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Disease Atlas · 腫瘍 · 症候群

WAGR症候群

WAGR syndrome

別名
11p13欠失症候群
臓器系
腫瘍小児腎・泌尿器眼科
科目
PathologyGenetics
トピック
病理学 B/22:小児腫瘍の特徴(神経芽腫・網膜芽細胞腫・ウィルムス腫瘍など)病理学 C/68:腎腫瘍遺伝学 2.4:細胞遺伝学 II
鑑別疾患
Denys-Drash症候群Beckwith-Wiedemann症候群
合併症
停留精巣白内障緑内障巣状分節性糸球体硬化症慢性腎臓病
続発疾患
ウィルムス腫瘍
関連疾患
弱視
症状
視力低下
検査値
クレアチニン

🧠 全体像は「11p13で隣り合うWT1PAX6というな2つの遺伝子が、1回の欠失でまとめて失われる」という一点で、4つの徴候(ウィルムス腫瘍・・知的障害)のほぼすべてを説明できる、の代表例である。という目立つ所見が診断の入口になり欠失検索とウィルムス腫瘍へつながる流れと、腫瘍を克服した後も生涯続く腎障害のリスクが、この症候群を長期的に特徴づける。

概要

は、ウィルムス腫瘍・・知的障害という4徴候の頭文字をとった名称で、ウィルムス腫瘍の代表的な素因症候群のひとつである。頭字語の最後のRは分類が確立した当時の英語表現に由来する呼称の名残で、現在この英語表現自体は使われず、では「知的障害」「発達遅滞」という現行の表現を用いる。頻度はまれで、出生50万〜100万人に1人程度と推定される。

病態:11p13の隣接遺伝子欠失

責任領域は11番染色体13番(11p13)で、ここに腎・性腺の発生を制御する**WT1と、眼の発生を制御するPAX6**という機能的にはな2つの遺伝子が物理的に隣り合って存在する。欠失がこの領域にかかると両遺伝子が同時にとなり、WT1半量不足がウィルムスを、PAX6半量不足がを、それぞれ独立に説明する。「隣り合う遺伝子がまとめて消える」という機序だけで症候群の構成がほぼそのまま説明できる。

flowchart TD
    A["11p13:WT1とPAX6が隣接して存在"] --> B["この領域を含む欠失(多くはde novo)"]
    B --> C["WT1の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='haploinsufficiency'>ハプロ不全</span>"]
    B --> D["PAX6の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='haploinsufficiency'>ハプロ不全</span>"]
    C --> E["ウィルムス<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor risk'>腫瘍リスク</span>上昇+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genitourinary anomaly'>泌尿生殖器異常</span>"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aniridia'>無虹彩</span>とその<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular complication'>眼合併症</span>"]
    B --> G{"欠失がBDNFまで及ぶか"}
    G -->|"はい"| H["WAGRO:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperphagic obesity'>過食性肥満</span>を伴う型"]
    G -->|"いいえ"| I["肥満の頻度は相対的に低い"]

WAGRO:欠失がWT1PAX6から離れた**BDNFまで及ぶと、このの半量不足で食欲調節が障害され、小児期から**を来す型になる。

多くはde novoの欠失で、は一般人口よりわずかに高い程度(1%未満)だが、親のの可能性があり遺伝の対象になる。

臨床像

無虹彩と眼合併症

を中心に角膜・・網膜・視神経まで及ぶ「眼全体の疾患」で、でほぼ必発の所見であり、多くの例で最初に気づかれる異常となる。乳児期の欠損・眼振から疑われ、そこから染色体・遺伝子検索へ進む流れが臨床上の標準的な入口になる。に伴い緑内障・角膜症・眼振・を高率に合併し、いずれもの原因になる。

ウィルムス腫瘍

WT1欠失を伴う例の約半数近くウィルムス腫瘍を発症する(患者登録の解析では約47%)。性ウィルムス腫瘍と比べて発症年齢が早く、両側性の頻度が高いことが特徴で、に至らず)にとどまる例もある。診断時年齢の中央値は5歳未満に集中するが、7〜8歳以降、まれには成人期に発症した報告もある。

泌尿生殖器異常

男児では(片側・両側とも)、が中心で、出生時から所見が明らかなことが多い。一方女児では所見が乏しい——卵巣の)、は外表からは分かりにくく、が46,XYでも女性型の外性器を呈することがあり、泌尿生殖器の手がかりから診断へたどり着きにくい。

知的障害・発達・行動

軽度から高度までさまざまな知的障害・発達遅滞を伴い、学習困難、表出性・受容性の言語発達遅滞がみられる。状などの行動面の合併も知られ、によると発達評価の解釈を混同しないよう注意する。

WAGRO(過食性肥満)

BDNF欠失を伴う亜群では学童期までにが顕在化する(発症は10歳前後までが目安)。体重管理を長期フォローに組み込む根拠になる。

長期の腎障害

ウィルムス腫瘍を克服した後の主要な健康課題が、加齢とともに蓄積する腎障害である。先天的な腎尿路のなど)に加え、・蛋白尿・まで、機能的な腎障害の頻度も高い。とくにウィルムス腫瘍の既往(除・化学療法歴)がある例は既往のない例よりを来しやすく、腫瘍治療後2〜13年という遅れをもって顕在化しうる。⚠️ に至るリスクは12歳以降で明らかに積み上がるとされ、思春期以降こそフォローを緩めてはならない。

診断

を認めた乳児では、まず11p13欠失の検索を行う。が第一選択で検出率が高く、標的としたFISH法でも確認できる。⚠️ 欠失サイズは症例により幅があり、小さい欠失はの分解能を下回って見逃されうる——プラダー・ヴィリー症候群やWilliams症候群など他のと同じ限界で、が正常でも臨床像から疑うならFISH・CMAへ進む。を欠く非典型例もあり、がなくても他の徴候の組み合わせから疑う。遺伝も行う。

サーベイランスと管理

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aniridia'>無虹彩</span>・11p13欠失でWAGRを確認"] --> B["定期腹部超音波によるウィルムス腫瘍<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surveillance'>サーベイランス</span>"]
    A --> C["眼科での継続フォロー"]
    A --> D["血圧・尿蛋白・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serum creatinine'>血清クレアチニン</span>による腎機能フォロー"]
    B --> E["腫瘍を認めれば腫瘍専門チームへ紹介"]
    D --> F["生涯にわたり継続、成人期は腎臓内科へ移行"]

ウィルムスのある小児全般に対しては、出生ないし診断時から腹部超音波による定期を行う。広く用いられる指針は3か月ごと・7歳頃までの腹部だが、の患者登録では全症例が5歳までに初発のウィルムス腫瘍と診断されており、WAGRに限っては5歳までで十分ではないかという提案もある。特定コホートに基づく提案であり、終了年齢の判断は施設・治療チームの方針に従う。

腎機能については、ウィルムス腫瘍の有無にかかわらず生涯にわたる経過観察を要する。年1回を目安に血圧測定、尿中アルブミン/クレアチニン比、によるの評価を行い、診断時にはの有無を確認する腎を行う。成人期への移行時は腎臓内科へ引き継ぎ、フォローを途切れさせない。

鑑別・WT1関連疾患の対比

は**WT1関連疾患**という枠組みの中で・Frasier症候群と並び、11p15領域の異常によるともウィルムス腫瘍の素因症候群として鑑別に挙がる。PAX6単独の変異・欠失によるは、があってもウィルムスが上昇しない点でWAGRと明確に区別される。

項目 Frasier症候群
WT1異常の型 11p13の欠失PAX6を巻き込む隣接遺伝子欠失) エクソン8・9の点変異 イントロン9のスプライス部位変異(KTS+/-比の異常)
腎病変 が主体、加齢とともにの頻度が上がる 、乳児期から急速進行 、学童期以降に緩徐進行
ウィルムス 約45〜50% 90%超 一般人口よりわずかに高い程度で、報告は乏しい
性腺・性分化 など多様、重症のはまれ 46,XYのが典型、リスクあり 46,XYの(表現型は女性のことが多い)、リスクが高い
ほぼ必発(PAX6欠失) なし なし

💡 同じWT1という1つの遺伝子でも、欠失か点変異か、どのエクソン・イントロンの変異かで腎病変の型とウィルムスの高さがまったく異なる表現型を生む。「同じ遺伝子=同じ病気」ではなく、変異の種類と部位が表現型を規定するという好例である。

予後

ウィルムス腫瘍自体は治療成績が良好で、多くは治癒が期待できる。生命予後を規定する主な要因は腫瘍そのものよりも長期の腎機能で、加齢とともにのリスクが積み上がる点が生涯の課題になる。正式な生命予後の研究は乏しいが、40〜50歳代まで生存する例が報告され、成人期まで生存すること自体は珍しくない。

まとめ

  • は11p13にあるWT1PAX6の隣接遺伝子欠失で生じ、WT1半量不足がウィルムス腫瘍・を、PAX6半量不足がを説明する。欠失がBDNFに及ぶとWAGRO()となる。多くはde novoで発生する。
  • がほぼ必発で最初に気づかれる所見となり、そこから11p13欠失の検索(・FISH)へ進む。ウィルムス腫瘍は約45〜50%に発症し、例より早期・両側性の傾向がある。
  • は男児で所見が明らかな一方、女児では所見に乏しく診断が遅れうる。知的障害・発達遅滞、行動面の合併も伴う。
  • ウィルムス腫瘍克服後も腎障害のリスクが12歳以降とくに積み上がるため、血圧・尿蛋白・による腎機能の生涯フォローが欠かせない。
  • 同じWT1関連疾患でも、欠失によるWAGR、点変異による、スプライス変異によるFrasier症候群で腎病変の型とウィルムス腫瘍・のリスクが大きく異なる。