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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 疾患

卵巣機能性嚢胞・良性腫瘍

Benign ovarian cysts and neoplasms

別名
卵巣嚢胞皮様嚢胞腫dermoid cyst
臓器系
生殖・産婦人科
科目
Gynecology
トピック
婦人科 24:卵巣機能性嚢胞婦人科 25:卵巣の良性腫瘍
鑑別疾患
子宮内膜症・子宮腺筋症多嚢胞性卵巣症候群卵巣癌
続発疾患
精巣捻転・卵巣捻転
症状
悪心異常子宮出血呼吸困難骨盤痛頻尿乏尿
検査値
CA125HE4
画像所見
超音波エコー輝度
スコア
O-RADS USROMA悪性リスク指数
組織像
成熟奇形腫卵巣成熟嚢胞性奇形腫(類皮嚢胞)卵巣成熟嚢胞性奇形腫卵胞嚢胞卵巣成熟嚢胞性奇形腫卵巣成熟嚢胞性奇形腫卵巣濾胞嚢胞(肉眼像)卵巣濾胞嚢胞
下位分類
Meigs症候群

🧠 全体像:卵巣腫瘤の大半は良性で、大きく「(排卵周期に伴う一過性の変化で、多くは自然消退する)」と「真の良性腫瘍(上皮性・に分かれ、消退しない)」に分けられる。この2つを混同しないことが診療の出発点である。良性か悪性かは超音波形態・年齢(閉経状態)・を統合して判断し、サイズ単独や検査単独で決めない。急性期には・破裂という「良性でも起こりうる外科的緊急症」を見逃さないことが優先される。

病態

卵巣腫瘤の全体像 — 機能性 vs 腫瘍性

卵巣腫瘤はまず発生機序で大きく分類する。

分類 本態 代表病変
機能性 排卵周期・ゴナドトロピン刺激に伴う一過性の変化。腫瘍ではない
腫瘍性(良性) 真の新生物。自然消退しない 漿液性・、線維腫、
その他 機能性・腫瘍性のいずれとも異なる病態 )、の多卵胞性形態、

⚠️ PMOS(従来のPCOS)で見える多数の小胞状構造は発育停止したであり、真の病的嚢胞ではない。と同一視しない(を参照)。同様に、に伴う一過性変化ではなく持続する異所性内膜組織由来であり、には含めない(を参照)。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adnexal mass'>付属器腫瘤</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional ovarian cyst'>機能性嚢胞</span>"]
    A --> C["良性腫瘍"]
    A --> D["その他(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endometrioma'>子宮内膜症性嚢胞</span>・PMOS・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paraovarian cyst'>傍卵巣嚢胞</span>)"]
    A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='borderline malignant'>境界悪性</span>・悪性腫瘍"]
    B --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular cyst'>卵胞嚢胞</span>"]
    B --> B2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corpus luteum cyst'>黄体嚢胞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic cyst'>出血性嚢胞</span>"]
    B --> B3["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='theca-lutein cyst'>莢膜ルテイン嚢胞</span>"]
    C --> C1["上皮性:漿液性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mucinous cystadenoma'>粘液性嚢胞腺腫</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Brenner tumor'>Brenner腫瘍</span>"]
    C --> C2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='germ cell'>胚細胞性</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dermoid'>成熟嚢胞性奇形腫</span>"]
    C --> C3["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sex cord-stromal'>性索間質性</span>:線維腫・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thecoma'>莢膜細胞腫</span>"]

機能性嚢胞

  • が排卵せず増大したもの。FSH刺激の持続や不成立が関与し、多くは無症状で自然消退する。
  • :排卵後の黄体が退縮せず拡大したもの。黄体への血管侵入で内部出血するととなり、破裂すればを来しうる。妊娠初期は黄体が妊娠維持に重要なため、手術適応・術式を慎重に判断する。
  • :過剰なhCG刺激()で莢膜・肥大したもの。両側性・で著明に腫大するが、hCG低下とともにすることが多い。

💡 は「病理」ではなく「排卵周期の生理的変化が誇張されたもの」と捉えると、多くが数週〜数か月で自然消退し、一律の手術を要しない理由が理解しやすい。

良性腫瘍

により上皮性・の3系統に分ける(この分類は卵巣癌の悪性腫瘍分類と共通の枠組みである)。

系統 代表的な良性腫瘍 特徴
上皮性 は非常に大きくなりうる。で線維腫に類似
3胚葉の成熟組織(脂肪、毛髪、歯、骨など)を含む。生殖年齢で最多の良性
線維腫、 線維腫はホルモン非産生で腹水・胸水()を来しうる。はエストロゲン産生性

は生殖年齢で最も一般的な良性であり、外胚葉・中胚葉・内胚葉由来の成熟組織(皮膚、、毛髪、歯、骨、軟骨、甲状腺組織、腸管、神経組織など)を含む。脂肪成分により超音波・CTで特徴的な像を示し、両側性のこともある。⭐ 主要な合併症はであり、稀に成熟組織から扁平上皮癌などのが発生する。

⚠️ 悪性腫瘍であり、良性腫瘍に含めない。もY染色体物質を持つで生じやすく、など悪性を伴うリスクがあるため「安全な良性腫瘍」として経過観察しない(詳細は卵巣癌を参照)。

卵巣過剰刺激症候群(機能性嚢胞の特殊な文脈)

後にhCG刺激で多数の卵胞が生じ、により腹水・血管内脱水・血栓・腎障害を来す病態である。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovulation induction'>排卵誘発</span>+hCG刺激"] --> B["多数の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinization'>黄体化</span>卵胞"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased vascular permeability'>血管透過性亢進</span>"]
    C --> D["腹水・胸水"]
    C --> E["血管内脱水・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemoconcentration'>血液濃縮</span>"]
    E --> F["血栓・腎障害・循環不全"]

呼吸困難、乏尿、急速な増加、血栓症状は緊急評価を要する。

臨床像

病態 主な症状・所見
(無症候) 多くは無症状で画像検査時に偶発的に発見される
(有症候) 片側の重圧感、、月経遅延・
良性腫瘍(小型) 無症状のことが多い
良性腫瘍(増大時) 骨盤圧迫感、腹部膨満、頻尿、悪心
ホルモン産生腫瘍 でエストロゲン過剰による

急性合併症(急性腹症)

良性の卵巣腫瘤であっても、次の3つは緊急外科疾患として見逃してはならない。

合併症 病態 臨床像
卵巣・卵管が茎部で回転し血流が遮断される。や大きな良性腫瘍で多い 突然発症の片側下腹部痛、悪心・嘔吐。間欠的な捻転-復位で症状が波打つことがある
嚢胞破裂 や腫瘍性嚢胞の内容物・血液が腹腔内に漏出 急性下腹痛。では循環不安定・大量に至ることがある
嚢胞内出血 嚢胞壁・莢膜への血管侵入による内部出血 鈍い片側から急激な増悪まで幅がある

⭐ 捻転は付属器の大きさ(特に5 cm以上)と相関するが、正常付属器でも起こりうるため、画像でサイズが小さいことだけで捻転を除外しない。の消失は捻転を支持する所見だが、血流が保たれていてもを否定できない。鑑別には、虫垂炎、を含める。

診断

初期評価の原則

  1. 生殖可能年齢では常に妊娠反応を確認する。
  2. を第一選択とし、大きさ、、壁・隔壁の厚さ、の有無、、血流、腹水、両側性を評価する。
  3. 急性疼痛時は・破裂・出血を優先して評価する。
  4. 年齢・閉経状態・家族歴・を統合してリスクを層別化する。

良性・悪性を鑑別する画像所見

良性を示唆 悪性を疑う
、薄い平滑な壁、単純液、可動性 不整な、厚い隔壁(3 mm超)、強い血流、腹水、固定、両側性

(ACR 2022年改訂版)は超音波所見を0〜5の6カテゴリーに標準化し、悪性リスクと管理方針を対応づける。

カテゴリー 悪性リスク 主な所見 目安となる管理
0 評価不能 検査の適応上描出されるはずの卵巣が描出されない(技術的に不十分) 再検査・他を検討
1 0% 卵巣に病変なし(生理的所見を前提とするため閉経前女性にのみ用いる) 経過観察不要
O-RADS 2 <1% 、典型的ななど、ほぼ確実に良性の形態 ルーチンの経過観察のみ、専門紹介は通常不要
O-RADS 3 1–<10% や複雑な形態など、低リスクだが確定できない病変 婦人科での経過観察・MRI追加などを検討
O-RADS 4 10–<50% 明らかな・血流を伴う病変 専門医への紹介を検討
O-RADS 5 ≥50% 腹水を伴う不整腫瘤など 専門医へ紹介

腫瘍マーカーの位置づけと限界

  • CA-125は上皮性卵巣癌で上昇しうるが、月経、でも上昇するため、特に閉経前の若年女性では偽陽性が多い。⚠️ CA-125単独で良性・悪性を判定してはならず、平均リスクの無症候女性へのスクリーニングにも用いない。
  • 閉経後は非由来の上昇が相対的に少なく、CA-125上昇の特異度が上がる。
  • 若年女性で複雑な腫瘤を認める場合は、を念頭にAFP・hCG・LDHを追加する(自体はこれらのマーカーを産生しない)。
  • CA-125とHE4を組み合わせたROMA(Risk of Ovarian Malignancy Algorithm)や、超音波所見・CA-125・閉経状態を統合した古典的なRMI = U×M×CA-125。RMI I〜IIIでは200、RMI IVでは450がとして用いられる)は、いずれも単独の確定診断法ではなく・紹介判断の補助として用いる(詳細は卵巣癌を参照)。

年齢層別のマネジメント方針

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adnexal mass'>付属器腫瘤</span>を発見"] --> B{"閉経状態"}
    B -->|"閉経前"| C["典型的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional ovarian cyst'>機能性嚢胞</span>の形態か"]
    C -->|"はい"| D["数週〜数か月後に超音波で消退確認"]
    C -->|"いいえ・持続/増大/複雑形態"| E["良性腫瘍として画像・マーカーで評価"]
    B -->|"閉経後"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unilocular'>単房性</span>・単純<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anechoic'>無エコー</span>・薄壁の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='simple cysts'>単純嚢胞</span>か"]
    F -->|"はい・径3cm以下"| G["ルーチンの追跡不要"]
    F -->|"はい・径3cm超、または複雑形態"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Ovarian-Adnexal Imaging Reporting and Data System'>O-RADS</span>/RMI等で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='risk stratification'>リスク層別化</span>し追跡または紹介"]
    E --> I{"症候性・増大・悪性疑い"}
    H --> I
    I -->|"あり"| J["手術または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Gynaecologic tumours'>婦人科腫瘍</span>専門医へ紹介"]
    I -->|"なし"| K["定期的な画像経過観察"]
  • 閉経前:典型的なは経過観察で自然消退を確認する。持続・増大する場合や、に典型的でない形態(など)を示す場合は良性腫瘍として評価する。
  • 閉経後:卵巣は生理的に萎縮しているため、新規のはより慎重に評価する。ただし片側・≤3 cmは、2025年のRCOG改訂に基づきルーチンの追跡を要さない。それを超えるや複雑形態は・RMI等で層別化し、追跡または専門紹介を判断する。⚠️ サイズのみで一律に手術・を決めない。

治療

経過観察

  • 典型的な)は、多くが数週〜数か月で自然消退するため、まず経過観察を選ぶ。
  • 配合経口避妊薬は新規の形成を減らしうるが、既存の嚢胞の消退を速める効果は示されておらず、そのものの治療薬ではない。
  • 閉経後の≤3 cmはルーチンの追跡自体が不要である(前述)。

手術適応

次のいずれかに該当すれば手術または専門紹介を検討する。

  • 持続する、または増大する腫瘤(として消退しない)
  • 複雑な超音波形態(、厚い隔壁、、強い血流)
  • 強い症状・圧迫症状
  • 、破裂、活動性出血による
  • ・RMI等で中〜高リスクと判定された場合、悪性疑い

術式選択

  • 生殖年齢では、可能な限り卵巣温存術(cystectomy)を選び、正常卵巣組織とを温存する。
  • 閉経後や悪性疑いが強い場合は、患者の希望とリスクを踏まえ付属器切除を検討する。
  • が疑われる急性症例では、卵巣の生存性が保たれていれば整復(detorsion)±を優先し、外見ののみで安易にを行わない。
  • 術中に悪性を強く疑う所見(腹水、播種、不整な)があれば、専門医による術中判断・迅速病理を経て術式を拡大する。

まとめ

  • 卵巣腫瘤は「、多くは自然消退)」と「良性腫瘍(上皮性・、消退しない)」を区別することが出発点であり、PMOS(従来PCOS)の多卵胞性形態やはどちらとも異なる病態として鑑別する。
  • は生殖年齢で最多の良性で、3胚葉の成熟組織を含み、が主要な合併症である。
  • ・破裂・出血は良性腫瘤でも起こりうるであり、サイズの小ささだけで捻転を除外しない。
  • 良性・悪性の鑑別は超音波形態(・血流・隔壁・腹水)、年齢(閉経状態)、CA-125等のを統合する・RMIなどの枠組みで行い、CA-125単独では判定しない(特に閉経前女性では偽陽性が多い)。悪性が疑われれば卵巣癌の評価・治療体系に移行する。
  • 治療は経過観察を基本とし、持続・増大・複雑形態・症候性・急性合併症・悪性疑いがあれば手術(生殖年齢では卵巣温存を優先)を選ぶ。閉経後の≤3 cmはルーチンの追跡自体が不要である。