病態生理学

病態生理学 · 1-25

女性ホルモン調節の異常

Disorders of female hormonal regulation

応用トピック
消化管疾患 症例3
疾患
アンドロゲン産生腫瘍ミュラー管無形成機能性視床下部性無月経妊娠黄体腫卵巣過剰莢膜症
症状
高アンドロゲン血症多毛症無月経

🧠 2大病態を対比で覚える: PMOS は「アンドロゲン高・/比高(↑・は低め〜正常)・肥満/インスリン抵抗性」、FHA()は「アンドロゲン低・/ともに低値〜正常・低エネルギー(ダイエット/運動)」。どちらも無月経だが原因は正反対。

女性性ホルモンの調節

  • → + → 卵巣。
  • → → エストロゲン+。
  • → → +アンドロゲン(→ アロマターゼでエストラジオール)。

無月経

無月経はの有無を基準に原発性と続発性に大別され、最初に確認すべき点が異なる。

原発性無月経(症状=思春期欠如/遅延)

  • 定義: 15歳までにがない、から3年以内にがない、または13歳までにがない場合に評価する。
  • ⭐ 診断はまず「()の有無」と「子宮の有無」で場合分けする。 があれば卵巣がエストロゲンを産生できているとわかるので、そこから先は子宮の有無で流出路・由来器官の異常か、・内分泌疾患かを絞り込む。がなければ、中枢性・いずれかのを中心に評価する。
  • 代表的な原因:

続発性無月経/希発月経

エストロゲン低下が続くため、症状は不妊・↓・・・骨粗鬆症が中心になる。

  • 定義: これまで規則的だった月経が3か月を超えて停止、または元々不規則だった月経が6か月停止した場合。
  • ⭐ 診断の最初の一歩は妊娠の除外である。 月経が1週間遅れただけでも、妊娠可能性があれば妊娠検査を行う。
  • 妊娠除外後の代表的な原因:

続発性無月経の主要な鑑別:FHA・高プロラクチン血症・早発卵巣不全

いずれも「エストロゲン低下→無月経」という結果は同じだが、そこに至る経路と/の動きが違うため区別できる。

機能性視床下部性無月経(FHA)

💡 エネルギー不足が を止める。 (脂肪量のシグナル)が を支えており、ダイエット/で↓ → ↓。強いストレスは CRH↑ で を抑制。

  • 病態: /ダイエット → ↓ → ↓;強い身体的ストレス → CRH↑ → ↓。
  • 帰結:
    • /コルチゾール↑
    • //エストラジオール↓
    • TSH/T3↓
  • ⚠️ によるが主要な問題になる。 無月経が続くほど骨密度低下が進み、負のエネルギーバランスの是正が遅れるほど骨量は回復しにくくなるため、早期に・を評価し介入する。
  • FHAはである。などのや他の内分泌疾患を除外したうえで、・過度な運動・心理的ストレスといった生活歴から診断する。頭痛・を伴う場合は機能性と決めつけず画像評価を追加する。

高プロラクチン血症

  • 機序: プロラクチンがのパルス分泌を抑制し、/低下から・無月経を来す。
  • が高値であれば、まず妊娠・授乳、薬剤性(抗精神病薬など)、(↑を介してプロラクチンも上昇する)、といった生理的・二次性の原因を除外する。
  • を経ても説明できない持続高値であればを疑い、へ進む。

早発卵巣不全(POI)

  • 定義: 40歳未満で卵巣機能が低下する病態。ガイドラインは40歳以上45歳未満(40〜44歳)の卵巣機能停止を「」と呼び、本ガイドラインの対象外とする——ただし「エビデンスと推奨はの女性にも関連しうる」と同じ文に添えており、だと言っているのではない1。45歳以降の閉経は生理的な範囲として扱う。
  • ⚠️ 略語POIには2つの英語名が同居している。 2024年のガイドラインは研究・臨床では premature ovarian insufficiency()を用いることをGood Practice Pointとして推奨するが、同じガイドライン自身がで primary ovarian insufficiency(原発性)を併記しており、略語POIだけでは区別できない1。本ボルト内でも「」「」「」が併存するが、別々の疾患ではなく同じPOIの表記ゆれである(卵巣機能不全)。
  • 現行のは、4か月以上続く無月経またはに加え、FSH>25 IU/Lの測定が1回あれば足りる(診断が不確実な場合に限り4〜6週間後に再検する)1。
  • ⚠️ FHAとは正反対のパターンを示す。 FHAは中枢からの指令不足で/が低値〜正常にとどまるのに対し、POIは卵巣が枯渇して負のフィードバックが働かず/が高値になる——この一点で両者を鑑別できる。
  • (HT)は、症状の有無にかかわらず通常の閉経年齢まで行うことが強く推奨される(として罹病・死亡リスクを下げる目的。強い推奨だが、エビデンスの確実性は非常に低い)1。症状の治療としてのHTも別に強く推奨される1。💡 「症状が無いから様子を見る」で済ませない。 この推奨の根拠は症状の緩和ではなく、罹病・死亡リスクを下げるに置かれている——だから無症状でも通常の閉経年齢までは続ける、という書き方になっている。⚠️ HTは避妊にならないので、妊娠を望まない場合は避妊を別に相談する1。
  • や自己免疫性の合併(など)を見逃さない。詳細は卵巣機能不全を参照。

三者の比較

病態 機序 / エストラジオール 鍵となる注意点
FHA エネルギー不足でパルス↓ 低値〜正常 低値 ;
プロラクチンがパルスを抑制 低値〜正常 低値 薬剤・甲状腺機能・妊娠をまず除外
(POI) 卵巣の卵胞減少・機能廃絶(40歳未満) 高値 低値 ・自己免疫性の合併

多嚢胞性卵巣症候群(PMOS、旧PCOS)

を用いた世界のは 10〜13%2。2026年5月、56の学術・臨床・患者団体が参加する多段階の国際合意を経て、名称が polyendocrine metabolic ovarian syndrome(PMOS) に改められた(旧称:polycystic ovary syndrome、PCOS)。「多嚢胞性」という語が病的な卵巣嚢胞を含意して不正確であり、内分泌・代謝面の多様な特徴を覆い隠していることが改称の理由である3。実際、卵巣に見えるのは発育が停止したであって真の病的嚢胞ではない。移行期間・教育・疾病分類との整合を含む実装戦略が進行中である3。改称の経緯と治療の詳細はを参照。

flowchart TD
  N["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulsatile'>拍動性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonadotropin-releasing hormone'>GnRH</span>の異常 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>↑・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>↓(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>≥2×)"] --> TH["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='theca cell'>莢膜細胞</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='androstenedione'>アンドロステンジオン</span>/テストステロン↑"]
  TH --> MET["代謝:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceral fat'>内臓脂肪</span>↑・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adiponectin'>アディポネクチン</span>↓ → インスリン抵抗性 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperinsulinemia'>高インスリン血症</span>"]
  MET --> HI["遊離IGF↑・SHBG↓ → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='free testosterone'>遊離テストステロン</span>↑ → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-Müllerian hormone'>AMH</span>↑"]
  HI --> FA["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>遮断 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular arrest'>卵胞停止</span>"]
  TH --> FA
  FA --> PCO["多嚢胞性卵巣"]

病態機序

  • 神経内分泌: 異常 → ↑、↓ → → /テストステロン↑。がエストラジオールに変換 → (→ 癌)。
  • 代謝: ↓ → ↑、↓ → インスリン抵抗性 → 高血糖+。
  • : 遊離IGF↑、SHBG↓ → ↑ → ()↑ → 遮断 → → 多嚢胞性卵巣。

診断

⚠️ PMOSは3項目のうち2項目を満たすだけでは診断できない、である。 成人では次の3項目のうち2項目を満たし、かつ他の原因を除外して初めて診断が確定する(は他疾患の除外を条件に含む)。

  1. / 2. 臨床的または生化学的 3. (超音波)

症状

卵巣予備能マーカーの限界

⚠️ AMHやは残存卵胞の「数」を反映する指標であり、排卵の有無や自然妊娠できるかどうかを予測するものではない。 における卵巣刺激への反応性(採卵数の見込み)を推定する目的では有用だが、時間当たりの妊娠しやすさ(自然妊孕性)とは別の指標である。不妊歴のない30〜44歳の女性750人の前向きコホートでは、低値群・高値群と正常値群のあいだで、6周期・12周期時点のに有意差はなかった4。PMOSでみられる上昇も「卵胞数が多い」ことの反映にすぎず、排卵能や妊孕性の良さを意味しない——実際にはPMOSはのため妊孕性はしばしば低下する。

PMOS vs FHA

特徴 PMOS FHA
アンドロゲン 高い 低い/正常
/ 比 高い 低い
関連 肥満/インスリン抵抗性 ダイエット/低エネルギー

まとめ

項目 要点
調節 → ・ → 卵巣。はでエストロゲンと、はでアンドロゲンと
15歳までになし、から3年以内になし、13歳までになしで評価。と子宮の有無で場合分けする(、、形成不全、PMOS、欠如)
規則的だった月経が3か月超、不規則だった月経が6か月停止。最初に妊娠を除外し、FHA・PMOS・・・薬剤・閉経を考える
FHA エネルギー不足やストレスでパルスが低下。/は低値〜正常、エストラジオールは低値。が問題で、
PRLがパルスを抑える。妊娠・授乳、薬剤、甲状腺機能低下症、を除外してからを疑い
40歳未満。4か月以上の無月経・と>25 IU/L 1回で診断。/が高値でFHAと区別できる。を通常の閉経年齢まで行うことが強く推奨され、避妊にはならない
PMOS(旧PCOS) 10〜13%。2026年に改称。↑・アンドロゲン↑・インスリン抵抗性・↑。成人は3項目中2項目+他疾患の除外で診断し、超音波の代わりにも使える。思春期はとの両方が必須
マーカー ・は卵胞の数を反映するだけで、自然妊孕性は予測しない

出典

  1. 1.Evidence-based guideline: premature ovarian insufficiency(ESHRE, ASRM, CREWHIRL, and IMS Guideline Group on POI・2024)PMC11631070の全文(Human Reproduction Openに掲載されたガイドライン要約論文)で次を確認した。①早発卵巣不全(POI)の現行の診断基準が、40歳未満で4か月以上続く自発的無月経または月経不順に加えFSH>25 IU/Lの1回の測定で足り、診断が不確実な場合に限り4〜6週後に再検すること、月経周期の特定日に合わせて測る必要は無いこと。②呼称について「研究・臨床では premature ovarian insufficiency を用いる」ことをGood Practice Pointとして推奨していること(原文は The guideline group recommends that the term 'premature ovarian insufficiency' is used to describe this condition in research and clinical practice)。ただし抄録の設問とキーワードは premature と primary を併記している。③40歳以上45歳未満(40〜44歳)の卵巣機能停止は early menopause と呼び本ガイドラインの対象外とすること(逐語は cessation of ovarian function in women aged from 40 and <45 (age 40-44 years) will be termed early menopause. Early menopause is outside the scope of the current guideline, but the evidence and recommendations may be relevant to women with early menopause. で、対象外という断りの直後に「エビデンスと推奨は関連しうる」という但し書きが続く)。④ホルモン療法(HT)を、エストロゲン欠乏症状の有無にかかわらず通常の閉経年齢まで一次予防として行うことを強く推奨すること(強い推奨。エビデンスの確実性は非常に低い ⊕◯◯◯)。症状の治療としてのHTも強い推奨(⊕⊕◯◯)であること。通常の閉経年齢に達したのちは個別のリスク・ベネフィット評価に基づいて継続の要否を検討すること(Good Practice Point)、HTは避妊にならないことを説明すること(Good Practice Point)閲覧 2026-09-08
  2. 2.Recommendations From the 2023 International Evidence-based Guideline for the Assessment and Management of Polycystic Ovary Syndrome(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism・2023)2023年改訂で診断アルゴリズムが整理され、診断アルゴリズムの注記が他疾患の除外としてTSH・プロラクチン・17-ヒドロキシプロゲステロン・FSHの測定と、臨床的に必要ならクッシング症候群・副腎腫瘍などの除外、低体脂肪や激しい運動による低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の臨床的・LH/FSHによる除外を挙げていること、成人に限り超音波の代わりに血清AMH(抗ミュラー管ホルモン)を代替として使用できるようになったこと(1.5.1)、月経不順と高アンドロゲン血症が揃っていれば超音波もAMHも診断に不要であること(1.4.9・1.5.2)、思春期では高アンドロゲン血症と排卵障害の両方が必須で超音波もAMHも特異度が低いため推奨されないこと(1.4.6・1.5.4)、ロッテルダム基準を用いた世界の有病率が10〜13%であること(1.6.1)を全文で確認した閲覧 2026-09-24
  3. 3.Polyendocrine metabolic ovarian syndrome, the new name for polycystic ovary syndrome: a multistep global consensus process(The Lancet・2026)PCOSからPMOSへの名称変更が、56団体の参加・14,360件の回答を得た反復的な国際調査・修正Delphi法・名義集団法からなる多段階の国際合意プロセスで決定されたこと、改称の理由が「多嚢胞性」という語が病的な卵巣嚢胞を含意して不正確であり内分泌・代謝面の特徴を覆い隠すことにあること、移行期間・教育・疾病分類との整合を含む実装戦略が進行中であること。⚠️ 本文は取得できず(Lancetは非OA、PMC未収載)、以上はEurope PMCで取得した抄録に記載された内容である閲覧 2026-09-08
  4. 4.Association Between Biomarkers of Ovarian Reserve and Infertility Among Older Women of Reproductive Age(JAMA・2017)不妊歴のない30〜44歳の女性750人の前向きコホートで、AMH低値群・FSH高値群と正常値群のあいだで6周期・12周期時点の累積妊娠率に有意差がなく、卵巣予備能マーカーが自然妊孕性を予測しないことを確認した閲覧 2026-08-14