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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

膀胱癌

Bladder cancer

別名
膀胱がん
臓器系
腫瘍腎・泌尿器
科目
PathologyUrologyOncology
トピック
病理学 C/69:膀胱・尿路上皮系の腫瘍泌尿器科学 N-04:表在性膀胱癌(筋層非浸潤性膀胱癌)泌尿器科学 N-05:筋層浸潤性膀胱癌腫瘍学 II-23:前立腺・膀胱腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断
鑑別疾患
腎細胞癌
関連疾患
前立腺癌
治療薬
シスプラチンカルボプラチンゲムシタビンメトトレキサートビンブラスチンドキソルビシンエピルビシンドセタキセルペムブロリズマブニボルマブデュルバルマブアテゾリズマブ
原因薬剤
シクロホスファミドピオグリタゾン
原因微生物
Schistosoma haematobium
症状
血尿肉眼的血尿頻尿乏尿無尿尿意切迫感
検査値
血清クレアチニン
画像所見
水腎症
スコア
TNM分類
組織像
尿路上皮癌尿路上皮癌
原因となる疾患
住血吸虫症
適応薬
エピルビシンビンブラスチン

🧠 全体像は組織型の約9割を癌)が占め、無痛性という単一の症状から診断が始まる。学習上の最大の軸は、の病理結果で決まる「筋層に浸潤しているか否か」という一点であり、これがそのまま2つの臨床的カテゴリー( NMIBC=pTa/pT1/CIS、 MIBC=pT2以上)を分け、根本的に異なる治療戦略へ枝分かれする。NMIBCはTURBTでの局所制御を主軸に、再発・進行リスクに応じて療法(BCGなど)を追加する「」の発想であるのに対し、MIBCは+周術期という「臓器ごと治療する」発想に転換する。このさえ押さえれば、あとは各カテゴリー内の(再発・進行リスク、シスプラチン適格性など)が治療強度を決める入力情報として積み上がっていく。

疫学・病因

  • 下部尿路(腎盂・尿管・膀胱)の腫瘍はより頻度が高く、大部分は膀胱に発生する。
  • 泌尿器悪性腫瘍の中で前立腺癌に次いで頻度が高い。
  • 男性女性の2.5倍以上の頻度で発症し、加齢とともに発症率が上昇する(好発年齢50〜70歳)。

危険因子

分類 内容
喫煙 最大の危険因子で、発症リスクを約3倍に高める
曝露 β-ナフチルアミンなど(アニリン染料・ゴム・皮革・印刷・鉄鋼・塗装・ガス/タール製造業)
薬剤
慢性刺激・慢性膀胱炎 、長期Schistosoma haematobium感染(世界的には扁平上皮癌の主要な原因)
骨盤への放射線照射歴 既往歴として重要
遺伝子異常 FGFR3、RAS、TP53、RB1

💡 喫煙・は主にの危険因子であるのに対し、Schistosoma haematobium感染や慢性の異物刺激(結石・長期カテーテル)は扁平上皮癌への発がんに傾く点が対比のポイントである。

病理

は組織型としてはが圧倒的多数を占めるが、まれな組織型との対比を押さえておく。

組織型 頻度 特徴・関連因子
癌) 約90% 喫煙・との関連が強い。〜平坦、〜浸潤性、のスペクトラムをなす
扁平上皮癌 2〜3% 慢性刺激・Schistosoma haematobium感染(世界的な主因)、結石、長期カテーテル
腺癌 3〜4% 、またはから発生
その他(、リンパ腫、悪性黒色腫など) 1%未満 (胎児性)は小児に好発

尿路上皮癌のスペクトラム

  • 病変は ↔ 平坦 ↔ 浸潤性という3つの軸のスペクトラム上に位置づけられる。
  • :常にで、稀にしか浸潤しないが、切除後に再発しやすい。
  • または平坦をとり、浸潤性で予後不良。
  • :広範な異形成を伴う平坦・病変で、まだへの浸潤はないが、筋層浸潤への進行リスクが高いとして扱われる。

⚠️ 異型度分類は歴史的なWHO 1973年版Grade 1〜3(高分化〜未分化)から、現行のWHO 2004/2016年版によるの2分類へ移行している。CISは定義上つねにに分類される。

💡 臨床的な意義を決めるのは組織型そのものより「浸潤の深さ」である。 同じでも、粘膜・にとどまるか(NMIBC)、以深に達するか(MIBC)で臨床経過・治療戦略が根本的に変わる。深部への浸潤は最も重要な予後因子で、筋層を貫通する進行例では5年が20%を下回るとされる。

臨床像

  • 無痛性が、すべてのに共通する最も特徴的な初発症状であり、これを見逃さないことがの鍵となる。
  • 頻尿・などの膀胱刺激症状を伴うことがあり、特にCISでみられやすい。
  • 腫瘍が付近に及ぶと片側性の水腎症を来し、両側の尿路閉塞では乏尿・に至ることがある。
  • 早期の腫瘍はに限局しで所見を欠くことが多いが、進行例ではとしてなことがある。

⚠️ 無痛性血尿を「尿路感染症」として片付けず、特に50歳以上の喫煙者ではを鑑別に残すことが重要である。

診断

尿検査・尿細胞診

  • 尿検査で血尿・を確認し、持続的血尿による貧血や、腎機能低下時の上昇を評価する。
  • 癌・CISで陽性率が高く、特に平坦病変であるCISの検出に有用。ただし判読には熟練を要し、癌では感度が低い。

画像検査

  • 超音波(US)下に施行。上部尿路の評価に適するが、後壁や1cm未満のは描出しにくい。
  • CT urography:上部尿路(腎盂・尿管)を含めた評価に用いる。
  • CT/MRI:骨盤・腹部リンパ節、前立腺・子宮・直腸など周囲臓器への浸潤評価(特にMIBCのに必須)。

膀胱鏡検査とTURBT

  • 下の内視鏡検査で病変を直接観察し、生検を行う。(5-ALA/hexaminolevulinateによる腫瘍内増加を利用した蛍光観察)は、白色光では見落としやすい平坦病変(CISなど)の検出を高める補助手段である。
  • :診断と治療を兼ねる中心的手技。小さな腫瘍は完全切除が可能だが、正確な診断のためには腫瘍下層のを標本に含めて切除することが必須で、これが筋層浸潤の有無(NMIBC/MIBCの境界)を確定する唯一の方法である。
  • 初回切除後も新規腫瘍の再発やがしばしば認められるため、高リスク例では再TURBT(re-TURBT)を検討する。
flowchart TD
    A["無痛性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gross (macroscopic) hematuria'>肉眼的血尿</span>(最も特徴的な初発症状)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medical interview (history-taking)'>問診</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='physical examination'>身体診察</span>、尿検査で血尿を確認"]
    B --> C["超音波・CT urographyで上部尿路を含め評価"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urine cytology'>尿細胞診</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-grade'>高異型度</span>癌・CISで感度が高い)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cystoscopy'>膀胱鏡検査</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photodynamic diagnosis, PDD'>青色光膀胱鏡</span>で平坦病変を補助的に検出)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='TURBT'>経尿道的膀胱腫瘍切除術</span>"]
    F --> G["病理で組織型・異型度・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscularis propria'>固有筋層</span>浸潤の有無を確定"]
    G --> H{"筋層浸潤があるか"}
    H -->|"なし(NMIBC:pTa・pT1・CIS)"| I["再発・進行リスクを層別化"]
    H -->|"あり(MIBC:pT2以上)"| J["胸腹骨盤CTまたはMRIで病期・転移を評価"]

病期分類

TNM(T分類の骨子)

T分類
Ta (上皮内にとどまる)
(CIS) 。平坦・で浸潤はないが進行リスクが高い
T1 への浸潤
T2 への浸潤
T3 膀胱周囲脂肪組織への浸潤
T4 前立腺・子宮・腟・骨盤壁・腹壁など隣接臓器への浸潤
  • N分類:所属リンパ節転移の大きさ・個数で評価。
  • M分類:遠隔転移の有無(M0/M1)で評価。

Ta・T1・、T2以上は というこの境界が、治療体系そのものを分ける最重要のである。

NMIBC vs MIBC の比較

項目
病期 Ta・T1・(CIS) T2以上
治療の骨格 TURBTによる局所制御+療法( +周術期(臓器ごと治療)
主な 再発予防・筋層浸潤への進行予防 根治・遠隔転移の制御
予後 概して良好(進行しなければ生命予後への影響は小さい) 深部浸潤ほど不良。膀胱壁を貫通する進行例では5年20%未満

治療:筋層非浸潤性膀胱癌

TURBTによる完全切除の後、再発・進行リスクに応じて療法を追加する。

リスク層別化

⚠️ 原資料には具体的なの記載が薄いため、現行のAUA/SUOおよびEAUガイドラインに基づき整理する。NMIBCは臨床病理学的因子(腫瘍数・大きさ・再発歴・T分類・異型度・CISの有無など)を組み合わせて低リスク//高リスク(EAUはさらに高リスクの一部をとして区別)に層別化し、これが療法の適応・強度を決める入力情報になる。

リスク群 主な特徴 の目安
低リスク 単発・・Ta・3cm未満、初発 TURBT後の単回即時膀胱内化学療法(術後24時間以内)のみで経過観察も可
低リスク・高リスクいずれの基準も満たさない多発・再発例など TURBT後の膀胱内化学療法またはBCG(1年維持)を検討
高リスク(を含む) T1、、CIS合併、多発・大型・再発を伴うTaなど (導入+最大3年の維持療法)を推奨。では早期のも選択肢

膀胱内注入療法

  • 膀胱内化学療法などをTURBT後早期(多くは術後24時間以内)に単回注入することで再発率を下げる。低〜例が主な対象。
  • 株(Mycobacterium bovis由来)を用いる。特にCIS・の高リスクNMIBCに対し化学療法より有効性が高く、再発予防に加えて筋層浸潤への進行リスクを下げる効果が期待される。週1回×6週のの後、リスクに応じて最大3年間の維持療法(3・6・12・18・24・30・36か月時の追加投与)を継続する。

💡 化学療法とBCG免疫療法の使い分けは「再発予防」と「進行予防」で考える。化学療法は主に再発率を下げる目的で低〜に、BCG免疫療法は再発予防に加えて筋層浸潤への進行リスクを下げる目的で高リスク・CIS例に用いる。

BCG不応例への対応

⚠️ BCGを十分に行っても再発・遺残するCISや高リスク BCG-unresponsive)に対しては、が標準の次善策である。膀胱温存を希望する、または手術な患者には、の全身投与(CISが適応)や、の逐次療法が現行ガイドラインで選択肢として位置づけられている。

治療:筋層浸潤性・転移性膀胱癌(MIBC)

根治的膀胱全摘除術と周術期治療

  • が、かつリンパ節転移のないMIBCのである(男性は前立腺・を含む膀胱前立腺摘除術、女性は子宮・腟上部を含めて摘除)。摘除後はのいずれかによるを要する。
  • シスプラチンを含む化学療法に耐えられる(適格)患者では、術前(ネオ)にシスプラチンベース化学療法(+シスプラチンなど)を行ってからに進む。
  • ⚠️ 現行の標準治療はさらに更新されている。 NIAGARA試験の結果、シスプラチン適格例ではを併用し、後も約1年間単剤を継続する周術期レジメンを有意に延長することが示され、2025年にNCCNガイドラインの最カテゴリーに位置づけられ米国FDAが承認した。この周術期レジメンを受けなかった、または非施行で手術に進んだリンパ節転移陽性・断端陽性などの高リスク残存病変例には、術後補助(CheckMate 274試験に基づく)を検討する。
  • シスプラチン例(腎機能低下、高齢、神経障害・聴力障害の既往など)ではを省略し手術に進むか、を含む代替レジメンを個別に検討する。

膀胱温存療法

  • 手術を拒否する患者やの高いには、最大限のTURBT+による三者併用のが選択肢となる。
  • 5年は36〜74%と報告され、10〜30%の患者は経過中にを要する。

転移性・切除不能例の全身療法

⚠️ この領域は薬剤承認の更新が特に速い。原資料が示すベース化学療法単独(IV M-VAC:メトトレキサート・シスプラチン、または+シスプラチン)は、現行では一次治療の優先順位が下がっている。

  • 一次治療の優先選択:抗Nectin-4(enfortumab vedotin)との併用が、ベース化学療法を上回る・生存期間を示し(EV-302試験)、現行のNCCN/ESMOガイドラインで化学療法に先立つ優先的な一次治療として位置づけられている。
  • 化学療法(+シスプラチン、またはシスプラチン例では)を選択する場合も、のない例へアベルマブによる維持療法を追加することが標準(JAVELIN Bladder 100試験)である。
  • FGFR3遺伝子変異・融合を有する進行例には、経口FGFR阻害薬(erdafitinib)が既治療後の選択肢となる。
flowchart TD
    A["TURBTで筋層浸潤の有無を確定"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='NMIBC'>筋層非浸潤性</span>か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscle-invasive (MIBC)'>筋層浸潤性</span>(MIBC)か"}
    B -->|"NMIBC"| C["再発・進行リスクを層別化"]
    C --> D["低〜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intermediate risk (PE)'>中間リスク</span>:TURBT+膀胱内化学療法"]
    C --> E["高リスク・CIS合併:BCG導入+維持療法"]
    E --> F{"BCGに反応するか"}
    F -->|"不応"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radical cystectomy'>根治的膀胱全摘除術</span>、または膀胱温存希望例に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pembrolizumab'>ペムブロリズマブ</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gemcitabine'>ゲムシタビン</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='docetaxel'>ドセタキセル</span>"]
    B -->|"MIBC(T2以上)"| H{"転移の有無・シスプラチン適格性"}
    H -->|"限局・シスプラチン適格"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoadjuvant chemotherapy'>術前化学療法</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='durvalumab'>デュルバルマブ</span>併用 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='radical cystectomy'>根治的膀胱全摘除術</span> → 術後<span class='jp-term jp-term-diagram' title='durvalumab'>デュルバルマブ</span>継続"]
    H -->|"限局・手術非適応/拒否"| J["最大限TURBT+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemoradiotherapy'>化学放射線療法</span>(膀胱温存)"]
    H -->|"転移性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unresectable'>切除不能</span>"| K["enfortumab vedotin+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pembrolizumab'>ペムブロリズマブ</span>、または化学療法±維持アベルマブ"]

まとめ

  • は組織型の約9割をが占め、喫煙が最大の危険因子、Schistosoma haematobium感染は扁平上皮癌の主要な原因となる。
  • 無痛性が代表的な初発症状で、診断はUS/CT urography→+TURBTで確定し、TURBT標本にを含めることが筋層浸潤の有無を判定する鍵となる。
  • (NMIBC:Ta・T1・CIS)と(MIBC:T2以上)の境界が治療戦略全体を分ける最重要の軸である。
  • NMIBCはTURBT後、再発・進行リスクに応じて膀胱内化学療法またはBCG免疫療法(高リスク・CIS例)を追加し、BCG不応例にはまたは等を検討する。
  • MIBCの標準治療は、シスプラチン適格例での併用を経た+術後継続(NIAGARA試験、2025年NCCN最カテゴリー)であり、高リスク残存病変には術後補助も選択肢となる。手術非適応・拒否例にはによるがある。
  • 転移性・例の一次治療は、ベース化学療法単独からenfortumab vedotin+併用へと優先順位が移っている。