疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 循環器 · 疾患

非細菌性血栓性心内膜炎

Nonbacterial thrombotic endocarditis

別名
NBTEマランティック心内膜炎消耗性心内膜炎
臓器系
循環器腫瘍血液
科目
Pathology
トピック
病理学 B/34:非感染性心内膜炎(非細菌性血栓性/リブマン・サックス)病理学 B/21:腫瘍の宿主への影響(悪液質・傍腫瘍症候群)病理学 B/35:弁膜症(弁膜障害)とその結果
鑑別疾患
感染性心内膜炎乳頭状線維弾性腫
続発疾患
脳梗塞
関連疾患
Trousseau症候群
治療薬
ヘパリンダルテパリンエノキサパリンワルファリン
症状
血栓塞栓症
原因となる疾患
抗リン脂質抗体症候群全身性エリテマトーデス肺癌膵癌

🧠 全体像:(NBTE、旧称)は、と対比すると理解しやすい——微生物を欠く無菌性のフィブリン・血小板疣贅が弁に形成される点は共通の外見だが、NBTEでは弁の破壊がほとんど無いのに全身へ塞栓を飛ばすという、とは決定的に異なる病態をとる。背景には進行癌・・SLEなどのがあり、血液培養陰性のまま多発性・多ので気づかれることが多い。治療は抗菌薬ではなく抗凝固(多くはヘパリン)と原疾患の治療である。

病態

弁のに沿った低圧領域に、フィブリンと血小板からなる無菌性の血栓が沈着してNBTEの疣贅を形成する。の疣贅が炎症・組織破壊を伴うのに対し、NBTEの疣贅は炎症もの破壊もほとんど伴わない単純な血栓である。この違いこそが「弁を壊さないのに塞栓を飛ばす」という臨床像の核心を説明する——疣贅は脆く、容易に分裂して全身の動脈へ塞栓する一方、弁自体は温存されるためは乏しい1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hypercoagulable state'>凝固能亢進状態</span><br>(進行癌・APS・SLE・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated intravascular coagulation'>DIC</span>・敗血症)"] --> B["血小板・フィブリンの活性化"]
    B --> C["弁の低圧領域に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sterile vegetation'>無菌性疣贅</span>が沈着"]
    C --> D["炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='valvular destruction'>弁破壊</span>はほとんど伴わない"]
    D --> E["疣贅の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fragmentation'>断片化</span>"]
    E --> F["全身への塞栓(脳・脾・腎・四肢)"]

⭐ 背景疾患は悪性腫瘍が最多。 NBTE患者に悪性腫瘍が併存する割合は研究により34〜46%と報告されている。症例報告・症例集積416報から450例を集めた系統的レビューでは悪性腫瘍が46%、自己免疫疾患が190例(450例の42%)だった1。

⚠️ この「42%」と、その内訳の割合は分母が違う。 33.6%・ 37.3%・両者の合併 21.1% は、いずれも自己免疫疾患群190例を分母とした割合であって、NBTE全450例に対する割合ではない(合わせると自己免疫疾患群の約9割を占め、残る少数は関節リウマチとその他の血管炎である)。42%と33.6%+37.3%を同じ分母で読むと辻褄が合わなくなる。

💡 などによる()とNBTEは、どちらも進行癌が生む同じから生じる現象であり、同一患者で併存しうる。

臨床像

⚠️ 臨床像の主軸は塞栓症状であり、感染徴候ではない。 163例を集めた系統的レビューでは、最多の症状は(54%)で、以下は15.3%・胸痛11.7%・5.67%であり、は1.9%と少なかった1。発熱や炎症所見も乏しいことが多い。

⭐⭐ がNBTEの最も高頻度な初発症状で、しかも多発性・多に散在する点が手がかりになる。 複数の研究での頻度は54%に達すると報告されており、で観察される約21%と対照的である。別に、癌患者のを検討した研究では、NBTEによる例の90.0%が多の梗塞を呈し、原因不明の(66.4%)より有意に高かった1。単一のよりも、多発性・多の梗塞パターンの方がNBTEを積極的に疑う根拠になる。腎・脾・四肢への塞栓も来しうる。

診断

  • ⭐ 血液培養は陰性であることが前提で、48時間かけて採取した3セット以上の血液培養が、1週間を超える培養期間でも陰性であることを確認する2。
  • ⭐ が診断の標準。 直径1cm未満・・のがや低圧側の面に見つかる。の感度は47%にとどまるのに対し、は97%と大きく上回るため、で陰性でもNBTEを疑う臨床像があればへ進む12。罹患部位はが最多で、上記の系統的レビュー(416報・450例)では64.6%・大動脈弁35%・12%・3.8%だった。複数の弁に及ぶこともあり、48例のコホートでは72.9%が1弁のみ、8.3%が2弁、3弁と4弁がそれぞれ2.1%であった1。
  • 基礎疾患の検索として、進行癌のスクリーニング、(・)、などを評価する。

治療

  • ⭐ 抗菌薬ではなく抗凝固が治療の中心。 禁忌がなければ診断後速やかにを開始する2。
  • 癌関連NBTEではヘパリン(未分画・低分子とも)がより選好される2。
  • ⚠️ 関連のNBTEでは、は推奨されず、ワルファリンなどのが選好される点がヘパリン優先の癌関連例と異なる2。
  • 並行して原疾患(悪性腫瘍の化学療法、・SLEの免疫抑制療法など)を治療する。基礎疾患の治療がNBTEの再発を防ぐかは明確でない2。
  • の適応はと同じで、心不全と内科治療下でも持続する塞栓イベント、まれに急性の弁破裂である。⚠️ 原文はが適応となることは少ない(seldom warranted)としているのであって、実施頻度が低いという意味ではない——同じ論文の表が掲げる上記の系統的レビュー(416報・450例)では26%・疣贅切除8%が行われている1。

まとめ

  • NBTEは微生物を伴わないフィブリン・血小板ので、はほとんど無いが塞栓を飛ばす点がとの決定的な違い。
  • 背景は悪性腫瘍が最多で、450例の系統的レビューでは悪性腫瘍46%・自己免疫疾患42%(悪性腫瘍のは研究により34〜46%)。はNBTEのが最も高い癌であり、・SLE()が自己免疫疾患群の中心。33.6%・37.3%は自己免疫疾患群190例を分母とした値で、NBTE全体の割合ではない。
  • 多発性・多のという塞栓パターンが手がかりで、血液培養は陰性、がより大幅に高感度。
  • 治療は抗菌薬ではなく抗凝固(癌関連はヘパリン、関連はワルファリン)と原疾患の治療が中心。

出典

  1. 1.Non-bacterial thrombotic endocarditis: a clinical and pathophysiological reappraisal(European Heart Journal(Ahmed O, King NE, et al.)・2025)本文を取得して確認した。NBTEが無菌性のフィブリン・血小板疣贅であり著明な弁破壊を伴わないこと。悪性腫瘍の併存率は研究により34〜46%と報告され、450例の系統的レビューでは悪性腫瘍46%、自己免疫疾患190例(42%)で、その190例の内訳が抗リン脂質抗体症候群33.6%・SLE37.3%・両者の合併21.1%であること(33.6%と37.3%の分母は自己免疫疾患群190例であってNBTE全体ではない)。悪性腫瘍のなかではムチン産生腺癌、とくに膵・消化管のものでNBTEの発生率が最も高いこと(他の悪性腫瘍0.47%に対し2.7%)。163例の系統的レビューで最多の症状が脳血管障害54%、以下息切れ15.3%・胸痛11.7%・急性下肢虚血5.67%で、心雑音は1.9%と少なかったこと、感染性心内膜炎での脳血管障害は約21%であること。癌患者の脳血管障害を検討した研究でNBTEによる例の90.0%が多血管領域梗塞を呈し、原因不明の脳梗塞66.4%より高かったこと。経食道心エコーの感度97%が経胸壁心エコー47%を上回ること。同じ450例の系統的レビュー(Alhuarrat 2024。症例報告・症例集積416報から450例を抽出したもので、表では「416」の行に掲げられる。416は報告数であって患者数ではない)で罹患部位が僧帽弁64.6%・大動脈弁35%・三尖弁12%・肺動脈弁3.8%であり、48例のコホートでは72.9%が1弁のみ・8.3%が2弁・3弁と4弁がそれぞれ2.1%であったこと。治療の中心が低分子ヘパリンまたはワルファリンによる抗凝固と基礎疾患の治療であり、外科治療の適応は感染性心内膜炎と同じく心不全・内科治療下でも持続する塞栓イベント、まれに急性の弁破裂であることを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Diagnostic Work-Up in Patients with Nonbacterial Thrombotic Endocarditis(Journal of Clinical Medicine(Tonutti A, et al.)・2023)NBTEの疣贅が経食道心エコーで直径1cm未満・広基性・高エコーの疣状結節として弁交連や低圧側の弁葉面に生じやすいこと、経食道心エコーの感度が経胸壁心エコーの47%に対し97%と優れること、診断には48時間かけて採取した3セット以上の血液培養が、1週間を超える培養期間でも陰性であることを要すること、診断確定後は禁忌がない限り速やかに抗凝固療法を開始すべきでヘパリン(未分画・低分子とも)がビタミンK拮抗薬より癌関連例で選好されること、抗リン脂質抗体症候群関連のNBTEでは直接経口抗凝固薬が推奨されずビタミンK拮抗薬が選好されることを確認した。閲覧 2026-08-11