内科学

内科学 · S-03

心筋症

Cardiomyopathies

前提:病態
心筋炎・心筋症
前提:正常
筋組織:心筋心周期における圧と容積の変化・心音
疾患
スポーツ心臓拡張型心筋症拘束型心筋症心筋症肥大型心筋症非拡張型左室心筋症頻脈誘発性心筋症不整脈原性心筋症
検査値
全体長軸方向ストレイン
画像所見
左室拡張末期径最大左室壁厚最大左室流出路圧較差心尖部瘤心臓MRI遅延造影

🧠 全体像:心筋症は心筋の構造・機能異常を示す表現型であり、形態だけでなく病因を探す。は収縮不全、は肥大と、は硬い心室による充満障害、心室性不整脈原性心筋症は線維脂肪性置換と不整脈が中心となる。

表現型の比較

表現型 形態・機能 主症状 代表的原因
(DCM) 左室または両室拡大、収縮能低下、相対的MR/TR 左右心不全、、VT、塞栓 遺伝、心筋炎後、アルコール・薬剤、周産期、頻拍誘発性
(HCM) 他の負荷で説明できない、、時に流出路狭窄 、胸痛、失神、突然死 変異が多い
(RCM) 心室容量は正常〜小、障害、両房拡大 右心不全、低下 、、鉄過剰など
主に右室または両室の線維脂肪性置換 PVC、VT、失神、突然死 関連遺伝子など

⚠️ 2023年ガイドラインは表現型を4つではなく5つに分けた。 従来のDCM・HCM・RCM・ARVCに加え、が置かれた。NDLVCは「左室が拡大していないのに、非虚血性の左室瘢痕(のなど)または収縮異常がある」表現型で、拡張していないからDCMではなく、右室主体でないからARVCでもない症例の受け皿である12。2008年の形態機能的分類、2013年のMOGE(S)分類を経て、2023年版は「表現型を先に決め、次に病因(遺伝子・)を突き止める」という順序を明示した。DCM・ARVC・NDLVCの3者は重なりが大きいので、一度決めた表現型を固定せず経過とともに見直す1。

💡 ARVCは「(ACM)」へ広がった。 2010年の修正Task Force基準は右室優位型を前提に作られていたため、左室優位型を診断できないという限界があった。2020年のPadua基準はによる(を含む)・心電図の脱分極/・の特徴を基準に加え、右室優位型・両室型・左室優位型のいずれも診断対象に含めた3。共通する病理は線維脂肪性心筋置換である。この延長線上に2023年のNDLVCがある。⚠️ ただし2023年ガイドライン自身は「ACM」を心筋症の独立した型としては採らなかった。既存の分類体系と整合する形態的・機能的定義を欠くというのがその理由で、不整脈は表現型をまたぐ診断上のかつとして重視する一方、ARVC・NDLVC・DCMという表現型の側に軸を置いている2。ACMを概念に置く枠組みと、表現型を先に決める枠組みは、資料によって分かれている。

⚠️ Padua基準はさらに更新されている。 2023年、欧州のTask ForceがPadua基準を洗練した「欧州Task Force基準」を発表した4。出発点は2019年の国際報告の評価で、2010年修正基準はARVCの診断そのものには良好な精度を示す一方、左室優位型(ALVC)・両室型(ABVC)を含む広がったを同定する感度に欠けるとされた。新基準はによる心筋瘢痕のを診断の中核へ据え、遺伝性か後天性のかを問わず右室型・両室型・左室型を特徴づけると同時に、瘢痕を伴わない他の心筋疾患を除外する設計をとる。心筋の/瘢痕がに分布するパターンは、左室優位型(ALVC)の診断的特徴として明示された4。基準そのものの詳細はにまとめてある。

診断の組み立て

flowchart TD
    A["心不全・不整脈・失神・偶発画像異常"] --> B["家族歴・3世代<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pedigree'>家系図</span>・曝露・全身所見"]
    B --> C["ECG・心エコー・検査室評価"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac MRI'>心臓MRI</span>で形態と組織性状"]
    D --> E["虚血・弁膜症・高血圧など負荷原因を評価"]
    E --> F["表現型+病因診断"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic counseling'>遺伝相談</span>・家族スクリーニング"]
    F --> H["心不全・不整脈・突然死予防"]

拡張型心筋症

収縮力低下からが増え、・リモデリングが進み、さらにとを増やす。心エコーでEF、腔拡大、弁逆流を、(CMR)で線維化パターンや炎症を評価する。

治療

  • には/阻害薬/、エビデンスのあるβ遮断薬、MRA、阻害薬のをに応じ導入する。
  • うっ血には利尿薬を用いる。ジゴキシンは選択例であり基本4剤に代わらない。
  • 抗凝固は、、塞栓など適応がある場合に行い、DCM全例には投与しない。
  • 原因となるアルコール、頻拍、内分泌疾患、心毒性薬を是正する。
  • ICDは「EF<35%なら直ちに」ではなく、十分な至適治療後のEF、遺伝子・CMR線維化、不整脈、期待生存期間、患者選好を統合する5。

💡 DCMでは遺伝子型がICDの判断を動かす。 ICDの中心適応は≤35%・ II〜III・3か月以上だが、DCMと低の非ではの閾値だけで線を引かない5。LMNAなど突然死の病的variantを持つ患者では、が35%を超えていても失神やCMRのといった危険因子があればICDを考慮する2。

肥大型心筋症

成人では通常、他の負荷条件で説明できない15 mm以上を診断の目安とし、家族歴や既知のがあれば13 mm以上でも支持される。心エコーで安静時・誘発時の、を評価し、CMRで病変とを確認する。

課題 管理
症候性閉塞 、または/。難治例ではや
心房細動 /心拍数管理と抗凝固。臨床的または24時間を超える無症候性では、スコアにかかわらずを行う
突然死予防 心停止歴、、、失神、家族歴、、EF、CMR線維化などでICDをリスク評価。HCM Risk-SCD(年齢・・・・突然死家族歴・・の7)で5年SCDリスクを算出する6
家族 遺伝カウンセリング、ECG・心エコーによる定期スクリーニング

💡 ()がの薬物治療に加わった。 50 mmHg以上・ II〜IIIの 251例を30週追跡した第3相EXPLORER-HCM試験で、(最高酸素摂取量1.5 mL/kg/分以上の増加かつ 1段階以上の改善、または3.0 mL/kg/分以上の増加で悪化なし)の達成は37%対17%(差19.4ポイント、95%CI 8.7〜30.1、P=0.0005)、運動後の流出路も36 mmHg大きく低下した7。を直接抑えるという点でβ遮断薬やとはが違い、の前に置ける選択肢になった。

💡 ICDの閾値は「5年SCDリスク」で語られる。 2023年ガイドラインの解説では、推定5年SCDリスク6%以上でを考慮すべき(Class IIa, Level B)、4%未満の低リスク例でもCMRの広範な(LGE 15%以上)や 50%未満があればでICDを考慮しうる(Class IIb, Level B)とされる8。単一の壁厚やEFではなく、複数因子を合成したリスクで決める。

は、責任中隔枝へエタノールを注入して限局梗塞を作り流出路を広げる。外科的とともに経験豊富な施設で行う。

軽度〜中等度のレクリエーション運動は一般に推奨される。競技スポーツを一律禁止せず、病型、不整脈、流出路閉塞、本人の価値観を踏まえてとする。

拘束型・不整脈原性心筋症

RCMではとの鑑別が重要で、ならAL型/ATTR型を分けて原因治療につなげる。利尿は有用だが、前負荷過度低下を避ける。

⚠️ 心ATTRはで生検なしに診断できる。 が疑われた1,217例ので、テクネシウム標識の心筋集積は心ATTRに対して感度99%超・特異度86%で、偽陽性はほぼAL型に限られた。決め手は組み合わせで、grade 2または3の心筋集積があり、かつ血清・尿にが無いなら特異度・とも100%(95%CI 98.0〜100)である9。「シンチが陽性だからATTR」ではなく「シンチ陽性+陰性でATTR」——の検索(血清・電気泳動、)を必ず並行する。

💡 ATTR心筋症にはがある。 安定化薬は、441例を30か月追跡した第3相ATTR-ACT試験でを29.5%(42.9%、0.70、95%CI 0.51〜0.96)へ下げ、心血管関連入院の比も0.68であった。とKCCQ-OSの低下も緩やかで、有害事象はと同等だった10。診断を早く付けること自体が治療になるため、高齢の+心不全+という組み合わせでATTRを疑う意義が大きい。

では高強度が進行・不整脈リスクを高めるため制限し、β遮断薬、、ICDを個別化する。

まとめ

  • 心筋症は表現型に加えて病因、遺伝、家族リスクを評価する。2023年の表現型分類はDCM・HCM・RCM・ARVCにNDLVC(非拡張型左室心筋症)を加えた5つである12。
  • ARVCは左室優位型を含む「(ACM)」へ拡張され、2020年のPadua基準がCMRを取り込んで診断対象を広げた3。さらに2023年の欧州Task Force基準がPadua基準を洗練し、による瘢痕評価を中核に据えてパターンをALVCの診断的特徴として明示した4。⚠️ 一方で2023年ガイドラインは「ACM」を独立した型としては採らず、表現型(ARVC・NDLVC・DCM)を先に決める枠組みを採っている2。
  • DCMの心不全治療はのが基本で、抗凝固やICDは適応を個別判断する。LMNAなど突然死型では>35%でも遺伝子ごとの追加危険因子があればICDを考慮し(IIa)、型を持たない例でも失神やのがあれば考慮しうる(IIb)2。
  • HCMでは流出路閉塞症状(を含む薬物治療7)と(HCM Risk-SCDの5年リスク68)を別々に評価する。
  • RCMでは原因治療(心ATTRは+陰性で生検なしに診断でき9、が予後を改善する10)、では運動制限と突然死予防が重要である。

出典

  1. 1.Classification of cardiomyopathies: bringing order to complexity(European Heart Journal Supplements・2026)2008年ESCの形態機能的分類と2013年のMOGE(S)分類を経て、2023年ESCは「表現型を先に置く」モデルへ改めた。現行の5表現型は拡張型心筋症(DCM)・肥大型心筋症(HCM)・拘束型心筋症(RCM)・不整脈原性右室心筋症(ARVC)・非拡張型左室心筋症(NDLVC)であり、とくにDCM・ARVC・NDLVCの間で重なりが大きいため、動的で多パラメータ的な診断経路と個別化した解釈が要る閲覧 2026-08-25
  2. 2.2023 ESC Guidelines for the management of cardiomyopathies(European Society of Cardiology・2023)2023年ESC心筋症ガイドラインは表現型を起点とする分類を採り、LMNAなど突然死高リスク遺伝子型を持つDCMではLVEF>35%でも遺伝子ごとの追加危険因子(表21。LMNA・PLNはリスクスコア、FLNC短縮型・DSP・RBM20は遅延造影やLVEF<45%など)があればICDを考慮する(IIa)など、表現型だけでなく病因・遺伝子情報を管理に組み込んだ。また Task Force は不整脈を表現型横断の診断上の危険信号かつ予後規定因子として重視する一方、「ACM」という語は既存の分類体系と整合する形態的・機能的定義を欠くため心筋症の独立した下位型としては推奨しないと明記している(2.2節、原文 "did not recommend the use of the term ACM as a distinct cardiomyopathy subtype as it lacks a morphological or functional definition consistent with the existing classification scheme")閲覧 2026-08-25
  3. 3.Diagnosis of arrhythmogenic cardiomyopathy: The Padua criteria(International Journal of Cardiology・2020)線維脂肪性心筋置換が不整脈原性心筋症(ACM)に共通する表現型病理所見であること、2010年修正Task Force基準が右室優位型を対象に設計され左室優位型を診断できないという限界を持つこと、Padua基準が心臓MRIによる組織性状評価(遅延造影所見を含む)・心電図の脱分極/再分極異常・心室性不整脈の特徴に関する新基準を追加し、右室優位型・両室型・左室優位型のいずれのACMも診断対象に含めたことを確認した。閲覧 2026-08-25
  4. 4.Proposed diagnostic criteria for arrhythmogenic cardiomyopathy: European Task Force consensus report(European Task Force (International Journal of Cardiology)・2024)抄録(PMID 37844667)で、2019年の国際専門家報告が2010年修正Task Force基準についてARVCの診断には良好な精度を持つ一方で左室優位型(ALVC)・両室型(ABVC)を含む拡張した表現型スペクトラムを同定する感度に欠けると評価したこと、本報告が2020年のPadua基準を洗練したものとして欧州の専門家Task Forceにより作成されたこと、遅延造影(LGE)による心筋瘢痕の組織性状評価を取り込んで右室型・両室型・左室型を遺伝性か後天性のフェノコピーかを問わず特徴づけ、瘢痕を伴わない他の心筋疾患を除外する設計であること、心筋の遅延造影/瘢痕のリング状パターンがALVCの診断的特徴として認められたことを確認した。全文はペイウォールでPMC版も無く、抄録までを根拠とする。閲覧 2026-09-05
  5. 5.2022 ESC Guidelines for the management of patients with ventricular arrhythmias and the prevention of sudden cardiac death(European Society of Cardiology・2022)ICD一次予防はLVEF≤35%・NYHA II-III・GDMT3か月以上が中心適応だが、DCM/低収縮性非拡張型心筋症ではLVEFの閾値だけで一律に線引きしない閲覧 2026-08-25
  6. 6.A novel clinical risk prediction model for sudden cardiac death in hypertrophic cardiomyopathy (HCM Risk-SCD)(European Heart Journal・2014)HCM Risk-SCDは年齢・最大左室壁厚・左房径・最大左室流出路圧較差・突然死家族歴・非持続性心室頻拍・原因不明の失神の7変数をCox比例ハザード回帰モデルに入れ、個別化された5年SCDリスクを算出する予測モデルである閲覧 2026-08-25
  7. 7.Mavacamten for treatment of symptomatic obstructive hypertrophic cardiomyopathy (EXPLORER-HCM): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial(The Lancet・2020)左室流出路圧較差50 mmHg以上・NYHA II〜IIIの閉塞性肥大型心筋症251例を30週追跡した第3相EXPLORER-HCM試験で、心筋ミオシン阻害薬マバカムテンは主要評価項目(最高酸素摂取量1.5 mL/kg/分以上の増加かつNYHA 1段階以上の改善、または3.0 mL/kg/分以上の増加でNYHA悪化なし)を37%で達成した(プラセボ17%、差19.4ポイント、95%CI 8.7〜30.1、P=0.0005)。運動後の左室流出路圧較差も36 mmHg大きく低下した閲覧 2026-08-25
  8. 8.Overview of the 2023 ESC guidelines for the management of cardiomyopathies(Heart, Vessels and Transplantation・2023)2023年ESCガイドラインの解説論文で、推定5年SCDリスク6%以上でICD植込みを考慮すべき(Class IIa, Level B)、4%未満の低リスク例でもCMRの広範な遅延造影(LGE 15%以上)やLVEF 50%未満があれば共同意思決定でICD植込みを考慮しうる(Class IIb, Level B)と引用されていることを確認した(ESCガイドライン本体は403で未取得)閲覧 2026-08-25
  9. 9.Nonbiopsy Diagnosis of Cardiac Transthyretin Amyloidosis(Circulation・2016)心アミロイドーシスが疑われた1,217例(組織学的にアミロイドが確認された857例と非アミロイド心筋症360例)の多施設研究で、骨シンチグラフィのテクネシウム標識トレーサーの心筋集積は心ATTRアミロイドーシスに対して感度99%超・特異度86%であり、偽陽性はほぼAL型に限られた。grade 2または3の心筋集積があり、かつ血清・尿に単クローン性蛋白が無いという組み合わせは特異度・陽性的中率とも100%(95%CI 98.0〜100)で、生検なしに心ATTRアミロイドーシスを診断できる閲覧 2026-08-25
  10. 10.Tafamidis Treatment for Patients with Transthyretin Amyloid Cardiomyopathy(The New England Journal of Medicine(ATTR-ACT)・2018)トランスサイレチンアミロイド心筋症441例を30か月追跡した第3相ATTR-ACT試験で、タファミジスは全死因死亡を29.5%(プラセボ42.9%、ハザード比0.70、95%CI 0.51〜0.96)へ下げ、心血管関連入院の相対リスク比も0.68(年0.48回対0.70回)であった。6分間歩行距離とKCCQ-OSの低下速度も緩やかで、有害事象の頻度・種類はプラセボと同等であった閲覧 2026-08-25