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Disease Atlas · 腫瘍 · 疾患

Trousseau症候群

Trousseau syndrome

別名
遊走性血栓性静脈炎癌関連血栓症
臓器系
腫瘍血液循環器
科目
PathologyHistopathologySurgeryOncology
トピック
病理学 B/21:腫瘍の宿主への影響(悪液質・傍腫瘍症候群)病理学 A/28:血栓症:原因と種類病理学 B/41:静脈瘤・リンパ管疾患(静脈瘤/リンパ浮腫など)組織病理 H2-048B:膵癌組織病理 H2-049B:膵癌(病理診断の要点)外科学 B/17:膵腫瘍——根治手術と緩和手術腫瘍学 II-11:膵癌の疫学・病因・組織・病期・症状・診断
鑑別疾患
感染性心内膜炎抗リン脂質抗体症候群遺伝性血栓性素因
合併症
播種性血管内凝固
続発疾患
深部静脈血栓症肺血栓塞栓症脳梗塞
関連疾患
非細菌性血栓性心内膜炎
治療薬
ヘパリンダルテパリンエノキサパリンリバロキサバンアピキサバン
症状
腫脹紅斑圧痛疼痛呼吸困難
検査値
Dダイマー
スコア
KhoranaスコアOttawaスコア
原因となる疾患
膵癌

🧠 全体像は「腫瘍細胞がに富むを放出する→がP-selectin・L-selectinを介して血小板・白血球・(NETs)を巻き込み全身の凝固能を亢進させる→静脈・動脈にまたがる遊走性・再発性の血栓症として現れる→ときに未診断の癌の最初の徴候となる」という一本の流れで理解する。・肺腺癌など粘液産生腺癌に多く、治療の要はでは再発を抑えられず、を活動性の癌がある限り継続する点にある。

概要

」は2つの全く別のものを指すため、まず混同を解消する。

対象 内容
などでの 上腕を以上で約3分圧迫すると手根が攣縮する身体所見
② 本ノートの (悪性腫瘍の徴候としての 悪性腫瘍 腫瘍に伴うによる

①についてはのノートを参照する。本ノートが扱うのは②で、19世紀の内科医Armand Trousseauが未診断の内臓悪性腫瘍を示唆する所見として1865年に報告し、2年後に自ら左上肢の血栓を触れて胃癌の存在を言い当て没したという逸話で知られる。現在はに限らず、腫瘍細胞由来のによる血栓症全般を指す。

病態・機序

は、腫瘍細胞が持つ複数の促凝固性の性質が重なって生じる。が血中へ漏れて凝固するという説明は誤りである(既存のトピックが明示的に否定している)。

  • の発現:腫瘍細胞がを発現し、(微小胞)の形で血中に放出してを直接活性化する。
  • :粘液産生腺癌のが血小板のP-selectin・白血球のL-selectinを架橋し、の形成を促す。
  • :刺激された好中球がを放出し、血小板・凝固因子のとなって血栓を安定化させる。
flowchart TD
    A["腫瘍細胞<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic cancer'>膵癌</span>・肺腺癌など粘液産生腺癌に多い)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue factor'>組織因子</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucins'>ムチン</span>を含む<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular vesicle (EV)'>細胞外小胞</span>の放出"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucins'>ムチン</span>がP-selectin・L-selectinを介して<br>血小板・白血球を活性化"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='NETs'>好中球細胞外トラップ</span>形成"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue factor'>組織因子</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extrinsic coagulation pathway'>外因系凝固</span>を直接活性化"]
    D --> F["全身性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypercoagulability'>凝固能亢進</span>"]
    E --> F
    F --> G["遊走性・再発性の血栓症<br>(静脈・動脈・NBTE)"]

💡 では主に「」の二次性因子だが、による不動やカテーテルによるも重なり、三徴が複合して働く。

好発腫瘍

粘液産生腺癌で頻度が高く、癌はを初発症状として発見されることがある古典的な組み合わせである。

頻度が高い腫瘍 備考
とくに体部・尾部癌。古典的な組み合わせ
肺腺癌 粘液産生型で頻度が高い
胃癌 など粘液産生型
卵巣癌
大腸癌 で頻度が高い

臨床像

誘因のない多発性・再発性の血栓症、抗凝固薬でも再発する血栓症、非典型部位の血栓症は、潜在する悪性腫瘍を検索する動機になる。 ただし非誘発性の全例に網羅的な全身CTや広範な検査を行う根拠は乏しく、病歴・診察、血算・生化学、年齢相応のがん検診を基本とする。

鑑別

悪性腫瘍以外にも遊走性・再発性の血栓症を来す病態があり鑑別を要する。

疾患 鑑別のポイント
自己免疫性の等の持続陽性で診断され、悪性腫瘍を伴わない例が大半
が原因で、若年発症・強い家族歴が手がかり

⚠️ 若年発症・強い家族歴ならを、陽性ならを優先的に疑い、いずれも否定的なときにとしての癌検索を進める。

診断

造影CT・超音波で血栓の部位と範囲を確認する。は感度が高いが特異度が低く、陰性は除外に有用だが陽性のみでは確定しない。すでに癌と診断された患者では、化学療法開始前に(腫瘍の部位、化学療法前の・ヘモグロビン・、肥満度から算出)でリスクを層別化し、高リスク例でのの要否を検討する。一方、すでにVTEを発症しを開始した患者では、(性別・・病期・VTE既往から算出)で再発リスクを層別化する。

flowchart TD
    A["誘因のない遊走性・再発性血栓症<br>非典型部位の血栓症"] --> B{"活動性の癌が既知か"}
    B -->|"未診断"| C["病歴・診察、血算・生化学<br>年齢相応のがん検診を優先"]
    B -->|"診断済み"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Khorana score'>Khoranaスコア</span>でリスクを層別化"]
    C --> E["造影CT・超音波、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-dimer'>Dダイマー</span>で血栓を確認"]
    D --> E
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-molecular-weight heparin, LMWH'>低分子量ヘパリン</span>またはDOACで<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic-dose anticoagulation'>治療量抗凝固</span>を開始"]

治療

この節が本ノートの要である。 古典的にはヘパリンは有効だがワルファリンなどのは効果が乏しく再発しやすいことが知られており、この知見が現行ガイドラインの土台になっている。

状況 現行の推奨(ITAC 2022・ASCO 2023 更新に基づく)
消化管・尿路腫瘍がない、出血リスクが高くない など)・DOAC()とも初期・の選択肢
消化管・尿路腫瘍がある、・強い薬物相互作用がある DOACは消化管・尿路出血のリスクが上がるためを優先する
腎機能低下(30 mL/分未満) の調節またはを検討する
を用いる場合 より再発が多く、他の選択肢が使えない場合に限る

⚠️ DOACは「どの癌でも一律に使ってよい」わけではない。 消化管・尿路腫瘍の残存や粘膜出血歴があればを優先するのが現行ガイドラインの共通点である。

抗凝固の期間は、一過性誘因によるとは異なり、少なくとも6か月を基準に、活動性の癌が続く限り出血リスクが上回らない範囲で無期限に継続し、全身状態や出血リスクの変化を踏まえて定期的に再評価する。

まとめ

  • は悪性腫瘍に伴うであり、を指す別の「」(など)とは全く異なる。
  • 機序は(P-selectin・L-selectin介在)・によるで、「が血中へ漏れて凝固する」という説明は誤りである。
  • (とくに体尾部)、肺腺癌、胃癌卵巣癌大腸癌など粘液産生腺癌に多く、非典型部位の、NBTEによる脳塞栓、を来しうる。
  • 誘因のない多発・再発性血栓はの初発徴候になりうるが、網羅的ながんスクリーニングの根拠は乏しい。
  • 治療の核心は、では再発を抑えられず、またはDOAC(消化管・尿路腫瘍や出血リスクが高い例は優先)を活動性の癌がある限り継続することにある。