病態生理学

病態生理学 · 1-26

更年期移行期と閉経

Menopausal transition and menopause

応用トピック
閉経と骨粗鬆症 症例4
疾患
更年期症状
症状
異常子宮出血顔面紅潮腟乾燥

🧠 閉経は「卵胞が枯れていく過程」。 まず /が落ち → が上がり(最初の異常は周期短縮)→ やがて E2 が乱高下しながら低下。は E2 低下が視床下部のを狂わせ、が狭くなるために起こる。

定義とステージ(STRAW+10)

  • 閉経 = 卵巣の生殖機能の終了。FMP()後12か月無月経(に確定)。平均51歳。自然()または医原性(、放射線/化学療法)。
  • 現行のは2011年に改訂されたSTRAW+10(Stages of Reproductive Aging Workshop +10)で、生殖期・・閉経後をそれぞれ細分する1。
相 STRAW+10 月経の変化 内分泌・持続期間
生殖後期 −3b〜−3a 周期はおおむね規則的 ・低下開始、減少(はまだ正常範囲)
・早期 −2 連続する周期の長さが7日以上変動 が変動しつつ上昇
・後期 −1 60日以上の無月経間隔が出現 がさらに上昇(随時採血で目安25 IU/L超)。平均1〜3年持続1
閉経(FMP) 0 。その時点では確定できない —
閉経後・早期 +1a〜+1c 持続的無月経 +1a・+1bは各約1年(/E2が安定するまで)、+1cはさらに3〜6年かけ安定化。全体で約5〜8年1
閉経後・後期 +2 持続的無月経 生涯続く。生殖内分泌の変化は乏しくなり、症状の重心がからへ移る1
  • = +FMP後12か月(stage +1aまで)。
  • = +その後数年の症状期を指す口語的な呼び方で、STRAW+10の正式な名ではない。この時期の症状群はにまとめてある。

ホルモンの推移(縦に)

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-Müllerian hormone'>AMH</span>↓・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibin B'>インヒビンB</span>↓"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>↑(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dominant follicle'>主席卵胞</span>維持→E2正常/やや↑):<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subfertility'>妊孕性低下</span>のみ"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibin B'>インヒビンB</span>さらに↓ → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>↑"]
  C --> D["E2低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-Müllerian hormone'>AMH</span>低下継続"]
  • 低下要因:
    • (卵胞数↓、/反応性↓)
    • (調節の乱れ、エストロゲン感受性↓ → ピークのタイミング不正確)

出血の異常

  • ↓ → ↑:周期短縮(最早期)または延長、。が子宮内膜を増殖 → (少量出血〜大量出血)。ではない(黄体なし)。

移行期の症状

ホットフラッシュ

💡 E2↓ → 視床下部の(・・を)へのエストロゲンによる抑制が外れて肥大・化 → が隣接するのを刺激 → が狭小化 → わずかな体温変動で・・睡眠障害。薬はこのを狙い撃ちして遮断する。

  • 顔/首/上肢/体幹の突然の熱感・(突然の血管拡張)、1–5分、発汗・頻脈。しばしば夜間。移行後期〜閉経直後、数年で。

治療:ホルモン補充療法とその代替

💡 HRT(/MHT)の適否は「何歳で」「閉経から何年で」始めるかで反転する(タイミング仮説)。 2002年のWomen’s Health Initiative()初報が「HRTは心血管イベントを増やす」と広く報じられて以降、HRT処方は世界的に急減した。しかしでCEE+MPA(結合型エストロゲン+)に割り付けられた集団は平均63歳という、閉経(平均51歳)からかなり時間が経った集団であり、その後の年齢層別の解析から閉経に近い時期に開始するほど利益がリスクを上回りやすく、閉経から離れて開始するほど不利になるというタイミング仮説が支持されるようになった2。

  • ⭐ 現行の立場(The Menopause Society〔旧NAMS〕2022年ポジションステートメント):60歳未満、または閉経後10年以内に開始する健康な女性では、禁忌がなければ(VMS)・に対する利益がリスクを上回る。これより高齢・閉経から時間が経った女性に新規開始する場合は、冠動脈疾患・脳卒中・・認知症の増加を踏まえて個別に判断する2。
  • ⚠️ 「利益がリスクを上回る」のは、症状のある女性を治療する場合の話であって、病気の予防目的で始めてよいという意味ではない。 症状のない閉経後女性に、心血管疾患や骨折といった慢性疾患のだけを目的にを開始することは、がGrade D(反対を推奨)としている。同じ薬でも「症状を治療する」のか「無症状の人に病気を予防させる」のかでが反転する点を取り違えない(閉経後を参照)。骨についても同様で、骨折リスクの低減だけを主目的に、あるいは高齢・閉経から長期間が経った女性に新規開始することは推奨されない(骨粗鬆症)。
  • ⚠️ 禁忌:原因不明の性器出血、肝疾患、の既往(乳癌など)、冠動脈疾患・脳卒中・心筋梗塞・の既往、またはこれらになりやすい素因2。
  • ⚠️ 子宮がある女性にエストロゲンを単独で使ってはならない。 は子宮内膜を持続的に増殖させを経てのリスクを上げる(用量・期間依存性で中止後もリスクが残る)ため、子宮がある女性では必ず(など)を併用する。子宮摘出後の女性はエストロゲン単独でよい2。
  • 経口 vs 経皮:エストラジオールはだと肝初回通過を介して凝固因子(第VII・VIII・X因子等)を変化させるが、はこれを回避するため、観察研究では経皮の方がリスクが低い(比較RCTデータはまだ乏しい)2。を避けたい患者では経皮製剤を優先する。
  • :は依然としてVMSに最も有効な治療だが、禁忌(の癌、心血管疾患など)や本人の希望で使えない患者には、The Menopause Society(旧NAMS)の2023年非ポジションステートメントが・臨床・/・・を最も強いレベル(Level I)で推奨している3。
    • は視床下部ののを直接標的とする。⚠️ 米国添付文書に肝毒性のがある。
    • 同じ系統で、NK1・の二重拮抗薬エリンザネタントも承認された。米国(2025年)の適応は閉経に伴うVMSのみ4、(2025年11月)は閉経に伴うVMSに加えて乳癌の術後補助によるVMSも適応に含む5。
    • ⚠️ ・エリンザネタントとも、2026年9月時点で日本では未承認である6。
  • 適応判断・個別化の詳しい進め方は閉経の臨床管理を参照。

まとめ

論点 要点
閉経の定義 (FMP)後12か月の無月経でに確定。平均51歳。自然()または医原性
病期 STRAW+10。移行期早期(−2)は周期長が7日以上変動、移行期後期(−1)は60日以上の無月経間隔。閉経後早期(+1a〜+1c)、閉経後後期(+2)
ホルモンの順序 ・↓ → ↑(最初の異常は周期短縮)→ E2が乱高下しながら低下
移行期の症状 によるで・・不規則出血。E2欠乏で・・睡眠障害・
の機序 E2↓ → の → がを刺激 → の狭小化
60歳未満または閉経後10年以内の健康な女性では、VMS・に対する利益がリスクを上回る。無症状の人への慢性疾患の目的では始めない
禁忌と注意 原因不明の性器出血、肝疾患、の既往、冠動脈疾患・脳卒中・心筋梗塞・の既往または素因。子宮があればを併用。を避けたいときは経皮
・臨床・/・・。エリンザネタントは米国・で承認。両剤とも日本は未承認

出典

  1. 1.Executive summary of the Stages of Reproductive Aging Workshop + 10: addressing the unfinished agenda of staging reproductive aging(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism / STRAW+10 Collaborative Group・2012)STRAW+10の病期基準(原文PDF)を確認した。更年期移行期・早期(−2)は連続する周期の長さが7日以上変動、後期(−1)は60日以上の無月経かつ随時採血でFSH>25 IU/Lが目安で平均1〜3年持続すること、閉経後早期は+1a・+1b(各約1年、計約2年、FSH/E2が安定するまで)と+1c(さらに3〜6年、早期閉経後全体で約5〜8年)に分かれ、後期閉経後(+2)は生殖内分泌の変化が乏しくなり全身の老化過程が主体となることを確認した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.The 2022 hormone therapy position statement of The North American Menopause Society(The North American Menopause Society(現 The Menopause Society)・2022)原文PDFを確認した。ホルモン療法の安全性は60歳未満または閉経後10年以内に開始した健康な女性で最も良好であること(timing hypothesis)、禁忌が原因不明の性器出血・肝疾患・エストロゲン依存性腫瘍の既往(乳癌を含む)・冠動脈疾患/脳卒中/心筋梗塞/静脈血栓塞栓症の既往またはその素因であること、子宮のある女性への非拮抗エストロゲン単独投与が子宮内膜癌リスクを上げるため黄体ホルモン併用が必要なこと、経皮投与は観察研究で経口投与より静脈血栓塞栓症リスクが低い一方で比較RCTデータは乏しいこと、WHI(Women's Health Initiative)でCEE+MPAに割り付けられた集団の平均年齢が63歳であったことを本文中で確認した。閲覧 2026-08-14
  3. 3.The 2023 nonhormone therapy position statement of The North American Menopause Society(Menopause(The North American Menopause Society)・2023)抄録(Europe PMC)で確認した。血管運動症状の非ホルモン治療として推奨されるのは認知行動療法・臨床催眠・SSRI/SNRI・ガバペンチン・フェゾリネタント(Level I)、オキシブチニン(Level I〜II)、減量・星状神経節ブロック(Level II〜III)。結論部は、ホルモン療法が依然として血管運動症状に最も有効で、禁忌(エストロゲン依存性の癌や心血管疾患など)や本人の希望でホルモン療法の良い候補でない女性に非ホルモン治療の知識が重要だと述べる閲覧 2026-09-24
  4. 4.LYNKUET (elinzanetant) capsules — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / DailyMed・2026)DailyMed の SPL(Effective Time 2026-06-16、Initial U.S. Approval 2025)で確認した。ニューロキニン1(NK1)・ニューロキニン3(NK3)受容体拮抗薬で、米国の適応は「閉経に伴う中等度〜重度の血管運動症状(VMS)の治療」のみ。作用機序の節はKNDy神経上のNK1・NK3受容体シグナルの拮抗によりサブスタンスPとニューロキニンBを阻害すると述べる閲覧 2026-09-24
  5. 5.Lynkuet (elinzanetant) Summary of Product Characteristics (Annex I)(European Medicines Agency・2025)EUの製品概要を取得して確認した。初回承認は2025年11月17日。4.1の適応は中等度〜重度の血管運動症状で、「閉経に伴うもの」と「乳癌に関連した術後補助内分泌療法(AET)によるもの」の2つを挙げる(米国の適応は前者のみ)閲覧 2026-09-24
  6. 6.承認品目一覧(新医薬品:2026年9月)(独立行政法人医薬品医療機器総合機構・2026)PDFを取得してテキスト抽出し、2026年度分(2026-09-24の再取得では、2026.5.11・5.18・6.19・8.24に加えて2026年9月16日承認分も収載され、見出しは「2026年9月」に更新されていた)にフェゾリネタント・エリンザネタントがいずれも収載されていないことを確認した。2025年度分(https://www.pmda.go.jp/files/000277965.pdf 、承認日は2026.3.23まで)も同様に0件だった。2つの一覧を通して、2026年9月時点で両剤とも日本では承認されていないと判断した閲覧 2026-09-24