婦人科学

婦人科学 · 03

多嚢胞性卵巣症候群(PMOS、旧PCOS)

Stein-Leventhal syndrome (PMOS)

前提:病態
卵巣・卵管の非腫瘍性疾患
前提:正常
ステロイドホルモンの合成(副腎皮質・性腺・胎盤)女性性内分泌学
疾患
多嚢胞性卵巣症候群
症状
黒色表皮腫多毛症
検査値
性ホルモン結合グロブリン

🧠 全体像:(PMOS、旧PCOS)は、・高アンドロゲン・代謝異常が相互に増幅する全身性疾患である。名称に反して「卵巣嚢胞」は必須ではなく、治療は月経・高アンドロゲン・代謝・妊孕性のどれを優先するかで変わる。

名称と病態

💡 「学会が決めた」のではなく、56の学術・臨床・患者団体が参加し、全世界から14,360人の当事者と多職種医療者の回答を集めた反復的調査・・名義集団技法のワークショップを経た合意である。旧称の「」は病的な卵巣嚢胞を含意して不正確であり、内分泌・代謝的特徴を覆い隠して診断の遅れ・分断された医療・につながっていた。移行期間・教育・疾病分類との整合を含む実装戦略が進行中である。1

  • 、視床下部・下垂体・、インスリン抵抗性、体重・環境因子が関与する。
flowchart TD
    A["インスリン抵抗性"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperinsulinemia'>高インスリン血症</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='theca cell'>莢膜細胞</span>のアンドロゲン産生増加"]
    B --> D["肝SHBG産生低下"]
    C --> E["遊離アンドロゲン増加"]
    D --> E
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular development'>卵胞発育</span>停止・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovulatory dysfunction'>排卵障害</span>"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligomenorrhea'>希発月経</span>・不妊"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='progesterone'>黄体ホルモン</span>欠如・子宮内膜への持続的エストロゲン作用"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endometrial hyperplasia'>子宮内膜増殖症</span>リスク上昇"]

臨床像

領域 主な所見
月経・排卵 、無月経、、不妊
高アンドロゲン 、、女性型脱毛。急速な男性化は腫瘍を疑う
代謝 インスリン抵抗性、、2型糖尿病、脂質異常、高血圧
形態 卵巣容積増大、多数の小卵胞。片側だけでも基準を満たしうる
長期リスク ・、睡眠時無呼吸、抑うつ・不安

💡 、、を伴う強い表現型は(hyperandrogenism–insulin resistance–acanthosis nigricans)と呼ばれる。

診断

成人では、他疾患を除外したうえで次の3項目中2項目を満たす。

  1. 臨床的または生化学的高アンドロゲン
  2. ・
  3. (PCOM)、または成人ではが確認された血清(AMH)

高アンドロゲンとがそろえば、診断目的の超音波やは必須ではない。なおを超音波の代わりに使ってよいのは成人に限られる。2

⚠️ と超音波は「どちらか一方」であって、両方は行わない。 2023年の国際ガイドラインは、PCOMの判定に血清と超音波のいずれを用いてもよいとする一方、過剰診断を避けるため両方の検査を行うべきではないとし、さらにをPMOSの診断のための単独の検査として用いないことを推奨している2。はあくまで3項目のうち「卵巣形態」の項を満たすかどうかを判定する検査であり、が高いというだけではPMOSと診断できない。

超音波基準

  • 成人で高を用いる場合、少なくともで卵巣当たり卵胞数20個以上をPCOMの目安とする。
  • 旧機器や不十分で卵巣全体の卵胞数を正確に数えられない場合は、少なくともで卵巣容積10 mL以上または断面卵胞数10個以上を閾値とする。では卵巣全体の卵胞が難しいため、この卵巣容積・断面卵胞数を主に報告する。2
  • 「12個以上、2〜9 mm」という2003年の卵胞数・径は現在は用いない。

思春期の注意

  • 後早期には、、多卵胞性卵巣が生理的にみられる。
  • 思春期の診断は、他疾患を除外したうえでの不整(後の年数に応じて定義する)と臨床的または生化学的の両方を認めることに基づく。やを診断に用いてはならない。3
  • どちらか一方しか満たさない場合は「PMOSのリスクがある(at risk)」と位置づけ、症状の管理と継続的な経過観察を行う。3

除外する疾患

併存症評価

  • 血圧、脂質、喫煙、家族歴を確認する。
  • 75 gが血糖状態の最も正確な評価であり、にかかわらず診断時に検討する。困難ならやを用いるが感度は下がる。
  • 抑うつ・不安、摂食障害、睡眠時無呼吸症状を確認する。
  • 長期無月経、高体重、2型糖尿病、持続するはリスクをさらに高める。

治療

全員に共通

  • 体重によらず、持続可能な運動・食事・睡眠を支援する。特定の「」だけを標準としない。
  • 体重に関する相談はを避け、本人の許可と目標に基づいて行う。

妊娠を希望しない場合

  • ・高アンドロゲンには、禁忌がなければ(low-dose combined oral contraceptive pill:COCP)が第一選択となる。
  • COCPが使えない場合も、周期的などで子宮内膜を保護する。
  • は主にや代謝リスクが高い場合に用いるが、の調整にも補助的な位置づけがある(思春期では代謝面の特徴と周期調整の両方に対して考慮しうる)。3
  • (など)は男児胎児の外性器の男性化を妨げうるため、確実な避妊の併用が必須である。効果判定はを考慮して少なくとも6か月単位で行う。

妊娠を希望する場合

  • 他のがないでは、が第一選択の薬である。無作為化試験20件・3,962人の個別患者データで、に比べ(1.43)・臨床(1.45)を改善し、妊娠までの期間を短縮した(1.72)。4
  • 、併用、低用量ゴナドトロピンを状況に応じて選ぶ。+は単独より臨床を改善しうるが、の差については十分な根拠が無い。4
  • 卵巣手術は第一選択ではなく、経口不成功例などに限って検討する。
  • 薬物療法不成功時または別の適応がある場合にへ進む。

まとめ

  • (PMOS、旧PCOS)は・高アンドロゲン・代謝異常を中心とする全身性疾患で、は必須ではない。2026年に改称されたのは英語名で、名と旧略語PCOSは当面併存する。
  • 成人診断は3項目中2項目で、PCOMの現行目安は卵巣当たり卵胞数20個以上である。は成人で超音波の代替になるが、超音波と両方は行わず、単独でも診断しない。
  • 月経・高アンドロゲンにはCOCP、代謝には生活支援と必要時(周期調整にも補助的に働く)、にはを第一選択とする。思春期では超音波・を診断に使わず、片方の所見しかなければ「リスクあり」として経過観察する。

出典

  1. 1.Polyendocrine metabolic ovarian syndrome, the new name for polycystic ovary syndrome: a multistep global consensus process(The Lancet・2026)PCOSという名称が病的な卵巣嚢胞を含意して不正確であり、多様な内分泌・代謝的特徴を覆い隠して診断の遅れ・分断された医療・スティグマにつながっていたこと。**56の学術・臨床・患者団体が参加し、全世界から14,360人の当事者と多職種医療者の回答を集めた反復的調査、修正Delphi法、名義集団技法のワークショップを経た多段階の国際コンセンサス過程**でpolyendocrine metabolic ovarian syndromeが新名称として合意されたこと。移行期間・教育・医療制度および疾病分類との整合を含む実装戦略が進行中であること閲覧 2026-08-21
  2. 2.Recommendations From the 2023 International Evidence-based Guideline for the Assessment and Management of Polycystic Ovary Syndrome(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・2023)PMC10505534の全文で次を確認した。①PCOMの超音波閾値が推奨1.4.4で「少なくとも一側の卵巣当たり卵胞数(FNPO)20個以上」、1.4.5で旧機種または画質不十分で卵巣全体の卵胞計数ができない場合の代替として「少なくとも一側で卵巣容積10 mL以上または断面卵胞数(FNPS)10個以上」であること。②経腹超音波は卵巣全体の卵胞計数が難しいため卵巣容積10 mL以上または断面卵胞数10個以上を主に報告すべきこと(1.4.8)。③報告項目として数える卵胞径が2〜9 mmであること。④成人では血清AMHをPCOMの判定に用いてよいが(1.5.1)、AMHと超音波は「いずれか一方」を用い過剰診断を避けるため両方は行わないこと(1.5.5 Good Practice Point)、AMHをPCOS診断の単独の検査として用いないこと(1.5.3)、思春期にはAMHをまだ用いないこと(1.5.4)。⑤月経不順と高アンドロゲン血症の両方がある患者では超音波もAMHも診断に必要でないこと(1.4.9・1.5.2)。⑥ロッテルダム基準を用いた世界の有病率が10〜13%であること(1.6.1)閲覧 2026-09-08
  3. 3.International evidence-based recommendations for polycystic ovary syndrome in adolescents(BMC Medicine・2025)思春期の診断が、他疾患の除外後に**月経周期の不整(初経後の年数に応じて定義)と臨床的または生化学的高アンドロゲン血症の両方**を認めることに基づくこと。**どちらか一方しか満たさない場合は「PCOSのリスクがある(at risk)」**として症状管理と経過観察を行うこと。**思春期には多嚢胞性卵巣形態やAMHを診断に用いてはならない**こと。月経不整と臨床的高アンドロゲン血症には低用量製剤を中心とした混合経口避妊薬が適応となり、メトホルミンは代謝面の特徴と**周期の調整**に対して考慮しうること閲覧 2026-08-21
  4. 4.First-line ovulation induction for polycystic ovary syndrome: an individual participant data meta-analysis(Human Reproduction Update・2019)無作為化試験20件・3,962人の個別患者データメタ解析で、レトロゾールがクロミフェンに比べて**生児出生率(リスク比1.43、95%信頼区間1.17〜1.75)**、**臨床妊娠率(リスク比1.45、1.23〜1.70)**を改善し、**妊娠までの期間を短縮(ハザード比1.72、1.38〜2.15)**したこと(いずれも中等度の確実性)。クロミフェン+メトホルミンはクロミフェン単独に比べ臨床妊娠率を改善しうるが、生児出生率の差については十分な根拠が無かったこと閲覧 2026-08-21