婦人科学

婦人科学 · 07

不妊症の検査と治療

Examinations and treatment in infertility

前提:正常
女性性内分泌学
薬剤
レトロゾール
疾患
水卵管症排卵障害にもとづく不妊症
症状
不妊症
検査値
抗ミュラー管ホルモン卵胞刺激ホルモン

🧠 全体像:の基本評価は、男性の精液、女性の排卵、子宮腔、卵管通過性を効率よく確認する。古い試験や「黄体機能を単回プロゲステロン値で採点する」方法は用いず、原因と年齢に応じてタイミング法、、へ段階的に進む。

1. 男性因子の評価

精液検査

  • 通常2〜7日の禁欲後に全量を採取し、液量、、総数、運動率、形態を評価する。
  • 結果は個人内変動が大きいため、異常なら再検し、専門医へつなぐ。ガイドラインもをいつ再検すべきかについて個別の推奨を置いている。1
  • は感染・炎症を示唆するが、顕微鏡のだけで感染を確定しない。
  • 勃起・があれば、薬剤、血管・神経、内分泌、を評価する。検査は選択例に限られ、初回不妊評価の定型検査ではない。

2. 排卵の評価

  • 21〜35日の規則的周期がある非女性では、通常は追加の排卵確認を要しない。評価は最も侵襲の少ない方法から系統的に進める。2
  • 尿中サージは排卵の1〜2日前を予測するが、PMOSでは偽陽性がありうる。
  • 血清プロゲステロンは「22日目」と固定せず、予想月経の約1週間前に測る。3 ng/mLを超える値は最近の排卵を支持する。ただしこれは補助的な確認であって、全例に行う検査ではない。
  • 単回値はの影響を受け、の「質」や妊娠可能性を判定できない。

⚠️ 5 ng/mL・10 ng/mLという固定値や、短いを不妊原因として単独治療する考え方は現在の標準評価ではない。

3. 子宮と卵管の評価

検査 分かること 注意点
、ポリープ、、卵巣・ 子宮腔内病変の感度は限定的
子宮腔の輪郭と卵管通過性 造影剤が両卵管を満たし腹腔内へ流出すれば通過性を示す
ポリープ、、癒着 子宮腔評価に有用
子宮腔を直接観察し同時治療 侵襲的だが病変の確定に優れる
腹腔鏡 、腹腔内癒着 疑う症状・所見がある場合に限り、には行わない

HSGでは、造影された子宮腔から左右卵管が描出され、腹腔内への造影剤流出が卵管開通を示す。

4. 卵巣予備能

  • 、、月経初期・エストラジオールを治療計画の補助に用いる。
  • 検査は数や刺激への反応を推定するもので、自然妊娠できるかを単独で判定する検査ではない。年齢が最も強い予後因子であり、が低いことだけを理由に治療を控える根拠はない。

現在は定型的に行わない検査

  • の、、pHを測る検査
  • 無症状者への(疑う症状・所見があるときに限る)
  • による評価

・はで再現性が低く、妊娠不能を予測せずもほとんど変えないため、歴史的検査と位置付ける。

治療法

方法 概要 主な適応
タイミング法・ 排卵時期に性交。では原因に応じ 、軽度原因不明
洗浄・濃縮した運動精子を子宮内へ注入 軽度男性因子、性交・頸管因子、原因不明
卵巣刺激、採卵、、胚培養後に子宮へ移植 、重度、不成功など
1個の精子を成熟の細胞質内へ注入 重度男性因子、受精障害
下ポリープ・・癒着治療など 妊娠を妨げる解剖学的病変

💡 原因別の段階づけ。

  • :とタイミング法が最初の適切な選択。3
  • :第一選択は卵巣刺激を併用したIUIである。4 3〜4周期を試み、妊娠に至らなければを検討する。3
  • 重度男性因子・外科的採精を要する症例:+ICSIの適応が強まる。3
  • や高度病変:IUIではなくが中心となる。3

⚠️ 「原因不明ならとにかく早くIVF」ではない。 無作為化試験4件・934人の個別患者データでは、妊娠までの時間を考慮したが50.3%対IUI-OS 43.2%、1.19(95%信頼区間0.81〜1.74)と有意差が無かった。率にも差は無い。のほうが速くに至るという確かな根拠は無く、費用と当事者の希望を含めて決める。ただし38〜40歳超では年齢による時間損失を避けるため、より早いを検討する。53

flowchart TD
    A["両者の同時評価"] --> B["精液・排卵・子宮腔・卵管"]
    B --> C{"原因を同定できたか"}
    C -->|"はい"| D["原因治療・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovulation induction'>排卵誘発</span>・手術"]
    C -->|"いいえ/軽度"| E["年齢・不妊期間・希望を評価"]
    E --> F["タイミング法またはIUI"]
    D --> G{"妊娠成立/治療効果"}
    F --> G
    G -->|"不成立"| H["IVF/必要時ICSI"]

まとめ

  • 基本評価は精液、排卵、子宮腔、卵管通過性であり、両者を並行して調べる。
  • 血清プロゲステロン3 ng/mL超は最近の排卵を支持するが、単回値で黄体機能の質は判定できない。
  • ・は歴史的検査で、現在はに推奨されない。治療は原因別に段階づけ、の第一選択は卵巣刺激併用IUIで、がこれより速いという確かな根拠は無い。

出典

  1. 1.Recommendations from the WHO guideline for the prevention, diagnosis, and treatment of infertility(Human Reproduction(World Health Organization)・2026)WHOが不妊症の予防・診断・治療について40の推奨と6つのgood practice statementを示したこと。世界で**6人に1人が生涯のうちに不妊を経験する**こと。診断について排卵障害(3項目)・卵管疾患(1項目)・子宮腔異常(5項目)、男性については**精液検査をいつ再検すべきか**(2項目)の推奨が含まれること。関連するエビデンスが欠如しているか低〜きわめて低い確実性であったため、**大半の推奨は条件付き**であること閲覧 2026-08-21
  2. 2.Fertility evaluation of infertile women: a committee opinion(Fertility and Sterility(American Society for Reproductive Medicine 診療委員会)・2021)女性の不妊症の診断的評価を、系統的・迅速・費用対効果よく進め、**最も頻度の高い原因を最も侵襲の少ない方法で**検出することに重点を置いて関連因子を同定すべきこと。2015年版の同名文書を置き換えるもの閲覧 2026-08-21
  3. 3.Diagnosis and Management of Infertility: A Review(JAMA・2021)無排卵では排卵誘発とタイミング法が最初の適切な治療選択となること。原因不明不妊・子宮内膜症・軽度男性因子では卵巣刺激を3〜4周期試み、妊娠に至らなければ体外受精を検討すべきこと。**重度男性因子または未治療の両側卵管因子では体外受精が適応**となること。38〜40歳超では体外受精を第一選択として即時に検討してよいこと閲覧 2026-08-21
  4. 4.Evidence-based guideline: unexplained infertility(Human Reproduction(ESHRE)・2023)原因不明不妊が除外診断であり、標準的な検査の内容そのものについて合意された標準化がなお欠けていること。**原因不明不妊の第一選択治療は卵巣刺激を併用した子宮内精子注入(IUI)**とされたこと。52の推奨のうち高品質のエビデンスに支持されたものは一つも無く、31がきわめて低い品質のエビデンスに基づくこと閲覧 2026-08-21
  5. 5.IVF versus IUI with ovarian stimulation for unexplained infertility: a collaborative individual participant data meta-analysis(Human Reproduction Update・2024)原因不明不妊で体外受精と卵巣刺激併用IUIを比較した無作為化試験4件・934人の個別患者データメタ解析で、妊娠までの時間を考慮した**累積生児出生率は50.3%対43.2%、ハザード比1.19(95%信頼区間0.81〜1.74)と有意差が無かった**こと。多胎率も3.8%対5.2%(オッズ比0.78、0.41〜1.50)で有意差が無かったこと。**体外受精のほうが速く生児出生に至るという確かな根拠は無く**、双方が有効性・安全性の面で選択肢となり、費用と当事者の希望を勘案して決めるべきこと閲覧 2026-08-21