婦人科学

婦人科学 · 25

卵巣の良性腫瘍

Benign neoplasms of ovaries

前提:病態
卵巣腫瘍
前提:正常
女性生殖:卵巣始原生殖細胞
疾患
Meigs症候群腹膜偽粘液腫卵巣奇形腫卵巣機能性嚢胞・良性腫瘍莢膜細胞腫
検査値
糖鎖抗原125
画像所見
壁在結節
スコア
IOTAモデル

🧠 全体像:は上皮性、、に分類する。良性腫瘍でも捻転・破裂・ホルモン産生を起こし、画像だけで悪性を完全に除外できないため、年齢・超音波形態・・増大を統合する。

発生細胞による分類

系統 主な良性腫瘍 重要な関連所見
上皮性 、、 、巨大化、・悪性型との鑑別
線維腫、 エストロゲン産生、
脂肪、毛髪、歯、石灰化、捻転

上皮性腫瘍

漿液性嚢胞腺腫

  • 良性上皮性で、またはとなる。
  • 約10%は両側性で、中年に多い。
  • 石灰化した構造であるを認めることがあるが、悪性でより一般的である。
  • が目立つととなる。

⚠️ は上皮を起源とすることが多いが、良性すべてが卵管末端から播種して生じるわけではない。

粘液性嚢胞腺腫

  • で非常に大きくなりうるが、良性例では片側性が多い。
  • 上皮はまたは内頸管型の上皮に似る。
  • 卵巣を疑ったら、消化管・虫垂原発のを除外する。

は多くが虫垂原発であり、良性卵巣から生じると単純には考えない。虫垂が肉眼的に正常で、原発性と判断できる場合のルーチンは一律には必要ない。

Brenner腫瘍

は、密な内に様細胞巣を持つ、多くは小型・・良性の上皮性腫瘍である。肉眼的にに似る。

💡 は「見つかる小さな腫瘍」で、と併存する。 良性9例の検討では平均年齢58歳、9例中7例がで、径0.2〜7.5 cmと幅があった。6例にWalthard細胞巣、4例に化生を伴い、2例でを合併していた(同側・対側各1例)。巨大な嚢胞では小さなBrenner成分を見落としうるため、病理サンプリングを十分に行う。1

性索間質性腫瘍

線維腫・莢膜細胞腫

  • 線維腫は中年以降に多い、平滑での良性腫瘍で、ホルモン非産生である。
  • 腫瘍表面からの漏出で腹水を生じ、右側胸水を伴うことがある。
  • +腹水+胸水をといい、腫瘍切除後に消失する。線維腫に限らず、・線維・・など全般で起こりうる。

⚠️ は卵巣癌に見える。 良性に腹水・胸水を伴い、まで上昇しうる(液の量は腫瘍径ではなく値と相関する)ため、進行卵巣癌との鑑別が問題になる。腫瘍切除で腹水・胸水が消失することが確認の決め手であり、術前に癌と決めつけない。2

ホルモン産生腫瘍

腫瘍 ホルモン・症状 注意点
エストロゲン、思春期・AUB・ 悪性腫瘍であり、良性腫瘍には含めない。子宮内膜を評価
Sertoli– アンドロゲン、男性化、低い声、、 悪性度はで異なる
女性化・男性化成分が混在 稀な

胚細胞腫瘍

成熟嚢胞性奇形腫

(mature cystic teratoma/dermoid cyst)は、生殖年齢で最も一般的な良性の一つであり、若年女性の卵巣の69%を占める3。

  • 外胚葉・中胚葉・内胚葉の成熟組織からなり、皮膚、、毛髪、歯、骨、軟骨、甲状腺、腸管、神経組織などを含みうる。
  • 多くは<10 cmで緩徐に増大し、両側性もある。
  • Rokitansky隆起(dermoid plug)には歯・骨などが集中することがあり、超音波でこれを認めればの強い証拠となる3。
  • 約20%は無症状で発見される3。
  • 脂肪成分により超音波・・で特徴的な像を示す。
  • 捻転が主要合併症で、稀に成熟成分から扁平上皮癌などが発生する。は稀だが高齢女性で起こりやすい3。

はの単純な「悪性化」ではなく、別の悪性である。

性腺芽腫

は胚細胞と細胞からなり、Y染色体物質を持つで生じやすい。などの悪性を伴うリスクがあり、「安全な良性腫瘍」として経過観察しない。

悪性胚細胞腫瘍との鑑別

腫瘍 主なマーカー
LDH、一部で
、
非

これらは胚細胞系の鑑別として重要だが、良性ではない。

臨床像

  • 小さい腫瘍は無症状で、増大すると骨盤圧迫感、腹部膨満、頻尿、悪心などを生じる。
  • 捻転では急激な片側痛、悪心・嘔吐が起こる。
  • 破裂ではや出血を来す。
  • エストロゲン・ではAUB、思春期、男性化を認める。

診断と治療

で大きさ、・、、、血流、腹水を評価する。閉経状態、家族歴、CA-125、胚細胞マーカーなどを症例に応じて追加する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adnexal mass'>付属器腫瘤</span>"] --> B["超音波で形態評価"]
    B --> C["典型的良性・無症状"]
    C --> D["経過観察"]
    B --> E["症候性・増大・捻転リスク"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian preservation'>卵巣温存</span>を意識した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cystectomy'>嚢胞摘出</span>"]
    B --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='suspicious for malignancy'>悪性疑い</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Gynaecologic tumours'>婦人科腫瘍</span>専門医へ紹介"]
  • 典型的良性で無症状なら超音波追跡が可能である。
  • 症候性、増大、診断不確実、捻転リスクが高い場合は手術を検討する。
  • 生殖年齢では、閉経後は悪性リスクと患者希望に応じを選ぶ。

💡 の可否は「正常卵巣組織が残っているか」で決まる。 術前超音波で腫瘍の縁に正常卵巣実質がに見える所見をovarian crescent sign(卵巣)といい、これを明示的に報告するとの判断が改善する。加えて、この正常組織に浮腫があれば良性腫瘍におけるを早く見つけられる。とくに小児・思春期例では不要なを避ける意義が大きい。4

まとめ

  • は上皮性、、ので分類する。
  • はの成熟組織を含み、捻転と稀なに注意する。手術では卵巣を手掛かりにを図る。
  • 、、などを「良性腫瘍」と誤分類せず、画像・マーカー・病理で評価する。

出典

  1. 1.Brenner Tumor of the Ovary: A 10-Year Single Institution Experience and Comprehensive Review of the Literature(Medical Sciences・2023)良性Brenner腫瘍9例の検討で、**診断時平均年齢58歳**、**9例中7例が偶発的に発見**され、大きさは0.2〜7.5 cmであったこと。**9例中6例にWalthard細胞巣**、4例に卵巣表面上皮または卵管上皮の移行上皮化生を伴ったこと。**2例で粘液性嚢胞腺腫を合併**(同側1例、対側1例)しており、**Brenner腫瘍と粘液性嚢胞腺腫の関連を病理医・術者が意識する必要がある**こと閲覧 2026-08-21
  2. 2.18F-FDG PET/CT features of Meigs syndrome induced by ovarian sex cord stromal tumors: a retrospective clinical study(Scientific Reports・2024)Meigs症候群が**卵巣性索間質性腫瘍全般**によって起こりうること(21例を解析)。**良性卵巣腫瘍に腹水・胸水を伴い、CA-125が上昇しうる**ため卵巣癌との鑑別が必要であること。卵巣癌による偽Meigs症候群(69例)と比べ、Meigs症候群では腫瘍のSUVmax・SUVmeanが有意に低いこと。漿膜腔液の量は腫瘍径やSUVとは無関係で、CA-125値と正の相関を示したこと閲覧 2026-08-21
  3. 3.Mature Cystic Teratoma: An Integrated Review(International Journal of Molecular Sciences・2023)成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)が**若年女性の卵巣胚細胞腫瘍の69%**を占めること。三胚葉由来の組織からなり脂腺成分が最も多いこと。減数第一分裂を完了した胚細胞由来と広く考えられていること。**約20%は無症状**であること。超音波で診断されることが多く、**dermoid plug(Rokitansky結節)は奇形腫の強い証拠**とされること。**悪性転化は稀だが高齢女性で起こりうる**こと。治療は悪性リスク・年齢・妊孕性温存の必要性で決まること閲覧 2026-08-21
  4. 4.A maturing approach to the assessment of ovarian teratomas(Best Practice & Research Clinical Obstetrics & Gynaecology・2026)卵巣奇形腫が主に嚢胞性だが充実性のこともあり悪性に似うること。**卵巣温存の可否は「腫瘍の周囲に正常卵巣組織があるか」の判断に依存**し、術前超音波で正常卵巣組織を確認できると臨床判断が改善すること。この所見を**ovarian crescent sign(卵巣三日月徴候)**と呼び、明示的に報告すべきこと。この徴候を評価に組み込むと、**付随する正常卵巣組織の浮腫から良性腫瘍における卵巣捻転を早く認識**できること閲覧 2026-08-21