が高い 淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、クラミジア(Chlamydia trachomatis 尿道炎からの逆行性(経由)伝播
高齢(おおむね35歳以上)、尿路の・最近の器具操作(、前立腺生検、後など)、挿入側の 大腸菌などの腸内細菌、緑膿菌 膀胱・尿道からの逆行性伝播(尿路感染症の波及)
  • 💡 両群には重なりがあり、年齢だけで機械的に振り分けず、必ず詳細な性交渉歴・器具操作歴を確認する。挿入側のを行う男性では、年齢によらず腸内細菌によるのリスクがある。

病態

細菌性(尿路性・性感染症由来)

  • 感染は多くの場合、尿道または膀胱からを介して逆行性に精巣上体へ波及する(血行性は少ない)。
  • 若年層では尿道炎の原因菌(淋菌・クラミジア)がそのままの原因菌になる。
  • 高齢層ではなど)や尿路器具操作により尿路病原体(大腸菌などの腸内細菌)が定着しやすく、これが逆行性に波及する。

ウイルス性精巣炎(ムンプス精巣炎)

  • の代表的なウイルス性原因であり、耳下腺炎の7〜10日後に発症する。
  • 思春期後の男性で感染例の最大40%程度を合併しうる(小児では稀)。全身症状を伴わないこともある。
  • 抗菌薬は無効で、治療は鎮痛・安静・などの対症療法が中心となる。
  • 合併症として(片側性後30〜50%)を来しやすく、両側性ではの上昇(約13%)が指摘される。

その他のまれな原因

  • :精巣上体から始まり精巣・前立腺・へ進展する。膀胱がん治療後の後にもみられる。
  • からの渡航歴がある場合はも鑑別に挙げる。
  • 内服、IgA血管炎など)によるもまれに存在する。

病態の比較

病型 主な起因体 機序 治療の考え方
性感染症由来の 淋菌、クラミジア 尿道炎からの逆行性伝播 抗菌薬(淋菌・クラミジア双方をカバー)+パートナー治療
尿路性の 大腸菌などの腸内細菌 尿路感染・・器具操作からの逆行性伝播 抗菌薬(腸内細菌をカバー)+基礎疾患(など)の評価
血行性のウイルス感染 対症療法のみ(抗菌薬無効)

臨床像

  • :数時間〜数日かけて緩徐に進行する陰嚢部痛・腫脹が典型的で、この「発症の速さ」が(数秒〜数分の突発痛)との重要な鑑別点になる。
  • 急性期の症候:患側陰嚢の疼痛・圧痛、腫脹・発赤・熱感、発熱・悪寒、不快感、、頻尿・などの。触診では精巣上体の(尾部)から始まり全体へ広がる圧痛性の腫脹を触れることが多い。
  • 随伴所見、悪心・嘔吐・下痢を伴うこともある。
  • 慢性期:精巣上体・精索の疼痛とが持続することがある(慢性)。

診察所見の使い方と限界

  • により疼痛が軽減すればを、変化しなければ捻転を示唆するとされる)は、感度・特異度がいずれも不十分であり、陽性・陰性だけでを鑑別してはならない
  • は捻転で消失することが多いが、これも単独では確定的ではない。
  • の有無はでは通常みられず、これらが陽性であればを支持する所見として参考になるが、陰性であっても捻転を否定できない。

⚠️ だけでを確実に区別できる単一の徴候は存在しない。疑わしい場合は常にとして扱い、緊急の外科的評価を優先する。

診断

を診た際は、まずの除外を最優先に進め、それと並行して自体の起因菌評価(性感染症検査・尿検査)を行う。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute scrotal pain'>急性陰嚢痛</span>"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='testicular torsion'>精巣捻転</span>を疑う所見はあるか<br>(突発痛・秒〜分単位の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steep (dose gradient)'>急峻</span>な発症・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cremaster reflex'>挙睾筋反射</span>消失・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-riding transverse testis'>高位横位精巣</span>)"}
    B -->|"疑いが強い、または判断がつかない"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='testicular torsion'>精巣捻転</span>として扱い<br>直ちに泌尿器科へ緊急コンサルト"]
    C --> D["画像検査のために手術評価を遅らせない"]
    D --> E["可能なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Doppler ultrasonography'>ドプラ超音波</span>で血流・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='whirlpool sign'>渦巻き徴候</span>(whirlpool sign)を確認するが、<br>血流が保たれていても捻転は否定できない"]
    E --> F["発症から6時間以内を目標に<br>緊急<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scrotal exploration'>陰嚢探索術</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detorsion and orchiopexy'>整復固定</span>"]
    B -->|"緩徐な発症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urethral discharge'>尿道分泌物</span>や<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dysuria'>排尿時痛</span>あり・捻転所見なし"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epididymitis'>精巣上体炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Orchitis'>精巣炎</span>として評価を進める"]
    G --> H["年齢・性交渉歴を確認し起因菌を推定"]
    H --> I["尿検査(尿沈渣・尿培養)"]
    H --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urethral discharge'>尿道分泌物</span>のグラム染色・<br>淋菌・クラミジアのNAAT検査"]
    I --> K["結果を統合し経験的抗菌薬を開始"]
    J --> K
    K --> L{"精巣US(ドプラ)で<br>膿瘍・梗塞など合併症を評価するか"}
    L -->|"診断に迷う・改善不良・合併症疑い"| M["精巣US施行"]
    L -->|"典型的で改善良好"| N["臨床経過で経過観察"]
  • を強く示唆する所見あり、頻尿・あり、緩徐な発症、発熱)がそろっていても、だけで捻転を完全に否定することはできない点に注意する。
  • 検査の診断そのものよりも、①捻転が疑わしいが臨床的判断が難しい場合の補助、②膿瘍・など合併症の評価、に主な意義がある。ただし手技依存性が高く、血流が保たれているという結果だけで捻転を除外することはできない。
  • 尿検査:尿沈渣で、尿培養で腸内細菌が検出されれば尿路性のを支持する。
  • 性感染症検査のグラム染色(淋菌の細胞内を確認)、または尿道での淋菌・クラミジアのNAAT検査を行う。性感染症が疑われる患者では、他の性感染症(HIV、梅毒など)の同時スクリーニングも検討する。
  • 血液検査では、CRP・の上昇がみられることがあるが非特異的である。
  • 尿路病原体(腸内細菌)によるが確認された場合は、や解剖学的異常の評価のため泌尿器科での(画像評価など)を検討する。

治療

経験的抗菌薬は、を除外したうえで、年齢・性交渉歴から推定される起因菌に応じて選択する。用量・投与期間は主要ガイドライン間でもやや異なり、地域のガイドラインに従う。

想定される起因菌 代表的な経験的抗菌薬(例)
性感染症(淋菌・クラミジア)が疑われる セフトリアキソンの単回筋注+ドキシサイクリン内服(10〜14日間)
性感染症と腸内細菌の両方が疑われる(挿入側のなど) セフトリアキソン単回筋注+(または)内服
腸内細菌のみが疑われる(高齢・非性活動性・器具操作後など、淋菌が除外されている) または単剤内服
  • 米国CDC(2021年STI治療ガイドライン)はセフトリアキソン500 mg筋注単回(体重150 kg以上では1 g)+ドキシサイクリン100 mg 1日2回・10日間を基本とし、腸内細菌のみが疑われる場合は500 mg 1日1回・10日間の単剤投与を挙げる。淋菌の耐性化を踏まえ、フルオロキノロン単独投与は淋菌感染が除外されている場合に限る。
  • 英国BASHH(2020年)ガイドライン・欧州の枠組みではセフトリアキソン1 g筋注単回+ドキシサイクリン100 mg 1日2回・10〜14日間を第一選択とし、腸内細菌のみが疑わしい場合は200 mg 1日2回・14日間、または500 mg 1日1回・10日間を用いる。
  • 💡 セフトリアキソンの投与量(500 mg vs 1 g)は出典ガイドラインにより異なる。これは各国の淋菌の薬剤感受性の違いを反映しており、実臨床では自国・自施設の最新ガイドラインに従う。
  • 対症療法:安静、、鎮痛(NSAIDsなど、禁忌がなければ)。
  • パートナーの治療:性感染症が原因、または除外できない場合は、直近のセックスパートナーにも検査・治療(淋菌・クラミジアのカバー)を行う。治療完了・症状消失までパートナーを含め性交渉を控えるよう指導する。
  • :治療開始後2〜3日で症状の改善を確認し、改善が乏しい場合は診断の再検討(膿瘍形成、の見落とし、耐性菌、他疾患)を行う。
  • :抗菌薬は無効。鎮痛・安静・のみで経過をみる。

合併症

  • 急性期、精巣膿瘍・(まれ)。
  • 慢性期:慢性
  • 不妊・閉塞、あるいは後のを介して不妊のリスクが上昇しうる(両側性後で特に懸念される)。

まとめ

  • の最多原因だが、緩徐な発症・といった特徴があっても、のみでを確実に除外することはできない。疑わしければとして緊急外科評価を優先するのが唯一安全な原則である。
  • 起因菌は年齢・性交渉歴で系統的に分かれる:若年・性活動性が高い層は淋菌・クラミジア、高齢・尿路異常や器具操作歴のある層は大腸菌などの腸内細菌が主体。挿入側のがある場合は年齢によらず腸内細菌のリスクを考慮する。
  • 経験的抗菌薬はセフトリアキソン筋注+ドキシサイクリン(性感染症カバー)、または/(腸内細菌カバー)を中心に選び、正確な用量・期間はガイドラインにより幅がある。はウイルス性で抗菌薬は無効、対症療法のみ。
  • パートナーの検査・治療、治療完了までの性交渉の制限、症状改善不良時の再評価(膿瘍・捻転見落とし)も治療の一部として組み込む。