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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 疾患

陰嚢水腫

Hydrocele

別名
精巣鞘膜水腫
臓器系
腎・泌尿器小児
科目
PathologyUrologySurgeryInternal Medicine
トピック
病理学 C/79:陰茎・陰嚢・精巣上体の疾患病理学 C/80:精巣・精巣上体の炎症性病変/停留精巣/精巣萎縮泌尿器科学 U-19:男性生殖器疾患の診断と治療泌尿器科学 U-03:尿道・男性外性器の発生異常泌尿器科学 U-01:泌尿器科における主要な外科的処置泌尿器科学 U-13:膀胱・前立腺・男性生殖器の画像診断外科学 B/22:ヘルニアの定義・分類・症状内科学 S-60:主な蠕虫感染症
鑑別疾患
精液瘤精索静脈瘤精巣腫瘍鼠径ヘルニア
原因微生物
バンクロフト糸状虫
症状
腫脹
画像所見
無エコー
元疾患
リンパ系フィラリア症

🧠 全体像:は陰嚢腫大の第1原因であり、(固膜の臓側葉と壁側葉の間)に漿液が過剰に貯留した状態にすぎない。学習の軸は2つ——1つは「腹腔とつながっているか」という交(小児・の開存)と(成人・特発性/続発性)の対比、もう1つは「陰嚢腫大を見たら何を除外するか」という診察の型(→超音波で腫瘍を除外→との鑑別)である。そのものは良性で経過観察できることが多い一方、その陰にが隠れていないかを確認することが臨床上の核心になる。

概要

は、精巣を包む固膜(腹膜由来のの遺残)の臓側葉と壁側葉の間の腔に漿液性の液体が過剰に貯留した状態で、陰嚢腫大の原因として最も頻度が高い。精巣本体や精巣上体にはを伴わないことが多く、多くは無痛性・良性の経過をたどる。液体貯留の場が精索に限局する場合は(精索の水腫)と呼び、精巣周囲に生じる古典的なとは液の貯留部位が異なる亜型として区別する。

病態生理・分類

発生学的に、精巣は腹腔からを伴って陰嚢内へ下降する。このが正常に閉鎖せず腹腔とのトンネル状の交通を残した状態がで、体位や腹圧によって腹腔から陰嚢へ液が出入りするため、(臥位で縮小、立位・で増大)を特徴とする。乳幼児にみられるの大部分はこの型である。一方、が閉鎖したのちに固膜腔だけに液が貯留する型をと呼び、成人のの主体をなす。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tunica vaginalis cavity'>精巣鞘膜腔</span>への漿液貯留"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='processus vaginalis'>腹膜鞘状突起</span>は開存しているか"}
    B -->|"開存(交<span class='jp-term jp-term-diagram' title='facultative'>通性</span>)"| C["主に乳幼児"]
    C --> D["体位・腹圧で大きさが変動"]
    B -->|"閉鎖(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='noncommunicating'>非交通性</span>)"| E["主に成人"]
    E --> F{"原因は明らかか"}
    F -->|"不明"| G["特発性(原発性)水腫"]
    F -->|"明らか"| H["続発性(反応性)水腫"]

⭐ 交かかは病歴(体位による大きさの変化の有無)とで見当をつけられるが、確定には超音波での・液の性状評価が有用である。

原因

は、明らかな基礎疾患を伴わない特発性(原発性)と、周囲の炎症・外傷・腫瘍などに反応して二次的に生じる続発性(反応性)に分かれる。

分類 主な背景
交(小児) の開存
・特発性(成人) 明らかな原因なし、からの分泌・吸収バランスの異常
・続発性 ・、外傷、への反応性水腫、・陰嚢手術後
熱帯地域に特有 ()による

⚠️ 続発性水腫では、水腫そのものより背景にある疾患が重要になる。特には反応性水腫を伴って発見が遅れることがあるため、続発性を疑う所見(急な増大、疼痛、精巣自体の触診困難)があれば必ず精査する。熱帯・亜熱帯地域では、によるが進行すると陰嚢のに至ることがある。

臨床像

多くは無痛性の陰嚢腫大として気づかれ、緩徐に増大する。大きな水腫では陰嚢の重量感、歩行時の違和感、性交渉時の支障を訴えることがある。では臥位で縮小し立位・で増大するというが特徴的で、この変動の有無がとの鑑別のヒントにもなる。感染や外傷を合併しない限り、発赤・熱感・急性の腫脹は乏しく、これらを伴う場合は・やなど他のを積極的に疑う。

診断

診察の出発点はである。暗室で陰嚢の下から光源を当てたとき、液体貯留であるは均一に光を透過するのに対し、のようなは光を通さない。ただしだけで腫瘍を否定することはできず、腫瘍が反応性水腫を伴っている場合は水腫の部分だけが透光して腫瘍そのものを見落としうる。

flowchart TD
    A["無痛性の陰嚢腫大"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transillumination test'>透光性試験</span>"]
    B -->|"均一に透光"| C["水腫を支持"]
    B -->|"透光しない部分がある"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solid lesion'>充実性病変</span>を疑う"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scrotal ultrasound'>陰嚢超音波</span>を施行"]
    D --> E
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='testicular parenchyma'>精巣実質</span>は正常か"}
    F -->|"正常・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anechoic'>無エコー</span>の液体貯留のみ"| G["単純性水腫と診断"]
    F -->|"精巣内に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solid'>充実性</span>・異常エコー"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='testicular cancer'>精巣腫瘍</span>を疑い精査"]

⚠️ 陰嚢腫大を見たときの診断の要点は腫瘍の除外である。が陽性でも、必ずを行い、が正常でその周囲にの貯留があることを確認してから、単純性のと診断する。精巣が触診で確認しづらいほど大きな水腫では、超音波での評価が特に重要になる。

鼠径ヘルニアとの鑑別

陰嚢の腫脹をきたす代表的な鑑別疾患が(陰嚢まで下降した)である。両者はで区別できることが多い。

所見
の聴取 聴取されない 腫瘤上でを聴取することがある
な できない(圧迫しても縮小しない) 多くはにできる
腫瘤上端の触知(「上端を越えて触れるか」) 方向へ指を進め腫瘤の上端(精索)を触知できる 腫瘤が内へ連続し上端を触知できない
陽性 陰性(腸管内容やガスにより不定)

鑑別

以外にへの貯留物が変わる病態として、外傷後の(血液)、()、感染に伴う(膿)があり、いずれも同じ腔に生じる点は共通するが内容物とが異なる1。精索に限局する陰嚢外の腫瘤としてはのほか、(拡張・した静脈叢、立位で増強し「虫の袋」様に触れる)や(精巣上体頭部の嚢胞性拡張。精巣とは別に触れる点でと区別する)2も鑑別に挙がる。は・超音波で最も確実に除外すべき対象であり、の陰に隠れて発見が遅れないよう注意する。

治療

小児(交通性水腫)

乳幼児のはが生後もすることが多く、1〜2歳頃までは経過観察とし、自然消退を待つのが原則である。この時期を過ぎても水腫が遷延する場合、急速に増大する場合、明らかなを合併する場合には、開存するを・切離するを行う。

成人(非交通性水腫)

成人のでは、まず続発性の原因(・、外傷、腫瘍)の有無を確認し、背景疾患があればその治療を優先する。無症状で小さい特発性水腫は経過観察でよいが、症状を伴う、あるいは大きい水腫には介入を検討する。

  • :外来で簡便に施行できるが、再発率が高く、根治的な治療とはみなされない。が高い患者への一時的な症状緩和や、繰り返しの穿刺・を目的とする場合に用いられる。
  • 根治的な:確実な根治を目指す標準治療で、代表的な術式に(嚢を反転させ精索・精巣の背側で縫合する)、(同様に嚢を反転・縫合する術式で、の変法として扱われる)、(嚢を切除せず放射状にするプリケーション術式で、比較的小さく壁の薄い水腫に適し血腫などの合併症が少ないとされる)がある。水腫の大きさ・壁の厚さに応じて術式を選択する。

まとめ

  • はへの漿液貯留であり、陰嚢腫大の第1原因である。
  • が開存するは主に小児にみられ体位で大きさが変動し、が閉鎖したのちに生じるは成人に多く特発性と続発性に分かれる。
  • 続発性の原因には・、外傷、腫瘍のほか、熱帯地域ではによるがあり、進行すると陰嚢のに至りうる。
  • 診断はに加えて必ずを行い、の除外を優先する。との鑑別は・・腫瘤上端の触知の可否で行う。
  • 小児では1〜2歳までの自然消退を待ち、遷延例ではのを行う。成人ではは再発率が高く根治的でないため、症状のある水腫には・・などの根治的なを選択する。

出典

  1. 1.A sound approach to stay on the ball—a review of scrotal pathologies on ultrasound imaging(The British Journal of Radiology・2026)陰嚢水腫が固有鞘膜内の生理的な約3 mLを超える液体貯留であり大半が特発性で無痛性の陰嚢腫大として現れること、内容が血液なら血瘤(hematocele)・感染性なら膿瘤(pyocele)と呼ばれること、単純な陰嚢水腫が超音波で精巣周囲の無エコー・無血管の貯留として描出されるのに対し血瘤は不均一で液面形成を示し膿瘤はガスによる高エコーを示しうること、超音波が精巣腫瘍・炎症といった背景原因の検索にも役立つこと、精巣上体嚢胞が無症候の男性の最大40%に偶発的に認められ十分に大きい場合は拡張した輸出管すなわち精液瘤にあたりうること、精巣上体嚢胞が精巣上体頭部に最も多いことを確認した。閲覧 2026-08-20
  2. 2.A Post-Aspiration Giant Spermatocele in a Young Man: A Case Report and Literature Review(Clinical Medicine Insights: Case Reports・2022)精液瘤が精巣の上方に生じて精巣を下方へ押しやるため通常は精巣とは別個の構造として触知されるのに対し、陰嚢水腫は精巣の側方・前方を包み込み精巣を偏位させないため腫大した精巣のような誤った印象を与えること、両者の鑑別に超音波が有用で陰嚢水腫は精巣を包む無エコーの嚢胞性構造を示すのに対し精液瘤は多数の精子などによる微細な内部エコーを示すこと、巨大な精液瘤が陰嚢水腫と誤認されやすいこと、透光性試験陽性が嚢胞性であることを示すことを確認した。閲覧 2026-08-20