病理学

病理学 · C/80

精巣・精巣上体の炎症性病変/停留精巣/精巣萎縮

Inflammatory lesions of the testis and epididymis. Cryptorchidism and testicular atrophy

応用トピック
精巣捻転・卵巣捻転、停留精巣
疾患
陰嚢水腫精索静脈瘤精巣上体炎・精巣炎停留精巣
症状
血精液症

🧠 全体像:精巣・精巣上体の炎症は年齢で起因菌が変わる(若年=性感染症、高齢=尿路病原体)という軸と、が不妊+悪性腫瘍リスクの両方を上げるという軸の2つで整理すると理解しやすい。は精巣前性(ホルモン)・精巣性(精巣そのもの)・精巣後性(精子の通り道)という3層構造で原因を分類する。

概要

  • は精巣本体より精巣上体に多い。
  • 原因:性感染症、非特異的な+、、結核。
  • は感染、自己免疫傷害、結核により生じうる。

精巣上体炎

  • は、精巣上体(精子の成熟+貯蔵)の炎症。
  • 成人のの最多原因(小児では・との鑑別が重要)。
  • ・リンパ管を介し精巣へ上行する一次性尿路感染に関連。
  • 陰嚢が発赤・熱感・腫脹 → 精巣虚血+壊死を来しうる。
  • しばしば、梅毒、結核に関連。
  • 性的に活発な男性:Chlamydia trachomatis = 最多の起因菌。
  • 高齢男性:E. coli+緑膿菌(尿路病原体)。

精巣炎

  • 片側・両側の精巣の炎症。
  • と同じ病因(上行性尿路感染)。
  • 症状:、血尿、精巣腫脹。

流行性耳下腺炎精巣炎

  • ()。
  • 小児では稀で、思春期後の男性に多い。耳下腺炎の約1週後に発症するのが典型である。
  • 頻度は「誰を分母にとるか」で大きく変わる——接種歴で層別しない報告では若年成人男性の症例の最大40%1、米国は思春期後の男性患者のうちワクチン未接種者で約30%・接種者で約6%としている2。
  • の喪失を来しうる → +線維化+。💡 を発症した例の約半数でを来すとされる。1
  • ⚠️ 「=不妊」と覚えない。 は、は不妊との関連が示されておらず、とを来しうる、としている2。ただし両側性後のは実在する障害であり、思春期以降の未罹患・未接種者にとっての意義が大きいことは変わらない。

慢性炎症性病変

A)結核

  • 精巣の+。
  • 通常は精巣上体で始まる → 精巣、前立腺、へ広がる。
  • 組織像:他部位の結核と同一。

B)肉芽腫性精巣炎(自己免疫性)

  • 外傷に関連、精子抗原への。

C)梅毒

  • 3期:
    • 一期:無痛性の硬い潰瘍()。
    • 二期:皮疹+。
    • 三期:(+巨細胞を伴う肉芽腫、、壊死)+。

停留精巣

定義

  • 腹腔内精巣の下降の失敗による、片側・両側の精巣の陰嚢内欠如。
  • 両側性は教科書的には約10%とされるが、ガイドラインは最大30%が両側性になりうるとしている3。

原因

  • 複数の要因が下降を妨げる:
    • ホルモン異常。
    • の精巣異常。
    • の閉塞。
  • 関連:、、。
  • 大部分:特発性。

臨床像

  • 不妊(とくに両側性の場合。片側例では妊孕率は下がるが、父親になる率は下がらないとされる3)。
  • 精巣悪性腫瘍のリスク増加(2.75〜8)。10〜12歳までに固定術を受ければは2〜3にとどまり、12歳以降の固定術・未手術では思春期前に固定術を受けた例の2〜6倍になる。したまま残った精巣に生じる腫瘍はが多い(74%)が、固定術後の精巣に生じる腫瘍は性が多い(63%)4。⚠️ このリスク上昇は同側の自体についてで、対側の正常下降精巣にはの増加を認めないとする文献レビューがある4。
  • その他の合併症:外傷、捻転、。
  • 思春期前の(精巣を陰嚢内に置く手術)で不妊+悪性リスクを低減。💡 現行の小児泌尿器科ガイドラインは生後12か月になる前に、遅くとも18か月までにを行うよう推奨し(強い推奨)、生後6か月以降はがまれなためこの時期から治療を始める3。AUAガイドラインも、修正6か月までにがなければその後1年以内に手術を行うとしている5。

精巣萎縮+男性不妊

定義

  • 不妊 = 女性パートナーの妊娠可能性を下げる男性側の問題。
  • 通常は精液の異常による(、、)。

原因

精巣前性(ホルモン・全身的支持の不良)

  • 視床下部・下垂体の障害によるの(下垂体のゴナドトロピン産生不全など。精巣そのものの障害による原発性は次の精巣性に入る)。
  • 薬物、アルコール、喫煙、。

精巣性(精液の量が少ない・質が悪い)

精巣後性(精子産生後の欠陥)

  • の閉塞・無形成(CFの)。
  • 前立腺炎。
  • 、。

まとめ表

病態 原因・特徴 続発症
急性 若年:C. trachomatis / N. gonorrhoeae、高齢:E. coli 、虚血
耳下腺炎の1週後 萎縮+
結核性 精巣上体で始まる、 肉芽腫性
梅毒 三期 = 、 不妊
下降の失敗、両側性は約10%〜最大30% リスク2.75〜8倍(したままならが多い)、不妊
Klinefelter(47,XXY) 小さく硬い精巣 不妊、

💡 ポイント: = 成人のの第1原因、若年 = クラミジア/淋菌、高齢 = E. coli。 = 耳下腺炎の1週後 → 萎縮+(は不妊との関連は示されていないとする)。結核 = 精巣上体で始まる → 。梅毒三期 = +。 = 下降しない精巣、両側性は約10%〜最大30%、リスク2.75〜8倍、不妊、生後12か月までの(遅くとも18か月の)で両リスク低減。不妊の原因:精巣前性(ホルモン)、精巣性(Klinefelter、、)、精巣後性(閉塞/CF)。

まとめ

  • は成人のの最多原因で、性的活発な若年男性ではクラミジアが、高齢男性では大腸菌・緑膿菌が主因となる。
  • は耳下腺炎の約1週後に思春期後の男性に生じ(接種歴で層別しない報告で若年成人男性の症例の最大40%、では未接種者約30%・接種者約6%)、とを来しうる。は不妊との関連は示されていないとしている。
  • 結核は精巣上体で始まりを形成し、梅毒の三期はとを来す。
  • は両側性が約10%〜最大30%で、精巣悪性腫瘍のリスクを2.75〜8倍に上げ(したままの精巣ではが多い)、生後12か月まで・遅くとも18か月までので不妊・悪性リスクを低減する。
  • は精巣前性(ホルモン異常)、精巣性(、、など)、精巣後性(閉塞、前立腺炎、)に分類される。

出典

  1. 1.Mumps Orchitis: Clinical Aspects and Mechanisms(Frontiers in Immunology・2021)流行性耳下腺炎精巣炎は思春期後・若年成人男性のムンプス症例の最大40%に生じ、耳下腺炎の発症からおよそ1週間後に発症するのが典型的であること、精巣炎を発症した症例の約半数で精巣萎縮を来しうることを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.Clinical Features of Mumps(Centers for Disease Control and Prevention (CDC)・2024)精巣炎が思春期後の男性患者のうち未接種者で約30%・接種者で約6%に生じること、ムンプス精巣炎は不妊との関連は示されておらず精巣萎縮と造精機能低下(hypofertility)を来しうるとされること(原文:"Mumps orchitis has not been linked to infertility but may result in testicular atrophy and hypofertility")、ムンプス精巣炎の60〜83%が片側性であることを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.EAU Guidelines on Paediatric Urology — Management of Undescended Testes(European Association of Urology (EAU)・2026)停留精巣の章で、推奨「Perform surgical orchidofunicolysis and orchidopexy before the age of 12 months, and by 18 months at the latest」(Strong)、治療は生後6か月から開始し(それ以降の自然下降はまれ)12か月まで、遅くとも18か月までに終えること、停留精巣は最大30%で両側性に起こりうること、片側例では妊孕率(fertility rate)は低下するが父親になる率(paternity rate)は低下しないこと、スウェーデンのコホートで13歳より前に固定術を受けた群の精巣腫瘍の相対リスクが一般人口比2.2、13歳以降では5.4であったことを確認した。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Cryptorchidism and testicular cancer: separating fact from fiction(The Journal of Urology・2009)抄録で、停留精巣における精巣腫瘍の相対リスクは2.75〜8であること、10〜12歳までに精巣固定術を受けた例では相対リスクが2〜3にとどまること、12歳以降に固定術を受けたか固定術を受けなかった例は思春期前に固定術を受けた例の2〜6倍の精巣腫瘍発生を示すこと、対側の正常下降精巣には腫瘍リスクの増加を認めないこと、持続する停留精巣(鼠径部・腹腔内)に生じる腫瘍は精上皮腫が多く(74%)、固定術後または陰嚢内の精巣に生じる腫瘍は非精上皮腫性が多い(63%)ことを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Evaluation and Treatment of Cryptorchidism: AUA Guideline(American Urological Association(Journal of Urology)・2014)AUAの公式ガイドラインページで、Guideline Statement 11「In the absence of spontaneous testicular descent by six months (corrected for gestational age), specialists should perform surgery within the next year.」(Standard; Evidence Strength: Grade B)を確認した。閲覧 2026-09-24