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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 疾患

精索静脈瘤

Varicocele

臓器系
生殖・産婦人科腎・泌尿器
科目
UrologyPathologySurgery
トピック
泌尿器科学 U-19:男性生殖器疾患の診断と治療泌尿器科学 U-22:男性不妊症泌尿器科学 U-13:膀胱・前立腺・男性生殖器の画像診断病理学 C/79:陰茎・陰嚢・精巣上体の疾患病理学 C/80:精巣・精巣上体の炎症性病変/停留精巣/精巣萎縮外科学 B/22:ヘルニアの定義・分類・症状
鑑別疾患
陰嚢水腫間欠性精巣捻転精巣腫瘍鼠径ヘルニア
症状
疼痛腫脹
画像所見
超音波エコー輝度
原因となる疾患
ナットクラッカー症候群

🧠 全体像:は「の拡張」という単純な血管病変でありながら、の中で最も頻度が高く、かつ外科的にな原因という臨床的重みを持つ。理解の軸は2つ:①なぜほぼ左側に生じるのかという解剖(の流入角度+)、②逆流→陰嚢温度上昇→という単一の機序が精子形成障害につながるという病態生理。成人発症の右側単独例は、この左右非対称の原則から外れるため、後腹膜腫瘍による二次性を疑う重要なになる。

概要

は精索を還流するの異常な拡張・(立位で径2mm超が目安)であり、思春期以降の男性の約15%にみられるありふれた所見である。無症状のことも多いが、男性の約35〜40%、男性の約80%に認められ、外科的に矯正可能な原因の中で最多とされる。

原発性(特発性)はの機能不全に起因し、ほぼ左側に生じる。腫瘤による静脈で生じる二次性は左右どちらにも起こりうるが、右側単独例では特に二次性を疑う契機になる。両側性の頻度は評価法(触診のみか、超音波を含めるか)によって幅があるが、超音波を用いると触診だけの評価より両側性が高頻度に検出される。

解剖学的背景:なぜほぼ左側に生じるか

原発性(特発性)の大部分は、の機能不全に左右の解剖学的非対称が重なって生じる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left testicular vein'>左精巣静脈</span>は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left renal vein'>左腎静脈</span>へほぼ直角に流入<br>(右<span class='jp-term jp-term-diagram' title='testicular vein'>精巣静脈</span>は下大静脈へ斜めに直接流入)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nutcracker phenomenon (nutcracker syndrome)'>ナットクラッカー現象</span>:<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='superior mesenteric artery, SMA'>上腸間膜動脈</span>と大動脈の間で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left renal vein'>左腎静脈</span>が圧迫される"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left renal vein'>左腎静脈</span>内圧の上昇が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left testicular vein'>左精巣静脈</span>へ伝播"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous valves'>静脈弁</span>の相対的な機能不全と逆流"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pampiniform plexus'>蔓状静脈叢</span>のうっ滞・拡張=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='varicocele'>精索静脈瘤</span>"]
    E --> F["結果としてほぼ左側優位に生じる"]

💡 右側のは下大静脈へ短く斜めに直接流入するため、同じ機序による逆流が起こりにくい。だからこそ、成人になってから発症した右側単独の、あるいは臥位で消失しないは、腹部・(などによる・下大静脈のや)による二次性のを疑う手がかりであり、腹部の画像評価を追加する。

病態生理:不妊とのつながり

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pampiniform plexus'>蔓状静脈叢</span>の逆流・うっ滞"] --> B["陰嚢内温度の上昇<br>(精子形成は体温より低い温度を要する)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxidative stress'>酸化ストレス</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reactive oxygen species (ROS)'>活性酸素種</span>の増加"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seminiferous tubular epithelium'>精細管上皮</span>の障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sperm DNA fragmentation'>精子DNA断片化</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sperm concentration'>精子濃度</span>・運動率・正常形態率の低下"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='male infertility'>男性不妊</span><br>(外科的に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='modifiable'>是正可能</span>な原因の中で最多)"]

⭐ は両側性の病変として理解するのが安全である。片側(左側)しか目立たなくても、対側精巣の精子形成能にも温度上昇・の影響が及びうるため、精液所見の悪化は必ずしも左右対称ではない。

症状・身体所見

  • 多くは無症候性で、の精査や健診の触診で指摘される。
  • 症状がある場合は、立位や運動・長時間の起立で増悪し、臥位で軽快する・。
  • 触診・では「虫の袋」と形容される蔓状の静脈塊に触れる。
  • 患側精巣の萎縮・重量感の低下を伴うことがあり、特に思春期男児では患側精巣の発育遅延(対側との容積差をや超音波でし評価する)がの判断材料になる。
  • 精液所見では、が比較的保たれていても運動率低下と正常形態率低下が目立つパターン(古典的に「ストレスパターン」と呼ばれる)を呈することがある。これはによる精子膜・障害を反映すると考えられている。

鑑別診断

無痛性の陰嚢内腫瘤・腫脹をきたす代表的疾患との鑑別が重要になる。

疾患 内容・性状 での変化
拡張・した静脈(「虫の袋」) なし で増大・より触知しやすくなる
内の漿液貯留 あり 変化しない
そのものの・腫大 なし 変化しない
腸管・の陰嚢内への下降 なし(内容による) 咳・で膨隆、可能なことが多い

💡 は「虫の袋」様の柔らかい静脈塊で立位・により増大し臥位で消失するのに対し、は陽性の均一な腫瘤で体位・による変化に乏しい。この対比が診察室での鑑別の基本になる。

触診によるグレード分類(Dubin-Amelar)

・触診とを組み合わせた分類が臨床で標準的に用いられる。

グレード 所見
Subclinical() ・触診では触知できず、超音波など画像検査で初めて指摘される
Grade 1 ()でのみ
Grade 2 なしの安静時に
Grade 3 皮膚の上から視認できるほど拡張

⚠️ (画像でのみ指摘される)は、なとは臨床的意義が異なり、後述のとおり手術適応の考え方も別になる。

診断

  • ・触診:立位で行い、の前後で変化をみる。臥位で消失しない、あるいは急速に出現したは二次性を疑う所見。
  • (カラー・ドプラ):の径(安静時2mm超が目安)をし、に描出される拡張静脈と、での逆流の有無・を評価する。触診で判定が難しい例や思春期例の評価に有用である。
  • 不妊評価の一環として行う場合は、(・運動率・正常形態率)とホルモン評価(・・テストステロン)を並行する。
  • 右側単独例・臥位で消失しない例・急速な発症など非典型例では、腹部超音波・などでや・下大静脈のを評価する。

治療

現行のAUA/ASRM診療ガイドラインに沿った適応の考え方は次のとおり。

  • 手術(矯正)を検討する状況:①ながあり、精液所見の異常を伴う不妊カップル(を除く)、②思春期男児で患側精巣の発育遅延(容積低下)を伴うな、③保存的治療に反応しない疼痛を伴う例。
  • (画像所見のみ)のは、手術の対象としない。触知できない病変を手術で矯正しても妊孕性改善のエビデンスは支持されていない。
  • 術式:顕微鏡下(鼠径下または)が、再発率・の低さから標準術式とされる。手術用顕微鏡下で・リンパ管を同定・温存しながらのみをすることで、非顕微鏡下の術式に比べ再発と形成が少ない。(を腹腔内で)や、(画像下治療)によるも選択肢であり、特に塞栓術は低侵襲で再発例への追加治療としても有用である。
  • 合併症:再発、(リンパ管温存が不十分な場合に生じやすい術後合併症)、損傷による(では稀)。

⚠️ ・塞栓術は精液所見(・運動率)を改善させるという中程度のエビデンスがある一方、・出生率そのものへの効果は研究間でばらつきが大きく、確実に改善するとまでは言い切れない。適応判断では、精液所見の異常と不妊という2条件がそろっていることを確認し、精液所見が正常な男性への一律の手術は推奨されない。

  • 術後評価:精子形成の1サイクルに約74日を要するため、術後のによる効果判定は3か月以降に行う。思春期例では術後のの追いつきを定期的に評価する。
    • この「約74日」は周期16日を約4.6周分と数えた古典的な形態学的推定値であり、これに精巣上体通過の約12日を足すと全体で最短86日になるという計算に基づく1。一方、ト標識チミジンによる直接追跡では周期16日・全過程約64日と推定され2、(²H₂O)で標識した精子が射出精液に現れるまでを測る直接測定でも平均64±8日(範囲42〜76日)だった3。1960年代のデータに依存する古典的推定値は約6日ずれている可能性が指摘されている4。どちらの数字を採っても「による効果判定は3か月以降」という運用は変わらないので、日数は出所とセットで押さえる。

まとめ

  • はの拡張で、思春期以降男性の約15%にみられ、外科的にな原因の中で最多。
  • ほぼ左側優位に生じる理由は、がへほぼ直角に流入する解剖と、・大動脈間での圧迫()による静脈圧上昇。
  • 成人発症の右側単独例や臥位で消失しない例は、後腹膜腫瘍などによる二次性を疑い腹部の画像評価を追加する。
  • 逆流→陰嚢温度上昇→→精子形成障害という機序で不妊に至り、精液所見は運動率・正常形態率の低下が目立つパターンをとりやすい。Dubin-Amelar分類(・Grade 1〜3)で触診所見を層別化する。
  • 陰性・で増大する「虫の袋」様の性状が、陽性で体位により変化しないや、実質そのものが腫大するとの鑑別点になる。
  • 手術適応はな+精液所見異常+不妊、思春期の患側精巣発育遅延、に限られ、は手術対象としない。標準術式は顕微鏡下で、術後合併症としての形成がある。

出典

  1. 1.Understanding spermatogenesis is a prerequisite for treatment(Reproductive Biology and Endocrinology・2003)ヒトの精上皮では16日ごとに同じ細胞群の組み合わせが現れ(精上皮周期16日)、A型精祖細胞から成熟精子細胞までの発生には4.6周期すなわち74日を要し、精巣上体を通過するさらに12日を加えると全体で最短86日と計算されること閲覧 2026-08-24
  2. 2.Spermatogenesis in man: an estimate of its duration(Science・1963)トリチウム標識チミジンを精巣内に注入して標識生殖細胞の成熟を追跡した結果、精上皮の1周期は16日、精子形成の全過程は約64日と推定されたこと閲覧 2026-08-24
  3. 3.A stable isotope-mass spectrometric method for measuring human spermatogenesis kinetics in vivo(The Journal of Urology・2006)重水を3週間摂取させ精子DNAへの標識取り込みをGC/MSで測ると、標識精子が射出精液に現れるまで平均64±8日(範囲42〜76日)であり、従来の推定(60〜70日)のうち短い側を支持する閲覧 2026-08-24
  4. 4.The cycle of the seminiferous epithelium in humans: a need to revisit?(Journal of Andrology・2008)ヒト精子形成の基礎データは1960年代のもので精度が不十分であり、受け入れられている精子形成期間は約6日ずれている可能性があるため再検討が必要である閲覧 2026-08-24