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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 症候群

Meigs症候群

Meigs syndrome

臓器系
生殖・産婦人科呼吸器
科目
GynecologyPathology
トピック
婦人科 25:卵巣の良性腫瘍病理学 C/75:卵巣腫瘍
上位概念
卵巣機能性嚢胞・良性腫瘍
鑑別疾患
卵巣癌
続発疾患
胸水
症状
腹水呼吸困難
検査値
CA125

🧠 全体像は「①良性の(典型は線維腫)②腹水 ③胸水」という3所見の組み合わせだけでは定義が完結しない病態である。核心は④腫瘍を切除すると腹水・胸水がともに消失するという経過まで含めて初めて診断名として成立する点にあり、切除前の段階では「良性なのに悪性のように見える」という診断上の罠がこの症候群の臨床的本質を作っている。特にCA-125が上昇しうるため、画像・だけで進行卵巣癌と区別できない——ここを見誤ると、良性疾患に対して不必要に拡大した手術(進行卵巣癌に準じたなど)を行ってしまう。

病態

は1954年の定義に基づき、次の4要素で構成される1

  1. 良性のの線維腫が最多。でも報告がある)
  2. 腹水
  3. 胸水
  4. 腫瘍切除後に腹水・胸水がともに消失すること

⭐ この4番目の「消失すること」を欠いた「腫瘍+腹水+胸水」の3徴だけでは、と確定診断できない。切除して初めてに診断が完成するという性質を理解しておく。

flowchart TD
    A["卵巣線維腫など<br>良性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sex cord-stromal tumor'>性索間質性腫瘍</span>"] --> B["腫瘍表面からの体液漏出<br>骨盤・腹部リンパ管の圧迫<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymph flow'>リンパ流</span>の閉塞"]
    B --> C["腹水"]
    C --> D["横隔膜またはリンパ路を介して<br>腹水が胸腔へ移動"]
    D --> E["胸水(右側に多い)"]
    A --> F["腫瘍切除"]
    F --> G["腹水・胸水がともに消失<br>= <span class='jp-term jp-term-diagram' title='Meigs syndrome'>Meigs症候群</span>の診断が確定"]

腹水の機序は単一ではなく、の線維腫組織からの体液漏出、腫瘍による骨盤・腹部リンパ管への圧迫、閉塞などが提唱されている。胸水は大部分が腹水そのものが横隔膜またはリンパ路を通って胸腔へ移動したものであり、胸水の分布は右側が約70%、左側15%、両側15%と右側に偏る1。💡 横隔膜には右側の方が構造的に体液を通しやすい部位(横隔膜の孔・リンパ管)があるとされ、これが右側優位の理由として理解されている。

⭐ 稀な病態であり、卵巣線維腫・線維肉腫のうち腹水・胸水を伴って見つかるものは約1%にとどまる2

臨床像

多くは閉経後の女性で、骨盤腫瘤に伴う・違和感、胸水による、進行すると腹水による腹部膨隆・疼痛を来す。診察では、腹水による、胸水側のを認める。

診断

⚠️ CA-125はでも上昇しうる。上昇の機序は腫瘍そのものの悪性化ではなく、腹水・胸水による胸膜・腹膜(漿膜面)の物理的刺激・炎症がCA-125産生を誘導するためと考えられており、この機序はの発育そのものに伴うCA-125上昇と同じ原理である2。系統的レビューで抽出されたCA-125上昇例では149〜3803 IU/mLに及ぶ報告があり、進行卵巣癌を疑わせるレベルまで上昇することがある2

この結果、画像所見(腫瘤+腹水+胸水)と上昇だけでは、進行卵巣癌から鑑別できない。両者はいずれも「+腹水+胸水+CA-125上昇」という同じ組み合わせを取りうるため、術前に完全に除外することは難しく、最終的な鑑別は摘出標本のに委ねられることが多い12

は、線維腫以外の良性腫瘍(など)や悪性腫瘍・が同様に腹水・胸水を来す病態を指し、真の(線維腫・)とは区別される1

病態 原因腫瘍 腫瘍切除で腹水・胸水は消失するか
線維腫・など良性腫瘍 消失する(そのもの)
など線維腫以外の良性腫瘍、または悪性腫瘍・ 良性が原因なら消失しうるが、悪性が原因なら消失せず再発しうる
進行卵巣癌 悪性腫瘍の 消失しない(腫瘍が残存すれば腹水・胸水も持続)

⚠️ CA-125上昇と画像上の悪性所見類似から進行卵巣癌とされ、不必要に拡大した手術(広範な、リンパ節郭清など)につながった報告がある2。良性・悪性いずれの可能性も念頭に置いた術中判断(迅速病理など)が重要になる。

治療

治療は腫瘍の外科的切除であり、これのみで治癒する。挙児希望のある年齢では片側付属器切除、閉経後ではが標準的である1。⭐ 切除後は腹水・胸水がともに消失するという経過そのものが診断を確定させる所見であり、術後の生命予後は一般人口と同等とされる1

まとめ

  • は「良性(典型は線維腫)+腹水+胸水+切除後の腹水・胸水の消失」という4要素で完成する診断であり、切除前の3徴だけでは確定しない。
  • 胸水は腹水が横隔膜・リンパ路を介して胸腔へ移動したもので、右側に多い(約70%)。
  • ⚠️ CA-125は漿膜面の物理的刺激で上昇しうるため、画像・だけでは進行卵巣癌と鑑別できない。偽(線維腫以外の良性・悪性腫瘍による同様の病態)との区別も必要。
  • 治療は腫瘍の外科的切除で、切除後の予後は良好(一般人口と同等)。

出典

  1. 1.Meigs Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)Meigs症候群は「良性卵巣腫瘍(線維腫・莢膜細胞腫・顆粒膜細胞腫・Brenner腫瘍など)+腹水+胸水+腫瘍切除後の腹水・胸水の消失」という4要素の組み合わせで定義されること(1954年の定義)。胸水は右側約70%・左側15%・両側15%の分布であること。胸水はほとんどが横隔膜またはリンパ路を介した腹水の移動によって生じ、腹水は浮腫状の線維腫からの漏出・腫瘍による骨盤/腹部リンパ管の圧迫・リンパ流閉塞などが機序として提唱されていること。CA-125が上昇しうるため卵巣癌と誤診されやすいこと。pseudo-Meigs症候群は線維腫以外の良性・悪性腫瘍で同様の腹水・胸水を来す病態であること。挙児希望があれば片側付属器切除、閉経後は単純子宮全摘+両側付属器切除が標準治療であり、切除後の生命予後は一般人口と同等であること閲覧 2026-08-11
  2. 2.Meigs Syndrome and Elevated CA-125: Case Report and Literature Review of an Unusual Presentation Mimicking Ovarian Cancer(Medicina (MDPI)・2023)卵巣線維腫・線維肉腫が腹水・胸水を伴って発見される頻度は約1%にとどまり、Meigs症候群自体が稀であること。CA-125上昇の機序は悪性化ではなく、腹水・胸水による胸膜・腹膜(漿膜面)の物理的刺激・炎症でCA-125産生が誘導されるためと考えられること。この機序は卵巣腫瘍そのものの発育に伴うCA-125上昇と同じ原理であること。系統的レビューで抽出したMeigs症候群でCA-125が上昇した症例では149〜3803 IU/mLの範囲に及んだこと。CA-125上昇を伴うMeigs症候群は卵巣癌と誤診され、不必要に拡大した手術につながりうること閲覧 2026-08-11