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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

非拡張型左室心筋症

Non-dilated left ventricular cardiomyopathy

別名
NDLVC
臓器系
循環器
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 S-03:心筋症
続発疾患
心室性不整脈(心室頻拍・心室細動)
関連疾患
不整脈原性心筋症
症状
失神動悸
画像所見
遅延造影心臓MRI

🧠 全体像:非拡張型左室心筋症(NDLVC)は、2023年心筋症ガイドラインが新設した表現型で、「左室は拡大していないのに、非虚血性の左室瘢痕・、または瘢痕を伴わない孤立性のびまん性左室収縮低下がある」症例を受け止める枠である。これまで(を伴わない)、不整脈原性左室心筋症(ALVC)、左室優位型ARVC、不整脈原性DCMなどとばらばらに呼ばれてきた症例が、この一つの表現型に集約された。によってのパターンが異なり、その分布そのものが病因診断と不整脈リスク評価の手掛かりになる。⚠️ (ACM)の分類ではない——ガイドライン自身は、既存の分類体系と整合する形態・機能的定義を欠くという理由でACMを心筋症の独立した型として採らず、NDLVCをHCM・DCM・ARVC・RCMと並ぶ独立した表現型として置いている。

新設の経緯——「hypokinetic non-dilated cardiomyopathy」から

心筋の画像・組織所見に異常があるのに、拡張型・・不整脈原性右室型・拘束型のいずれの標準的な疾患定義も満たさない「」の患者群は以前から認識されており、過去のステートメントはこれを「hypokinetic non-dilated cardiomyopathy(低非)」という区分で捉えていた。2023年心筋症ガイドラインはこの用語を「非拡張型左室心筋症(NDLVC)」に置き換えることを提案し、(・全体性)の有無でさらに特徴づけられるとした1。

NDLVC表現型は次のいずれかとして定義される1。

  • 全体的または局所的なの有無を問わない、非虚血性の左室瘢痕もしくは
  • 瘢痕を伴わない孤立性のびまん性左室収縮低下

この表現型は、これまで(を伴わない)(DCM)、不整脈原性左室心筋症(ALVC)、左室優位型ARVC、不整脈原性DCMなどと様々に呼ばれてきた症例を包含する1。⚠️ NDLVC自体のは成人・小児いずれも「未確定」とされ、これまでDCMやARVCのコホートに含まれていた患者からの推定にとどまる1。

原因遺伝子とMRI遅延造影パターン——分布そのものが手がかりになる

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular dilation (enlargement)'>左室拡大</span>の無い心筋瘢痕・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatty replacement'>脂肪置換</span>または収縮低下"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac MRI'>心臓MRI</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='late gadolinium enhancement'>遅延造影</span>の<br>分布パターンを評価"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subepicardium'>心外膜下</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ring-shaped'>リング状</span>"| C["DSP・FLNC・PLN遺伝子型を疑う"]
    B -->|"多様なパターン・瘢痕は少なめ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular ejection fraction (LVEF)'>左室駆出率</span>が低い傾向"| D["TTN・BAG3・LMNA・DMD・<br>RBM20遺伝子型や心筋炎を疑う"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-risk genotype'>高リスク遺伝子</span>型として<br>不整脈リスク評価を強化"]
    D --> E

の(LGE)パターンはごとに特徴があり、デスモプラキン(DSP)・C(FLNC)・(PLN)遺伝子型は・のLGEパターンを示すのに対し、(TTN)・BAG3・ラミンA/C(LMNA)・異常症・RBM20遺伝子型や心筋炎はより多様なパターンを示し、瘢痕は総じて少なく(時に瘢痕を伴わず)、も低い傾向にある1。

⭐ のLGEパターンは、単なる病因の手がかりにとどまらない。 中隔・のパターンはNDLVCに多く認められ、悪性の発生と拡張型表現型への進展の両方を予測するとされている2。型(DSP・FLNC・LMNA・PLNなど)と心筋の炎症は、不整脈・心不全リスクをさらに高める2。

💡 NDLVCは「静止した状態」ではなく「経過を追う表現型」である。 診断時の表現型がなものではなく、時間とともにへ進展しうることを念頭に置き、を含む定期的な再評価を行う。

不整脈原性心筋症(ACM)との関係——上位概念ではなく、別の枠組み

⚠️ NDLVCはACMの「分類」ではない。 2023年ガイドラインは、不整脈が表現型を横断する診断上の・であることは認めつつ、「ACM」という語を既存の分類体系と整合する形態的・機能的定義を欠くという理由で心筋症の独立した型としては採用しなかった。その代わりに、HCM・DCM・NDLVC・ARVC・RCMという5つの独立した表現型を置いている(のノートに詳述)。

💡 「ALVC」「左室優位型ARVC」と呼ばれてきた症例の受け皿が、まさにNDLVCである。 という組織性状を診断の単位に置く欧州Task Force基準(2023)の枠組みでは同じ患者が「ALVC」と呼ばれうるが、ガイドラインの表現型優先の枠組みでは「NDLVC」と呼ばれる。呼称が違うのは分類の単位が違うためであり、する診断ではない。

拡張型心筋症との境界

NDLVCとは、の有無という一点で区別される定義上の隣接概念である。NDLVCの中には経過とともに左室が拡大しの表現型へ移行する例が含まれるため2、診断時に拡張が無いことは「を除外できる」ことを意味しない。初診時の左室径だけで長期的な表現型を確定しない。

臨床像

臨床像は他の心筋症と重なる。・で気づかれることもあれば、失神や心停止が初発症状になることもある。左室収縮低下が進めば心不全症状が前面に出るが、収縮機能がほぼ保たれたまま不整脈リスクだけが高い例もあるため、が正常であることをもって不整脈リスクを軽視しない。若年発症・は、他の遺伝性心筋症と同様にを考慮する手掛かりになる。

ICD植込みの推奨——二次予防はClass I、一次予防はリスクスコアを介する

⚠️ 推奨の強さはHCM・ARVCと同じではない。

場面 推奨 クラス・レベル
:心停止から蘇生した、または可逆的原因が無く失神・を伴う持続性を経験したNDLVC・RCM患者 を推奨する I・C
:SCDリスク評価アルゴリズム・スコアを用いた(DCM・NDLVC・ARVC) 考慮すべき IIa・B
(参考):HCMにおける同様のスコア利用 推奨する I・B

(1 を基に作成)

💡 でHCMより弱い推奨(IIa)にとどまるのは、NDLVCという表現型自体が新しく、確立したモデルの検証がHCMほど進んでいないためである。 パターン・遺伝子型・NDLVC-5年リスクスコアといった個別化ツールを組み合わせた評価が、の判断を補強する2。

まとめ

  • NDLVCは2023年心筋症ガイドラインが新設した表現型で、が無いまま非虚血性の左室瘢痕・、または瘢痕を伴わない孤立性のびまん性左室収縮低下を来す病態を指す。旧称は「hypokinetic non-dilated cardiomyopathy」。
  • これまでDCM(拡張を伴わない)・ALVC・左室優位型ARVC・不整脈原性DCMと様々に呼ばれてきた症例を包含する。は未確定。
  • パターンはごとに違う——DSP・FLNC・PLNは、TTN・BAG3・LMNA・DMD・RBM20は多様で瘢痕が少なくEFが低い傾向。パターンは悪性と拡張型への進展を予測する。
  • ⚠️ ACMの分類ではない。ガイドラインはACMを独立した心筋症の型として採用せず、HCM・DCM・NDLVC・ARVC・RCMの5表現型を置いている。
  • とはの有無で区別されるが、経過とともに拡張型表現型へ進展しうる連続的な概念でもある。
  • ICDは(心停止・を伴うからの回復)がClass I(C)、はSCDリスクスコアを介した個別化判断がClass IIa(B)にとどまる。

出典

  1. 1.2023 ESC Guidelines for the management of cardiomyopathies(European Society of Cardiology・2023)PDF全文(Amsterdam UMC大学リポジトリの同一PDF。academic.oup.comは403)の3.2.3節で、以前のESCステートメントが提唱した「hypokinetic non-dilated cardiomyopathy」という疾患区分を、本ガイドラインが「非拡張型左室心筋症(NDLVC)」という呼称に置き換えることを提案していること、NDLVC表現型が「全体的または局所的な壁運動異常の有無を問わない非虚血性の左室瘢痕もしくは脂肪置換」または「瘢痕を伴わない孤立性のびまん性左室収縮低下」と定義されること、この表現型がこれまで(LV拡大を伴わない)DCM・不整脈原性左室心筋症(ALVC)・左室優位型ARVC・不整脈原性DCMなどと様々に呼ばれてきた症例を含むこと(Figure 3・4)、成人・小児いずれにおいてもNDLVC表現型の有病率は「未確定(to be determined)」とされていること(Table 4)、心臓MRI遅延造影(LGE)の分布パターンが原因遺伝子ごとに異なり、デスモプラキン(DSP)・フィラミンC(FLNC)・ホスホランバン(PLN)遺伝子型では特徴的な心外膜下・リング状のLGEパターンを示す一方、タイチン(TTN)・BAG3・ラミンA/C(LMNA)・ジストロフィン異常症(DMD)・RBM20遺伝子型および心筋炎ではより多様なパターンを示し瘢痕は総じて少なく(時に瘢痕を伴わず)左室駆出率も低い傾向にあること(Figure 3)を確認した。加えて、ICD植込みの推奨(Recommendation Table 12)で、二次予防としてNDLVC・拘束型心筋症(RCM)の患者で心室頻拍・心室細動による心停止から蘇生した、または可逆的原因が無く失神・血行動態破綻を来す持続性心室性不整脈を経験した場合はICD植込みがClass I・Level Cで推奨されること、一次予防としてSCDリスク評価アルゴリズム・スコアを用いた共同意思決定はDCM・NDLVC・ARVCの患者で考慮すべき(Class IIa・Level B)とされる一方、HCMでは推奨(Class I・Level B)とされ推奨の強さが表現型ごとに異なることを確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Non-Dilated Left Ventricular Cardiomyopathy (NDLVC): A Name, Multiple Souls(Current Cardiology Reports・2026)抄録で、非拡張型左室心筋症(NDLVC)が「心室拡大を伴わずに収縮機能障害および/または非虚血性の心筋瘢痕を特徴とする、近年認識されるようになった心筋症表現型」であること、高度な心臓MRIにより遅延造影(とくに中隔・リング状パターン)がNDLVCに多く認められ、悪性心室性不整脈(MVA)の発生と拡張型表現型への進展の両方を予測すること、高リスク遺伝子型(DSP・FLNC・LMNA・PLNなど)と心筋の炎症がさらに不整脈・心不全リスクを高めること、NDLVC-5年リスクスコアなどの新しい予測ツールが、とくに遺伝子型特異的スコアと組み合わせた場合に個別化されたリスク予測の向上を可能にすること、画像・遺伝学・電気生理を統合した表現型優先のマルチモーダルアプローチが正確な診断・リスク層別化・個別化された管理に不可欠であることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-07