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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

卵巣癌

Ovarian cancer

別名
卵巣がん卵巣・卵管・原発性腹膜癌
臓器系
腫瘍生殖・産婦人科
科目
PathologyGynecologyOncology
トピック
病理学 C/75:卵巣腫瘍婦人科 26:卵巣腫瘍の病因・臨床像・スクリーニング婦人科 27:卵巣腫瘍の病期・治療・病理腫瘍学 II-19:外陰・腟・卵巣腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断
鑑別疾患
Krukenberg腫瘍Meigs症候群卵巣機能性嚢胞・良性腫瘍
続発疾患
癌性腹膜炎傍腫瘍性小脳変性
関連疾患
乳癌
治療薬
カルボプラチンパクリタキセルシスプラチンベバシズマブオラパリブリポソーム化ドキソルビシン
症状
悪心異常子宮出血骨盤痛出血性交痛背部痛頻尿腹痛便秘腹部膨満早期満腹感
検査値
CA125HE4
スコア
ROMA
組織像
高異型度漿液性癌卵巣癌(嚢胞腺癌)高異型度漿液性癌漿液性卵巣腫瘍の良性・境界悪性・悪性スペクトラム卵巣子宮内膜症関連癌の分子機序
原因となる疾患
遺伝性乳癌卵巣癌症候群家族性大腸腺腫症・リンチ症候群子宮内膜症・子宮腺筋症
適応薬
エピルビシン

🧠 全体像:卵巣癌は「初期症状が非特異的でしやすく、平均リスク者に有効な集団検診がない」ためにで見つかりやすい癌である。最多のは、卵巣の表層上皮からではなくを起源とする——これは「くり返す排卵による表層上皮の傷害」という旧来の説からの大きなパラダイム転換である。診断は症状評価と専門チームへの紹介から始まり、治療は完全切除を目指す手術(または後の)とを軸に、BRCA・(HRD)に応じた維持療法で個別化する。

病態

発生母地と3つの主要カテゴリー

は正常卵巣を構成する3つの細胞型に対応し、それぞれ性質の異なる腫瘍群を形成する。

カテゴリー 好発年齢
卵巣を覆う(多くは上皮由来) 閉経前後〜閉経後(中高年)
最初の20年(若年女性)
卵巣間質・胚性 年齢層は組織型により様々

上皮性腫瘍が卵巣癌全体の大部分を占め、婦人科癌死亡の主要原因になっている。

高異型度漿液性癌の起源 — パラダイム転換

💡 従来は「くり返す排卵による表層上皮の傷害と修復(incessant ovulation説)」が卵巣癌発生の中心機序とされてきたが、現在は上皮性卵巣癌の中で最多を占めるの多くがに生じる(serous tubal intraepithelial carcinoma:STIC)を起源とし、から剥離した悪性細胞が卵巣・腹膜へ・播種するというモデルが標準的な理解になっている。この起源モデルは、リスク低減手術で卵管を確実に切除する意義や、卵管切除単独でもリスクを下げ得るという臨床的判断の根拠になっている。

進展様式

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fimbriae (of the uterine tube)'>卵管采</span>・卵巣<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary tumor'>原発腫瘍</span>(STIC起源が多い)"] --> B["細胞剥離"]
    B --> C["腹水・腹膜液流に沿う播種"]
    C --> D["Douglas窩・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paracolic gutters'>傍結腸溝</span>"]
    C --> E["右横隔膜下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic capsule'>肝被膜</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='greater omentum'>大網</span>"]
    C --> F["腸管漿膜・腸間膜"]
    F --> G["癌性イレウス"]
    A --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphatic'>リンパ行性</span>"]
    H --> I["骨盤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='para-aortic lymph node'>傍大動脈リンパ節</span>"]
    A --> J["血行性"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic parenchyma'>肝実質</span>・肺など(遠隔転移)"]

腹腔内の腹水・腹膜液の流れに沿ってDouglas窩、、右横隔膜下、へ播種しやすい。⚠️ への進展は(III期)、への進展は遠隔転移(IVB期)として扱われ、両者は病期上区別される。

病因とリスク因子

リスク上昇と関連 リスク低下と関連
加齢、・不妊、、遺伝性素因、排卵周期数の多さ()、閉経後、喫煙 経口避妊薬使用、妊娠・授乳、卵管・卵管切除

遺伝性リスクBRCA1BRCA2形式をとり、乳癌・卵巣癌(卵管・腹膜癌を含む)双方のリスクを高める(乳癌で詳述)。「BRCAで卵巣癌の5〜10%」というの話と、保有者個人の生涯リスクは別の指標であり混同しない。異常)、BRIP1RAD51CRAD51Dなどの関連遺伝子もリスクに関与する。乳癌・卵巣癌・・前立腺癌の家族歴、若年発症、多発癌があれば遺伝へつなぐ。Y染色体物質を持つではのリスクが高い。

臨床像

症状の進行

病期 症状・所見
初期 無症状のことが多い。持続する腹部膨満、骨盤・腹痛、、食欲低下、・頻尿
増大期 ・不整・固定性の、便秘、
腹水、増大、悪心・、貧血、、腸閉塞
急性発症 、出血による

⭐ 症状は非特異的だが、新規に出現し、頻回・持続し、進行する腹部膨満・・尿路症状は評価の対象とする。

機能性腫瘍による症状

一部の腫瘍はホルモンやその他の物質を産生し、腫瘤症状に先行して機能性症状を来すことがある。

  • エストロゲン産生():無月経、、思春期、閉経後はのリスク上昇。
  • アンドロゲン産生():、声の変化、などの男性化。
  • 甲状腺組織主体の):甲状腺機能亢進症状。
  • 腹水+胸水(線維腫):

診断

スクリーニング

⚠️ 平均リスクで無症状の女性に対する卵巣癌の集団スクリーニングは推奨されないは、・CA-125・による卵巣癌スクリーニングは死亡率を低下させず、偽陽性による不要な手術など害が利益を上回るとしている。「18〜40歳は1〜3年ごと、それ以後毎年のを検診として行う」という旧来の方法も、卵巣癌検診としての根拠はない。CA-125は月経、、骨盤内炎症、筋腫などでも上昇し、逆に早期癌では正常のことがあるため、集団検診の指標として不適切である。

一方で、症状がある患者や既に・腹水が確認されている患者でのCA-125・HE4・超音波はスクリーニングではなくリスク評価・診断のための検査である。CA-125とHE4を組み合わせたROMA(Risk of Ovarian Malignancy Algorithm)などのアルゴリズムは、閉経状態を加味しての悪性リスクを層別化し、専門医への紹介要否を判断するために用いる。

遺伝性高リスク者への対応

flowchart TD
    A["乳癌・卵巣癌の家族歴"] --> B["遺伝<span class='jp-term jp-term-diagram' title='counseling'>カウンセリング</span>"]
    B --> C["適応があれば多<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic testing'>遺伝子検査</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>なし/未確定"]
    D --> E["家族歴に応じた個別管理"]
    C --> F["BRCAなど<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>"]
    F --> G["妊娠希望と遺伝子別リスクを相談"]
    G --> H["適切な時期に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='RRSO'>リスク低減卵管卵巣摘出術</span>"]

保有者には、妊娠希望終了後、遺伝子別の推奨年齢にを提案する。高リスク者であってもCA-125・超音波による経過観察でリスクを代替できるという根拠はなく、RRSOの代わりにはならない。手術ではなどを用いてを詳細に病理検索し、STICの有無を確認する。

症状がある場合の評価と治療方針決定

flowchart TD
    A["持続する腹部膨満・骨盤症状、または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adnexal mass'>付属器腫瘤</span>"] --> B["妊娠反応・診察・経腟/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transabdominal ultrasound, TAUS'>経腹超音波</span>"]
    B --> C{"悪性を疑う所見・腹水があるか"}
    C -->|"あり"| D["胸腹骨盤CTで病変範囲・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resectability'>切除可能性</span>を評価"]
    C -->|"乏しい"| Z["良性として経過観察・他疾患を鑑別"]
    D --> E["CA-125・HE4等の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor markers'>腫瘍マーカー</span>(若年ではAFP・hCG・LDH・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibin'>インヒビン</span>も)"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Gynaecologic tumours'>婦人科腫瘍</span>専門チームで評価"]
    F --> G{"完全切除が見込めるか"}
    G -->|"はい"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary debulking surgery, PDS'>一次腫瘍減量手術</span>+手術<span class='jp-term jp-term-diagram' title='staging'>病期診断</span>"]
    G -->|"初回完全切除困難/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical risk'>手術リスク</span>大"| I["生検で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='histology'>組織診</span>断"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoadjuvant chemotherapy'>術前化学療法</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carboplatin'>カルボプラチン</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paclitaxel'>パクリタキセル</span>)"]
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interval debulking surgery'>中間腫瘍減量手術</span>"]
    H --> L["病理・病期・BRCA/HRD検査"]
    K --> L
    L --> M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adjuvant therapy'>補助療法</span>・維持療法を個別化"]

後のは、試験(EORTC 55971、CHORUS試験など)でNACT-IDSがPDSに対し生存でであることが示されており、治療法選択は病期そのものではなく、初回手術での肉眼的完全切除(残存腫瘍なし)が見込めるかどうかで決める。は画像所見、の広がり、全身状態、を総合して専門チームが判断する。⭐ いずれの経路でも、生存に最も強く関連する独立因子は肉眼的残存腫瘍のない完全切除である。

全上皮性卵巣癌で生殖細胞系列BRCA検査を含む遺伝学的評価を行い、腫瘍組織のHRD検査は維持療法選択に用いる。

病理分類

上皮性腫瘍の主な組織型

組織型 良性・・悪性の内訳 特徴 好発年齢/背景
漿液性腫瘍(最多) 良性()//悪性(漿液性 TP53異常がほぼ必発、BRCA/HRD関連。(層状石灰化)を伴うと予後良好な傾向。はMAPK経路異常を伴う緩徐な型 良性は30〜40歳、は若年(妊娠中に多い)、悪性は中高年
80%良性、10%、10%悪性(漿液性より悪性化しにくい) 悪性の77%は転移性(消化管・膵・胆管が原発)で、原発性は23%にとどまる。転移性のと呼ぶ 幅広い年齢層
大部分が悪性 )に発生しうる。異常・CTNNB1異常と関連。子宮体部原発を必ず除外する 中高年
大部分が悪性(・良性は稀) と関連。が高く、では予後不良 中高年
大部分が良性 片側性、線維性間質+様の胞巣(に類似) 中高年

悪性胚細胞腫瘍

若年者に多く、と妊孕性温存が診療の軸になる。

腫瘍 マーカー 特徴
LDH、一部でhCG 最多の悪性に関連することがあり、化学療法感受性が高い
通常なし(良性) 3胚葉すべてを含む成熟組織。毛髪・物質、歯・骨・軟骨・甲状腺・神経組織を伴う
通常は特異的マーカーなし 大きく・壊死性。未熟神経上皮の量でグレード評価し、進行性・転移性になりうる
AFP 。急速増大
AFP、hCG 稀で
hCG 早期に、出血しやすい

性索間質性腫瘍

腫瘍 ホルモン産生・マーカー 特徴
線維腫 なし 最も多い。良性。腹水+胸水を来すと
エストロゲン産生 良性。高齢女性に多く、のリスクを上げる
エストロゲン産生、 最も一般的な悪性。悪性の経過をとるが緩徐で、遅発性再発(数年〜数十年後)が特徴。(腺様腔)を認める
アンドロゲン産生 若年女性に多い。男性化を来す。低分化なほど予後不良
通常機能性を欠く 良性。卵巣では稀(精巣で多い)

病期分類(FIGO 2014)

卵巣癌・は、細胞起源を共有する一連の疾患スペクトラムとして共通ので扱う。

病期 定義
IA 卵巣/卵管に限局、被膜intact、表面腫瘍なし、腹水・洗浄細胞診陰性
IB 両側卵巣/卵管に限局し、IAと同じ条件
IC1 術中の被膜破綻・
IC2 術前の被膜破綻、または卵巣/卵管表面腫瘍
IC3 腹水または陽性
IIA 子宮・卵管・卵巣への進展/播種
IIB その他の骨盤内腹腔臓器への進展
IIIA1 のみ(転移最大径10 mm以下をi、10 mm超をiiに細分)
IIIA2 骨盤外腹膜の顕微鏡的転移(リンパ節転移の有無を問わない)
IIIB 骨盤外腹膜の肉眼的転移 ≤2 cm
IIIC 骨盤外腹膜の肉眼的転移 >2 cm。肝・脾被膜への進展を含む
IVA 細胞診陽性の胸水
IVB 肝・脾実質などの遠隔臓器転移、または腹腔節転移

治療

早期病変

  • 完全な手術(腹腔内観察、腹水/洗浄細胞診、・リンパ節評価を含む)を行い、組織型・グレード・IC細分類で術後化学療法の必要性を決める。
  • 厳密に選択したIA期・低リスク組織型では、子宮と対側卵巣を温存した片側付属器切除による妊孕性温存手術を検討できる。
  • ⚠️「早く妊娠してからを行う」という一律の指示ではなく、再発リスク・妊孕性計画・経過観察の方針を患者とする。

進行期上皮性癌

  • 、または後ののいずれかで、肉眼的残存腫瘍のない完全切除(complete gross resection)を目指す(前掲の診断・治療決定フロー参照)。
  • 標準的な初回化学療法はである。悪性では代わりにシスプラチンを含む療法を用いる。
  • 病期・残存・組織型に応じ、化学療法にを併用し、その後も維持療法として継続することを検討する。
  • 維持療法BRCA1/2変異や(HRD)を有する進行卵巣癌では、初回化学療法後の維持療法として(SOLO1試験:BRCA変異例でを改善)やニラパリブ(PRIMA試験:BRCA変異の有無を問わない全体集団で有効性を示し、HRD陽性例で効果が大きい)が用いられる。効果の大きさはBRCA変異>HRD陽性(BRCA野生型)>HRD陰性の順に小さくなる。
  • は歴史的治療であり、現在の標準治療ではない。

悪性胚細胞腫瘍

多くで妊孕性温存手術(患側付属器切除、子宮・対側卵巣温存)が可能である。病期・組織型に応じ、術後になどの化学療法を行う。は化学療法感受性が高い。

性索間質性腫瘍

手術が治療の中心で、多くは早期発見・良好な予後を示す。は再発が遅発性(数年〜数十年後)のため、・エストラジオールなどのマーカーと画像による長期の経過観察を要する。・高リスク例では術後化学療法を検討する。

治療後の経過観察

  • CA-125は上皮性癌の治療反応・再発評価に用いるが、単独の上昇だけで再発治療の開始を決めない。
  • CA-125は平均リスク無症状者のスクリーニングには使わない(前述)。
  • 症状、診察、画像、、治療毒性、妊孕性・・遺伝的課題を含めて総合的に追跡する。

まとめ

  • 卵巣・卵管・は共通の細胞起源(多くはのSTIC)を持つ一連の疾患スペクトラムとして、共通ので扱う。
  • 平均リスクで無症状の女性へのCA-125・による集団スクリーニングは推奨されない。症状がある場合や既知の腫瘤があるときのCA-125・HE4・画像はスクリーニングではなくリスク評価・診断の検査である。
  • 上皮性腫瘍(漿液性・・類内膜・明細胞・Brenner)、など)、(線維腫・など)は、好発年齢、、ホルモン産生の有無で鑑別する。
  • は病期そのものより「初回手術で肉眼的完全切除が見込めるか」でを選び、±と、BRCA・HRDに応じた維持療法(、ニラパリブ)で個別化する。
  • BRCA1/2保有者では、妊娠希望終了後のが主要な予防戦略であり、CA-125・超音波による経過観察はその代替にならない。