薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B34 Antineoplastics / 抗腫瘍薬 · 必修

レトロゾール

letrozole

分類
Antineoplastics / 抗腫瘍薬Sex hormones & modulators / 性ホルモン関連薬
商品名(日本)
フェマーラ
商品名(EU)
Femara
科目
PharmacologyObstetrics and Gynecology (Gynecology)
トピック
B15: Estrogens and antiestrogensB34: Drugs used in cancer treatment IV (Hormonal agents)07: Examinations and treatment in infertility
承認適応
排卵障害にもとづく不妊症多嚢胞性卵巣症候群乳癌
禁忌疾患
静脈血栓塞栓症
対象疾患
McCune-Albright症候群

🧠 全体像:はと同じだが、実地では2つのまったく違う顔を持つ。ひとつは乳癌の薬としての顔(とほぼ同格)、もうひとつは薬としての顔で、後者では2014年のLegro試験以降、長らく第一選択だったを上回る成績が示され1、「他にを持たない、PCOSに伴うの女性」におけるの第一選択という地位を確立した2。⚠️ この「第一選択」には集団の限定が付いている——一般や、・男性因子を伴う不妊にまで広げて読まない。同じ「アロマターゼを止める」という一つの機序が、ではエストロゲン産生源そのものを断つとして、PCOSでは視床下部へのを一時的に外す薬として、正反対に見える2つの臨床的意味を持つ。

薬効群の中での位置づけ

薬剤 分類 機序 PCOSでの位置づけ
アロマターゼを可逆的に阻害しアンドロゲン→エストロゲン変換を止める 第一選択——ただし「他にを持たないPCOSの女性」に限った推奨2。より・が高い1
(視床下部の拮抗) 視床下部のER拮抗によりを外す 従来の第一選択。長期にわたる受容体占拠で作用が子宮内膜・にも及ぶ
と同系統・同じ酵素を阻害 乳癌治療薬としての用途が主。PCOSでの適応は確立していない

⭐ とは同じ「アロマターゼを可逆的に阻害する非ステロイド性薬」だが、臨床的な主戦場が違う。 がPCOSので広く使われるようになった一方、は乳癌治療の枠内にとどまる——両者は薬理学的には近縁でも、蓄積されたエビデンスの厚みが異なるために使い分けが生じている典型例である。

💡 vs の違いは「受容体を塞ぐか、酵素を止めるか」に集約される。 は視床下部のに長時間結合してこれを枯渇させるため、作用が中枢だけでなく子宮内膜・にも及び、内膜が薄くなりやすい。は受容体を塞がず末梢のエストロゲン産生を一時的に減らすだけなので、半減期の短さ(約2日)とあいまって全身への作用の持ち越しが少なく、この違いが内膜の質に有利に働くと考えられている。⚠️ ただしこの「内膜に有利」は機序からの説明であって、Legro試験が測った項目ではない——同試験のはであり、(3.4%対7.4%)にも(31.8%対29.1%)にも有意差はつかなかった1。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='letrozole'>レトロゾール</span>が末梢・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian granulosa cell'>卵巣顆粒膜細胞</span>の<br>アロマターゼ酵素へ可逆的に結合(非ステロイド性)"] --> B["アンドロゲン→エストロゲンへの変換を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='competitive inhibition'>競合阻害</span>"]
    B --> C["血中エストロゲン濃度が一時的に低下"]
    C --> D["視床下部・下垂体への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='negative feedback'>ネガティブフィードバック</span>が弱まる"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonadotropin-releasing hormone'>GnRH</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>分泌が上昇"]
    E --> F["卵巣で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular development'>卵胞発育</span>が刺激される(PCOSでの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovulation induction'>排卵誘発</span>)"]
    C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postmenopausal breast cancer'>閉経後乳癌</span>ではエストロゲンによるER刺激が減弱(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antitumor effect'>抗腫瘍効果</span>)"]
    B -.->|"副腎皮質ステロイド・グルココルチコイド合成には<br>有意な影響を与えない"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketoconazole'>ケトコナゾール</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metyrapone'>メチラポン</span>のような<br>副腎皮質<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enzyme inhibition'>酵素阻害</span>薬とは標的酵素が異なる"]

💡 PCOSでのは「一時的にエストロゲンを減らしてフィードバックを外す」という点でと発想は同じだが、標的が違う。 は受容体レベルで中枢をだますのに対し、は酵素レベルで実際にエストロゲン産生量を減らす。半減期が約2日と短いため、投与終了後は速やかにエストロゲン産生が回復し、に伴う内因性エストロゲン上昇を妨げない。

薬物動態

項目 値・特徴
吸収 経口、速やかにほぼ完全に吸収される
代謝 主に・CYP2A6により不活性なへ変換される3
排泄 代謝物のとして(投与量の約90%が尿中に回収される)3
半減期 約2日3

適応

領域 使いどころ
(日本の) 「における」「における」「における」の3つ4
閉経後・乳癌の、5年既治療例の、の一次治療、既治療後の再発・増悪、化学療法が不適な例の5

⚠️ 「PCOSのはどこでも適応外」ではない——どの国の文書の話かを区別する。 日本の電子添文は2022年の効能追加以降、「」に加えて上記の生殖領域3適応を効能又は効果として掲げており、PCOSのはではなくである4。一方、英国のFemara SmPCは適応を閉経後女性の乳癌に限り、・・PCOSの記載そのものが無く、「閉経前の内分泌状態」を禁忌に挙げている5。同じでも、国によって適応と禁忌の書かれ方が大きく違う。

💡 「第一選択」の根拠と、その射程。 2023年の国際エビデンスベースガイドラインは推奨5.3.1で「は、他のを持たないPCOSの女性におけるの第一選択の薬物治療とすべきである」を強い推奨(エビデンスの質:高)として掲げ、推奨5.4.5.1でも同じ集団についてよりを用いるべきとしている2。根拠の中心である2014年のLegro試験は、(に加えまたは)を満たす18〜40歳の女性750例を対象とし、少なくともの卵管が開存していること・子宮腔が正常であること・パートナーのが1,400万/mL以上であることを組入れ条件としていた1。⚠️ ・男性因子を伴う不妊はそもそも試験の外にあるので、「ならまず」と一般化しない。

用法・用量

・(日本の電子添文):1日1回2.5 mgを3日目から5日間する。十分な効果が得られない場合は、次周期以降の1回投与量を5 mgへ増量できる4。乳癌:1日1回2.5 mgを継続する45(肝硬変・重度では1日おき投与3)。実際の用量・は適応・施設のプロトコルにより異なるため、添付文書・ガイドラインで確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌(日本の電子添文)は〈効能共通〉と〈適応限定〉に分かれる。〈効能共通〉は妊婦又は妊娠している可能性のある女性、、本剤の成分に対する過敏症の既往。活動性のは、・における・におけるの3適応でのみ禁忌で、⚠️ の適応では禁忌に挙がっていない4。米国の添付文書も妊娠中はのため禁忌としている3。目的での使用開始前には妊娠していないことを確認する
  • ⚠️ 英国のFemara SmPCは「閉経前の内分泌状態」そのものを禁忌に挙げる5。同じ薬剤で、日本の電子添文は閉経前女性のをとしている4——「は閉経前に禁忌」と丸暗記せず、どの国の文書の話かを区別する
  • 効能又は効果に関連する注意(日本):・に用いる際は患者およびパートナーの検査を十分に行ったうえで判断し、など妊娠に不適当な場合には投与しない。等が認められた場合は当該疾患の治療を優先する4
  • ⚠️ PCOSでのではのリスクが残る。 Legro試験のは3.4%対7.4%で、両群に有意差はつかなかった(数値上は低いが「が減る」と言い切れる差ではない)——ゼロではないため周期ごとの経過観察を要する1
  • 乳癌治療での長期使用では骨密度低下・上昇に注意し、必要に応じて骨密度評価を行う3
  • 肝硬変・重度では代謝が遅延するため、1日おき投与へ減量する3

副作用

頻度 内容
高頻度(乳癌治療時) 、関節痛、倦怠感、浮腫、頭痛、めまい、上昇3
PCOS時に多い 倦怠感・めまい(よりで多い一方、はで多い)1
注意 骨密度低下(長期の乳癌治療)

まとめ

  • はと同じ非ステロイド性・可逆的で、アンドロゲン→エストロゲン変換を止める。
  • PCOSに伴うで「他にが無い」場合は、2014年のLegro試験以降、より・が高いことが示され第一選択となった12。⚠️ この推奨を一般へ広げない——Legro試験は・正常子宮腔・1,400万/mL以上を組入れ条件にしていた。
  • が視床下部の受容体を塞ぐのに対し、は酵素を止めてエストロゲン産生量そのものを減らす——半減期が短く(約2日)、作用の持ち越しが少ない。
  • もう一つの顔は閉経後・乳癌の薬で、こちらはとほぼ同格の位置づけ。
  • 日本ではPCOSの・の・がいずれもであり、ではない4。英国のFemara SmPCはのみの適応で「閉経前の内分泌状態」を禁忌とする5——国ごとの文書を混同しない。
  • 妊婦・・活動性のは禁忌4。PCOSでのではリスクが残り(Legro試験の双胎率3.4%対7.4%、有意差なし)、乳癌治療の長期使用では骨密度低下・脂質異常に注意する。

出典

  1. 1.Letrozole versus Clomiphene for Infertility in the Polycystic Ovary Syndrome(New England Journal of Medicine・2014)二重盲検多施設RCT。組入れは修正Rotterdam基準(無排卵に加え高アンドロゲン血症または多嚢胞卵巣)を満たす18〜40歳の女性750例で、少なくとも一側の卵管開存と正常な子宮腔を有し、パートナーの精子濃度が1,400万/mL以上であることを要件とした。主要評価項目は治療期間中の生児出生。累積生児出生率はレトロゾール103/374例(27.5%)対クロミフェン72/376例(19.1%)(率比1.44、95%CI 1.10〜1.87、P=0.007)、累積排卵率は834/1352周期(61.7%)対688/1425周期(48.3%)(P<0.001)。双胎妊娠率は3.4%対7.4%、流産率は31.8%対29.1%でいずれも有意差なし。ほてりはクロミフェン群に多く、倦怠感・めまいはレトロゾール群に多かった閲覧 2026-09-05
  2. 2.Recommendations From the 2023 International Evidence-based Guideline for the Assessment and Management of Polycystic Ovary Syndrome(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・2023)推奨5.3.1の逐語は "Letrozole should be the first-line pharmacological treatment for ovulation induction in infertile anovulatory women with PCOS, with no other infertility factors"(強い推奨・エビデンスの質は高)で、「他に不妊因子を持たない」という集団の限定が付いていること。推奨5.4.5.1も同じ集団について、排卵率・臨床妊娠率・生児出生率を改善するためクロミフェンよりレトロゾールを用いるべきとしている(強い推奨)閲覧 2026-09-05
  3. 3.FEMARA (letrozole) tablets — Full Prescribing Information(米国FDA(DailyMed収載の添付文書)・2024)レトロゾールが非ステロイド性の可逆的アロマターゼ阻害薬でありアンドロゲンからエストロゲンへの変換を阻害すること、副腎皮質ステロイド・グルココルチコイド合成には有意な影響を与えないこと、消失半減期が約2日でCYP3A4・CYP2A6によりカルビノール代謝物へ変換され主にグルクロン酸抱合体として腎排泄されること、妊娠中は禁忌(胎児毒性)であること、高頻度の有害事象としてほてり・関節痛・倦怠感・浮腫・頭痛・めまい・総コレステロール上昇があることを確認した。乳癌に対する承認用量は1日1回2.5 mg経口。閲覧 2026-08-10
  4. 4.フェマーラ錠2.5mg 電子添文(医薬品医療機器総合機構(PMDA)・2022)2022年9月改訂(第2版、効能変更)。日本の効能又は効果は「閉経後乳癌」「生殖補助医療における調節卵巣刺激」「多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発」「原因不明不妊における排卵誘発」の4つで、多嚢胞性卵巣症候群の排卵誘発は適応外使用ではなく承認適応であること。用法は閉経後乳癌が1日1回2.5 mg、生殖領域の3適応が1日1回2.5 mgを月経周期3日目から5日間で、十分な効果が得られない場合は次周期以降の1回投与量を5 mgに増量できること。禁忌は〈効能共通〉が妊婦又は妊娠している可能性のある女性・授乳婦・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者の3項目で、活動性の血栓塞栓性疾患は〈生殖補助医療における調節卵巣刺激、多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発、原因不明不妊における排卵誘発〉の3適応に限った禁忌であり、閉経後乳癌の適応では禁忌に挙がっていないこと。効能又は効果に関連する注意として、患者及びパートナーの検査を十分に行ったうえで判断し、原発性卵巣不全など妊娠に不適当な場合には投与しないこと、甲状腺機能低下等が認められた場合は当該疾患の治療を優先することが定められている閲覧 2026-09-05
  5. 5.Femara 2.5 mg Tablets - Summary of Product Characteristics(Novartis Pharmaceuticals UK Limited / electronic Medicines Compendium(英国)・2025)2025年8月19日改訂。英国の承認適応は閉経後女性の乳癌に限られる(術後補助療法、タモキシフェン5年既治療後の延長補助療法、進行乳癌の一次治療、抗エストロゲン既治療後の再発・増悪、化学療法が不適で即時手術の適応が無い例の術前補助療法)。排卵誘発・不妊症・多嚢胞性卵巣症候群の記載は文書中に無く、禁忌に「閉経前の内分泌状態(Premenopausal endocrine status)」・妊娠・授乳・過敏症が挙がる。用量は1日1回2.5 mg閲覧 2026-09-05