病態生理学

病態生理学 · 1-27

閉経後(ポストメノポーズ)

Postmenopause

応用トピック
閉経と骨粗鬆症 症例2閉経と骨粗鬆症 症例4
疾患
萎縮性腟炎更年期症状
検査値
腟pH

🧠 閉経後の不調は「エストロゲンが守っていたものが一斉に崩れる」と捉える。 エストロゲンは脂質・血管・骨・脳・泌尿生殖器を保護していた → 欠乏で・動脈硬化・骨粗鬆症・・泌尿生殖器症候群(GSM)が同時進行する。

ホルモンの変化

  • E2 の負のFB喪失 → 上昇後に高値安定、 も高値。卵胞数 = 0 → /E2/ 極低値。早期は移行後期に似るが出血なし。

代謝の変化

  • 肥満↑、BMR↓。↓(E2↓→)、脂肪蓄積(E2↓ が活性化)。脂肪が中心性/内臓へ → /↑、/↓ → インスリン抵抗性 → +慢性炎症。

脂質の変化

心血管の変化

💡 生殖年齢の CV 保護が終わる → CVD が閉経後死亡の約50%。

経路 機序
間接的 、、インスリン抵抗性、慢性炎症
直接的 NO↓、↑、局所血管活性化 → 、血管炎症、

⚠️ この心血管リスク上昇を根拠に、心血管疾患の目的でを開始してはならない。 は、無症状の閉経後女性における慢性疾患(心血管疾患・骨折を含む)の目的でのに反対を推奨している(エストロゲン+・エストロゲン単独ともGrade D)。(など)のでの使用はこの推奨の対象外2。

💡 「はGrade D」と「60歳未満・閉経後10年以内なら利益がリスクを上回る」は矛盾しない。 前者はが無症状の女性に予防目的で投与する場合の判断、後者はThe Menopause Societyがなどの症状を治療する場合の判断で、対象も目的も違う。年齢・閉経からの年数(タイミング仮説)の詳細はと閉経を参照。

骨粗鬆症

💡 骨量の低下が最も速いのはの1年前〜2年後(トランスメノポーズ)で、その後はするが止まらない(の2〜5年後も続く)3。E2 喪失でが暴走する。数値と人種差はカルシウム・リン代謝と骨格系への影響を参照。

flowchart TD
  E["エストロゲン喪失"] --> O1["骨芽細胞:OPG↓+RANKL↑ → 破骨細胞成熟/生存↑"]
  E --> O2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transforming growth factor-beta'>TGF-β</span>↓ → 破骨細胞アポトーシス↓"]
  E --> O3["骨芽細胞の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parathyroid hormone'>PTH</span>反応性↑"]
  AG["加齢"] --> O4["Ca²⁺吸収↓+ビタミンD欠乏"]
  O1 --> R["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone resorption'>骨吸収</span>↑ → 骨粗鬆症(椎体・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='femoral neck'>大腿骨頸部</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='wrist'>手首</span>の骨折)"]
  O2 --> R
  O3 --> R
  O4 --> R
  • のミネラル喪失。症状:
    • 骨/
    • 身長↓()

スクリーニングと診断

⭐ 閉経後女性は65歳以上で全例によるスクリーニングを行う。 65歳未満でも、・喫煙・過量飲酒・続発性原因(使用など)といった骨折の危険因子があれば、など臨床的リスク評価で層別化してスクリーニング対象を決める(いずれも Grade B)4。

  • 診断は の T-score ≤ −2.5(閉経後女性・50歳以上男性の基準)。
  • ⚠️ または椎体の低骨折()があれば、骨密度の値にかかわらず骨粗鬆症として診断・治療対象とする。 の結果を待つ必要はない。
  • 詳しい・の位置づけ・薬物治療開始の閾値は骨粗鬆症を参照。

薬物治療の注意点

泌尿生殖器症候群(GSM)

  • 腟だけでなく尿道・を含む閉経後の泌尿生殖器の変化をまとめて泌尿生殖器症候群(GSM、旧称:)と呼ぶ。コラーゲン↓ → 腟壁が薄く脆弱+ → ・失禁。血流↓ → グリコーゲン↓ → ↓ → ↑ → 感染。症状:

⚠️ GSMは全身のと異なり、(・腟リング・など)で治療できる。 は全身への吸収が少なく血中エストロゲン濃度への影響が小さいため、全身投与ほど強い禁忌(血栓症既往、など)には縛られない。乳癌既往者でも、非(・)で効果不十分な場合は腫瘍医と相談のうえ選択肢になりうるが、乳癌既往者における長期的な安全性データは十分ではなく、個別に判断する5。

CNS

  • エストロゲンは/海馬を支持(学習・記憶・言語)+抗炎症/。欠乏 → もの忘れ、学習困難、言語能力↓、/虚血への感受性↑。

その他と治療

  • 皮膚: 菲薄化・乾燥。
  • 乳房: 腺組織→脂肪(下垂)。
  • 治療: GSMには、などのには+対症療法。⚠️ いずれも心血管疾患・骨折の目的だけを理由に開始しない。

まとめ

領域 閉経後に起きること 臨床での要点
ホルモン 卵胞数0で・E2・が極低値、・が高値で安定 移行期後期と違い出血がない
代謝・脂質 ↓・↑ → インスリン抵抗性。・・TG↑、↓ 動脈硬化・ の素地になる
心血管 間接(・脂質異常・インスリン抵抗性・炎症)と直接(NO↓・↑・血管)の両経路で保護が失われる 目的だけでを始めない( Grade D)
骨 OPG↓・RANKL↑などで↑。低下はの1年前〜2年後が最速で、その後も続く 65歳以上の女性は全例スクリーニング、65歳未満もリスクが高ければ対象( Grade B)。T-score ≤ −2.5、または・椎体ので骨粗鬆症
薬物治療の注意 経口の服用法、長期使用での・、中止後のリバウンド は中止時に後続薬へ切り替える
泌尿生殖器(GSM) コラーゲン↓・血流↓ → 腟壁菲薄化、↓・↑、 で治療できる。乳癌既往者では個別に判断する
中枢神経 ・海馬への支持と抗炎症作用が失われる もの忘れ・学習困難・言語能力↓

出典

  1. 1.A multisociety Delphi consensus statement on new fatty liver disease nomenclature(Hepatology・2023)抄録(Europe PMC)で確認した。3つの国際肝臓学会が主導した修正Delphi法(56か国236名)で、NAFLDに代わる名称として metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD)が選ばれ、定義に5つの心代謝リスク因子のうち少なくとも1つを含めることで合意した閲覧 2026-09-24
  2. 2.Hormone Therapy for the Primary Prevention of Chronic Conditions in Postmenopausal Persons: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement(USPSTF・2022)無症状の閉経後女性に対する慢性疾患の一次予防目的でのホルモン療法(子宮のある人へのエストロゲン+プロゲスチン、子宮摘出後の人へのエストロゲン単独のいずれも)に反対を推奨する(Grade D)。更年期症状の治療目的での使用はこの推奨の対象外。閲覧 2026-08-14
  3. 3.Bone mineral density loss in relation to the final menstrual period in a multiethnic cohort: Results from the Study of Women's Health Across the Nation (SWAN)(Journal of Bone and Mineral Research・2012)抄録(Europe PMC)で確認した。多民族コホート(アフリカ系242・白人384・中国系117・日系119)で、骨密度の低下は腰椎・大腿骨頸部とも最終月経(FMP)の1年前に始まり、FMPの2年後に減速する(停止はしない)。低下速度と累積量はFMPの1年前〜2年後(トランスメノポーズ)で最大で、FMPの2〜5年後の低下速度はそれより小さい閲覧 2026-09-24
  4. 4.Screening for Osteoporosis to Prevent Fractures: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement(USPSTF・2025)閉経後女性は65歳以上で全例DXAスクリーニングを推奨する(Grade B)。65歳未満でも骨折リスクが高ければ臨床的リスク評価(FRAX等)で層別化してスクリーニングする(同Grade B)。男性でのスクリーニングは益と害の判断に足る証拠が不十分(I statement)。閲覧 2026-08-14
  5. 5.The 2020 genitourinary syndrome of menopause position statement of The North American Menopause Society(North American Menopause Society (NAMS)・2020)低用量腟エストロゲン・腟DHEA・オスペミフェンはGSMに有効な治療だが、乳癌既往者での安全性を裏づける長期データは不十分であり、腫瘍医の意見を踏まえて個別に管理を判断すべきとしている。閲覧 2026-08-14