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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

腎細胞癌

Renal cell carcinoma

別名
腎細胞がんRCC
臓器系
腫瘍腎・泌尿器
科目
PathologyUrologyOncology
トピック
病理学 C/68:腎腫瘍泌尿器科学 N-02:腎腫瘍腫瘍学 II-21:陰茎・精巣・腎腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断腫瘍学 II-22:陰茎・精巣・腎腫瘍の放射線・外科・薬物治療
鑑別疾患
神経芽腫・ウィルムス腫瘍前立腺癌膀胱癌
治療薬
スニチニブニボルマブイピリムマブペムブロリズマブベバシズマブエベロリムスアルデスロイキンソラフェニブレンバチニブカボザンチニブアキシチニブパゾパニブチボザニブ
症状
血尿顕微鏡的血尿体重減少発熱
画像所見
溶骨性病変砲弾状陰影
スコア
TNM分類
組織像
腎細胞癌(HE染色)腎細胞癌(HE染色)腎細胞癌(淡明細胞型)淡明細胞型腎細胞癌の進展
原因となる疾患
Cowden症候群
適応薬
アキシチニブカボザンチニブソラフェニブチボザニブパゾパニブレンバチニブ

🧠 全体像上皮由来の腺癌で、成人の腎悪性腫瘍の大部分を占める。約7割は無症候のまま画像検査で偶発的に発見され、血尿・痛・腫瘤の「」がそろうのはむしろ進行例に限られる稀な所見である。組織学的にはが7〜8割を占め、VHL遺伝子喪失によるHIF経路のの過剰産生)が病態の中心にあるため、これがそのまま(VEGF/VEGFR経路阻害薬)の理論的根拠になっている。は化学療法・放射線療法にほぼ抵抗性で、限局例ではというが唯一の根治手段であり、進行・転移例では同士の併用、またはとVEGF標的薬の併用療法がIリスク分類に基づいて第一選択となる現行標準である。

疫学・病因

  • 成人の悪性の大部分を占め、男性は女性の約2倍の頻度で発症する。
  • 好発年齢は60〜70歳代(40〜70歳代に広く分布)。

危険因子

分類 内容
喫煙(最大の危険因子)、肥満、高血圧
腎・ ・長期透析に伴う透析関連(後天性)嚢胞性腎疾患
トリクロロエチレンなどの曝露
家族性素因、下記の遺伝性症候群

💡 喫煙・肥満・高血圧という関連因子と、透析関連嚢胞性腎疾患という腎特異的因子の両方を危険因子として持つ点がの疫学的特徴である。

遺伝性症候群と原因遺伝子

家族性・若年発症・両側性・多発性のでは、以下の遺伝性症候群を疑う。

症候群 好発する組織型・随伴病変
von Hippel-Lindau(VHL)病 VHL遺伝子(3p25-26) (多発性・両側性)+小脳・網膜の血管芽腫、、膵嚢胞・
遺伝性 MET(7番染色体) 1型(多発性)
FLCN遺伝子 ・両者の腫瘍(多発性)、・気胸、皮膚線維毛包腫
遺伝性症・(HLRCC) FH遺伝子( 侵襲性の高い2型、皮膚・

⭐ VHL病では、第1遺伝子(VHL1)の生殖細胞系列での喪失(欠失・変異)に加え、第2遺伝子のという2段階の機序(Knudsonの)で機能が完全に失われ、腫瘍が発生する。

💡 VHL蛋白はHIF(低酸素誘導因子)を分解に導く役割を持つため、VHL機能喪失はHIF-1α/2αの蓄積とVEGF・PDGFなどの恒常的な過剰産生をもたらす。このVHL-HIF-VEGF経路の活性化こそがの病態の中心であり、後述するVEGF/VEGFR経路阻害薬によるの理論的根拠になっている。

病理

組織亜型の比較

亜型 頻度 起源・特徴 関連遺伝子 予後
約70〜80% 由来。明るい/の細胞質。→下大静脈→右心へ進展するを来しやすい VHL(3p)喪失 亜型の中では中間、進展様式に依存
約10〜15% の芯を伴う増殖。多巣性・両側性かつ若年発症が多い MET(7q)、トリソミー7 1型は良好、2型(HLRCC関連)は不良
約5% 集合管の由来。核周囲に明るいハローを伴う暗い細胞質。極端な低(1・2・6・10・13・17・21番染色体の喪失) 複数染色体の喪失 亜型中で最良
(参考) 集合管由来の良性腫瘍。好酸性細胞質、多数のミトコンドリア、肉眼的に中心性瘢痕 良性

⚠️ は良性腫瘍だが、画像・単独ではとの鑑別が難しいことがあり、決定に影響する場合はでの確定診断を要する。

  • 良性腫瘍としては、他に由来、小さく〔<5cm〕境界明瞭だが3cm超では転移しうる)やがある。
  • 悪性腫瘍の大部分(約8割)は腺癌(上表の各亜型)で、残りは肉腫、リンパ腫、まれな(Bellini管癌)などが占める。

臨床像

⚠️ 「血尿+な腫瘤+)痛」というがそろうのは進行例のみで、頻度は低い。 現行診療では約7割が無症候のまま、超音波やCTなど他目的の画像検査で偶発的にとして発見される(incidentaloma)。症状出現を待って診断すると、局所進展または遠隔転移まで進行していることが多い点は前立腺癌などと共通する教訓である。

病期・状況 症状
(約70%) 無症状
局所進行例 肉眼的・痛、な腹部腫瘤
血管進展 新規発症の(特に左側):腫瘍が左を圧迫・閉塞した所見
転移例 、脳転移症状などが初発症状になることがある

傍腫瘍症候群(「内科医泣かせの模倣者」)

は多様なホルモン様物質を産生し、を来すことから「医学の」と呼ばれる。

産生物質 病態
PTH関連ペプチド(PTHrP)
ACTH Cushing症候群
レニン 高血圧
(非特異的) 発熱、体重減少、亢進、貧血、肝機能異常(:転移を伴わない可逆性の

💡 パターンの対比: 四肢骨(など)に孤立性・の病変として現れやすいのに対し、前立腺癌は体幹骨(・骨盤など)に多発性・の病変を来しやすい。同じ「を来す泌尿器腫瘍」でも分布パターン・骨質の変化が対照的である点は上の重要な手がかりになる。

診断

  • 画像診断が診断・病期評価の中心であり、生検を経ずに手術に進む症例も多い。
  • 造影CTまたはMRIの検出・性状評価に加え、・下大静脈へのの有無、リンパ節転移、対側腎の評価を行う。腎機能低下や造影剤アレルギーがある場合はMRIを選択する。
  • 胸部CT(または胸部X線)で肺転移を検索する。
  • 血液検査:貧血またはの評価。

生検の位置づけ

は典型的な造影パターンを示すであれば、手術適応のある患者に対して生検なしで手術に進むことが多い。生検が特に有用なのは以下の状況である。

  • 画像だけでは断が確定できない場合
  • 経過観察やablation()を検討する小径
  • 手術(除)を先行しない状態で全身薬物療法を開始する前の断確認
  • リンパ腫・膿瘍など以外の病態を除外したい場合
flowchart TD
    A["画像検査で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal mass'>腎腫瘤</span>を検出(多くは無症候の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incidental finding (incidentaloma)'>偶発発見</span>)"] --> B["造影CTまたはMRIで性状評価"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal vein'>腎静脈</span>・下大静脈への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor thrombus'>腫瘍塞栓</span>は?"}
    C -->|"あり"| D["進展範囲を評価し外科的計画に反映"]
    C -->|"なし"| E["腫瘤の大きさ・局在を評価"]
    D --> F["胸部CTで肺転移を検索"]
    E --> F
    F --> G{"画像で診断確定困難、または経過観察/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ablation'>焼灼療法</span>を検討?"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='image-guided biopsy'>画像ガイド下生検</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='histology'>組織診</span>断"]
    G -->|"いいえ(手術適応が明確)"| I["生検を経ずに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgery'>外科治療</span>計画へ"]
    H --> J["組織型・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]
    I --> J

病期分類(TNM)

⭐ 現行のAJCC/ (第8版)を用いる。歴史的なは現在は使用せず、はWHO/ISUP分類(Grade 1〜4)を用いる。

分類 内容
T1a 最大径4cm以下、腎に限局
T1b 4cm超7cm以下、腎に限局
T2a 7cm超10cm以下、腎に限局
T2b 10cm超、腎に限局
T3a またはその区域枝への進展、または組織・への浸潤(副腎浸潤は含まない)
T3b 横隔膜下の下大静脈への進展
T3c 横隔膜を超える下大静脈への進展、または下大静脈壁への浸潤
T4 を超える浸潤(同側副腎への連続浸潤を含む)
N0 / N1 所属リンパ節転移なし/あり
M0 / M1 遠隔転移なし/あり
flowchart TD
    A["T1:腎に限局(≤7cm)"] --> B["T2:腎に限局(>7cm)"]
    B --> C["T3:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal vein'>腎静脈</span>・下大静脈・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='perirenal fat'>腎周囲脂肪</span>への進展(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Gerota&#39;s fascia'>Gerota筋膜</span>内)"]
    C --> D["T4:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Gerota&#39;s fascia'>Gerota筋膜</span>を超える浸潤"]

治療

限局性腎細胞癌

治療 適応の目安 特徴
技術的に可能なT1腫瘍を中心に優先 を重視
大きい・中心性・血管進展を伴う腫瘍 腎・副腎・組織をに摘除。(ロボット支援を含む)アプローチが標準的
高齢・を持つ患者の小径 を避ける代替選択肢
  • リンパ節郭清・副除は、画像・術中所見で転移が疑われる場合に限定して行い、ルーチンには行わない。
  • 高再発リスクのに対するとして、の術後投与を検討できる。 一方、術後補助的なVEGF-TKI(分子標的薬)単剤投与は現行では標準治療として確立していない。

⚠️ 局所限局性のに対するは標準的ではない。放射線療法は骨・脳転移や出血・疼痛など局所症状の緩和、および少数個転移(oligometastasis)への照射に主として用いる。

進行・転移性腎細胞癌

は古典的な細胞傷害性化学療法にほぼ抵抗性であり、を狙う(VEGF/VEGFR経路阻害薬)が中心となる。I(International Metastatic RCC Database Consortium)予後リスク分類(好中球数・・ヘモグロビン・補正カルシウム値・診断から治療開始までの期間・全身状態の6因子で favorable/intermediate/poor に層別化)に基づいて行う。

治療戦略 主な位置づけ
同士の併用) intermediate〜poorリスクの一次治療として確立(NCCN category 1)。favorableリスクでも選択肢になり得る
+VEGF-TKIの併用(axitinib+cabozantinib、など) リスク群を問わず一次治療の選択肢。favorableリスクではこちらを優先する立場もある
などVEGF-TKI単剤 併用が使えない場合や、非で選択されることがある
cabozantinib単剤、+lenvatinibなど 一次治療後の以降の選択肢

⚠️ 「まずVEGF-TKI単剤(など)で一次治療を行う」という戦略は、現行の標準治療ではない。 2018年のCheckMate 214試験()以降、KEYNOTE-426(+axitinib)、CheckMate 9ER(+cabozantinib)、CLEAR試験(+lenvatinib)などのにより、を含む併用療法がIリスクを問わず一次治療の中心として確立している。αの併用療法は、これらの併用療法が登場する以前(2000年代後半〜2010年代)に用いられていたであり、現在は一次治療の主流ではない。

  • :エビデンスがほど確立していないため、可能であれば参加を検討する。cabozantinib、などが選択肢となる。
  • に対する(cytoreductive nephrectomy):転移例すべてに先行して行うわけではなく、症状の有無、Iリスク、転移量、への反応性を踏まえて個別に判断する。の多いpoorリスク例に対する一律の先行除は現在推奨されない。
  • 孤立性転移(肺・肝・骨・後腹膜リンパ節など)に対しては、可能であれば切除を検討する(は化学療法・放射線療法抵抗性のため、に対する外科的介入の役割が他のより大きい)。
flowchart TD
    A["進行・転移性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal cell carcinoma (RCC)'>腎細胞癌</span>(多くは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clear cell type'>淡明細胞型</span>)"] --> B["I<span class='jp-term jp-term-diagram' title='minimal detectable change'>MDC</span>予後リスク分類(favorable/intermediate/poor)で層別化"]
    B --> C{"リスク群は?"}
    C -->|"favorable"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune checkpoint inhibitor (ICI)'>免疫チェックポイント阻害薬</span>+VEGF-TKI併用を中心に検討(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ipilimumab'>イピリムマブ</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nivolumab'>ニボルマブ</span>も選択肢)"]
    C -->|"intermediate/poor"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ipilimumab'>イピリムマブ</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nivolumab'>ニボルマブ</span>、または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune checkpoint inhibitor (ICI)'>免疫チェックポイント阻害薬</span>+VEGF-TKI併用"]
    D --> F["症状・転移量・I<span class='jp-term jp-term-diagram' title='minimal detectable change'>MDC</span>リスクに応じcytoreductive nephrectomyを個別判断"]
    E --> F
    F --> G["効果判定:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='(treatment) response'>奏効</span>・安定なら継続、増悪ならcabozantinib等の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='second-line therapy'>二次治療</span>へ変更"]
    G --> H{"孤立性転移で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resectable'>切除可能</span>か"}
    H -->|"はい"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metastatic focus'>転移巣</span>切除を検討"]
    H -->|"いいえ"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic therapy'>全身療法</span>を継続・変更"]

骨転移に対する治療

治療 内容
など)・ 、脊髄圧迫、疼痛)の予防
放射線療法 局所のコントロール
固定・切除 孤立性の例で検討

まとめ

  • 上皮由来の腺癌で、約7割が無症候のまま画像検査で偶発的に発見される。(血尿・痛・腫瘤)がそろうのは進行例に限られる。
  • 組織学的にはが約7〜8割を占め、VHL遺伝子喪失によるHIF経路活性化(VEGF等の産生)が病態の中心。(MET関連)、(予後最良)と対比して覚える。
  • VHL病(+血管芽腫等)、遺伝性RCC(MET)、(FLCN)、HLRCC(FH)など遺伝性症候群は若年・両側性・多発例で疑う。
  • (EPO→、PTHrP→、ACTH→Cushing症候群、レニン→高血圧)を来す「内科医泣かせの模倣者」であり、は四肢骨に孤立性・の病変を来しやすい点が前立腺癌(体幹骨に多発性・)と対照的。
  • 診断は造影CT/MRIによる・転移評価が中心で、生検は診断困難例や経過観察・先行例など限られた状況で行う。
  • 限局性癌は)またはで、高再発リスク例には術後を検討する。
  • 進行・転移例はIリスク分類に基づき、、またはとVEGF-TKIの併用療法が一次治療の現行標準であり、VEGF-TKI単剤を一次治療の主軸とする旧来の戦略からは移行している。