疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 血液 · 疾患

続発性赤血球増加症

Secondary polycythemia

別名
二次性赤血球増加症続発性多血症secondary erythrocytosis
臓器系
血液腫瘍
科目
PathologyInternal MedicinePulmonology and Thoracic Surgery
トピック
病理学 B/21:腫瘍の宿主への影響(悪液質・傍腫瘍症候群)内科学 H-30:フィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍呼吸器内科 33:睡眠関連呼吸障害の診断
鑑別疾患
真性多血症・本態性血小板血症・原発性骨髄線維症
原因薬剤
テストステロンウンデカン酸エステルエポエチンアルファ
症状
頭痛めまい顔面紅潮チアノーゼ
検査値
エリスロポエチンヘマトクリットヘモグロビン赤血球数
原因となる疾患
von Hippel-Lindau病褐色細胞腫肝細胞癌血管芽腫腎細胞癌先天性心疾患(非チアノーゼ性・チアノーゼ性)閉塞性睡眠時無呼吸慢性閉塞性肺疾患

🧠 全体像:は「骨髄の外から来た指令で赤血球が増えた状態」で、その指令はほぼ常に()である。したがって全体を貫く軸は「に依存しているか」の一本になる。骨髄自身が勝手に増えるではが抑制されて低値になるのに対し、続発性ではが増加の原因側に立つ。続発性はさらに、低酸素に対する生理学的に適切な増加(・・睡眠時無呼吸・高地)と、低酸素が無いのに産生される不適切な増加(・・などによる)に分かれる1。後者はであり、が潜在する腫瘍の最初の手がかりになりうる。

分類:EPO産生が適切か不適切か

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polycythemia'>赤血球増加</span>(Hb・Ht高値)"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='red cell mass'>赤血球量</span>が本当に増えているか"}
    B -->|"いいえ(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma volume depletion'>血漿量減少</span>)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relative erythrocytosis'>相対的赤血球増加</span>:脱水・利尿薬。原因を是正する"]
    B -->|"はい"| D{"血清<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythropoietin, EPO'>エリスロポエチン</span>は低値か"}
    D -->|"低値"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polycythemia vera, PV'>真性多血症</span>を疑い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Janus kinase 2 gene'>JAK2</span>変異と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone marrow biopsy'>骨髄生検</span>へ"]
    D -->|"正常〜高値"| F{"低酸素はあるか(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral oxygen saturation'>SpO2</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carboxyhemoglobin (COHb)'>カルボキシヘモグロビン</span>)"}
    F -->|"あり"| G["適切な産生:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic obstructive pulmonary disease, COPD'>慢性閉塞性肺疾患</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyanotic heart disease'>チアノーゼ性心疾患</span>・睡眠時無呼吸・高地・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carbon monoxide poisoning'>一酸化炭素中毒</span>・喫煙"]
    F -->|"なし"| H["不適切な産生を疑う"]
    H --> I["腹部画像で腎・肝腫瘍を、頭部MRIで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebellar hemangioblastoma'>小脳血管芽腫</span>を探す"]
    H --> J["薬剤(テストステロン製剤など)・腎移植後・先天性の酸素感知異常を確認する"]
型 機序 代表的な原因
適切な産生 全身の低酸素→腎の産生細胞が正常に反応 、チアノーゼ性、、1。ほかに・喫煙
適切な産生(局所) 腎の局所的な低灌流で産生細胞だけが低酸素を感知 局所的な低酸素を伴う腎疾患1(・・水腎症など)
不適切な産生 低酸素が無いのに腫瘍がを産生 代表的なものは、、、、、卵巣癌、、・腺腫1
先天性 酸素の運搬・感知そのものの異常 、2,3-BPG欠損、EPOR・VHL(Chuvash型)・PHD2 の変異1
医原性・薬剤性 外因性の刺激 アンドロゲン投与(などのテストステロン製剤・)、投与(など)1、腎移植後

💡 「適切/不適切」は倫理的な評価ではなく生理学的な整合性の話である。 低酸素があってが上がるのは体の設計どおり(適切)で、低酸素が無いのにが出ているのは設計から外れている(不適切)。不適切と判断した時点で、産生腫瘍を探しに行くというのが実務上の意味になる。

傍腫瘍症候群としての位置づけ

腫瘍が異所性にを産生することで生じる。または関連因子を過剰に産生する腫瘍として挙げられているのは、代表的なものだけでも・・・・・卵巣癌・・および腺腫である1。の講義で古典的な組み合わせとして挙がるのはとである。では腫瘍そのものによる圧迫で腎実質が局所的に低酸素になる経路も重なりうるため、「」と「局所低酸素による適切な産生」は必ずしも排他的ではない。

⭐ 腫瘍性の場合、の切除では消える。逆に、原因不明のでが高値なら腹部と頭蓋内の画像評価が適応になる。

真性多血症との鑑別

項目
血清 正常〜高値(産生が原因側) 低値(増殖が原因側では抑制される)
JAK2 変異 なし V617Fがほぼ全例、残りはエクソン12変異
増える系統 赤血球のみ しばしば白血球・血小板も増える()
脾腫 なし あることが多い
・ なし 特徴的
骨髄 の過形成のみ 3系統の過形成

血清はこの鑑別の入口だが、の置き方で感度と特異度が入れ替わる。健常393人と患者90人(41人・続発性49人)の検討では、健常者のが5.3〜26.3 IU/L、解析のは0.904で、最適3.1 IU/Lでの感度は80.5%・特異度87.8%だった2。を4.3・5.3・7.0 IU/Lと上げていくと感度は92.7%→97.6%→97.6%と上がる一方、特異度は73.5%→65.3%→46.9%まで落ちる2。

⚠️ 「続発性ならは高い」と決めつけない。 同じ研究で血清の中央値は健常者10.1 IU/L、続発性7.0 IU/L、1.7 IU/Lの順であり、続発性の中央値は健常者より低かった2。が正常範囲内でも続発性は否定できず、低値がを示唆する側の所見だと理解するのが正しい(ただしこの研究の続発性群は、肺疾患・60 mL/min/1.73 m²未満・やの治療歴のある例を除外したうえで選ばれており2、のが代表されていない集団である点に注意する)。

診断の進め方

  1. が本当に増えているかを確認する。脱水・利尿薬によるでは、が増えていないのにHb・Htが上がる()。
  2. 増加の目安は、男性51%超・女性48%超、ヘモグロビン男性185 g/L超・女性165 g/L超、またはが予測値の125%超である1。
  3. 血清、JAK2 変異検査、(92%未満を低酸素の目安とする)、喫煙者ではを測る1。
  4. 睡眠時無呼吸を疑えば、薬剤歴(テストステロン製剤・製剤)と腎移植歴を確認する。原因薬剤の中止で是正できる点が、を大きく変える。
  5. 低酸素も薬剤も無くが高ければ、腹部画像と頭部MRIで産生腫瘍を探す。若年発症・家族歴があれば先天性の異常を考える。

治療

原因の治療がすべてに優先する——、、禁煙、腫瘍の切除、原因薬剤の中止である。は症状緩和のための補助手段にとどまる。

状況 の目安
一般的な目標 60%未満1
不適切な産生による 42〜46%1
50〜55%1
腎移植後 45%未満1

⚠️ 低酸素に対する適切なを、と同じ感覚でしない。 増えた赤血球はという役割を果たしており、やで過度にするとを損ない、鉄欠乏を招く。は症状がある場合に、目標値を病態ごとに変えて行う。

まとめ

  • は骨髄外からの刺激によるで、依存性かどうかが分類の軸である。
  • 低酸素に対する適切な産生(・・睡眠時無呼吸・高地・)と、低酸素の無い不適切な産生(・・・・・卵巣癌・・腺腫など)に分ける。薬剤性(アンドロゲン・投与)も忘れない。
  • 不適切な産生はであり、原因不明のでが高ければ腹部と頭蓋内の画像評価を行う。腫瘍の切除で改善する。
  • との鑑別軸は低値と JAK2 変異だが、のは感度と特異度が引き換えで、続発性でもが正常〜低めのことがある。
  • 治療は原因の是正が第一で、の目標は病態ごとに異なる。のを過度にしない。

出典

  1. 1.Secondary Polycythemia(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)続発性赤血球増加症が赤血球量の異常な増加と定義され、生理学的に適切な(低酸素による)ものと不適切な(異所性・自律性のエリスロポエチン産生による)ものに大別されること、赤血球量増加の指標としてヘマトクリット男性51%超・女性48%超、ヘモグロビン男性185 g/L超・女性165 g/L超、赤血球量が予測値の125%超が挙げられること、低酸素性の原因に慢性閉塞性肺疾患・チアノーゼ性心疾患・一酸化炭素中毒・閉塞性睡眠時無呼吸・腎の局所的低灌流が含まれること、先天性の原因に高酸素親和性ヘモグロビン・2,3-BPG欠損および EpoR・VHL・PHD2 といった酸素感知経路の遺伝子変異があること、エリスロポエチンまたはその関連因子を過剰産生する腫瘍として腎細胞癌・肝細胞癌・褐色細胞腫・小脳血管芽腫・子宮筋腫・卵巣癌・髄膜腫・副甲状腺癌および腺腫が列挙されていること、薬剤性の原因としてエリスロポエチン投与とアンドロゲン投与が挙げられていること、精査に血清エリスロポエチン・JAK2変異検査・パルスオキシメトリ(酸素飽和度92%未満)・喫煙者のカルボキシヘモグロビン測定が含まれること、真性多血症ではエリスロポエチンが抑制されJAK2変異を伴うのに対し続発性では上昇しうること、瀉血の目標がヘマトクリット60%未満、不適切なエリスロポエチン産生では42〜46%、慢性閉塞性肺疾患では50〜55%、腎移植後では45%未満とされることを確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Diagnostic Performance of Serum Erythropoietin to Discriminate Polycythemia Vera from Secondary Erythrocytosis through Established Subnormal Limits(Diagnostics・2024)健常献血者393人と赤血球増加で骨髄生検・遺伝子検査を受けた90人(真性多血症41人・続発性赤血球増加49人)の解析で、対象選定に際し貧血・肺疾患(喘息や慢性閉塞性肺疾患)・推算糸球体濾過量60 mL/min/1.73 m^2未満・瀉血やヒドロキシ尿素の治療歴のある患者を血清エリスロポエチンへの影響を理由に除外していること、健常者の血清エリスロポエチン基準範囲が5.3〜26.3 IU/Lであったこと、血清エリスロポエチン中央値が健常者10.1 IU/L・続発性7.0 IU/L・真性多血症1.7 IU/Lの順に低かったこと、真性多血症と続発性を分けるROC解析のAUCが0.904でYouden指数による最適カットオフが3.1 IU/L(感度80.5%・特異度87.8%)であったこと、カットオフを4.3 IU/Lにすると感度92.7%・特異度73.5%、5.3 IU/Lで感度97.6%・特異度65.3%、7.0 IU/Lで感度97.6%・特異度46.9%と、感度と特異度が引き換えになること、JAK2変異陰性の真性多血症3例の血清エリスロポエチンが4.1・3.5・1.4 IU/Lであったことを確認した。閲覧 2026-09-02