病理学

病理学 · C/68

腎腫瘍

Tumors of kidney

応用トピック
陰茎・精巣・腎腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断腎腫瘍小児泌尿器科学
疾患
Birt-Hogg-Dubé症候群Denys-Drash症候群Frasier症候群von Hippel-Lindau病WAGR症候群ベックウィズ・ヴィーデマン症候群神経芽腫・ウィルムス腫瘍腎血管筋脂肪腫腎細胞癌
症状
線維毛包腫

🧠 全体像:は良性(乳頭腺腫・)・成人悪性の代表()・小児悪性の代表(Wilms腫瘍)に大別され、RCCの主要な3型(・・)は形態でされた型で、それぞれ3p喪失・7番染色体の増加・多数の染色体喪失という遺伝子異常と対応する。2022年の分類はこれに分子異常で定義する型を加えた。RCCが「医学の擬態者」と呼ばれる所以は、腫瘍細胞自体が正常腎の内分泌機能(、レニン産生など)を異所性に模倣する点にある。

概要

皮質乳頭腺腫(良性)

  • から生じる:、明るい細胞質、規則的な核。
  • 高頻度の腫瘍。
  • 小さく、黄灰色、境界明瞭、多くは皮質に。
  • 定義は大きさで引かれている。2016年の分類は乳頭腺腫を、被膜が無く、または構築で、/ISUPの、径1.5 cm以下の腫瘍と定義した(それ以前は0.5 cm以下)。基準の引き上げは、被膜の無いグレード1〜2の腫瘍にが無いというデータに基づく。では被膜や異型度の不均一を見逃しうるので、生検だけで乳頭腺腫と診断するのは極めて慎重に行う2。2022年分類も乳頭腺腫をの良性型として残しており3、第5版(2022年)を典拠とする総説も、・径1.5 cm以下・被膜なしをとの区別の基準として挙げている4。

⚠️ 講義資料の「5 cm未満」「3 cm超は転移しうる」は分類の定義と合わない。 2016年の定義では、径1.5 cmを超える腫瘍は腺腫の定義から外れる2。

オンコサイトーマ(良性)

  • 集合管()の良性腫瘍。
  • 好酸性の細胞質+多数のミトコンドリア。
  • 肉眼:中心の瘢痕。

💡 とは形態学的に鑑別が難しい。 ・トランスーム解析では、の一部(1・X・Y・14・21番染色体の欠失を反復して認める異数体型)がより悪性度の高い好酸性のへ進展しうることが示されており、両者は連続したスペクトラムとして理解される5。家族性にBirt-Hogg-Dubé症候群(皮膚++のFLCN遺伝子異常症)を背景に持つ場合、両者の中間的な組織像を示すが高頻度にみられる6。

腎細胞癌

概要

  • 由来。
  • 60〜70歳、男性 > 女性。
  • 危険因子:喫煙(第1位)、高血圧、肥満、長期透析に伴う性腎疾患(講義資料の「透析関連PKD」。遺伝性のとは別物で、 2022年分類は性疾患関連を独立の型としている3)。

主要な3型

💡 3型は細胞質や構築の見た目でされてきたが、それぞれ特徴的な遺伝子異常と対応する(=3p喪失と不活化、=7番と17番染色体の増加、=多数の染色体喪失)。2022年の分類はこれに加えて、分子異常そのもので定義する型(TFE3再構成、TFEB変化、FH欠損、SDH欠損、ALK再構成、ELOC変異、SMARCB1欠損)と、新たな形態定義型の好酸性充実嚢胞性を立てた。以前の「2型」は単一の型ではなく、分子背景の異なる亜群の集まりと考えられている3。

A)(最多、約70〜80%)

  • 明るいまたはの細胞質をもつ細胞。
  • 浸潤性: → IVC → 右心に浸潤(腫瘍血栓)。
  • 多くは散発性、一部は家族性 — Von Hippel-Lindau()症候群:
    • 複数の腫瘍、特に小脳・網膜の血管芽腫の素因。
    • 第1対立遺伝子:生殖細胞系列の遺伝子のを受け継ぐ(。約20%は)7。
    • 第2対立遺伝子:体細胞で失われる → の。
    • 散発性のでも、体細胞の変異がみられる7。
    • 講義資料は第1アレルの喪失を t(3;6)・t(3;8)・t(3;11) と書いているが、病の本体は転座ではなく生殖細胞系列の変異である。3番と8番のは、病とは別の遺伝性の原因として扱われている8。

⚠️ 本質は両アレルの不活化であり、特定の転座ではない。 33例・95生検のでは3番(3p)の欠失がほぼ全例に認められ、最も多いは3p欠失と5q増加が同時に起こる形(患者の36%)で、腫瘍の最新共通祖先が現れる数年〜数十年前の開始事象であることが多い9。

B)(約10〜15%)

  • を伴う。
  • しばしば多巣性+両側性、早期に出現。
  • MET(7番染色体)— 肝細胞の。
  • トリソミー7+MET変異 → 活性増加 → RCC。
  • 遺伝性(HPRC)家系の生殖細胞系列と、の一部にMETの活性化が同定されている。HPRCは病や3;8転座による遺伝性とは組織学的・遺伝学的に異なる別個の疾患である8。

C)(約5%)

  • 主要3型の中では最も少ない。
  • 集合管の由来。
  • 核周囲に明るいハローをもつ暗い細胞。
  • 極端な低 — 複数の染色体喪失(1、2、6、10、13、17、21)。
  • 予後良好。

⚠️ 肉腫様変化は独立した組織型ではない。 どのRCC型にも生じうるへの転化()であり、組織学的に分類済みの952例では8%・型3%・型9%・29%に肉腫様変化がみられた。肉腫様変化を伴う群の5年・10年はそれぞれ22%・13%で、伴わない群の79%・76%より有意に不良である10。

RCCの臨床経過

  • :血尿+な腫瘤+()痛。ただし三徴がそろって現れるのは少数で、近年は無症状のまま画像検査で偶発的に発見される例が主体になっている。国際的なデータでは37〜61%が超音波・などの偶発的な画像検査で診断され、診断時の70%がStage Iにとどまる11。
  • 「医学の擬態者」と呼ばれる — :
  • 転移:肺、骨、リンパ節、肝、脳。
  • 偶発的に見つかる小径の増加を受け、限局例では手術・療法に加えて監視療法(active surveillance)も選択肢になっている11。
  • は病期で大きく異なる。米国SEERの2016〜2022年診断例(を含む集計)では全体79.2%、限局例93.6%、所属リンパ節へ進展した領域例77.6%、遠隔転移例20.3%で、診断時に限局している例が66%を占める13。⚠️ 講義資料の「5年生存率45%」は、この現在の全体の値とは大きく離れている。

⚠️ の判定は Fuhrman 分類から /ISUP 分類(Grade 1〜4)へ更新されている。 Fuhrman分類は歴史的な分類として理解し、現行の標準は・に適用する/ISUP分類である。にはこの分類を適用しない14。

Wilms腫瘍(腎芽腫)

概要

  • 小児で最も多い原発性(2〜5歳)。

関連症候群(3群)

  1. — Wilms+++(知的障害)。
  2. — Wilms++腎不全(早期)。
    • WAGRとDDSの両者:WT1遺伝子異常(11p13、腎・性腺発生に重要)。
  3. — +++(WT2領域、11p15)。

形態

  • 大きく、単発、境界明瞭な腫瘤。
  • 片側性または両側性。
  • 顕微鏡: — 腎発生を再現しようとする:
    • 細胞 — 小さな青い細胞のシート
    • — 線維球性または粘液様
    • 上皮細胞 — 未熟な尿細管・糸球体
  • 5%が — p53変異、。

臨床経過

  • な腹部腫瘤(しばしば骨盤へ伸展)。
  • 頻度は低い:発熱、腹痛、血尿、腸閉塞。
  • 治療:+化学療法 → 予後良好(90%超の治癒)。

簡易比較 — RCC亜型

亜型 % 起源 主な遺伝子 予後
70〜80% VHL(3p)喪失 様々、に浸潤
10〜15% 近位/ MET(7q)、トリソミー7 しばしば多巣性/両側性
約5% 集合管 複数喪失、低 最良

💡 ポイント: 良性:乳頭腺腫( 2016年分類では径1.5 cm以下・・被膜なし、皮質)、(集合管、好酸性、中心瘢痕)。RCC = 成人の悪性腫瘍、喫煙が第1リスク、:血尿+側腹部痛+な腫瘤、傍腫瘍性( → 、PTHrP、、レニン)。RCC = 第1位、VHL(3p)、 → IVCに浸潤。 = MET/トリソミー7、多巣性。 = 予後最良。Wilms腫瘍 = 2〜5歳の小児、WT1(WAGR、Denys-Drash)/WT2(Beckwith-Wiedemann)、組織像、な腹部腫瘤、+化学療法で予後良好。

まとめ

  • 成人で最も多い腎悪性腫瘍は、小児ではWilms腫瘍(腎芽腫)である。
  • RCCの主要3型は(最多、遺伝子の、→IVCへ浸潤)、(MET遺伝子・トリソミー7、多巣性・両側性)、(低、予後最良)で、2022年の分類はこれに分子異常で定義する型を加えている。
  • 乳頭腺腫は2016年の分類で径1.5 cm以下・・被膜なしの腫瘍と定義され、講義資料の「5 cm未満」「3 cm超で転移」はこの定義と合わない。
  • RCCのは血尿・な腫瘤・側腹部痛だが、現在は画像で偶発的に見つかる例が多く、は全体で約79%(米国SEER、を含む)である。・PTHrP・・レニンなどによるを来しうる。
  • Wilms腫瘍は2〜5歳の小児に好発し、WT1異常(、)またはWT2領域異常()と関連し、組織像(・間質・上皮)を示す。
  • Wilms腫瘍は+化学療法で90%超が治癒する予後良好な腫瘍である。

出典

  1. 1.The natural history of renal angiomyolipoma(The Journal of Urology・1993)腎血管筋脂肪腫35例48病変の検討で、94%が女性、17%が結節性硬化症を合併したこと、結節性硬化症合併例は孤発例に比べ若年発症・両側性罹患が多く、より症候性で、腫瘍径が大きく増大しやすいために手術を要する頻度が高かったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.The 2016 WHO Classification of Tumours of the Urinary System and Male Genital Organs-Part A: Renal, Penile, and Testicular Tumours(European Urology(WHO 2015年チューリッヒ合意会議の要約)・2016)全文(europeanurology.com の2016年6月の Wayback 保存版)で、乳頭腺腫は2015年までは径0.5 cm以下の腫瘍と定義されていたが、2016年WHO分類は被膜の無い、乳頭状または管状構築の、WHO/ISUP低異型度の、径1.5 cm以下の腫瘍と定義し直したこと、この引き上げは被膜の無いグレード1〜2の腫瘍に転移能が無いというデータに基づくこと、針生検では被膜や異型度の不均一を見逃しうるため乳頭腺腫の診断は極めて慎重に行うべきことを確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 3.The 2022 World Health Organization Classification of Tumours of the Urinary System and Male Genital Organs-Part A: Renal, Penile, and Testicular Tumours(European Urology・2022)全文(ZORA の出版社版PDF、CC BY)で、腎腫瘍の型は従来、細胞質の性状(淡明細胞・嫌色素性)、構築(乳頭状)、部位、背景疾患(後天性嚢胞性疾患関連)などで命名されてきたこと、淡明細胞型の3p喪失とVHL不活化・乳頭状の7番と17番染色体の増加・嫌色素性の多数の染色体喪失という遺伝型と表現型の対応が知られていること、2022年分類はこれに加えて分子定義型(SMARCB1欠損髄様、TFE3再構成、TFEB変化、ELOC変異、FH欠損、SDH欠損、ALK再構成)を立て、好酸性充実嚢胞性腎細胞癌を新たな形態定義型としたこと、ICD-O一覧で乳頭腺腫を乳頭状腎腫瘍の良性型、後天性嚢胞性疾患関連腎細胞癌を独立の型として挙げていること、2型乳頭状腎細胞癌は単一の型ではなく分子背景の異なる亜群の集まりと考えられていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Updates and controversies in contemporary grading of clear cell renal cell carcinoma and papillary renal cell carcinoma(Histopathology・2026)全文(PMC13551295、NCBI の HTML)で、WHO第5版(2022年)を典拠として、乳頭腺腫と乳頭状腎細胞癌を分ける基準が低異型度の核(WHO/ISUP 1〜2)・径1.5 cm以下・被膜が無いことであると述べていること、径1.5 cm以下の乳頭状腫瘍に異型度3の核がある場合の扱いは直接検討した研究が無く未解決の論点としていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  5. 5.The Genomic Landscape of Renal Oncocytoma Identifies a Metabolic Barrier to Tumorigenesis(Cell Reports・2015)エクソーム・トランスクリプトーム解析で腎オンコサイトーマに2つの主要な亜型(2型は1・X・Y・14・21番染色体の欠失を反復して認める異数体型)を同定し、2型がより悪性度の高い好酸性の嫌色素性腎細胞癌へ進展しうることを示した。オンコサイトーマと嫌色素性腎細胞癌は形態学的な鑑別が難しく、ミトコンドリア機能異常に基づく代謝チェックポイントが腫瘍進展を抑制している可能性を確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Renal tumors in the Birt-Hogg-Dubé syndrome(The American Journal of Surgical Pathology・2002)Birt-Hogg-Dubé症候群19家系30例から切除された充実性腎腫瘍130個の病理解析で、多発・両側性の腫瘍が若年(平均50.7歳)から生じること、内訳は嫌色素性腎細胞癌34%、嫌色素性腎細胞癌とオンコサイトーマ双方の像を併せ持つハイブリッド好酸性腫瘍50%、淡明細胞癌9%であったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Von Hippel-Lindau Syndrome(GeneReviews (University of Washington, Seattle)・2025)最終改訂2025年5月1日の版(Wayback の2026年8月保存版)で、von Hippel-Lindau症候群は常染色体顕性(優性)遺伝で、ヘテロ接合の生殖細胞系列VHL病的バリアントの同定で診断が確定すること、患者の約80%は罹患した親を持ち約20%は新生変異によること、単発の淡明細胞型腎細胞癌や血管芽腫などの散発性腫瘍には生殖細胞系列に無い体細胞VHL変異が含まれうることを確認した。閲覧 2026-09-24
  8. 8.Germline and somatic mutations in the tyrosine kinase domain of the MET proto-oncogene in papillary renal carcinomas(Nature Genetics・1997)遺伝性乳頭状腎細胞癌(HPRC)家系の生殖細胞系列と、散発性乳頭状腎細胞癌の一部でMET遺伝子チロシンキナーゼドメインのミスセンス変異を同定し、悪性の乳頭状腎細胞癌は7・16・17番染色体トリソミー(男性ではY染色体喪失も)を特徴とすること、HPRCは遺伝性腎癌の他の2つの原因であるvon Hippel-Lindau病と3;8染色体転座とは組織学的・遺伝学的に異なる別個の疾患であること、遺伝性・散発性の淡明細胞癌はVHL遺伝子の両コピーの変異や過剰メチル化による不活化を特徴とすることを抄録で確認した。閲覧 2026-08-27
  9. 9.Timing the Landmark Events in the Evolution of Clear Cell Renal Cell Cancer: TRACERx Renal(Cell・2018)淡明細胞型腎細胞癌33例・95生検の全ゲノム解析で、3番染色体短腕(3p)の欠失はほぼ普遍的に認められ、最も多い構造異常は3p欠失と5q増加が同時に生じるもので患者の36%にみられたこと、この事象は小児期〜思春期に生じ腫瘍の最新共通祖先が現れる数年〜数十年前の開始事象であることが多いことを確認した。閲覧 2026-08-27
  10. 10.Sarcomatoid differentiation in renal cell carcinoma: a study of 101 cases(The American Journal of Surgical Pathology・2001)組織学的に分類済みの腎細胞癌952例中、肉腫様変化の頻度は淡明細胞型8%・乳頭状型3%・嫌色素性型9%・集合管癌29%・分類不能型11%であり、いずれの組織型にも生じうる高悪性度への転化であること、肉腫様変化を伴う101例の5年・10年疾患特異的生存率はそれぞれ22%・13%で、肉腫様変化を伴わない群の79%・76%より有意に不良であったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  11. 11.Renal Cell Carcinoma(JAMA・2024)腎細胞癌は世界で年間推定43万4,840例が新規発生し、患者の37〜61%は超音波・CTなどの腹部画像検査で偶発的に診断され、診断時の70%はStage Iであること、限局性腎腫瘤(特に小径のもの)に対しては手術・アブレーション療法に加えて監視療法が選択肢になることを確認した。閲覧 2026-08-27
  12. 12.Paraneoplastic syndromes in urologic malignancy: the many faces of renal cell carcinoma(Reviews in Urology・2002)腎細胞癌患者の約3分の1に傍腫瘍症候群がみられ、発熱・悪液質・体重減少などの全身症状から、高カルシウム血症・非転移性肝機能障害・アミロイドーシスなどの特異的な代謝・生化学的異常まで多様であること、その存在自体は転移の指標でも予後不良の指標でもないことを確認した。閲覧 2026-08-27
  13. 13.Cancer Stat Facts: Kidney and Renal Pelvis Cancer(National Cancer Institute SEER Program・2026)米国SEER 21(イリノイを除く、2016〜2022年診断)で腎・腎盂癌の5年相対生存率は全体79.2%、診断時病期別に限局93.6%・領域(所属リンパ節への進展)77.6%・遠隔転移20.3%で、診断時の病期は限局66%・領域17%・遠隔15%であることを確認した。この集計は腎盂癌を含み、腎細胞癌だけの値ではない。閲覧 2026-09-24
  14. 14.The International Society of Urological Pathology (ISUP) grading system for renal cell carcinoma and other prognostic parameters(The American Journal of Surgical Pathology・2013)WHO/ISUP核異型度分類の判定法と、淡明細胞型・乳頭状腎細胞癌への適用、嫌色素性腎細胞癌には適用しないことを確認した。閲覧 2026-08-27