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Drug Atlas · B15 Sex hormones & modulators / 性ホルモン関連薬 · 必修

クロミフェン

clomifene

分類
Sex hormones & modulators / 性ホルモン関連薬
商品名(日本)
クロミッド
商品名(EU)
Clomid
科目
Pharmacology
トピック
B15: Estrogens and antiestrogens
承認適応
排卵障害にもとづく不妊症
禁忌疾患
乳癌子宮体癌前立腺癌静脈血栓塞栓症卵巣機能性嚢胞・良性腫瘍
副作用
顔面紅潮霧視腹部膨満
対象疾患
多嚢胞性卵巣症候群乏精子症
原因となる疾患
多胎妊娠

🧠 全体像:は()でありながら、乳房・骨で使う・とは狙う組織が根本的に違う——視床下部のを拮抗し、負のフィードバックを外して排卵を誘発するという一点を目的に使われる薬である。「エストロゲンが少ないから足す」のではなく、「エストロゲンによるブレーキを外して自前のゴナドトロピンを引き出す」という逆転の発想が理解の軸になる。

薬効群の中での位置づけ

B15の(②受容体レベルの)は3剤とも「組織によって作動/拮抗が変わる」性質を持つが、どの組織で拮抗的に働くかが薬ごとに異なり、これがそのまま適応の違いになる。

薬剤 乳房 子宮 骨 視床下部 主な適応
拮抗 作動(⚠️リスク) 作動 — 乳癌の治療・予防
拮抗 拮抗(リスク増やさない) 作動 — 、乳癌リスク低減
— 拮抗(内膜の菲薄化・の粘稠化として現れる) — 拮抗 (性不妊)、における、における精子形成の誘導(いずれも日本の)1

⭐ だけが「視床下部で拮抗する」という第4のを持つ。 ・が乳房・子宮・骨という末梢組織での作動/拮抗の違いで語られるのに対し、は中枢(視床下部)のを遮断することでエストロゲンによる負のフィードバックそのものを外すという、他の2剤とはが異なる使い方をする。

💡 ただし「視床下部だけ」ではない。 の作用は子宮内膜・にも及ぶため、排卵は起きても内膜が薄く着床に不利になりうる——これが、の高さのわりにが伸びないという臨床像の一因として説明される。

💡 (PMOS、旧称PCOS)に伴うで、他にが無い場合の第一選択はではなく()である。 2023年の国際エビデンスベースガイドラインは「他のを持たないPMOSの女性におけるの第一選択の薬物治療はとすべき」を強い推奨(エビデンスの質:高)として掲げている2。根拠の中心は2014年のLegro試験で、を満たし、少なくともの卵管が開存し、パートナーのが1,400万/mL以上という条件で組み入れられた750例において、が27.5%対19.1%(1.44、95%CI 1.10〜1.87)、が61.7%対48.3%と、いずれもが上回った3。

⚠️ この「第一選択は」は、上の組入れ条件が示すとおり「PMOSに伴うで、他にが無い女性」についての推奨であり、一般や・男性因子を伴う不妊に広げて読まない。 は、が無効・不適切な場合の代替、あるいは併用や低用量へつなぐの一角として残る2。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clomifene'>クロミフェン</span>が視床下部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='estrogen receptor (ER)'>エストロゲン受容体</span>(ER)を拮抗"] --> B["視床下部はエストロゲン濃度を<br>「低い」と誤認識"]
    B --> C["エストロゲンによる負のフィードバックが解除"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonadotropin-releasing hormone'>GnRH</span>パルス分泌が増加"]
    D --> E["下垂体からの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>分泌が増加"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular development'>卵胞発育</span>が刺激され、排卵が誘発される"]

💡 視床下部からすると「エストロゲンが少ない」とさせる薬、という理解が最も直感的。実際の卵巣ではエストロゲンは産生されているが、その情報が視床下部のER拮抗によって遮断されるため、脳は恒常的にエストロゲン不足と判断し、・・の分泌を増やし続けてしまう。

💡 この機序は「自前のゴナドトロピンを引き出す」ものなので、視床下部・下垂体そのものの機能が失われている症例(性腺刺激ホルモン分泌が高いなど)では効かない。 日本の電子添文も、の対象を・の機能障害に由来する性腺刺激ホルモン低分泌の患者とし、・副腎/甲状腺機能異常による・症以外のには投与しないと定めている1。

適応

日本のは3つある1。

適応 位置づけ
にもとづくの 中心となる使い方。PMOSに伴うではが第一選択で、は代替・併用の選択肢2
における 2022年9月の効能追加。ゴナドトロピン製剤と組み合わせた低刺激法などで用いる
における精子形成の誘導 ⭐ 男性にも適応がある(特発性であることを確認したうえで用いる)。英国SmPCには男性の適応が無く、国によって適応の範囲が違う4

英国SmPCの適応は「妊娠を希望する女性のに対する」のみである4。

用法・用量

PO。国によって用法の書き方が違うので、どの規定の話かを区別する。

  • 日本():Gestagen・Estrogen testで消退性出血を確認し子宮性無月経を除外したのち開始する。第1クールは1日50 mgを5日間、無効なら1日100 mgを5日間へ増量し、1日100 mg 5日間を限度とする。3クール反復しても排卵性月経が全くみられなければ中止する1
  • 日本(の):3日目から1日50 mgを5日間。効果不十分なら次周期以降1日100 mgへ1
  • 日本():1回50 mgを1
  • 英国:5日目から開始し、1日100 mg 5日間を上限とする。排卵周期を含めおおむね6周期を超えて継続しない4

実際の周期設計は不妊治療のプロトコルで細かく調整されるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

禁忌(日本の電子添文)1

⚠️ 電子添文は禁忌を〈効能共通〉と〈・に限る〉に書き分けている。 下の後半3項目は(男性への適応)には掛からないので、6項目を一律の禁忌として覚えない1。

〈効能共通〉

  • 悪性腫瘍(乳癌・)およびその疑い——腫瘍の悪化・化を促しうる
  • 肝障害又は肝疾患のある患者
  • 悪性腫瘍(前立腺癌)およびその疑い——アンドロゲン産生を促進するため

〈にもとづくの・におけるの適応でのみ〉

英国SmPCはこれに加えて原因不明のと、に関連した既知のを禁忌に挙げる(についてはやはり「多嚢胞性卵巣を除く」と明記)4。

注意

  • ⚠️ のリスクがある。 英国SmPCの集計では妊娠2,369件中186件(7.9%)がだった4。Legro試験での群のは7.4%(3.4%との差は有意ではない)3。事前に十分な説明を要する
  • ⚠️ ・などの視覚症状が出現した場合は速やかに中止し眼科的評価を行う4。服用中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作を避けさせる1
  • ⚠️ (OHSS)を起こしうる。頻度・重症度はゴナドトロピン製剤に比べれば低いが、多嚢胞性卵巣のある患者では起こりやすい。5日間の投与終了後も含め、少なくとも当該不妊治療期間中は症状(下腹部痛・下腹部緊迫感・悪心・)、急激な体重増加、超音波での卵巣腫大をモニタリングする1(→)
  • ・のある患者では症状の増悪・発育促進のおそれがあり、児を望まない患者にはやむを得ない場合を除き投与しない1

副作用

頻度 内容
高頻度 、
注意 (軽症が中心)、(英国の集計で妊娠の7.9%)4
重篤・まれ (・)、重症

まとめ

  • SERMだが、視床下部のERを拮抗して負のフィードバックを外すという他のにない使い方をする薬。作用は子宮内膜・にも及ぶ。
  • //の分泌を増やし、・排卵を誘発する。自前のゴナドトロピンを引き出す薬なので、には効かない。
  • (子宮=作動、⚠️)・(骨=作動、子宮=拮抗)とは狙う組織がそもそも違う点を混同しない。
  • PMOSに伴うで他のが無い場合は、現在はが第一選択では代替に位置づけられる——この推奨の射程を一般に広げない2。
  • 日本ではのほか、のとにおける精子形成の誘導にも適応がある1。
  • 禁忌の「卵巣の腫大」からはPMOSによる腫大が除外されている点を取り違えない。
  • (英国の集計で7.9%)・に注意する。

出典

  1. 1.クロミッド錠50mg 電子添文(医薬品医療機器総合機構(PMDA)・2022)2022年9月改訂(第2版、効能変更・用法変更)。日本の効能又は効果は「排卵障害にもとづく不妊症の排卵誘発」「生殖補助医療における調節卵巣刺激」「乏精子症における精子形成の誘導」の3つであること。禁忌は効能共通でエストロゲン依存性悪性腫瘍(乳癌・子宮内膜癌)およびその疑い、肝障害又は肝疾患、アンドロゲン依存性悪性腫瘍(前立腺癌)およびその疑い、排卵誘発・調節卵巣刺激ではさらに「卵巣腫瘍及び多嚢胞性卵巣症候群を原因としない卵巣の腫大」、妊婦、活動性の血栓塞栓性疾患であること——卵巣腫大の禁忌から多嚢胞性卵巣症候群による腫大は明示的に除外されている。排卵誘発の用法は第1クール1日50 mgを5日間、無効なら1日100 mgを5日間で、1日100 mg 5日間が限度であり、3クール反復しても排卵性月経がみられなければ中止すること。調節卵巣刺激は月経周期3日目から1日50 mgを5日間。乏精子症は1回50 mgを隔日。多嚢胞性卵巣のある患者は卵巣過剰刺激症候群を起こしやすいこと。霧視等の視覚症状があらわれることがあり服用中は自動車の運転等を避けさせること閲覧 2026-09-05
  2. 2.Recommendations From the 2023 International Evidence-based Guideline for the Assessment and Management of Polycystic Ovary Syndrome(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・2023)排卵誘発の推奨5.3.1で「レトロゾールは、**他の不妊因子を持たない**PCOS(本ボルトの表記ではPMOS)の無排卵性不妊女性における排卵誘発の第一選択の薬物治療とすべきである」とし、GRADE強度は強い推奨・エビデンスの質は高いとされていること。推奨5.4.5.1でも同じ集団についてクロミフェンよりレトロゾールを用いるべきとしていること。クロミフェン+メトホルミンの併用はクロミフェン単独より用いうると位置づけられていること閲覧 2026-09-05
  3. 3.Letrozole versus Clomiphene for Infertility in the Polycystic Ovary Syndrome(New England Journal of Medicine・2014)二重盲検多施設RCT。組入れは修正Rotterdam基準(無排卵に加え高アンドロゲン血症または多嚢胞卵巣)を満たす18〜40歳の女性750例で、少なくとも一側の卵管開存と正常な子宮腔を有し、パートナーの精子濃度が1,400万/mL以上であることを要件とした。累積生児出生率はレトロゾール103/374例(27.5%)対クロミフェン72/376例(19.1%)(率比1.44、95%CI 1.10〜1.87、P=0.007)、累積排卵率は61.7%対48.3%(P<0.001)。双胎妊娠率は3.4%対7.4%、流産率は31.8%対29.1%でいずれも有意差なし。ほてりはクロミフェン群に多く、倦怠感・めまいはレトロゾール群に多かった閲覧 2026-09-05
  4. 4.Clomifene 50mg Tablets — Summary of Product Characteristics(electronic Medicines Compendium(英国)・2024)2024年6月24日改訂。英国の承認適応は妊娠を希望する女性の排卵障害に対する排卵誘発のみで、男性の適応は無いこと。禁忌に妊娠、肝疾患・肝機能障害の既往、ホルモン依存性腫瘍、原因不明の異常子宮出血、卵巣嚢腫(ただし多嚢胞性卵巣は除く)、本剤に関連した既知の視覚障害、過敏症が含まれること。用法は月経周期5日目から開始し、1日100 mg 5日間を上限、排卵周期を含めおおむね6周期を超えて継続しないこと。視覚症状があれば投与を中止し眼科的評価を行うこと。多胎妊娠の発現率は妊娠2,369件中186件(7.9%)であること閲覧 2026-09-05