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Disease Atlas · 全身 · 症候群

von Hippel-Lindau病

Von Hippel-Lindau disease

別名
フォン・ヒッペル・リンドウ病von Hippel-Lindau症候群VHL病
臓器系
全身腫瘍
科目
PathologyMolecular Cell Biology
トピック
病理学 B/13:遺伝性腫瘍症候群(遺伝性がん症候群)分子細胞生物学 48:細胞の酸素感知機構;低酸素への適応病理学 C/68:腎腫瘍
鑑別疾患
Birt-Hogg-Dubé症候群
続発疾患
血管芽腫腎細胞癌褐色細胞腫続発性赤血球増加症
関連疾患
神経皮膚症候群膵嚢胞性病変
治療薬
ベルズチファン
症状
難聴耳鳴視力低下頭痛小脳性運動失調
検査値
メタネフリンエリスロポエチン
画像所見
壁在結節

🧠 全体像:は、VHL という1個の遺伝子の機能喪失が、離れた3つの臓器に同じ論理で腫瘍を作る疾患である。中枢神経と網膜には血管芽腫、腎にはと嚢胞、副腎・膵・内耳には・・——臓器はばらばらでも、pVHLが壊れて-αが分解されず、とが出続けるという機序は一本しかない1。⭐ 個々の腫瘍を覚えるより、「この一本の機序が臓器ごとにどう見えるか」で束ねる。 臨床上の重心は治療ではなく生涯にあり、⚠️ 主要な死因は中枢神経系血管芽腫とである1。

💡 症・などとともに、中枢神経系と皮膚・網膜にわたる病変を特徴とする(母斑症)の代表疾患の一つに数えられる。

疫学と遺伝形式

で、 VHL は3番(3p25-26)にある。発生頻度は出生約36,000に1と考えられている1。生殖細胞系列に片方のアレルのを持ち、標的臓器の細胞で残るアレルがを起こすと腫瘍が生じる(Knudsonの2ヒット)。

⚠️ 家族歴が無くても否定できない。 でも生じ、モザイクの例も報告されている。若年発症・多発・両側性のいずれかがあれば、家族歴の有無にかかわらず本症を考える。

3臓器で束ねる

病変 押さえどころ
中枢神経・網膜 血管芽腫 中枢神経系病変の約80%が脳(大半が、主に)、約20%が脊髄1。は約70%で同定され、検出年齢の平均は約25歳で初発病変になりやすい1(頻度はの取り方で報告に幅がある)
腎 、多発性・両側性の は60歳までに約70%に生じる1。嚢胞の中から、あるいは周囲の実質から発生する
副腎・膵・内耳 、と、 は両側性・多発性で小さいことが多く、で無症候のうちに見つかる1。は5〜17%1、は約10〜16%1

このほか男性では精巣上体、女性ではにが生じる。いずれも由来の組織で、通常は無害だが両側性であればの原因になりうる1。

⚠️ 膵病変の大半はで悪性化しない()。は通常ホルモン非活性で緩徐に育つが、2.7 cmを超える腫瘍でとくに悪性の挙動が観察されている1。

⭐ の難聴・・めまいが本症の初発症状になりうる1。は後面の腫瘤で、通常のでは見落とされうる。「若年の」を耳鼻科の孤立した問題として閉じない、というのが本症を知っている意味である。

機序

正常なpVHLは複合体のとして、酸素が十分にあるときに水酸化された-αを分解へ送り込む。VHL の両アレルが不活化されると、この分解が働かない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Hippel-Lindau'>VHL</span> の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='germline variant'>生殖細胞系列バリアント</span><br>(片方のアレルが不活化)"] --> B["標的臓器で残るアレルが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='somatic mutation'>体細胞変異</span><br>(2ヒット)"]
    B --> C["pVHL による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxia-inducible factor'>HIF</span>-αの分解が働かない"]
    C --> D["低酸素でないのにHIF-2αが蓄積し<br>HIF-1β と転写複合体を作る"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial growth factor'>VEGF</span> 過剰<br>血管に富む腫瘍・嚢胞"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythropoietin'>EPO</span> 過剰<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary erythrocytosis'>続発性赤血球増加症</span>"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth factor'>増殖因子</span>の持続的発現<br>腫瘍の発生・増大"]

💡 とという2本の出力が、この病気の見え方をほぼ説明する。 血管芽腫の「嚢胞+強くする」も、の血管に富む像も、(の)も、出どころは同じである。

💡 同じ経路が薬にも病気にもなる。 ではPHDを阻害してを上げ、本症ではHIF-2αを阻害して下げる。軸は同じで向きが逆である。

診断

臨床基準のみでも診断でき、多くの例では VHL の病的(または病的の可能性が高い)バリアントの同定が診断を裏づける2。国際的に用いられる基準は、大きく次の2通りに整理される1。

状況 満たすべき条件
家族歴がある 本症に関連する病変が1つあり、かつ近親者に本症の診断がある
家族歴が無い 血管芽腫が2つ以上、または血管芽腫1つと他の関連病変1つ(基準により、関連病変の列挙に・・・・・多発・多発を含める)

次のような所見があれば、本症を疑って遺伝学的検査を検討する1。

  • 若年者の
  • 多発する脊髄・小脳の血管芽腫、または50歳以下で診断された単発の血管芽腫
  • 副腎性・副腎外の
  • 40歳以下で診断された
  • 多発する・、多発する、

病型分類の位置づけ

とのリスクの高低で1型・2A型・2B型・2C型に分けられてきた。1型はのリスクが低く、2型は高い。2A型はのリスクが低く、2B型は高く、2C型はのみを起こす1。⚠️ ただしこの対応は明確に切り分けられるものではなく、現時点で診断的・な価値は無い——学術的な区分と理解しておく1。遺伝子型で臓器を絞ってを省く、という使い方はしない。

サーベイランス

⭐ 本症の管理はそのものである。 検査ごとに開始年齢と間隔が違い、開始年齢が確定しているなかで最も早いのは眼科(1歳、遅くとも5歳まで)である。血圧測定と全般の症状診察は年齢を確定せず「生後10年以内に開始」とされる1。

対象 検査 開始年齢と間隔
全般 神経症状・・聴覚障害の診察 生後10年以内から年1回
による眼科診察 1歳から(遅くとも5歳までに)年1回
中枢神経系病変 脳と全脊髄の 11歳から2年ごと
腎・膵・副腎 15歳から2年ごと
血圧測定 生後10年以内から年1回
血漿または24時間尿の分画 5歳から年1回
聴力検査 11歳から2〜3年ごと(難聴・・めまいがあれば年1回)
無症状者では15〜20歳の間に

⚠️ 他のと間隔を混同しない。 本症のは15歳から2年ごとである1。一方のは20歳から1〜2年ごとの造影MRIで(根拠は同ノートを参照)、開始年齢も間隔も別の推奨であり、「遺伝性はどれも20歳から」と一括りにできない。

避けるべきものとして、の危険因子である喫煙、関連臓器を侵すことが知られる・産業毒物、そして副腎や膵に病変があるときのが挙げられている1。

治療

病変の多くは現時点でも外科的に治療される2。では腎機能を残すため部分切除が優先され、多発病変では「3 cmで介入」といったサイズを目安に手術のタイミングを計る。血管芽腫は症候性であれば摘出し、無症候の病変は画像で追う。個々の腫瘍の術式・は血管芽腫・・の各ノートに委ねる。

⭐ HIF-2α阻害薬が、この病気の機序をそのまま標的にした薬である。 第2相試験(120 mg 1日1回)でのは49%、膵病変77%、中枢神経系血管芽腫30%で、評価可能なは全眼が改善した3。2021年8月に米国で承認され、即時の手術を要さない患者に用いられる12。

⚠️ 薬が手術に置き換わったわけではない。 が腫瘍の発生そのものを予防できるかは不明であり1、の間隔を緩める根拠にはならない。主な副作用は貧血と疲労で、これもHIF-2αが産生の主役であることの裏返しである。

まとめ

  • VHL の機能喪失→HIF-2αの安定化→/過剰という一本の機序が、中枢神経・網膜の血管芽腫、腎のと嚢胞、・・を同時に説明する。
  • 、出生約36,000に1。主要な死因は中枢神経系血管芽腫と。
  • は60歳までに約70%、は5〜17%、は約10〜16%。が初発症状になりうる。
  • は眼科(1歳から年1回)・血圧(生後10年以内から)で始まり、脳脊髄は11歳から2年ごと、は15歳から2年ごと、は5歳から年1回。の「20歳から1〜2年ごと」と混同しない。
  • 病型分類(1型・2A・2B・2C)はとのリスクで分けるが、診断・治療上の価値は現時点で無い。
  • 治療の主体は外科で、即時の手術を要さない例にHIF-2α阻害薬が加わった(腎49%・膵77%・中枢神経系血管芽腫30%)。

出典

  1. 1.Von Hippel-Lindau Syndrome(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2025)von Hippel-Lindau症候群が脳・脊髄・網膜の血管芽腫、腎嚢胞と腎細胞癌、褐色細胞腫・傍神経節腫、膵嚢胞と膵神経内分泌腫瘍、内リンパ嚢腫瘍、精巣上体・広間膜の嚢胞腺腫を特徴とすること、発生頻度が出生約36,000に1と考えられていること、中枢神経系血管芽腫が本症の原型病変で約80%が脳・約20%が脊髄に生じ脳ではほとんどがテント下(主に小脳半球)であること、中枢神経系血管芽腫が依然として主要な死因であること、網膜血管芽腫が初発病変となりうるうえ小児期にも生じ約70%の患者で同定され検出年齢の平均が約25歳であること、淡明細胞型腎細胞癌が60歳までに約70%に生じ本症の主要な死因の一つであること、膵神経内分泌腫瘍が5〜17%に生じ通常はホルモン非活性で緩徐発育だが2.7 cmを超える腫瘍でとくに悪性の挙動が観察されていること、内リンパ嚢腫瘍が約10〜16%に生じ突発性の難聴・めまい・耳鳴が本症の初発症状となりうること、遺伝子型と表現型の対応として褐色細胞腫のリスクの高低で1型・2A型・2B型・2C型に分けられるが診断的・治療的な価値は現時点で無く学術的な区分にとどまること、サーベイランス表が神経・視覚・聴覚症状の年1回の診察を生後10年以内から、脳と全脊髄のMRIを11歳から2年ごと、間接検眼鏡による眼科診察を1歳から(遅くとも5歳までに)年1回、腹部(腎・膵・副腎)MRIを15歳から2年ごと、血圧測定を生後10年以内から年1回、血漿または24時間尿の分画メタネフリンを5歳から年1回、聴力検査を11歳から2〜3年ごと(難聴・耳鳴・めまいがあれば年1回)、内耳道MRIを無症状者では15〜20歳の間に行うと定めていること、避けるべきものとして喫煙・関連臓器を侵す化学物質・副腎や膵の病変がある場合の接触競技を挙げていること、ベルズチファンが2021年8月に米国で承認され即時の手術を要さない患者に用いられることを確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.von Hippel-Lindau disease: Updated guideline for diagnosis and surveillance(European Journal of Medical Genetics・2022)本症が網膜と中枢神経系の血管芽腫・腎細胞癌・褐色細胞腫・膵神経内分泌腫瘍・内リンパ嚢腫瘍を多発させる遺伝性腫瘍素因であること、臨床基準のみでも診断できるが多くの例で VHL の病的または病的の可能性が高いバリアントの同定により診断が裏づけられること、サーベイランスを本症の患者および発症リスクのある人で小児期から開始し網膜・中枢神経系・内耳・腎・神経内分泌腺・膵の定期的な検査を含めるべきであること、本症の病変の多くが現時点では外科的に治療されること、HIF-2αを標的とするベルズチファンが von Hippel-Lindau病に伴う腎細胞癌・中枢神経系血管芽腫・膵神経内分泌腫瘍で即時の手術を要さない成人に対して米国FDAに承認されたことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Belzutifan for Renal Cell Carcinoma in von Hippel-Lindau Disease(The New England Journal of Medicine・2021)von Hippel-Lindau病を対象としたHIF-2α阻害薬ベルズチファン120 mg1日1回の第2相試験で、腎細胞癌の奏効率が49%、膵病変が77%、中枢神経系血管芽腫が30%であったことを確認した。閲覧 2026-09-02