微生物ノート一覧へ

Microbe Atlas · 蠕虫

Schistosoma haematobium

ビルハルツ住血吸虫

分類
吸虫 / TrematodesSchistosoma
科目
Medical Microbiology
トピック
4/23: General characterisation and taxonomy of helminths4/30: Schistosomes5/8: The most important microbial pathogens of the urinary tract (list)
原因となる疾患
セルカリア皮膚炎住血吸虫症女性性器住血吸虫症閉塞性腎症膀胱癌
作用する薬剤
プラジカンテル

🧠 全体像:3種(S. haematobium・S. mansoni・S. japonicum)は「成虫が住み着く静脈叢の場所」で分かれる。S. haematobiumはに住み着く代表種で、卵は尿中に排出され、血尿が主症状になる。そして⚠️ はのリスクを高める——通常のの大半がであるのに対し、本種関連のは組織型が異なるという対比が最大の急所になる。起こす病気はのうち泌尿生殖器型で、女性では性器にも病変を作る。

微生物学的な特徴

  • 吸虫類のなかで属は例外的存在——(雄が溝状の体で雌を抱える)、卵は、生涯を血管内で過ごすという3点で、など他の吸虫と真逆の性質を持つ。
  • 虫卵形態:大型で末端に棘を持つ——S. mansoniの、S. japonicumの微小棘と対比される鑑別点。
  • 成虫の最終は——に住み着く他2種と対照的。

生活環

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cercaria'>セルカリア</span>を含む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fresh water'>淡水</span>との<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='skin-to-skin contact'>皮膚接触</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cercaria'>セルカリア</span>が皮膚を貫通"]
    B --> C["血流→門脈で肝臓に到達し成熟"]
    C --> D["雌雄が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synapsis'>対合</span>したまま<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='vesical venous plexus'>膀胱静脈叢</span>へ移動して定着"]
    D --> E["産卵、卵は膀胱壁を貫いて<br>尿中へ排出"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fresh water'>淡水</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='miracidium'>ミラシジウム</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hatching'>孵化</span><br>→貝に侵入"]
    F --> G["貝内で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cercaria'>セルカリア</span>へ発育し<br>自由遊泳"]
    G --> A

💡 感染経路は経皮——他の吸虫と最大の違い。 など多くの吸虫が摂食(・魚)で感染するのに対し、はが水中から直接皮膚を貫通して侵入する。

病原性の仕組み

  • 病態の主体は虫体そのものではなく虫卵沈着に対する反応()——3種に共通する原則。
  • 皮膚侵入時:(の)。
  • 急性期:虫卵抗原への全身反応(、発熱・悪寒・脾腫)——ただし本種ではS. mansoni・S. japonicumほど顕著でないことが多い。
  • 慢性期:膀胱壁への虫卵沈着による肉芽腫・線維化・石灰化——の減少、水腎症、尿路閉塞へ進行する。進行例では膀胱・尿管の線維化と腎障害がみられる1。
  • ⚠️ 慢性の膀胱と炎症の蓄積がのリスクを高める。 はを泌尿生殖器の後期合併症に挙げ1、S. haematobiumは・タイとともにヒトに対するが確立した生物学的発がん因子(グループ1)に分類されている2。通常のの大半がであるのに対し、本種の流行地では扁平上皮癌が目立つ。エジプトでは1970〜2007年に感染の減少とともに扁平上皮癌が減り、が増えたと報告されている2。

感染経路と疫学

  • を含むとの(灌漑用水路、湖沼での水浴び・漁労・洗濯)による感染。
  • 分布はアフリカ・中東に加え、フランスのコルシカ島でも伝播が確認されている。はコルシカの流行を、S. haematobiumとなど動物のとの交雑種が伝播しうる例として挙げている1。
  • 農業・漁業従事者、水遊びをする小児、で洗濯などの家事をする女性が高リスク曝露集団になる。

起こす疾患

病型 特徴
泌尿器の病変 血尿(典型的には)、・頻尿、水腎症。慢性期は膀胱線維化・
女性性器 性器病変・・・結節1
・、・前立腺の病変1

⚠️ 泌尿生殖器は、とくに女性で感染のリスク因子と考えられている。1 性器粘膜に虫卵による病変ができることが背景にあり、泌尿器の病気としてだけ扱うと見落とす。

診断

  • からのを持つ虫卵の検出。は尿濾過法(ナイロン・紙・ポリカーボネートの)を標準としている1。正午前後の採尿で検出率が上がる(虫卵排出にもがあるため)。
  • 感染した小児ではほぼ必ずがみられ、試験紙で拾える1——流行地の簡便なスクリーニングになる。
  • 尿沈渣での血尿・。
  • 血清学的検査は、非流行地・低流行地の居住者で曝露の有無を示すのに役立つ1。
  • ・生検(慢性期の評価、悪性腫瘍の除外)。

治療と予防

  • ——全種に共通する治療薬。米国はS. haematobiumに40 mg/kg/日を2分割で1日間とする3。
  • 💡 渡航者では最終曝露から少なくとも6〜8週あけて治療する(米国)。は成虫に最もよく効き、寄生虫に対する成熟したを要するためで、治療前に虫卵が陽性だった例は1〜2か月後に尿・便を再検して治癒を確かめる3。
  • ⚠️ 日本ではにの効能が承認されていない。 電子添文は、海外で有用性が確立しの必須医薬品とされている一方、国内に評価症例がないため承認されていないと明記し、幼虫期のは成虫より感受性が低いとの報告と、投与後に抗原への炎症性免疫応答と思われる重篤な事象(呼吸不全・脳症・など)の報告にも触れている4。
  • 慢性期の尿路合併症(狭窄・水腎症)は泌尿器科的処置を要することがある。
  • 予防:流行地での接触を避ける、安全な水供給・衛生設備の整備、貝(中間宿主)対策。の治療は学童だけでなく、就学前児・曝露のある成人・高度流行地の住民全体も対象にしている1。

まとめ

  • S. haematobiumは3種のなかでに住み着き、卵は尿中に排出される。
  • による、、、という属共通の特徴を持つ。
  • 病態は虫卵沈着に対する反応が主体で、慢性期は膀胱線維化・水腎症へ進行する。女性では性器を起こし、感染のリスク因子と考えられている。
  • ⚠️ はのリスクを高める——通常の(が主体)との組織型の対比が重要。
  • 診断は尿濾過法による虫卵検出が標準で、非流行地の居住者では血清学が曝露の証明に役立つ。治療は(日本ではの効能は未承認)。

出典

  1. 1.Schistosomiasis (fact sheet)(World Health Organization・2026)ファクトシート(2026年2月23日更新)本文で、S. haematobium の分布が「アフリカ・中東・コルシカ(フランス)」であること、ヒトと動物の住血吸虫の交雑種(S. haematobium–S. bovis、S. haematobium–S. mattheei)の一部が伝播しうる例として2013年のコルシカの流行を挙げていること、泌尿生殖器住血吸虫症の古典的徴候が血尿で、進行例で腎障害と膀胱・尿管の線維化、後期に膀胱癌がみられること、女性では性器病変・不正性器出血・性交痛・外陰部結節を来し女性性器住血吸虫症と呼ばれること、男性では射精時痛・血精液症と精嚢・前立腺の病変を来すこと、泌尿生殖器住血吸虫症がとくに女性でHIV感染のリスク因子と考えられていること、診断の標準がナイロン・紙・ポリカーボネートのフィルターによる尿濾過法であり S. haematobium に感染した小児ではほぼ必ず試験紙で検出できる顕微鏡的血尿がみられること、大規模治療の対象が就学前児・学齢児・流行地で曝露のある成人・高度流行地の地域住民全体であり、感染した就学前児は診断と臨床判断に基づいて治療し小児用製剤で大規模治療に含めるよう勧めていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Understanding Urogenital Schistosomiasis-Related Bladder Cancer: An Update(Frontiers in Medicine(Ishida K, Hsieh MH)・2018)全文(PMC6104441)の冒頭節で、S. haematobium 感染と膀胱癌の関連が長く知られていること、エジプトで1970〜2007年の約1万例を対象とした研究が S. haematobium 感染頻度の低下とともに扁平上皮癌の減少・尿路上皮癌の増加・患者年齢中央値の上昇を認めたこと、S. haematobium が Opisthorchis viverrini・Clonorchis sinensis とともに Group 1 の生物学的発がん因子とされていること、喫煙も主要な危険因子とされることを確認した。総説であり、エジプトの数値は総説が引用する原著のものである。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Clinical Care of Schistosomiasis(Centers for Disease Control and Prevention(医療者向けページ、2024年3月4日更新)・2024)米国CDCの医療者向けページで、プラジカンテルの用量が「S. mansoni・S. haematobium・S. intercalatum=40 mg/kg/日を2分割で1日間経口」であること、渡航者では汚染の可能性がある淡水への最終曝露から少なくとも6〜8週あけて治療すべきで、その理由を「プラジカンテルは成虫に最もよく効き、寄生虫に対する成熟した抗体応答の存在を要する」としていること、治療前に虫卵陽性だった例では治療1〜2か月後に便・尿を再検して治癒を確認するよう勧めていることを確認した(取得は WebFetch。curl はアクセス拒否)。閲覧 2026-09-27
  4. 4.ビルトリシド錠600mg 電子添文(2023年10月改訂・第2版)(バイエル薬品(PMDA 医療用医薬品情報)・2023)日本の電子添文(2023年10月改訂・第2版)で、効能・効果が肝吸虫症・肺吸虫症・横川吸虫症の3つであること、15.1に「住血吸虫症に対する本剤の有用性は外国においては確立されており、WHOでは住血吸虫症の治療のエッセンシャル・ドラッグとされているが、国内における評価症例がないため、我国においては住血吸虫症に対する効能は承認されていない」とあること、同じ15.1が幼虫期の住血吸虫は成虫より本剤への感受性が低いとの報告と、住血吸虫の抗原に対する炎症性の免疫応答と思われる重篤な事象(呼吸不全・脳症・脳血管炎など)の報告を記していることを確認した。閲覧 2026-09-27