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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 疾患

マラコプラキア

Malakoplakia

別名
軟斑症
臓器系
腎・泌尿器感染症
科目
PathologyPathology (Histopathology)
トピック
病理学 A/17:異栄養性石灰化組織病理 H1-027:乳管内癌の微小石灰化(HE染色)
鑑別疾患
Whipple病膀胱癌
治療薬
シプロフロキサシンスルファメトキサゾール+トリメトプリムベタネコール
原因微生物
Escherichia coliKlebsiella pneumoniaeProteus mirabilis
症状
肉眼的血尿頻尿排尿痛側腹部痛

🧠 全体像:は「殺しきれなかった細菌の残骸が、マクロファージの中で石灰化して溜まる病気」である。菌が異常に強いのではなく、マクロファージ側のが落ちていることが本態で、貪食した菌を分解しきれずに残ったが融合し、カルシウムとリンを取り込んで層状のになる。したがって病理では「壊れた細胞成分の上に起こる石灰化」というの一例として扱われ、臨床では「免疫が落ちた人の、治りにくい大腸菌感染」として現れ、内視鏡や画像では腫瘍そっくりの黄褐色の軟らかい斑・腫瘤に見える。

名称と位置づけ

  • 語源はギリシャ語の「軟らかい斑」で、に隆起する黄褐色〜黄色の軟らかいプラークという肉眼像をそのまま表している。
  • 1902年にMichaelisとGutmannが、この病変のマクロファージ内にある特徴的なのを記載した。この小体が現在も診断の決め手である。
  • 感染に対する慢性肉芽腫性反応の一型だが、結核のような・は作らない。が主役という点が異なる。

発生機序

貪食までは正常に進むのに、その先の殺菌と分解が止まるところに欠陥がある1。

  • のが壁成分の完全な分解を担うが、その放出が障害される。
  • のcGMPは微小管の動態とを調節しており、低下するとリソソームとファゴソームの融合・が滞る。
  • 結果として、部分的にしか分解されていないがマクロファージの細胞質に溜まり続ける。

⭐ この機序を実験的に示したのが1977年のNEJM報告で、患者1例の単球では細胞内cGMPが 0.17±0.05 pmol/10⁷細胞(正常 0.79±0.12、P<0.001)と低く、貪食後の 放出が起こらず、Escherichia coliの殺菌試験では残存コロニーが 542±46(正常単球 95±22、P<0.001)と大幅に多かった。大型リソソーム顆粒をもつ単球の割合も 23±4%(正常 4±2%)と高かった。の塩化物をで加えても、で投与しても、cGMP・・顆粒所見のいずれもが正常化した2。

flowchart TD
    A["細菌(多くはEscherichia coli)の貪食"] --> B["cGMP低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-glucuronidase'>β-グルクロニダーゼ</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='release defect'>放出障害</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phagolysosome'>ファゴリソソーム</span>での分解が不完全"]
    C --> D["未分解の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial debris'>細菌残渣</span>が細胞質に蓄積"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phagolysosome'>ファゴリソソーム</span>の融合"]
    E --> F["カルシウム+リンの沈着(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apatite'>アパタイト</span>)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Michaelis-Gutmann body'>Michaelis-Gutmann小体</span>"]
    D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Hansemann histiocyte'>von Hansemann組織球</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aggregation/clustering (histological, e.g. lymphocytic aggregates)'>集簇</span>"]
    H --> I["粘膜の黄褐色軟性プラーク・腫瘤"]

⚠️ ここで起こる石灰化はであり、は正常である。を背景に正常組織へ沈着するとは別物で、でを測っても診断の助けにはならない。

背景となる免疫抑制状態

疫学と好発部位

項目 内容
年齢 50歳代以降の成人が中心(小児例はまれ)1
性差 泌尿生殖器病変は女性に明らかに多い。皮膚病変は男性に約2倍多い1
最多の部位 尿路。女性では膀胱が最も侵される臓器1
その他の部位 消化管、肺、脳、リンパ節、副腎、扁桃、、皮膚、骨、腹壁、膵、後腹膜、1
起因菌 Escherichia coliが最多。Klebsiella pneumoniae、Proteus mirabilisなどのProteus属、Pseudomonas、Staphylococcus、Mycobacterium属も報告される1

病理像

肉眼

  • から隆起する黄褐色で軟らかいプラーク。融合して腫瘤を作り、することもある。
  • や内視鏡では腫瘍と区別がつかず、画像でも悪性を疑わせる腫瘤として写る1。

組織

所見 内容
好酸性の豊富な細胞質をもつ大型の。核は偏在し、大小さまざまな円形のを含む1
石灰化した。中心が好塩基性で、周囲に淡い暈(ハロー)を伴うの層状構造をとる1
背景の浸潤 リンパ球・形質細胞・の密な浸潤と

染色:(カルシウム)が小体の描出に最も優れる。とPrussian blue(Berlinブルー)染色でも陽性になる1。

⭐ 小体の中身は何か。 前立腺・精巣・大腸に生じた3例のをX線微小分析で調べた研究では、カルシウムとリンが一貫して検出され、鉄は一部の小体にのみ検出された。他のは検出されず、層状構造の部分も中心部と同じ組成であった。内にもカルシウムとリンを含むの高い小凝集がみられ、小体がの融合と石灰化によって生じることを支持する3。

⚠️ 「はカルシウムと鉄からなる」という書き方をよく見るが、上記の分析では必ず含まれるのはカルシウムとリンであり、鉄は一部にとどまる。Prussian blue染色が陽性になることと、鉄がであることは同じではない。

臨床像

部位で症状が決まり、それ自体に特異的な症候はない1。

診断

flowchart TD
    A["再発性尿路感染の背景+膀胱・腸管などの腫瘤性病変"] --> B["画像・内視鏡:悪性と区別できない"]
    B --> C["病変の生検(組織学的確認が必須)"]
    C --> D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Hansemann histiocyte'>von Hansemann組織球</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Michaelis-Gutmann body'>Michaelis-Gutmann小体</span>"}
    D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Malakoplakia'>マラコプラキア</span>と確定"]
    D -->|"なし"| F["悪性腫瘍・他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulomatous disease'>肉芽腫性疾患</span>を再検討"]
    E --> G["尿・組織培養で起因菌と感受性を決める"]
    G --> H["抗菌薬治療+免疫抑制の是正"]
  • 生検による組織学的確認が不可欠で、の証明が決定的な所見である1。
  • 培養は起因菌と感受性を決めるための補助検査であり、単独では診断にならない。

鑑別

鑑別 区別の要点
・画像では区別できない。生検で異型上皮の有無との有無を見る
どちらものがする。は小腸絨毛のTropheryma whippleiが主体で、は作らない
腎に限局し、を背景に泡沫状(様)がする。を欠く(・の特殊型として扱われる)
結核などの肉芽腫性感染症 とを作る。・培養で区別する

治療

flowchart TD
    A["組織診断確定"] --> B["マクロファージ内に移行する抗菌薬を長期投与"]
    B --> C["フルオロキノロン/ST合剤/テトラサイクリン系"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immunosuppressant'>免疫抑制薬</span>の減量・中止、糖尿病など背景の是正"]
    A --> E["補助:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholinergic agent'>コリン作動薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ascorbic acid (vitamin C)'>アスコルビン酸</span>で細胞内cGMPを上げる"]
    A --> F{"難治・閉塞症状・悪性が除外できない"}
    F -->|"はい"| G["外科切除"]
    F -->|"いいえ"| H["抗菌薬と経過観察を継続"]

⚠️ を使っている患者では再発が多い1。抗菌薬で一度改善しても、背景の免疫抑制が続く限りを想定した経過観察が要る。

予後

死亡率そのものは低いが、や敗血症を合併しうる。無治療では病変が進み、特に腎が侵された場合は不可逆的な臓器障害に至る1。

まとめ

  • はマクロファージのの後天的欠陥による慢性で、cGMP低下とが中核にある。
  • (von Kossa陽性の)が診断の決め手で、分析ではカルシウムとリンが一貫して検出され、鉄は一部のみである。は正常で、の代表例として扱われる。
  • 好発は中高年女性の膀胱で、最多の起因菌はEscherichia coli。免疫抑制状態が背景にある。
  • 画像・内視鏡で腫瘍と区別できないため、生検が必須。とが主な鑑別になる。
  • 治療はの良い抗菌薬(フルオロキノロン・ST合剤)の長期投与と免疫抑制の是正が柱で、・は補助、手術は難治例・閉塞例・悪性除外目的に限る。

出典

  1. 1.Malakoplakia(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)マクロファージの殺菌能の後天的欠陥を本態とし、リソソーム加水分解酵素β-グルクロニダーゼとセカンドメッセンジャーcGMPの機能不全により細菌残渣が細胞質に蓄積すること。最も頻度の高い起因菌がEscherichia coliで、Klebsiella pneumoniae・Proteus・Pseudomonas・Staphylococcus・Mycobacterium属も報告されること。50歳代以降の成人に多く、泌尿生殖器病変は女性に、皮膚病変は男性に約2倍多いこと。診断は病変の生検によるMichaelis-Gutmann小体の証明で、von Kossa染色が小体の描出に最も優れ、PAS染色・Prussian blue染色でも染まること。治療はフルオロキノロン(シプロフロキサシン・オフロキサシン)・ST合剤・テトラサイクリン系・リファキシミンが第一選択で治癒率は約66〜100%と報告され、ベタネコール・ブデソニド・アスコルビン酸が細胞内cGMPを上げる補助薬として用いられてきたこと。手術は難治例・閉塞症状・悪性が除外できない場合に限られること閲覧 2026-09-02
  2. 2.Malakoplakia: evidence for monocyte lysosomal abnormality correctable by cholinergic agonist in vitro and in vivo(The New England Journal of Medicine・1977)マラコプラキア1例の単球で細胞内cGMPが低値(0.17±0.05 対 正常0.79±0.12 pmol/10^7細胞、P<0.001)であり、貪食後のβ-グルクロニダーゼ放出が起こらず、Escherichia coliの殺菌試験で残存コロニーが542±46(正常単球95±22、P<0.001)と多く、大型リソソーム顆粒をもつ単球が23±4%(正常4±2%)であったこと。ベタネコール塩化物を試験管内で作用させた場合も生体内で投与した場合も、cGMP・殺菌能・リソソーム顆粒がいずれも正常化したこと(症例1例の検討)閲覧 2026-09-02
  3. 3.X-ray microanalysis of the Michaelis-Gutmann bodies of malakoplakia(The Journal of Pathology・1982)前立腺・精巣・大腸の3例のMichaelis-Gutmann小体をX線微小分析で調べ、カルシウムとリンが一貫して検出され、鉄は一部の小体のみに検出され、他の元素は検出されなかったこと。電子密度の高い層状構造は中心部の物質と組成が同じであり、ファゴリソソーム内にもカルシウムとリンを含む電子密度の高い小凝集がみられたことから、小体がファゴリソソームの融合と石灰化によって生じるとしたこと閲覧 2026-09-02