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Disease Atlas · 運動器 · 外傷

非定型大腿骨骨折

Atypical femoral fracture

臓器系
運動器内分泌・代謝
科目
PharmacologyTraumatology and OrthopedicsInternal Medicine
トピック
薬理学 B20:骨ミネラル恒常性に作用する薬外傷学 26:大腿骨骨幹部骨折内科学 L-35:骨粗鬆症
鑑別疾患
大腿骨頸部・転子部骨折
関連疾患
骨粗鬆症低ホスファターゼ症
原因薬剤
アレンドロネートゾレドロン酸デノスマブ
症状
大腿部痛

🧠 全体像:(AFF)は、・などのやといったの長期投与に関連するまれだが重要な合併症で、〜に生じるという点で、とは部位もの形も異なる。軽微な外力、あるいは外力なしで生じ、両側性が多い(発症の患者では対側も評価する)。最大の臨床的意義はが先行することにあり、このを拾い上げられれば、に至る前に治療介入できる。骨折予防のとのリスクは天秤にかけるべきもので、はこのバランスを踏まえた選択的な戦略として位置づけられる。

定義と大腿骨頸部・転子部骨折との違い

は、直下からの直前までのに生じ、はから起始して横方向を主体とする(・を伴うことがある)1。この定義は、の血流障害・が主題になるや、・が主題になるとは、部位も破綻の力学も別のものである。

項目
部位 〜(直下〜の手前) 頸部(内)・(外)
から起始するが主体 頸部:によるが多い/:を伴いやすい
外力 軽微または外力なし 転倒などの外力を伴うことが多い()
両側性 多い(約19%) まれ
主な誘因 の長期投与 加齢・骨粗鬆症による

ASBMR 2013改訂症例定義

「非定型」という語は印象論ではなく、American Society for Bone and Mineral Research(ASBMR=米国学会)のタスクフォースが2013年に改訂したで明文化されている。アジア各国の指針もこの定義を採用している2。

⭐ 主要所見は5項目で、そのうち4項目以上を満たすことが要件である(全部ではない)。救急での撮影条件ではやが読めないことがあり、不全骨折ではがまで達しないため、5項目すべては要求されない3。

主要所見(5項目中4項目以上を満たすこと)

  1. 立位以下の高さからの転倒など、軽微または外力のない受傷である。
  2. がから起始し、主体は横方向である(内側へ進むにつれ斜めになりうる)。
  3. は両側皮質を貫き内側を伴いうる。不全骨折はのみに及ぶ。
  4. が無いか、あってもごく軽微である。
  5. 骨折部のに限局性の性・性肥厚(・フレア)がある。

副所見(診断要件ではないが合併しやすい所見)

  • の皮質厚の全般的増加
  • 片側または両側の(・大腿部の)
  • 両側性の不全または完全な骨折
  • 骨癒合遅延

除外されるもの:、の進展を伴う、人工関節周囲骨折、腫瘍(原発・転移)やPaget病・などによる。

(上記はASBMR 2013改訂定義で、2のTable 1に逐語で再掲されたものを写した。ASBMR原著そのものは取得できていない。)

⚠️ 副所見は診断要件ではない。 や両側性は「あればらしい」所見であって、無いことは否定の根拠にならない。

疫学:投与期間に応じて発生率が変わる

⭐ のは投与期間で大きく変わる。 Kaiser Permanente Southern Californiaコホートでは、非使用者のが10万人年あたり0.3例であったのに対し、使用期間4〜5.9年で22.0例、使用期間10年以上で34.5例と、使用が長期化するほどが明確に上昇した1。同コホートでは28例(19%)が両側性のであった1。

については、FREEDOM試験の10年延長コホートで長期投与群の発生が各群1例と低頻度にとどまったが、実臨床で投与患者の多くが過去に治療歴を持つため、単独の寄与を切り分けるのは難しい3。

⭐ アジア人でのは白人より高い。 アジア人女性のは10万人年あたり18.7例で、白人女性の7.6例を上回る(・骨盤の形態の違いが背景として想定されている)2。日本では、日本整形外科学会による2023年の全国調査で745例(803骨折)が確定され、に対する比は0.52%であった2。

💡 投与を止めればリスクは戻る。 の中止ではおよそ70%低下し、中止から約1年での水準に戻ると報告されている2。これはという戦略が成り立つ前提になっている。

臨床像

⚠️ としてが先行する。これが早期発見の鍵である。 前述のコホートでは69%の症例で前駆的なのがあった1。は大腿前面・外側またはの痛みとして、骨折の2週間前から数年前までの間に出現しうる4。を長期投与中の患者に〜大腿部の・違和感があれば、単なると決めつけず画像評価を急ぐ。

  • 軽微な外力、あるいは外力なしでに至ることがある(歩行中や椅子から立ち上がる動作で完成することもある)2。
  • 両側性が多いため、にを認めた患者では、対側のも画像評価する。
  • に至ると、通常のと同様に急性の・変形・を来す。

💡 「両側性19%」と「対側の関与25〜40%」は別の量である。 Kaiser Permanenteコホートの19%は両側ともを起こした症例の割合1、一方でアジア骨粗鬆症学会2025年コンセンサスが両側撮影の根拠として挙げる「対側の関与」は不全骨折や皮質の変化まで含む所見で、約25%あるいは28〜40%と幅のある数字が引かれている2。どちらの数字を使うにせよ、は同じで対側は必ず撮る。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bisphosphonates'>ビスホスホネート</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='denosumab'>デノスマブ</span>の長期投与"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone remodeling'>骨リモデリング</span>抑制の持続"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microdamage'>微小損傷</span>の修復遅延・蓄積"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subtrochanteric'>転子下</span>〜<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diaphysis'>骨幹部</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral cortex'>外側皮質</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stress reaction'>応力性変化</span>"]
    D --> E["前駆的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thigh pain'>大腿部痛</span><br>(2週間〜数年前から)"]
    E -->|"見逃す・放置"| F["完全な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transverse fracture'>横骨折</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atypical femoral fracture'>非定型大腿骨骨折</span>)"]
    D --> G["対側の同様の変化<br>→両側性が多い"]

診断

長期の投与歴があり、大腿部〜痛を訴える患者では全長のX線を撮影する。にはの限局性肥厚()やとしてとらえられることがあり、前の段階で発見できれば侵襲の小さい介入で対応できる。両側性が多いため、の変化を認めたら対側も評価する。

検査 使いどころ
全長単純X線(正面・側面、両側) 第一選択。対側の関与が多いため両側撮影が原則
(全長を含む拡張撮影) の定性・定量評価。の早期検出に使える
単純X線やでを疑ったとき。皮質のと性肥厚を詳細に描出する
X線・で骨折が確定しないとき、はあるががないとき、のみで応力反応が疑われるとき。浮腫と皮質のが揃えば不全骨折と判断する

(各検査の位置づけは2による。)

⭐ スクリーニングの推奨。 国際臨床骨密度学会(ISCD)は、①抗吸収薬を連続3年投与した患者、とくにグルココルチコイドを併用している患者には両側全長の撮影を行うこと、②抗吸収薬投与中に・大腿部・股関節の痛みを訴える患者では、・不全骨折を除外するため両側の撮影を必須とすることを推奨している2。

治療・休薬の考え方

の段階で発見できれば、を中止したうえで整形外科的な評価(予防的なの検討を含む)を行う。管理は「①原因薬の中止と骨粗鬆症治療の立て直し」「②骨折そのものの手術」「③対側の監視との検索」を並行して進める多職種の作業になる2。

骨吸収抑制薬の中止

⚠️ と判断したら、もも速やかに中止する。 投与を続けると対側骨折のリスクが上がる2。⚠️ 経口では、患者が服薬カレンダー等でそのまま継続してしまうことがあるため、「中止する」と明示的に伝える必要がある2。

⚠️ ただしは「止めれば終わり」ではない。 中止後ので急速なとのが起こるため、による橋渡し(bridge)が行われる23。💡 一方で、関連のを起こした患者の約30%は過去に曝露があり、そこへを戻すことが病態を助長しないかという懸念も同じコンセンサスに併記されている。や(・)が代替として検討されており、からの切り替えではが股関節の骨密度を保った(では低下した)というDATA-Switch試験の結果が引かれている2。

続発性骨粗鬆症の検索

を起こした患者では、骨脆弱性の二次性の原因を洗い直す。・吸収不良、、ビタミンD・カルシウムの吸収不良、24時間尿カルシウムを測らないと見逃す、ビタミンD充足を確認したうえでの正カルシウム血症性などが挙げられている2。⚠️ 加えて、のようにそのものが病態を悪化させうる遺伝性疾患の評価も、状況に応じて考慮する3。

手術:不全骨折と完全骨折で分ける

不全骨折の対応は症状と画像所見で3つに分かれる2。

状態 対応
があり機能障害を伴う(・肥厚・いわゆるdreaded black lineを認める) 予防的の適応。での癒合率は最大97%に達するのに対し、非手術では47%がへ進行する
軽度の症状のみで機能障害がない ・補助具・連続X線での経過観察を試みてよい。2〜3か月で臨床的・画像的な改善がなければ手術を再検討する
無症状で画像上ののみ と定期撮影で経過観察。やで・代謝活性を評価する

⚠️ を「通常のと同じ」と扱わない。 標準治療は全長(から遠位まで)にわたる長いで、プレート固定より優先される2。💡 プレート固定は皮質間の直接(一次)癒合に依存するが、その一次癒合こそがで阻害されている。は荷重を分担する構築なので、を介した間接癒合を促せる。77研究733骨折の系統的レビューでも、は12.9%に対しプレート固定31.3%であった2。骨癒合は遅く、偽関節のリスクが高い3。

⚠️ アジア人に多いの過度な前外側弯曲は、の技術的な障害になる。 釘のとの形態が合わないため、術前に〜を結ぶ線で弯曲の程度を評価し、釘のを選び直す。も従来の梨状窩ではなく先端の外側にすると成績がよく、癒合期間が17.8週対21.2週と有意に短縮したという比較研究がある2。⚠️ 硬化した皮質を貫いて釘を挿入する際の医原性骨折にも注意が要り、の十分なが勧められている(起きた場合は癒合遅延・偽関節のリスクが上がる)2。

骨形成促進薬による癒合の補助

( 1-34)はこそ無いものの、癒合遅延・偽関節の減少と癒合促進が報告され、手術の補助として実地で用いられている2。欧州石灰化組織学会の系統的レビューでは、手術を受けたの癒合率が51%から76%へ、を受けた不全骨折で43%から90%へ改善したと集計されている2。

休薬の考え方

は、骨折予防のとのリスクをバランスさせる考え方として位置づけられる。骨折リスクが低〜中等度に落ち着いた患者では、5年の使用後に3〜5年間のを検討しうる1。一方で、全体で見れば、1件が生じるごとにおよそ162件のが予防されているという便益・リスクの試算があり3、まれな合併症を理由に必要な患者への投与を一律に手控えることは推奨されない。骨折リスクが高い患者ではを適用せず治療を継続する。

まとめ

  • は・などの長期投与に関連する合併症で、〜のという点でとは部位もも異なる。
  • は投与期間で大きく変わり、10年以上の使用では非使用者の100倍以上に達する。両側性が約19%に生じる。
  • が2週間〜数年先行することが早期発見の鍵で、長期投与中の患者のを単なると決めつけない。ISCDは抗吸収薬を連続3年投与した患者と、投与中に・大腿部・股関節痛を訴える患者への両側を推奨している。
  • 診断はASBMR 2013改訂に沿い、主要所見5項目のうち4項目以上を満たすことが要件。副所見(・両側性など)は要件ではなく、無いことは否定の根拠にならない。
  • の固定は「通常の骨折と同じ」ではなく、全長にわたる長いが標準(プレート固定よりが少ない)。アジア人に多い前外側の弯曲が技術的な障害になる。
  • 診断がついたら抗吸収薬を速やかに中止するが、⚠️ は中止するだけではのとを招くため、次の薬を決めてから止める。
  • は骨折リスクが低〜中等度の患者に限って検討し、骨折予防のが上回る患者への投与は継続する。

出典

  1. 1.Atypical Femur Fractures: Review of Epidemiology, Relationship to Bisphosphonates, Prevention, and Clinical Management(Endocrine Reviews・2019)非定型大腿骨骨折は小転子直下から顆上部隆起の直前までの大腿骨骨幹部に生じ、骨折線が外側皮質から起始し横方向を主体とすること。Kaiser Permanente Southern Californiaコホートでビスホスホネート非使用者の発生率10万人年あたり0.3例に対し、使用4〜5.9年で22.0例、使用10年以上で34.5例と使用期間に応じて上昇したこと。同コホートの28例(19%)が両側性の非定型大腿骨骨折であったこと。69%の症例で前駆的な大腿部痛の診療記録があったこと。骨折リスクが低〜中等度の患者では3〜5年の休薬を検討しうること閲覧 2026-08-12
  2. 2.Asian Federation of Osteoporosis Societies 2025 consensus on atypical femoral fractures in patients with osteoporosis(Osteoporosis and Sarcopenia(Asian Federation of Osteoporosis Societies)・2025)Table 1にASBMR 2013改訂症例定義が逐語で再掲されており、主要所見5項目のうち4項目以上を満たすことが必要であること、5項目が「立位以下の高さからの転倒など軽微または外力なし」「骨折線が外側皮質から起始し主体は横方向(内側へ進むにつれ斜めになりうる)」「完全骨折は両側皮質を貫き内側スパイクを伴いうる/不全骨折は外側皮質のみ」「粉砕が無いか軽微」「骨折部の外側皮質に限局性の骨膜性・骨内膜性肥厚」であること、副所見4項目が「大腿骨骨幹部の皮質厚の全般的増加」「片側または両側の前駆症状(鼠径部・大腿部の鈍痛)」「両側の不全または完全骨幹部骨折」「骨癒合遅延」であること、大腿骨頸部骨折・らせん状の転子下進展を伴う転子部骨折・人工関節周囲骨折・腫瘍やPaget病・線維性骨異形成症などによる病的骨折が除外されることを確認した。あわせて、アジア人女性の発生率が10万人年あたり18.7例で白人女性の7.6例より高いこと、日本整形外科学会の2023年全国調査で745例(803骨折)が確定され大腿骨近位部骨折に対する比が0.52%であったこと、ビスホスホネート中止で発生率が約70%低下し約1年で基線に戻ること、ISCDが連続3年投与後の両側大腿骨全長撮影と、鼠径部・大腿部・股関節痛のある投与患者での両側撮影を推奨していること、完全骨折には大腿骨全長にわたる髄内釘が標準でプレート固定より再手術率が低いこと(77研究733骨折の系統的レビューで12.9%対31.3%)、アジア人に多い大腿骨前外側の過度な弯曲が髄内釘の技術的困難になり大転子先端の外側刺入点が用いられること、症状と機能障害のある不全骨折では予防的髄内釘固定により癒合率が最大97%であるのに対し非手術では47%が完全骨折へ進行すること、抗吸収薬(ビスホスホネート・デノスマブ)の速やかな中止が対側骨折の予防に不可欠であること、デノスマブの中止では反跳性骨吸収により急速な骨量減少と自然発生の椎体骨折が生じるためビスホスホネートへの橋渡しが行われること、テリパラチドが欧州石灰化組織学会の系統的レビューで完全骨折の癒合率を51%から76%へ、予防手術を受けた不全骨折で43%から90%へ改善したと報告されていることを確認した。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Atypical femur fractures: current understanding and approach to management(Therapeutic Advances in Musculoskeletal Disease・2020)FREEDOM試験の10年延長コホートで長期デノスマブ投与群の非定型大腿骨骨折発生は各群1例と低頻度だったが、実臨床でデノスマブ投与患者の多くが過去にビスホスホネート治療歴を持つため、デノスマブ単独の寄与は不確実であること。骨吸収抑制薬全体では、非定型大腿骨骨折1件が生じるごとにおよそ162件の骨粗鬆症性骨折が予防されているという便益・リスクの試算があること閲覧 2026-08-12
  4. 4.Bisphosphonate-related atypical femoral fracture: Managing a rare but serious complication(Cleveland Clinic Journal of Medicine・2018)前駆的な大腿部痛は、大腿前面・外側または鼠径部の痛みとして、骨折の2週間前から数年前までの間に生じうること閲覧 2026-08-12