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Symptoms · Published

多毛症

Hirsutism

別名
多毛男性型多毛hirsutism
臓器系
内分泌・代謝生殖・産婦人科
科目
GynecologyPathophysiology
トピック
婦人科 37:男性化と多毛症婦人科 03:多内分泌代謝性卵巣症候群(PMOS、従来PCOS)病態生理学 1-25:女性ホルモン調節の異常
関連疾患
クッシング症候群先天性副腎過形成多嚢胞性卵巣症候群副腎皮質癌
起因薬
オシロドロスタットダナゾールデヒドロエピアンドロステロンミノキシジル

🧠 全体像:「毛が多い」という訴えには、性質の異なる2つの状態が紛れ込んでいる。はアンドロゲン依存部位に男性型分布でが増える状態で、高アンドロゲン症の主要な所見の一つである。は全身性・アンドロゲン非依存の体毛増加で、薬剤・代謝疾患・先天性が原因になる。両者はでも紛らわしいが、鑑別の進め方も治療もまったく別であり、この2つを最初に切り分けることが本ノートの中心になる。

定義と用語の整理

  • は、上口唇・顎・胸部・腹部・背部・大腿などアンドロゲン依存部位に、男性型分布でより太く色素の濃いが増える状態を指す。アンドロゲン作用が毛包に働いた結果であり、高アンドロゲン症の代表的な所見として位置づけられる。
  • は、アンドロゲン依存部位に限らず全身性・対称性に体毛が増える状態で、アンドロゲンの多寡とはに起こる。原因は薬剤性・代謝性・先天性が中心になる。
  • 同じ「毛が多い」というでも、だと決めてかかって月経歴やアンドロゲン検査ばかり重ねると、実は薬剤性のだった場合に的外れになる。逆にだと決めつけてだけで済ませると、腫瘍性のを見逃しかねない。どちらの状態かを最初に決めることが、その後の検査の組み立てを左右する。
分布 アンドロゲン依存部位に限局し男性型 全身性・対称性、部位を選ばない
アンドロゲンとの関係 依存性 非依存性
代表的な原因 PMOS(旧PCOS)、アンドロゲン産生腫瘍、など高アンドロゲン症の原因群 薬剤(フェニトインなど)、代謝疾患、先天性
評価に使う指標 なし。分布・経過・薬剤歴で判断する

病態生理

体毛は(細く色素を持たない毛)から、(細く短く目立たない毛)を経て、(太く長く色素の濃い毛)へと変化しうる。このからへの転換が起こる部位が、で問題になるアンドロゲン依存部位である。

  • 毛包のがテストステロンをより活性の強いへ変換し、を介してへ転換させる。
  • 部位ごとにの発現・活性が異なるため、同じ血中アンドロゲン値でも増える部位・程度には・民族差が出る。

💡 アンドロゲンは体毛と頭髪で逆の作用をする。上口唇や顎などの体毛ではの成長期を延長して化を促す一方、頭皮では逆に成長期を短縮して脱毛()を招く。同じホルモンが部位によって正反対に働くため、が同じ患者に同時に起こりうる。

毛は成長期(数か月〜数年)・退行期(数週間)・(数か月)を繰り返すの中にある。ホルモン治療は新たに成長期へ入る毛が化するのを防ぐだけで、既に化した毛をすぐに消すわけではない。そのため効果判定には一巡分、少なくとも6か月を要する1

原因は、アンドロゲンが関与するかどうかで群に分けると整理しやすい。

代表例 機序
アンドロゲン依存性( PMOS(旧PCOS)、卵巣・副腎のアンドロゲン産生腫瘍、非 血中アンドロゲン高値が毛包の・受容体を介しへ転換
特発性(、血中値は正常) 特発性 血中アンドロゲンは正常域だが、毛包局所の活性・受容体感受性がとして亢進
薬剤性(、アンドロゲン非依存) フェニトイン の成長期延長など、アンドロゲンを介さない機序で全身性・対称性に増加
代謝性・先天性(、アンドロゲン非依存) などの高度な、先天性の 細く柔らかい様の毛が全身性に増える。基礎疾患・の重症度と連動する

⚠️ 緊急・見逃してはいけない疾患

⚠️ 急速進行+男性化を伴うは、卵巣・副腎のアンドロゲン産生腫瘍を積極的に疑う所見であり、画像検査を急ぐ2。具体的な数値閾値や画像検査の進め方は高アンドロゲン症に譲る。

⚠️ 非Cushing症候群は、緩徐発症でPMOS(旧PCOS)に似た臨床像をとることがあり、見逃されやすい。判別に用いる高アンドロゲン症を参照する。

⚠️ 閉経後の新規発症は、加齢のせいと片付けず、上記の腫瘍性病変を優先して疑う対象になる。

これらの緊急性はいずれもの話であり、(アンドロゲン非依存)にはあてはまらないが急に悪化したときの緊急性は、原因薬剤の中止困難や基礎疾患のといった別の理由による。

鑑別の進め方

・身体所見でまず次を確認する。

  • 体毛が増えた部位はアンドロゲン依存部位に限られるか、全身性か
  • 発症年齢と進行速度、月経の状態、体重変化
  • フェニトイン・などの薬剤歴
  • 家族歴・民族的背景(の解釈に影響する)

身体所見では、・嗄声・増加・など男性化所見の有無、腹部・骨盤の腫瘤触知、などCushing症候群を疑う所見の有無を確認する。これらを認めれば、次に述べるでの重症度評価より先に、前節の緊急疾患としての評価を優先する。

と判断したら、で程度を数値化する。上口唇・顎・胸部など9部位の量を採点し、合計36点満点で算出する。診断とみなす閾値には民族差があり、米英の白人・黒人女性では8点以上を目安とする一方、東アジア人は同程度のアンドロゲン値でも体毛量そのものが少ないため、閾値はより低く見積もる必要がある1。日本人を含む東アジア人の診療で欧米の閾値をそのまま当てはめると、を見落としうる。部位ごとの配点基準は側の表に譲る。

flowchart TD
    A["体毛増加の訴え"] --> B{"分布はアンドロゲン依存部位に限局するか"}
    B -->|"全身性・対称性"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertrichosis (excess hair growth)'>多毛</span>:薬剤歴・代謝疾患・先天性を確認"]
    B -->|"依存部位に限局"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hirsutism'>多毛症</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='modified Ferriman-Gallwey score'>修正Ferriman-Gallweyスコア</span>で評価"]
    D --> E{"発症は緩徐か急速か"}
    E -->|"急速+男性化を伴う"| F["高アンドロゲン症の緊急評価へ"]
    E -->|"緩徐・男性化なし"| G["月経状態・体重変化を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medical interview (history-taking)'>問診</span>し原因検索"]
    C --> H{"原因薬剤の中止が可能か"}
    H -->|"可能"| I["中止して経過観察"]
    H -->|"中止困難・薬剤歴なし"| J["代謝疾患・先天性を評価"]

で分布と発症速度を確認し、であればで重症度を数値化してから、男性化の有無に応じて緊急評価へ進むかを判断する。であれば、薬剤歴の有無で原因検索の進め方が分かれる。

対症療法の考え方

では、対症療法の考え方そのものが異なる。

  • :妊娠を希望しない場合、を第一選択とし、6か月使用しても不十分ならなどのを追加する1。前述のとおりのため、効果判定には少なくとも6か月を要し、それより早い段階で薬を切り替えない。顔面のには、外用をレーザー脱毛など美容的処置に併用すると反応が速まる1
  • の適応はなく、原因への対応が中心になる。原因薬剤があれば中止・変更を検討し、代謝疾患・先天性疾患があればその治療を優先する。
  • 美容的処置、ワックス脱毛、電気脱毛、レーザー脱毛)は原因を問わず、のどちらにも薬物療法や原因治療と並行して行える。

⚠️ はいずれも催奇形性の懸念があり、確実な避妊なしに単独で使わない。

まとめ

  • はアンドロゲン依存部位に限局する男性型の増加、は全身性・アンドロゲン非依存の体毛増加であり、原因も治療も別に考える。
  • からへの転換は毛包のを介して起こり、のため効果判定には少なくとも6か月を要する。
  • 原因はアンドロゲン依存性(PMOS・腫瘍・)、特発性、薬剤性、代謝性・先天性に群分けして考える。
  • 急速進行+男性化を伴うはアンドロゲン産生腫瘍を、緩徐発症でも・Cushing症候群を見逃さないよう優先して除外する。詳細な評価は高アンドロゲン症に譲る。
  • は9部位を0〜4点で評価し合計36点満点で、診断閾値には民族差があり東アジア人ではより低く見積もる必要がある。
  • 治療はならなら原因への対応が中心で、美容的処置はどちらにも併用できる。

出典

  1. 1.Evaluation and Treatment of Hirsutism in Premenopausal Women: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2018)修正Ferriman-Gallweyスコアの診断閾値には民族差があり(米英の白人・黒人は8点以上が目安、東アジア人はより低い)、複合経口避妊薬を初期治療とし6か月の単剤使用で不十分なら抗アンドロゲン薬を追加、治療変更の判断には最低6か月の試験期間を要し、より速い反応を望む場合はエフロルニチン外用をレーザー脱毛などに併用してよい閲覧 2026-08-02
  2. 2.Society for Endocrinology Clinical Practice Guideline for the Evaluation of Androgen Excess in Women(Society for Endocrinology・2025)急速発症+男性化を伴う高アンドロゲン症状はアンドロゲン産生腫瘍を積極的に疑う所見である閲覧 2026-08-02