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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 症候群

多嚢胞性卵巣症候群

Polyendocrine metabolic ovarian syndrome

別名
PMOSPCOS
臓器系
生殖・産婦人科内分泌・代謝
科目
GynecologyInternal MedicinePathology
トピック
婦人科 03:多嚢胞性卵巣症候群(PMOS)内科学 E-08:性腺機能異常病理学 C/74:卵巣・卵管の非腫瘍性疾患
鑑別疾患
クッシング症候群卵巣機能性嚢胞・良性腫瘍
続発疾患
2型糖尿病異常子宮出血(機能性子宮出血)
関連疾患
肥満症
治療薬
メトホルミンスピロノラクトンエチニルエストラジオール+レボノルゲストレルドロスピレノンクロミフェンレトロゾール
症状
異常子宮出血不安黒色表皮腫高アンドロゲン血症多毛症体重増加
検査値
空腹時血糖17-ヒドロキシプロゲステロンアンドロステンジオン
適応薬
レトロゾール

🧠 全体像は、インスリン抵抗性とが相互に増幅し合い、・代謝異常を来す全身性の内分泌疾患である。「卵巣嚢胞」が本態ではなく、2026年5月には国際的な合意を経てpolyendocrine metabolic ovarian syndrome(PMOS)へと改称された。診断は(3項目中2項目)に基づき、治療は月経・高アンドロゲン症状を優先するか、妊孕性を優先するかで選択薬が大きく変わる——ここを取り違えないことが臨床的に最も重要である。

⚠️ 2026年5月12日、この疾患は PCOS から PMOS(polyendocrine metabolic ovarian syndrome)へ正式に改称された。 旧称の「」は「卵巣に嚢胞ができる病気」という誤解を招き、内分泌・代謝疾患としての実体を覆い隠して診断の遅れにつながっていた——実際に異常な卵巣嚢胞が増えるわけではない12移行期は3年で、2028年の国際ガイドライン改訂で完全移行する。 それまでは両名が併存するため、試験や既存文献では PCOS のままのことが多い。名「」に対応する新名称の定訳はまだ確立していないので、本ボルトは名を据え置き、略語だけ PMOS に揃えている。

病態

名称について

歴史的にはStein-Leventhal症候群と呼ばれ、その後長らくpolycystic ovary syndrome(PCOS)という名称が用いられてきた。しかし「多嚢胞性」という呼称は病態を正確に表していない。画像や肉眼病理で見える構造は、発育が停止したであり、濾胞嚢胞やのような真の病的嚢胞ではない。この不正確さ、およびPCOSという名称が生殖器の問題に矮小化され内分泌・代謝面の異常を覆い隠してしまうという批判を受け、2026年5月にpolyendocrine metabolic ovarian syndrome(PMOS)へ改称された。「polyendocrine」は生殖ホルモンに限らない多系統の内分泌異常を、「metabolic」はインスリン抵抗性を中心とする代謝異常を反映する。本ノートは略語を新称のPMOSで統一し、旧称PCOSは既存文献・試験問題との対応が必要な箇所にだけ併記する。

発生機序

の異常、インスリン抵抗性、体重・環境因子が相互に関与する。中心的な機序はインスリン抵抗性によるであり、これがのアンドロゲン産生を直接刺激するとともに、肝臓での産生を抑制して遊離アンドロゲンをさらに増加させる。

flowchart TD
    A["インスリン抵抗性"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperinsulinemia'>高インスリン血症</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian theca cell'>卵巣莢膜細胞</span>のアンドロゲン産生増加"]
    B --> D["肝SHBG産生低下"]
    C --> E["遊離アンドロゲン増加"]
    D --> E
    E --> F["視床下部・下垂体へのフィードバック異常<br>LH増加・FSH相対的低下(LH/FSH比上昇)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular development'>卵胞発育</span>の途中停止・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovulatory dysfunction'>排卵障害</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligomenorrhea'>希発月経</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anovulatory infertility'>無排卵性不妊</span>"]
    G --> I["多数の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antral/Graafian follicle'>胞状卵胞</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polycystic ovarian morphology'>多嚢胞性卵巣形態</span>)"]
    E --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertrichosis (excess hair growth)'>多毛</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acne'>ざ瘡</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='androgenetic alopecia'>男性型脱毛</span>"]
    H --> K["黄体ホルモン欠如による持続的な子宮内膜へのエストロゲン曝露"]
    K --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endometrial hyperplasia'>子宮内膜増殖症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endometrial cancer'>子宮内膜癌</span>のリスク上昇"]

💡 に加えを伴う強い表現型は、(hyperandrogenism–insulin resistance–acanthosis nigricans)と呼ばれる。

肉眼・組織像

卵巣は正常の約2倍に腫大し、灰白色で表面平滑な質を呈する。皮質下には発育停止したが多数存在し、これらは肥厚した線維性の外膜(莢膜)に覆われる。⚠️ 繰り返しになるが、この「多数の小胞状構造」は破裂しなかった濾胞嚢胞などとは異なり、病理学的な意味での真の嚢胞ではない。

臨床像

領域 主な所見
月経・排卵 、無月経、、不妊
高アンドロゲン 、女性型脱毛。急速に進行する男性化はアンドロゲン産生腫瘍を疑う
代謝 インスリン抵抗性、、2型糖尿病、脂質異常、高血圧、
卵巣形態 卵巣容積増大、多数の小。片側だけでもを満たしうる
長期リスク 、抑うつ・不安、摂食障害

⭐ 症状の組み合わせ(+高アンドロゲン+代謝異常+不妊)は多彩で、全ての患者が全ての所見を示すわけではない。次項の・表現型分類を参照。

診断

成人では、他疾患を除外したうえで次の3項目中2項目を満たせば診断する()。

項目 内容
① 高アンドロゲン 臨床的(など)または生化学的
・月経不順(・無月経)
③ 卵巣形態 、または成人ではが確認された(anti-Müllerian hormone:AMH)で代替可

高アンドロゲンとの両方がそろえば、診断目的のやAMH測定は必須ではない。

超音波診断基準(PCOM)

  • を用いる場合、少なくともで卵巣当たり卵胞数20個以上をPCOMの目安とする(旧基準の「12個、2〜8 mm」は現在は用いない)。
  • 旧機種や不十分な場合は、卵巣容積10 mL以上、または断面卵胞数10個以上を代替基準とする。
  • AMHは成人において超音波の代替として使用できるが、AMH単独では診断・除外できない。

⚠️ 思春期の注意後早期には月経不順、、多卵胞性卵巣が生理的にも見られる。思春期例では持続する月経不順と高アンドロゲンの両方を重視し、超音波所見・AMHは診断に用いない(過剰診断を避けるため)。

Rotterdam表現型(A〜D)

表現型 高アンドロゲン PCOM
A
B
C
D

表現型A・Bはを伴うで代謝リスクが高い傾向があり、表現型Dは排卵はしないが高アンドロゲンを欠く非である。

除外すべき疾患

  • 妊娠、
  • で評価)
  • 、アンドロゲン産生腫瘍
  • 無月経、

併存症の評価

  • 血圧、脂質、喫煙歴、家族歴を確認する。
  • 血糖評価は75 g(OGTT)が最も正確であり、BMIにかかわらず診断時に検討する。困難な場合はやHbA1cで代替するが感度は劣る。
  • 抑うつ・不安、摂食障害、の症状を確認する。
  • 長期間の無月経、高体重、2型糖尿病、持続するは、のリスクをさらに高める。

治療

は「妊娠を希望するか否か」で大きく分かれる。⚠️ は排卵を抑制するため、妊娠を希望するに対する薬ではない——この使い分けを逆にしないことが重要である。

全員に共通

体重にかかわらず、持続可能な運動・食事・睡眠を支援する。特定の「」のみを標準治療とはしない。体重に関する相談はを避け、本人の同意と目標に基づいて行う。

目標 主な
妊娠を希望しない月経不順・高アンドロゲン症状 支援、禁忌がなければ低用量が第一選択。を持つ含有製剤も選択肢
COCPが使用できない場合の子宮内膜保護 周期的黄体ホルモン投与などで長期無月経を回避する
代謝リスクが高い場合(など) を追加検討
など高アンドロゲン症状が強い場合 などの。確実な避妊を併用し、少なくとも6か月単位で効果を評価する
で妊娠を希望する場合 によるが第一選択クエン酸塩よりが高いとする2014年のLegro試験以降のエビデンスに基づく)。他の不妊因子がないことを確認したうえで妊娠前に体重・血圧・血糖を最適化する
の代替 クエン酸塩併用、低用量を状況に応じて選択
薬物療法不成功時 を検討。卵巣手術は第一選択ではなく、経口薬が無効な場合などに限って検討する

まとめ

  • PMOS(2026年5月改称。旧称PCOS)は、インスリン抵抗性→アンドロゲン産生増加・SHBG低下→遊離アンドロゲン増加→という機序を中心とする全身性内分泌疾患であり、卵巣の構造は真の嚢胞ではなく発育停止したである。
  • 成人診断は(高アンドロゲン・・PCOM/AMHの3項目中2項目)で行い、PCOMの現行超音波基準は卵巣当たり卵胞数20個以上(または卵巣容積10 mL以上)である。思春期例では超音波・AMHを診断に用いない。
  • 併存症として(75 g OGTTで評価)、脂質異常・高血圧、リスク、、抑うつ・不安を系統的に評価する。
  • 治療は妊娠希望の有無で分岐する:非希望時は支援+COCPを中心にを追加し、希望時はによるを第一選択とする。COCPと薬の役割を混同しない。

出典

  1. 1.Polyendocrine metabolic ovarian syndrome, the new name for polycystic ovary syndrome: a multistep global consensus process(The Lancet・2026)2026年5月12日、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は polyendocrine metabolic ovarian syndrome(PMOS)へ正式に改称された。Monash大学 Helena Teede らが主導し22,000件超の回答を集めた国際コンセンサス。移行期は3年で、2028年の国際ガイドライン改訂で完全移行する閲覧 2026-08-03
  2. 2.Polyendocrine Metabolic Ovarian Syndrome: New name to improve diagnosis and care of condition affecting 170 million women worldwide(Endocrine Society・2026)50を超える患者団体・専門家団体が参加。旧称は「卵巣に嚢胞ができる病気」という誤解を招き、内分泌・代謝疾患としての実体を覆い隠して診断の遅れにつながっていた閲覧 2026-08-03