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Microbe Atlas · 細菌

Mycobacterium bovis

牛型結核菌

分類
抗酸菌 / Acid-fastMycobacterium
性状
抗酸菌 Acid-fast桿菌 Bacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/34: Causative agents of human tuberculosis, Mycobacterium leprae5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention
自然耐性薬
ピラジナミド
原因となる疾患
結核

🧠 全体像:M. bovisはときょうだい種で臨床像はほぼ結核と同じだが、宿主域と感染経路が異なる。をとし、という食品由来の経路でヒトに達する点、そしてにという一点だけがヒト型との実務上の分かれ目になる。ワクチンはこの菌のから作られており、「病気を起こす」と「予防に使う」が同じ種というねじれ構造を持つ、抗酸菌の中でも独特な位置にある。

微生物学的な特徴

と同じMycobacterium tuberculosis complex(MTBC)に属し、形態・染色性(抗酸菌、Ziehl-Neelsen陽性)・培養の緩徐さは共通する。区別点は生化学的性状にある。

項目 M. tuberculosis M. bovis
陽性 陰性
活性 陽性 陰性(pncA遺伝子の点変異 H57D で失われている。165株のでは98.2%がこの変異を持っていた1)
陽性 陰性

⚠️ 陰性がそのまま無効を意味する。 はで、菌体内のがへ変換して初めて活性を持つ。M. bovisはこの酵素をpncA H57D変異のために欠くので、標準4剤(HRZE)のうちだけが最初から効かない——治療中に獲得される耐性ではなく種としてほぼ全株が最初から持っている()である1。も「M. bovisはに通常耐性である」と述べている2。

⚠️ ただし「以外は効く」と決めつけない。 同じ165株のうち12.1%(20株)は以外の薬剤にも耐性だった1。が分かっていてもは省けない。

💡 分子検査で耐性が「偽陽性」に出うる。 M. bovisはembBの E378A を系統的に持つが、これは耐性を与える変異ではなくM. tuberculosisと系統を分けるだけの変異である。M. tuberculosisの耐性遺伝子を読む分子検査にM. bovisをかけると、この変異を耐性と読み違える1。

感染経路と疫学

  • :(乳牛の乳腺・肺結核)。以外にもバイソン・エルク・シカなどの野生動物が保有する
  • ヒトへの伝播:未殺菌(生)乳・乳製品の経口摂取が最も多い経路。ほかに、と畜・狩猟時の創傷からの直接接触、が吐く空気の吸入(動物からヒトへの空気伝播はまれと考えられている)がある2
  • ⚠️ ヒトからヒトへも伝播しうる。 肺にを持つ患者が咳・くしゃみをすればで伝播する2——「だから人から人へはうつらない」と覚えると隔離判断を誤る
  • は乳からM. bovisを除去する。米国では畜産側の対策と乳のの普及でTB症例の2%未満(年間230例未満)にとどまるが2、非殺菌乳製品を扱う地域・獣医/畜産/と畜従事者では今も重要な人獣共通感染症

起こす疾患

病型 特徴
経口摂取した菌がに定着。腹痛・下痢・吸収不良、の狭窄・瘻孔
(, scrofula) 小児で頸部リンパ節の腫大・。頸部の腫瘤として気づかれる
肺結核 ヒト型結核と同様の像を呈しうるが頻度は低い

診断・治療

診断(塗抹・培養・)の原則はと共通する。治療はを除いた(+リファンピシン+、必要に応じなど)で行い、で耐性を確認したうえでレジメンを組む。

💡 が1剤落ちること自体は、破綻的な事態ではない。 は「M. bovisの治療はM. tuberculosisと同様」であり「だけの耐性は、結核が複数薬の併用で治療されるため通常は治療上の問題にならない」と述べている2。実際、原因菌がM. bovisだと気づかれないまま標準治療が完了することもある。

  • (発病していない状態)の治療にはもともとを使わないので、M. bovisのはのを変えない2。

予防

  • ワクチンはM. bovis由来の生弱毒細菌ワクチンである3。株の異なる複数のワクチンが世界で流通している。乳幼児の・など重症病型の予防に用いる
  • は結核のが高い国・場面では健康な新生児全員へ出生時に1回接種し、出生時に接種できなければその後できるだけ早く接種するよう推奨する。やが陰性であっても再接種は推奨しない3
  • ⚠️ 「全員に打つ」はが高い場面に限った話である。 結核や癩のが低い国は高リスク新生児に絞った選択的接種を選んでよく、結核が減少しつつある国には疫学を評価して選択的接種への切り替えを検討するようは促している3
  • 💡 は結核だけのワクチンではない。 癩(20〜80%)とブルーリ潰瘍(アフリカ地域で50%)の予防にも有効性が示されており、の接種推奨は癩の負担が大きい国やブルーリ潰瘍の発生地域にも及ぶ3
  • 乳の、の結核検査・が動物側対策の柱

まとめ

  • と同じMTBCに属し臨床像は共通するが、からのというヒト型とは異なる感染経路を持つ人獣共通感染症。ただし肺がある患者からはヒトからヒトへも伝播する。
  • を欠くために(pncA H57D、株の98.2%)——標準治療からを外す。1剤落ちること自体はも「通常は治療上の問題にならない」としている。
  • 以外の耐性も12.1%にあり、分子検査ではembB E378A のため耐性の偽陽性が出うる——を省かない。
  • ・()が特徴的な肺外病型。
  • されたM. bovis株がワクチンの原料になっている。

出典

  1. 1.Phylogenetically Informative Mutations in Drug Resistance Genes of Human-Infecting Mycobacterium bovis(Transboundary and Emerging Diseases(Dong Y, et al.)・2024)Europe PMC の抄録(PMID 40303120)で確認した。ヒト由来の M. bovis 165株の全ゲノム解析で、98.2%(162/165)が pncA 遺伝子の H57D 変異によるピラジナミドの内因性(intrinsic)遺伝型耐性を持つこと、ピラジナミド以外の薬剤に耐性だったのは12.1%(20/165)であること、M. bovis と M. tuberculosis の主要系統1〜4を分ける系統情報性変異が18個見つかったこと、embB の E378A が系統情報性変異であるため M. bovis 感染がエタンブトール耐性の偽陽性を生じうることを確認した。全文は未取得で、確認した範囲は抄録にとどまる。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Mycobacterium bovis (Bovine Tuberculosis) in Humans(Centers for Disease Control and Prevention, Division of Tuberculosis Elimination・2011)CDC Stacks に置かれた2011年8月付のファクトシート本文で確認した。ヒトの感染経路として「汚染された未殺菌の乳製品を食べる・飲むことが最も多い」とし、と畜や狩猟での創傷からの直接接触、感染動物の吐く空気の吸入(動物からヒトへの空気伝播はまれと考えられている)も挙げ、さらに「肺に病巣を持つ患者が咳やくしゃみをすればヒトからヒトへも伝播しうる」と明記していること。米国のTB症例のうち M. bovis は2%未満(年間230例未満)であること。治療は M. tuberculosis と同様で、「M. bovis はTB治療に用いる抗菌薬のうちピラジナミドに通常耐性である」が「ピラジナミドだけの耐性はTBが複数薬の併用で治療されるため通常は治療上の問題にならない」とすること。潜在性感染(発病していない状態)はピラジナミドで治療しないこと。低温殺菌がM. bovisを乳から除去すること。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Summary of the WHO Position Paper on BCG vaccines: WHO position paper – February 2018(World Health Organization・2018)WHOが公開する2018年2月付ポジションペーパーの要約PDFを取得して確認した。「BCGはM. bovis由来の生弱毒細菌ワクチンである」と明記され、異なる株に基づく複数のBCGワクチンが世界で流通していること。結核の罹患率が高い国・場面および癩の負担が大きい国、ブルーリ潰瘍が発生する地域ではBCG接種が推奨され、健康な新生児全員へ出生時に1回接種し、出生時に接種できなければその後できるだけ早く接種すること。ツベルクリン反応やIGRAが陰性でも再接種は推奨されないこと。BCGは癩とブルーリ潰瘍の予防にも有効性が示されていること。結核や癩の罹患率が低い国は高リスク新生児に絞った選択的接種を選んでよく、結核が減少しつつある国は疫学を評価して選択的接種への切り替えを検討するよう促されていること。⚠️ 癩とブルーリ潰瘍の数値について、要約PDFの逐語は「BCG has also shown effectiveness in preventing leprosy (RR from 20-80%) and Buruli ulcer (RR of 50% in Africa region)」で、`RR` が相対リスク減少か相対リスクかは明示されていない(本文はWHOの完全版ポジションペーパーが未取得のため、リスク減少の意味に取っている)。閲覧 2026-09-27