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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 疾患

精液瘤

Spermatocele

別名
精巣上体嚢胞
臓器系
生殖・産婦人科
科目
PathologyUrology
トピック
病理学 C/79:陰茎・陰嚢・精巣上体の疾患泌尿器科学 U-01:泌尿器科における主要な外科的処置
鑑別疾患
陰嚢水腫精巣腫瘍
症状
腫脹
画像所見
エコー輝度

🧠 全体像:は、精巣上体(多くは頭部)のが閉塞して拡張し、精子を含む液体を貯めた良性の嚢胞にすぎない(精子を含まない単純なとは、厳密には別物である)。学習の軸はただ1つ——「精巣を包むか、精巣とは別に触れるか」という一点でと鑑別することである。はどちらも陽性になるため決め手にならず、触診での位置関係と超音波が診断を分ける。治療でも要点は1つで、無症状なら経過観察が原則であり、摘出術には・精巣上体を傷つけて不妊を招くリスクがあるため適応を慎重に見極める。

病態

は、精巣上体頭部のが部分的〜完全に閉塞して拡張し、精子を含む液体を内部に貯留した嚢胞性病変である1。まれに精巣内のの細管やから生じる例もあるが、圧倒的多数は精巣そのものではなく精巣上体(頭部が最多)に生じる1。この「精巣の外側にできる」という点が、に液が貯まるとの病態上の根本的な違いになる。

flowchart TD
    A["精巣上体(多くは頭部)の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='efferent ducts'>輸出管</span>が拡張"] --> B["内部に精子を含む液体が貯留"]
    B --> C["精巣とは別に触れる<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cystic mass'>嚢胞性腫瘤</span>を形成"]
    C --> D{"精巣を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass effect'>圧排</span>するほど<br>大きいか"}
    D -->|"小さい"| E["無症候性・偶発的に発見"]
    D -->|"大きい"| F["精巣が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass effect'>圧排</span>・偏位される"]

大きさは通常1 cm未満の単発・片側性の嚢胞にとどまり、そのため無症候のまま偶発的に見つかることが多い1。まれにさらに増大して重量感や疼痛を来し、精巣を・偏位させることがある2。

精巣上体嚢胞との異同

本ノートも別名として「」を併記しているとおり、臨床ではこの2語がほぼ同義に使われる。ただし厳密には別の病変である。

単純な
由来 の閉塞・拡張 精巣上体の管腔系に生じる
内容液 精子を含む(蛋白・好中球なども) 精子を含まない漿液
超音波 内部に微細エコー()を伴う ・を伴う

⚠️ でも超音波でも両者の区別はしばしばつかない。 文献上もこの2語は長く互換的に、時に不正確に用いられてきた1。内容液に精子があるかどうかは穿刺液や摘出標本で初めて確定するため、実地では区別せずに扱う流儀が広く通用している。病理学的には由来も内容も別物である、という点だけ押さえておけばよい。

疫学

  • 他の理由でを受けた男性の約30%にを認めたという報告があり、無症候のとしてはありふれた病変である1。
  • 単純なまで含めれば、無症候の男性の最大40%に偶発的に認められる2。
  • 好発年齢は65〜74歳で、高齢男性の疾患とされる1。

陰嚢水腫との鑑別

⚠️ との鑑別が本ノートの本体である。 いずれも無痛性の陰嚢内腫瘤として現れ、暗室でのは両者とも陽性になるため、だけでは区別できない1。決め手になるのは触診での精巣との位置関係と超音波である。

所見
発生の場 精巣上体(多くは頭部)の (精巣を包む腔)
触診での位置関係 精巣とは別に、精巣の上方・後方に触れる 精巣を包み込み、精巣そのものと分離して触れにくい
精巣への 大きい場合のみ精巣をする 精巣をに取り囲む
陽性 陽性
超音波 境界明瞭な嚢胞。内部に精子成分などによる微細エコーがあり、圧迫すると雪が舞い落ちるように動く() 精巣を包む均一な域

💡 が両者とも陽性になる理由は、どちらも液体貯留という点で共通しているからである。 鑑別の軸を「の有無」ではなく「精巣との位置関係」に置き換えることが診断の近道になる。

診断

無痛性の陰嚢内腫瘤を触知したら、まずを行い、次にで精巣との位置関係と内部性状を確認する。

flowchart TD
    A["無痛性の陰嚢内腫瘤"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transillumination test'>透光性試験</span>(多くは陽性)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scrotal ultrasound'>陰嚢超音波</span>"]
    C --> D{"精巣との位置関係は"}
    D -->|"精巣上方・後方に別に存在<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal echoes'>内部エコー</span>を伴う嚢胞"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Spermatocele'>精液瘤</span>と診断"]
    D -->|"精巣を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='circumferential'>全周性</span>に包む"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrocele'>陰嚢水腫</span>を疑う"]
    C --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solid'>充実性</span>・エコー不均一な部分があるか"}
    G -->|"あり"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='testicular cancer'>精巣腫瘍</span>を除外する精査へ"]

⚠️ ・超音波のいずれでも、やの異常エコーを認めればの除外を優先する。 のはあくまでする微細なであり、ドプラで血流を持つとは性質が異なる。ドプラでであることを確認しても除外する2。

治療

⭐ 無症状のは治療を要さず経過観察でよい。 ・の大半は無治療のまま放置され、大きく症候性のものだけが摘出術の対象になる2。

⚠️ 摘出術は不妊のリスクを伴うため、適応を慎重に選ぶ。 ・の病理標本をに検討した報告では、精巣上体組織の損傷(=)がで5.62%であったのに対し、では17.12%とより高頻度に確認されており、・精巣上体の損傷はの閉塞による不妊につながりうる3。

方針 適応 注意点
経過観察 無症状・小さい(多くの症例) 大半はこれで足りる
単独では推奨されない 吸引だけでは再貯留するため、再発防止にを併用する報告がある1
手術(摘出術) 径4 cm以上に増大した例、疼痛・重量感など症状を伴う例、悪性が否定できない例 現在の標準治療。によるを伴う13

手術を行う場合は精巣上体組織を可能な限り温存する手技が望ましい。がある患者では、摘出術による・のリスクを術前に必ず説明する3。

まとめ

  • は精巣上体(多くは頭部)のが閉塞・拡張し、精子を含む液体を貯めた良性嚢胞である。まれに精巣内のから生じる例もあるが、大多数は精巣の外側にできる。
  • 精子を含まない漿液性の「」とは病理学的には別物だが、臨床・超音波では区別しがたく、実地ではほぼ同義に扱われる。
  • を受けた男性の約30%に見つかるありふれたで、好発年齢は65〜74歳である。
  • との鑑別が核心で、は両者とも陽性になるため決め手にならず、精巣とは別に触れるか()/精巣を包むか()という触診所見と超音波で区別する。
  • ・の異常エコーがあればの除外を優先する。
  • 無症状なら経過観察が原則で、単独では再貯留する。摘出術は・精巣上体の損傷による(で約17%の)があるため適応を慎重に選ぶ。

出典

  1. 1.A Post-Aspiration Giant Spermatocele in a Young Man: A Case Report and Literature Review(Clinical Medicine Insights: Case Reports・2022)精液瘤が精巣上体頭部に生じ、多くは輸出管(efferent ductule)の部分的〜完全な閉塞によること、まれに精巣網の細管や迷管から生じること、通常は片側性・単発で径1 cm未満のため無症候性であること、透光性試験陽性が嚢胞性であることを示すこと、精液瘤が精巣の上方に生じて精巣を下方へ押しやり別個の構造として触知されるのに対し陰嚢水腫は精巣を包み込み腫大した精巣のように見えること、超音波で陰嚢水腫が精巣を包む無エコー液体を示すのに対し精液瘤は精子などによる微細な内部エコーを示し圧迫すると雪が舞い落ちるように動くこと、実地では内容液に精子があるか(精液瘤)無いか(精巣上体嚢胞)で両者を区別していること、他の理由で陰嚢超音波を受けた男性の30%に認めたという報告があり好発年齢が65〜74歳であること、「精巣上体嚢胞」と「精液瘤」の語が文献上しばしば互換的・不正確に用いられ臨床・超音波では両者の区別が困難であること、穿刺吸引単独では再貯留するため硬化療法の併用や外科的摘出(現在の標準治療、径4 cm以上や症状を伴う場合に推奨)が行われることを確認した。閲覧 2026-08-19
  2. 2.A sound approach to stay on the ball—a review of scrotal pathologies on ultrasound imaging(The British Journal of Radiology・2026)精巣上体嚢胞が無症候の男性の最大40%に偶発的に認められる高頻度病変であり、十分に大きい場合には拡張した輸出管=精液瘤にあたりうること、精巣上体嚢胞が単純嚢胞と同じく無血管・無エコーで後方エコー増強を伴うのに対し精液瘤は精子・蛋白・好中球を反映する内部エコー(デブリ)を含む点で超音波上区別されること、精液瘤は大きいため精巣を圧排・偏位させやすいこと、ドプラで無血管であることを確認して血管性病変を除外すること、大半の精巣上体嚢胞・精液瘤は無治療で経過観察され大きく症候性のものにのみ摘出術を行うことを確認した。閲覧 2026-08-19
  3. 3.Evaluating the Risk of Epididymal Injury During Hydrocelectomy and Spermatocelectomy(The Journal of Urology・2004)病理標本の後方視的検討で、陰嚢水腫摘出術では19例(5.62%)、精液瘤摘出術では19例(17.12%)に精巣上体組織の損傷が確認されたこと、この精巣上体損傷が不妊につながりうるため患者への説明が必要であることを確認した。閲覧 2026-08-19