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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

血管芽腫

Hemangioblastoma

別名
血管芽細胞腫hemangioblastoma
臓器系
腫瘍神経
科目
Oncology and Reconstructive Oncoplastic SurgeryPathologyMolecular Cell Biology
トピック
腫瘍学 I-01:がんの病因病理学 B/13:遺伝性腫瘍症候群(遺伝性がん症候群)分子細胞生物学 48:細胞の酸素感知機構;低酸素への適応
上位概念
中枢神経系腫瘍(成人・小児)
鑑別疾患
毛様細胞性星細胞腫
合併症
水頭症脊髄空洞症
続発疾患
続発性赤血球増加症
関連疾患
褐色細胞腫腎細胞癌
治療薬
ベルズチファン
症状
頭痛嘔吐小脳性運動失調歩行不安定眼振乳頭浮腫
検査値
エリスロポエチンヘマトクリット
画像所見
壁在結節
原因となる疾患
von Hippel-Lindau病
適応薬
ベルズチファン

🧠 全体像:血管芽腫は「良性なのに血を増やす」中枢神経系のである。組織学的にはCNS grade 1で、完全に摘出できれば治癒しうる1。理解の幹は VHL 一本でよい——VHL の機能が失われると()が分解されず、低酸素が無いのにVEGF と EPO が出続ける2。この一本の機序が、画像の「嚢胞+強くする」(による異常な)と、血液の「」(の)の両方を同時に説明する。約70%は孤発例、残る約30%が (病)に伴う家族性である1。

定義と疫学

のうち全の1〜2.5%を占める稀な腫瘍で、好発年齢は30〜65歳、わずかに男性に多い(男女比1.3対1〜2.6対1)2。部位別の頻度は小脳45〜50%、脊髄30〜40%、脳幹5〜10%で、に生じるのは稀である2。網膜にも生じ、病では約70%にが同定され、検出年齢の平均は約25歳である3。⚠️ 古い症例集積に基づく総説は28〜50%と記しており1、頻度はを系統的に行うかどうかで大きく動く。

⭐ 覚えるべき好発部位は小脳・脊髄・網膜の3つで、いずれも「中枢神経系とその延長」である。の分類では(・星細胞腫に次ぐ第3の代表)として登場する。

孤発例とVHL病関連例

項目 孤発例 病関連例
割合 約70% 約30%1
平均発症年齢 約47歳 約29歳1
病変数 通常は単発 多発しうる
部位 小脳が中心 小脳以外(脳幹・脊髄)の割合が高く、を約70%に伴う3
随伴病変 なし (、多発性・両側性)、、・、

⚠️ 若年発症・多発・のいずれかがあれば、孤発例と即断せず病を疑う。 病はで、VHL(3p25-26)のを背景に、もう一方のアレルの(Knudsonの2ヒット)で腫瘍が生じる。診断がつけば本人だけでなくのと定期スクリーニングにつながるため、1個の血管芽腫の診断が家系全体の管理を変える。

機序:VHL からHIFへの一本道

正常なpVHLはの一部として、酸素があるときに-αを分解へ回す。VHL が失われると-αが分解されずに蓄積し、低酸素が無いのにのが転写され続ける。その標的に・・が含まれる2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Hippel-Lindau'>VHL</span> の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='biallelic inactivation'>両アレル不活化</span>"] --> B["pVHL による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxia-inducible factor'>HIF</span>-αの分解が働かない"]
    B --> C["低酸素が無いのに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxia-inducible factor'>HIF</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='target gene'>標的遺伝子</span>が転写される"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial growth factor'>VEGF</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet-derived growth factor'>PDGF</span> の過剰産生"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythropoietin'>EPO</span> の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic production'>異所性産生</span>"]
    D --> F["豊富な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary network'>毛細血管網</span>をもつ腫瘍<br>造影で強く<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperchromasia; strong (contrast) enhancement'>濃染</span>する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mural nodule'>壁在結節</span>"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular permeability'>血管透過性</span>の亢進<br>周囲に嚢胞が形成される"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary erythrocytosis'>続発性赤血球増加症</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematocrit, Hct'>ヘマトクリット</span>高値・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythropoietin'>EPO</span>高値"]

💡 同じ経路が薬にも病気にもなっている。 腎の低酸素感知で働くこの経路をで止めれば貧血が治り、逆に病で暴走したHIF-2αを止めれば腫瘍が縮む。方向が逆なだけで軸は同じである。

臨床像

症状は腫瘍そのものより、嚢胞と浮腫による圧迫で決まることが多い。

画像所見

の典型像は造影されるを伴うで、結節はで強くする2。嚢胞壁がすることはまれである2(⚠️ 「腫瘍ではないからしない」という因果は出典に書かれていない)。腫瘍が豊富な血管を持つことを反映して、結節の内部や周囲に流速の速い血管によるが見えることがある。で濃厚なを示す。

⚠️ 「嚢胞+」は血管芽腫の専売ではない。 小脳では(小児)、成人ではも同じ形を取りうる。年齢・多発性・病の有無で絞る。

病理

腫瘍性の本体は、豊富なの中に配列するである1。の細胞質は泡沫状ないしで脂質を含み、免疫染色では inhibin alpha と carbonic anhydrase IX・XII が陽性になる1。完全に切除できれば治癒しうることを根拠にCNS grade 1に位置づけられている1。

鑑別:転移性淡明細胞型腎細胞癌

病では両者が同一患者に共存しうるため、小脳の淡明な細胞からなる病変を見たら必ず考える組み合わせである。

項目 血管芽腫 転移性
核異型 乏しい より明瞭1
細胞質 泡沫状・(脂質) 泡沫状・状の像を欠く1
inhibin alpha 陽性 陰性1
AE1/AE3・PAX8 陰性 陽性1

そのほか、脊髄髄内では、小脳ではやが鑑別に挙がる。

治療

外科的摘出が第一選択である2。良性腫瘍であり、完全に摘出できれば長期の無病生存が得られやすい。孤発例の5年生存率は90%を超える2。摘出とともにも消退する。

状況 対応
症候性の単発病変 摘出。嚢胞のだけでは結節が残り再発するため、を確実に切除する
アプローチが困難な部位・多発病変 2
無症候の(病の経過観察中) 画像で経過観察
などは研究段階2
病に伴う多発病変 HIF-2α阻害薬の第2相試験で中枢神経系血管芽腫のは30%だった(同試験の49%・膵病変77%)4

⚠️ 腫瘍は良性だが手術は易しくない。 高度に血管に富むため術中出血が問題になり、脳幹・脊髄髄内では機能温存との兼ね合いが生じる。「grade 1だから急がない」という判断は、脳幹近傍や水頭症を伴う例では通用しない。

まとめ

  • 血管芽腫はCNS grade 1の良性で、小脳・脊髄・網膜に好発する。全の1〜2.5%。
  • 約70%が孤発例(平均約47歳)、約30%が病関連(平均約29歳、多発・を伴いやすい)。
  • VHL 機能喪失→安定化→/過剰という一本の機序が、「嚢胞+する」と「」を同時に説明する。
  • 病理の本体は豊富なの中ので、inhibin alpha陽性。転移性との鑑別が要点。
  • 治療は外科的摘出が第一選択で、孤発例の5年生存率は90%超。病の多発例ではHIF-2α阻害薬が選択肢になる。

出典

  1. 1.Neuropathologic features of central nervous system hemangioblastoma(Journal of Pathology and Translational Medicine・2022)中枢神経系血管芽腫の約70%が孤発例で残る約30%がvon Hippel-Lindau病に伴う家族性であること、発症年齢の平均がvon Hippel-Lindau病関連例で約29歳・孤発例で約47歳であること、von Hippel-Lindau病関連例では小脳以外の部位の割合が高く網膜病変を28〜50%に伴うこと、完全摘出で治癒しうるためCNS WHO grade 1に位置づけられること、腫瘍性の本体が豊富な毛細血管網の中に配列する間質細胞であり細胞質が泡沫状ないし微細空胞状で脂質を含むこと、免疫染色でinhibin alphaおよびcarbonic anhydrase IX・XIIが陽性となること、エリスロポエチンの異所性産生により約5〜40%に続発性赤血球増加症が生じうること、VHLの機能喪失がHIF複合体の制御を失わせ低酸素が無くても増殖因子の発現を増加させること、鑑別となる転移性淡明細胞型腎細胞癌はより明瞭な核異型を示し泡沫状・空胞状の細胞質を欠きAE1/AE3とPAX8が陽性でinhibin alphaが陰性であることを確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Hemangioblastoma(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)血管芽腫が全脳腫瘍の1〜2.5%を占めること、疫学の節が好発年齢を30〜65歳・わずかに男性優位(男女比1.3対1〜2.6対1)と述べていること(同章の導入部は30〜60歳と書いており章内で揃っていない)、部位別の頻度が小脳45〜50%・脊髄30〜40%・脳幹5〜10%でテント上は稀であること、MRIの典型像が造影される壁在結節を伴う嚢胞性腫瘤であり結節はガドリニウムで強く濃染すること、pVHLの機能喪失が低酸素誘導因子の分解不全を招きエリスロポエチン・血管内皮増殖因子・血小板由来増殖因子の発現を亢進させること、外科的摘出が第一選択でありアプローチ困難な病変には定位放射線治療が用いられ抗血管新生薬は研究段階であること、孤発例の5年生存率が90%を超えることを確認した。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Von Hippel-Lindau Syndrome(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2025)網膜血管芽腫がvon Hippel-Lindau症候群の初発病変となりうるうえ小児期にも生じ、約70%の患者で同定され、検出年齢の平均が約25歳であること。中枢神経系血管芽腫が本症の原型病変で約80%が脳・約20%が脊髄に生じ、脳ではほとんどがテント下(主に小脳半球)であること、中枢神経系血管芽腫が依然として主要な死因であること。閲覧 2026-09-02
  4. 4.Belzutifan for Renal Cell Carcinoma in von Hippel-Lindau Disease(The New England Journal of Medicine・2021)von Hippel-Lindau病を対象としたHIF-2α阻害薬ベルズチファン120 mg/日の第2相試験で、腎細胞癌の奏効率が49%、膵病変が77%、中枢神経系血管芽腫が30%であったことを確認した。閲覧 2026-09-02