病理学

病理学 · B/34

非感染性心内膜炎(非細菌性血栓性/リブマン・サックス)

Noninfective endocarditis (thrombotic endocarditis, Libman-Sacks endocarditis)

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High-yield / ポイント
疾患
非細菌性血栓性心内膜炎

🧠 全体像:は「微生物がいない疣贅」という一点でと区別され、さらにその中でもが作る単純な血栓(NBTE)と、SLEの免疫複合体が作る炎症を伴う疣贅(Libman-Sacks)という機序の違いで2型に分かれる。

概念

= 弁とその近傍の心内膜に無菌性の血小板・フィブリン沈着が形成される — 微生物なし(と対照)。2つの型はと。

非細菌性血栓性心内膜炎

  • 弁のに沿ったフィブリン+血球成分の無菌性沈着で、で形成される:敗血症、悪性腫瘍(特に性腺癌 — )、、心内膜の外傷(カテーテル)。糖尿病、癌、慢性疾患でも。
  • 組織像: 炎症も弁傷害も伴わない単純な血栓(重要な鑑別点)。疣贅は直径1cm未満・・の結節としてや低圧側の面——なら心房側、大動脈弁なら心室側——に生じやすい1。
  • 臨床: 主な危険は(脳、心、他臓器)。後続のの巣にもなりうる。
  • 診断と治療: 疣贅は小さいのでで探す(感度97%、は47%)。診断がついたら禁忌がない限り速やかにを始め、同時に基礎疾患を治療する。経口抗凝固薬のデータが乏しいためヘパリン類が選好され、悪性腫瘍に伴う例ではがより効果が劣りうる。⚠️ ではがより血栓塞栓症を増やすため推奨されない。塞栓性で発症した例ではに注意する1。

⭐⭐ 背景疾患は悪性腫瘍が最多、次いで自己免疫疾患。 NBTE患者に悪性腫瘍が併存する割合は研究により34〜46%と報告されている。症例報告・症例集積416報から450例を集めた系統的レビューでは、悪性腫瘍が46%、自己免疫疾患が190例(450例の42%)だったとされる2。

⚠️ 「42%」と、その内訳の割合は分母が違う。 33.6%・SLE37.3%(として現れる)・両者の合併21.1%は、いずれも自己免疫疾患群190例を分母とした割合であって、NBTE全450例に対する割合ではない。42%と33.6%+37.3%を同じ分母で読むと辻褄が合わなくなる2。

⚠️ の主張は向きに注意する。 この数字は「NBTE症例の大半がである」という意味ではなく、膵・消化管を中心とするをもつ患者でNBTEを合併する率が最も高い(他の悪性腫瘍0.47%に対し2.7%)という向きの主張である2。

臨床像は、別の163例の系統的レビューで54%が最多だった。でのは約21%とする報告があり、それより高頻度である。一方、は1.9%と少ない。罹患部位は上記の450例のレビューで64.6%が最多、次いで大動脈弁35%だった2。などによる()とNBTEは、同じから生じる現象であり同一患者で併存しうる。

Libman-Sacks心内膜炎

  • SLEの(の心病変としても生じる3)。古典的には(の_両_面)に生じる。
  • によるからなる。小型、、。
  • しばしばを伴い、治癒 → 線維化と弁変形。
  • SLEのステロイド治療により現在は減少。

⭐ 「両面」という所見は画像でも確かめられている。 SLE患者29例を3Dで前向きに検討した研究では、3Dは2Dより高頻度に疣贅を検出し、ではの心室側、または心房側・心室側の両面の疣贅をより多く捉えた4。弁のに沿って並ぶの疣贅や、低圧側(の心房側・大動脈弁の心室側)に付くNBTEの疣贅1と比べたときの違いとして覚える。

💡 Libman-Sacksの頻度は、心エコーで系統的に探すことで見積もれるようになった。 SLE連続342例をドプラ心エコーで検討した研究では、が38例(11%)に見つかり、・疾患活動性・血栓症・脳卒中・・と有意に関連していた5。画像技術、とくに心エコーの向上によって本症のがより正確に見積もられるようになったとする総説もある3。

⭐⭐ 4種の疣贅の対比。 ・感染性・非細菌性血栓性(NBTE)・Libman-Sacksの4種は、いずれもに付着する疣贅という共通の外見をとるが、大きさ・付着部位・破壊性・塞栓の起こしやすさで区別できる。

(B/31) 感染性(B/33) 非細菌性血栓性(NBTE) Libman-Sacks
大きさ 小型 大型(急性)〜中型 小型〜中型 小型
付着部位 弁のに沿う(片面) ・に不整に付着 弁の・に沿う(低圧側=の心房側・大動脈弁の心室側) の両面(心房側・心室側)
破壊性 軽度(慢性化で) 強い(・) ほとんど無い ほとんど無い(を伴うことがある)
塞栓 比較的少ない が多い 多い(脳・他臓器) 比較的多い()
微生物 無菌性 微生物を含む 無菌性 無菌性

💡 ポイント: = 無菌性疣贅。NBTE(性) = 単純な、炎症なし、・悪性腫瘍状態で → (悪性腫瘍46%、自己免疫疾患42%)。Libman-Sacks = SLE、、免疫複合体による、の両面に疣贅(に沿う、低圧側に付くNBTEと対照的)。心エコーで探すとSLE患者の約1割に見つかる。

まとめ

  • は弁の心内膜に微生物を伴わない無菌性の血小板・フィブリン沈着が形成される病態で、と対照的に弁の破壊はほとんど起こさない(NBTEは炎症も伴わず、Libman-Sacksはを伴うことがある)。
  • は(敗血症、悪性腫瘍、特に性腺癌、)で生じる単純な血栓で、主なリスクは。
  • はSLEに伴うで、古典的にの両面に生じ、によるが組織学的特徴。
  • はSLEのステロイド治療の普及により減ったとされる一方、心エコーで系統的に探すとSLE患者の約1割に見つかり、とも関連する。
  • NBTEはで探し、診断したら禁忌がない限りを始めて基礎疾患を治療する。

出典

  1. 1.Diagnostic Work-Up in Patients with Nonbacterial Thrombotic Endocarditis(Journal of Clinical Medicine(Tonutti A, et al.)・2023)NBTEの疣贅が経食道心エコーで直径1cm未満・広基性・高エコーの疣状結節として弁交連や低圧側の弁葉面に生じやすいこと、疣贅は低圧側の心腔に面した側、すなわち僧帽弁の心房側と大動脈弁の心室側に生じやすいこと、経食道心エコーの感度が経胸壁心エコーの47%に対し97%と優れること、診断確定後は禁忌がない限り速やかに抗凝固療法を開始すべきで(塞栓性脳梗塞例では出血性梗塞に注意)、経口抗凝固薬のデータが乏しいため未分画・低分子ヘパリンが選好され、悪性腫瘍に伴う例ではビタミンK拮抗薬が低分子ヘパリンより効果が劣りうること、抗リン脂質抗体症候群ではDOACがビタミンK拮抗薬より血栓塞栓症を増やし現行ガイドラインで推奨されないことを確認した。閲覧 2026-09-23
  2. 2.Non-bacterial thrombotic endocarditis: a clinical and pathophysiological reappraisal(European Heart Journal(Ahmed O, King NE, et al.)・2025)誌上版HTML(Internet Archive の2026-04-14取得分)で、NBTEが無菌性のフィブリン・血小板疣贅であり著明な弁破壊を伴わないこと、悪性腫瘍の併存率は研究により34〜46%と報告されることを確認した。本総説が引く系統的レビュー(Alhuarrat 2024、症例報告・症例集積416報から450例を抽出)について、本文は悪性腫瘍46%、自己免疫疾患190例(42%)でその内訳が抗リン脂質抗体症候群33.6%・SLE37.3%・両者の合併21.1%(分母は自己免疫疾患群190例)と述べ、表1は同じレビューを「416」の行で掲げて罹患部位を僧帽弁64.6%・大動脈弁35%とする(416は報告数で患者数ではない)。悪性腫瘍のなかではムチン産生腺癌、とくに膵・消化管のものでNBTEの発生率が最も高いこと(他の悪性腫瘍0.47%に対し2.7%、剖検研究)。Venepally 2022 の163例の系統的レビューで最多の症状が脳血管障害54%、心雑音は1.9%であること、感染性心内膜炎での脳血管障害は約21%とする研究があることを確認した。閲覧 2026-09-23
  3. 3.Revisiting Libman-Sacks endocarditis: a historical review and update(Clinical Reviews in Allergy & Immunology・2009)Libman-Sacks心内膜炎は僧帽弁・大動脈弁に好発する無菌性疣贅性病変として1924年に記載され、現在はSLEに加え抗リン脂質抗体症候群の心病変としても認識される。画像技術、とくに心エコーの向上により、本症の有病率がより正確に見積もられるようになったことを確認した総説である。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Libman-Sacks Endocarditis: Detection, Characterization, and Clinical Correlates by Three-Dimensional Transesophageal Echocardiography(Journal of the American Society of Echocardiography・2015)SLE患者29例(40組の対2D/3D経食道心エコー)の前向き検討で、3D経食道心エコーは2Dより僧帽弁・大動脈弁の疣贅を高頻度に検出し、1検査あたりの疣贅数も多く、僧帽弁前尖・前外側/後内側の弁葉部分(scallop)、および弁尖の心室側または心房側・心室側の両面の疣贅をより多く検出したことを(抄録で)確認した。閲覧 2026-09-23
  5. 5.Libman-Sacks endocarditis in systemic lupus erythematosus: prevalence, associations, and evolution(The American Journal of Medicine・2007)全身性エリテマトーデス連続342例(女性297・男性45)のドプラ心エコー検討で、Libman-Sacks心内膜炎は38例(11%)に認められ、うち24例が僧帽弁病変(全例で逆流、9例は狭窄も合併)、13例が大動脈弁病変であった。Libman-Sacks心内膜炎は罹病期間・疾患活動性・血栓症・脳卒中・抗カルジオリピン抗体・抗リン脂質抗体症候群と有意に関連し、4年の追跡で弁病変が進行する例があることを確認した。閲覧 2026-08-27