婦人科学

婦人科学 · 24

卵巣機能性嚢胞

Functional cysts of ovaries

前提:病態
卵巣・卵管の非腫瘍性疾患
前提:正常
女性生殖:卵巣女性性内分泌学
疾患
卵巣機能性嚢胞・良性腫瘍
症状
骨盤痛
検査値
糖鎖抗原125
スコア
IOTAモデルO-RADS US(卵巣・付属器画像報告データシステム)悪性リスク指数(RMI)

🧠 全体像:機能性卵巣嚢胞は排卵周期や過剰なゴナドトロピン刺激で生じ、多くは自然消退する。診療の要点は、妊娠・捻転・破裂を見逃さず、超音波形態と閉経状態から腫瘍性病変を選別することである。

卵巣腫瘤の全体分類

卵巣腫瘤を発生機序で整理すると次のようになる。

大分類 代表病変
機能性 、、
炎症性
腫瘍性 良性、、悪性腫瘍
その他 、PMOS(従来PCOS)の多卵胞性形態、

は生殖年齢で一般的であり、腫瘍ではない。

機能性嚢胞の種類

卵胞嚢胞

はが排卵せずに増大したものと考えられる。

  • 刺激の持続、サージまたは卵胞破裂の不成立が関与する。
  • 多くは無症状だが、片側の重圧感、、月経遅延、を生じる。
  • からのエストラジオール分泌が続くと、を来すことがある。
  • PMOS(従来PCOS)の小卵胞は機能性と同一ではない。

黄体嚢胞・出血性嚢胞

は、排卵後の黄体が退縮せず拡大したものである。

  • 黄体へのにより内部出血すると、となる。
  • 鈍い片側から、破裂による・まで幅がある。
  • 妊娠初期には黄体が妊娠維持に重要なため、手術適応と術式を慎重に判断する。

莢膜ルテイン嚢胞

は、過剰な(human chorionic gonadotropin:)刺激により莢膜が・肥大して生じる。

  • 、、・に関連する。
  • 通常は両側性・で、卵巣が著明に腫大する。
  • 捻転、出血、破裂のリスクがあるが、低下とともにすることが多い。

妊娠黄体腫

は、妊娠中の刺激に反応するの過形成である。

  • 褐色〜赤褐色のまたは嚢胞性結節を形成し、・と関連することがある。
  • アンドロゲン産生により母体男性化、稀に女児胎児のを来す。
  • 分娩後にするため、不必要なを避ける。

卵巣過剰刺激症候群

は、後の多発嚢胞とにより、血管内脱水、腹水、、血栓、腎・を起こす病態である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovulation induction'>排卵誘発</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human chorionic gonadotropin'>hCG</span>刺激"] --> B["多数の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinization'>黄体化</span>卵胞"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased vascular permeability'>血管透過性亢進</span>"]
    C --> D["腹水・胸水"]
    C --> E["血管内脱水・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemoconcentration'>血液濃縮</span>"]
    E --> F["血栓・腎障害・循環不全"]

呼吸困難、乏尿、急速な増加、血栓症状は緊急評価を要する。

臨床像と急性合併症

  • 多くは無症状で、月経遅延、、片側で発見される。
  • 捻転では突然の片側痛、悪心・嘔吐を伴う。
  • 破裂・出血では急性下腹痛を生じ、循環不安定や大量を来しうる。
  • 鑑別には、、虫垂炎、、腫瘍性がある。

診断

初期評価

  1. 生殖可能年齢ではを確認する。
  2. で大きさ、・、壁・隔壁、、、血流、腹水、両側性を評価する。
  3. 疼痛が強ければ捻転・破裂・出血を優先して評価する。
  4. 年齢、閉経状態、家族歴、を必要に応じて統合する。
良性を示唆 悪性を疑う
、薄い平滑な壁、単純液() 不整な、、厚い隔壁・、強い血流、腹水

💡 「」の陰性所見としての強さは数字で裏づけられている。 72,093人のコホートで、超音波所見は卵巣癌をよく予測し(C統計量0.89)、複雑嚢胞・は正常卵巣に対する尤度比8〜74であった。対照的には癌リスクの上昇と関連せず、尤度比は50歳未満で0.00、50歳以上でも0.10、3年は1,000人あたり0〜0.5例だった。1

悪性リスク指数

閉経後卵巣腫瘤で用いられる古典的I(Risk of Malignancy Index I:RMI I)は次式である。

RMI I = U × M × CA-125

因子 点数
超音波スコアU 、、転移、腹水、両側性の0項目=0、1項目=1、2項目以上=3
閉経スコアM 閉経前=1、閉経後=3
CA-125 実測値(U/mL)

RMI I ≥200は専門診療への紹介を考える目安だが、単独で診断せず、現在はやモデルなどの形態リスク評価も用いる。正常でも悪性を除外できない。

⚠️ RMIは古典的指標であり、閉経後では置き換えが提案されている。 卵巣癌が疑われる有症状の閉経後患者1,242例(17%が原発卵巣癌)でモデルを直接比較したROCkeTS研究では、英国NHSの標準だったRMI1(閾値250)の感度82.9%・特異度87.4%に対し、 ADNEX 10%は感度が13.9%ポイント高く、特異度の低下を伴うものの新たな標準診断とすべきとされた。「RMIが唯一の紹介基準」と覚えない。2

管理

  • 典型的なは経過観察し、数か月後の超音波で消退を確認する。思春期のは8週以内に消えることが多く、無症状のは3か月の観察が目安になる。
  • は新規のの発生を減らす目的で用いられる。既存嚢胞の消退を速める効果を期待して処方するものではない。

💡 の安全性は前向きデータで裏づけられている。 超音波で良性と判断され保存的に管理された新規1,919例で、2年以内に20.2%がし、手術で浸潤癌が見つかったのは0.4%にとどまった。良性形態であれば、悪性も急性合併症も低頻度である。3

  • 持続・増大、複雑形態、強い症状、捻転・破裂・出血、では手術または専門紹介を行う。
  • 生殖年齢では可能ならを選ぶ。
  • 閉経後でも嚢胞径のみで一律にしない。閉経後のも癌リスクの上昇と関連しないため(50歳以上の尤度比0.10)、小さな片側・のでは追跡を要しないとする指針がある。施設で採用しているガイドライン版と閾値を確認する。1

まとめ

  • は、、に分け、多くはする。
  • と超音波形態を基本に、捻転・破裂・OHSSを別に評価する。
  • 手術適応はサイズだけで決めず、症状、持続性、形態、閉経状態、悪性リスクを統合する。

出典

  1. 1.Risk of Malignant Ovarian Cancer Based on Ultrasonography Findings in a Large Unselected Population(JAMA Internal Medicine・2019)骨盤超音波を受けた72,093人の入れ子症例対照研究で、超音波所見が卵巣癌をよく予測した(C統計量0.89)こと。**複雑嚢胞や充実性腫瘤では正常卵巣に対する尤度比が8〜74**、3年リスクが1,000人あたり9〜430例に達したこと。一方**単純嚢胞は卵巣癌リスクの上昇と関連せず**、尤度比は50歳未満で0.00、**50歳以上でも0.10**(95%CI 0.01–0.48)、3年絶対リスクは1,000人あたり0〜0.5例にとどまったこと閲覧 2026-08-21
  2. 2.Risk-prediction models in postmenopausal patients with symptoms of suspected ovarian cancer in the UK (ROCkeTS): a multicentre, prospective diagnostic accuracy study(The Lancet Oncology・2024)卵巣癌が疑われる有症状の閉経後患者1,242例(うち17%が原発卵巣癌)でリスク予測モデルを直接比較した前向き診断精度研究で、英国NHSの標準であった**RMI1(閾値250)の感度82.9%・特異度87.4%**に対し、**IOTA ADNEX 10%は感度が13.9%ポイント高かった**こと。特異度の低下を伴うものの、**IOTA ADNEX 10%を閉経後患者の新たな標準診断とすべき**と結論したこと閲覧 2026-08-21
  3. 3.Risk of complications in patients with conservatively managed ovarian tumours (IOTA5): a 2-year interim analysis of a multicentre, prospective, cohort study(The Lancet Oncology・2019)超音波で良性と判断され保存的に管理された付属器腫瘤の前向きコホート(IOTA5、新規腫瘤1,919例)で、**2年以内の自然消失は20.2%**(95%CI 18.4–22.1)、**手術で浸潤癌が見つかったのは0.4%**(95%CI 0.1–0.6)であったこと。**超音波形態が良性であれば悪性と急性合併症のリスクは低く、保存的管理が支持される**こと閲覧 2026-08-21