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Disease Atlas · 運動器 · 外傷

膝蓋骨骨折

Patellar fracture

別名
Patella fracture
臓器系
運動器
科目
Traumatology and Orthopedics
トピック
外傷学 28:膝蓋骨骨折の診断と治療外傷学 27:膝関節内骨折と治療法
鑑別疾患
二分膝蓋骨膝蓋骨脱臼
合併症
偽関節変形性関節症骨髄炎
症状
関節内出血腫脹拘縮

🧠 全体像:全骨損傷の約1%にすぎないが1、はそのものを担う——の力を脛骨へ伝え、でを最大30%増やす1。だから⭐ を決める軸は骨片が何 mm ずれたかではなく、が連続しているかである。 ⚠️ そして最も間違えやすいのは「膝を自分で伸ばせたから骨折はない」という判断である——・・という「予備の」が働くため、転位の少ない骨折ではができてしまう1。もうひとつの軸は関節面で、⚠️ 関節面の輪郭を戻せなければ外傷後の症に至る2。

力学的な位置づけ

は人体最大ので、に包まれない数少ない骨のひとつである。近位3/4は厚い軟骨に覆われ、遠位極は関節適合に関与しない1。この遠位極の性質が、あとで部分切除を選べる理由になる。

  • :でのを最大30%増大させる1。
  • 負荷:に加わる力は体重の4〜5倍にあたる3200 Nに達しうる1。
  • 治癒までの環境:骨癒合に8〜12週を要し、その間におよそ10万回の屈伸を経る1。

⭐ 「早期に動かしたい」と「固定が保たれてほしい」が正面から衝突する。 固定材が耐えるべきはこの回数と大きさの繰り返し負荷である。

疫学と受傷機転

が大多数だが、最大7%が開放骨折となる。⚠️ 開放骨折の約80%はを伴う——・の骨折、、膝靱帯損傷である1。総説が引用した集計では、20〜50歳に多く、男性のは女性の2倍、原因は交通事故78.3%・労働災害13.7%・家庭内事故11.4%とされる(いずれも本総説自身の測定ではない)1。

(など)が多数を占め、その典型が単純な2骨片のである。間接機転では、足からの落下時にが遠心性に収縮し、落下の速度との強度に応じてか腱のどちらかが破綻する1。

診察

flowchart TD
    A["膝前面の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct force (impact)'>直接外力</span>/落下後の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='knee pain'>膝痛</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inspection'>視診</span>・触診:骨片間の陥凹、急速な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemarthrosis'>関節血症</span>、皮膚の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abrasion'>擦過創</span>"]
    B --> C["自動<span class='jp-term jp-term-diagram' title='knee extension'>膝伸展</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='straight leg raise'>下肢伸展挙上</span>"]
    C --> D["完全に伸展できない<br>→ 骨折に加え内外側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinacula'>支帯</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rupture (tear)'>断裂</span>"]
    C --> E["伸展できる<br>→ 骨折は除外できない(予備の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extensor mechanism'>伸展機構</span>)"]
    D --> F["2方向単純X線(急性期に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axial image'>軸位像</span>は避ける)"]
    E --> F
    F --> G["左右非対称の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='patella alta'>膝蓋骨高位</span><br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='quadriceps tendon'>大腿四頭筋腱</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='patellar tendon'>膝蓋腱</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='rupture (tear)'>断裂</span>を疑う"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='comminution (comminuted)'>粉砕</span>・関節面評価・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='preoperative planning'>術前計画</span>なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>"]

では骨片間のな陥凹、局所血腫、そして急速に生じるを認める1。⚠️ 完全に伸展できないことは、骨折に加えて内外側がしていることを示す1。逆は成り立たない(上記)。

⚠️ 皮膚の評価を省かない。 最大25%でを伴い、手術の時期とを左右する1。

画像は2方向の単純X線が必須で、⚠️ 急性期には疼痛とを招くためを避ける1。⭐ 左右非対称のは、証明されるまでまたはのと考える1。や関節面の評価にはを追加する。

と間違えない。 人口の約23%が最大3つのをもち、2%で癒合せず二分・となる。Saupe分類Type 3(上外側)が70%と最多で、50%で両側性である3——反対側を撮れば分かることが多い。

分類

骨折型は横・縦・・辺縁・骨軟骨に分ける。⚠️ これらの違いを取り込んで術式まで導く有用な分類体系は、現時点で存在しない1。だから方針は骨折型・軟部組織損傷・骨片の数と大きさ・関節面の適合・の安定性・患者の遵守度から個別に決めることになる。

治療

保存治療

転位2 mm未満の安定したが適応で、⭐ X線下に屈曲60°まで動かして転位傾向がないことを確認する1。Cramerらは転位3 mm未満を非転位と見なすべきと提唱している1。保存治療でも早期の関節運動を目標とし、なく屈曲40°を得ることを目指す。で屈曲を制限し、段階的に拡大する。

成績は良好である。422例中219例を保存治療したBoströmの報告では、54%が優、44%が良、失敗は2例であった1。

手術の適応

⚠️ を破綻させる骨折には、転位量にかかわらず手術である。加えて、関節面のが2〜3 mmを超えるか転位が1〜4 mmを超える骨折が手術の対象とされる2。開放骨折では洗浄・・抗菌薬を併行する。

固定法

骨折型 固定
単純(2骨片) 修正前方が最も広く受け入れられている。⭐ に通したワイヤをとする構成が最も高いを示し、単純の標準となった。⚠️ には用いない1
やで関節面とを解剖学的に再建する
遠位極骨折 に加え、McLaughlinの経骨的膝蓋脛骨で保護する。術後4〜6週の伸展位固定を要し、⚠️ 締めすぎるとになる1

⭐ スクリューを足すほうが良い。 14研究のでは、との併用(CSTBW)が単独(TBW)に対し、術後3か月の屈曲角度(SMD 0.92、95%CI 0.28〜1.56、p=0.0048)、3か月の(SMD −1.27、95%CI −1.73〜−0.82、p<0.001)、12か月の(SMD 0.80、95%CI 0.21〜1.39、p=0.0082)で良好であった。合併症はTBW群で高頻度で、の頻度も高かった4。

膝蓋骨を残す

⚠️ 部分・全切除は最後の手段である。

  • :主に遠位極の高度で再建が難しいときに検討する。⭐ の機能を保つには、の中央部と関節面の2/3を温存する必要がある1。遠位極を切るととの距離が縮んでとなり、の接触圧が上がる。
  • :⚠️ 膝を十分に伸展させるのに力の最大30%の増加を要し、との牽引力が15〜50%増える1。結果として前方・可動域制限・giving way・腫脹・著明な筋力低下が残る。救済手技としてのみ考える。

合併症

合併症 頻度と要点
可動域低下・ 最も多い。固定の遷延と不適切なリハビリテーションが主因。多くは終末屈曲域のみで、されることが多い1
の破綻 手術例の最大20%。⭐ 骨片が3 mmを超えてするか、関節面の不整が2 mmを超えればの適応1
感染・骨髄炎 3〜10%。皮下に位置するためと刺激が危険因子1
・偽関節 2.7〜12.5%。開放骨折・・保存治療中の固定と強く相関する1
の およそ8.5%。⚠️ のが1 mmを超えるとの頻度が高まる1
の突出・破損・軟部組織刺激によるが37%と報告されている。⭐ 症状を来すはよりで2倍多い1

鑑別

  • :急性のは共通する。のはので生じることが多く、はまれで apprehension 徴候が陽性になる1。
  • ・:が不能である点は共通するが、X線でのが左右非対称になる1。
  • :上外側(Saupe Type 3、70%)に平滑な皮質縁をもち、50%で両側性3。

まとめ

  • は全骨損傷の約1%だが、を担う骨であるため機能障害が大きい。方針を決める軸は転位量ではなくのと関節面の適合である。
  • ⚠️ ができても骨折は除外できない。・・が予備のとして働くため。完全に伸展できないことは内外側のを示す。
  • 画像は2方向単純X線。急性期には避ける。左右非対称のはを示唆し、例はを追加する。(人口の2%、上外側が最多、50%両側性)と間違えない。
  • 保存治療は転位2 mm未満の安定骨折。下に屈曲60°まで転位傾向がないことを確認し、早期に動かす。手術はの破綻、2〜3 mm超、転位1〜4 mm超が目安。
  • 単純ではにを併用する構成が標準で、でも単独より屈曲・疼痛・機能スコアが良好だった。例には用いない。
  • は可能な限り温存する。部分切除では中央部と関節面の2/3を残す。全切除は伸展に必要な力を最大30%増やしてしまうため、救済手技に限る。
  • 合併症は可動域低下が最多、の破綻が最大20%、感染3〜10%、偽関節2.7〜12.5%、症およそ8.5%、37%。の1 mm超がを増やす。

出典

  1. 1.Current concepts review: Fractures of the patella(GMS Interdisciplinary Plastic and Reconstructive Surgery DGPW・2016)膝蓋骨骨折が全骨損傷の約1%を占めること、閉鎖骨折が大多数だが最大7%が開放骨折となりその約80%に大腿骨・寛骨臼の骨折や外傷性股関節脱臼・膝靱帯損傷などの多発損傷を伴うこと、膝蓋骨が人体最大の種子骨で骨膜に包まれない数少ない骨のひとつであり近位3/4が厚い軟骨に覆われ遠位極は関節適合に関与しないこと、膝蓋大腿靱帯を含む支帯が「予備の伸展機構」として働き骨折があっても一定の自動伸展を許すこと、膝蓋骨が完全伸展位で大腿四頭筋のモーメントアームを最大30%増大させること、膝蓋骨に加わる力が体重の4〜5倍にあたる3200 Nに達しうること、骨癒合に8〜12週を要しその間におよそ10万回の屈伸を経ること、人口の約23%が最大3つの骨化中心をもち2%で癒合せず二分膝蓋骨・三分膝蓋骨となり典型的には膝蓋骨上極に位置し50%で両側性であること、転位骨折では骨片間の触知可能な陥凹・局所血腫・急速な関節血症を認めること、完全に膝を伸展できないことは骨折に加えて内外側支帯の断裂があることを示す一方で⚠️自動伸展が可能でも骨折は十分には除外できないこと(転位の少ない骨折では支帯や腸脛靱帯・内転筋群が自動伸展を担いうるため)、最大25%で皮膚擦過創を伴い手術の時期と進入路に影響すること、2方向の単純X線が必須で急性期には疼痛と二次転位のため軸位像を避けるべきであること、左右非対称の膝蓋骨高位は大腿四頭筋腱または膝蓋腱の断裂を強く示唆すること、骨折型を横・縦・粉砕・辺縁・骨軟骨に分けること、Cramerらが転位3 mm未満を非転位と見なすべきと提唱したこと、⚠️治療方針に直結する有用な分類体系が現時点で存在しないこと、転位2 mm未満の安定した非転位骨折が保存治療の適応でありX線透視下に屈曲60°まで転位傾向がないことを確認すべきこと、保存治療でも早期の関節運動を目標とし二次転位なく屈曲40°を得ることを目指すこと、Boströmの422例中219例の保存治療で54%が優・44%が良で失敗は2例であったこと、修正前方テンションバンドワイヤリングが転位骨折に最も広く受け入れられた術式であること、Thelenらの生体力学的解析でカニューレスクリューと前方テンションバンドの併用が従来の修正前方テンションバンドより骨片転位の防止に有意に優れたこと、Carpenterらの比較でカニューレラグスクリューに通したワイヤをテンションバンドとする構成が最も高い破断荷重を示したこと、この方法が単純横骨折の標準となった一方で粉砕骨折には用いるべきでないこと、遠位極骨折などにMcLaughlinの経骨的膝蓋脛骨サーククラージュを併用し術後4〜6週の伸展位固定を要すること、サーククラージュの締めすぎが膝蓋骨低位を招くこと、部分膝蓋骨切除では伸展機構の機能を保つため膝蓋骨の中央部と関節面の2/3を温存する必要があること、全膝蓋骨切除後は膝を十分に伸展させるのに大腿四頭筋力の最大30%の増加を要し大腿四頭筋と膝蓋腱の牽引力が15〜50%増加するため前方膝痛・可動域制限・giving way・腫脹・著明な筋力低下が残ること、最も多い合併症が可動域低下であること、整復位の破綻が手術例の最大20%に生じ骨片が3 mmを超えて離開するか関節面の不整が2 mmを超えれば再手術の適応となること、感染率が3〜10%と報告されること、遷延癒合・偽関節が2.7〜12.5%であり開放骨折・横骨折・保存治療中の固定と強い相関があること、膝蓋大腿関節の変形性関節症がおよそ8.5%とされ関節軟骨の段差が1 mmを超えると外傷後関節症の頻度が高まること、Lazaroらがインプラントの突出・破損・軟部組織刺激による抜釘を37%に報告したこと、症状を来すインプラントがカニューレスクリューに比べKワイヤで2倍多いことを、Etiology and epidemiology・Anatomy・Biomechanics・Diagnosis and clinical manifestation・Classification・Decision making・Conservative treatment・Operative treatment・Partial patellectomy・Patellectomy・Complications の各節で確認した。⚠️ 年齢層20〜50歳に多いこと、男性の発生率が女性の2倍であること、交通事故78.3%・労働災害13.7%・家庭内事故11.4%という原因の内訳は、いずれも本総説自身の測定ではなく参照文献の引用である。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Practical guidelines for the treatment of patellar fractures in adults(Swiss Medical Weekly・2020)膝蓋骨が大腿四頭筋の力の伝達・モーメントアームの増大・滑車への力の分散・伸展機構の求心化において中心的役割を担うこと、他の下肢骨折に比べて頻度は低いものの膝関節拘縮・伸展不全・膝蓋大腿関節症といった疼痛性・機能的合併症が高度の障害となり職業・余暇活動への復帰を妨げ高齢者では転倒を招きうること、伸展機構が保たれた非転位骨折は保存治療でよいこと、伸展機構を破綻させる骨折、または関節面の段差が2〜3 mmを超えるか転位が1〜4 mmを超える骨折には手術が推奨されること、テンションバンド固定が最も広く用いられる術式であること、インプラント関連疼痛のため骨癒合後にほとんどの症例で抜釘を要すること、粉砕骨折の手術が大きな課題であり関節面の輪郭の再建に失敗すると外傷後関節症に至ること、関節面の解剖学的再建だけが外傷後の変形性関節症の発生を防ぐ手段であること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Patella Fractures(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)二分膝蓋骨が二次骨化中心の融合不全に起因し最も一般的には膝蓋骨の上外側で生じる解剖学的変異であること、骨片が滑らかな辺縁を示すことが急性骨折との区別点であること、二分膝蓋骨を有する例のおよそ50%で両側性に生じること、判定に迷う症例では対側膝の比較撮影が鑑別に有用であることを確認した閲覧 2026-09-07
  4. 4.Cannulated screws with and without tension band wiring versus tension banding wiring alone for fixation of patella fractures: a systematic review and meta-analysis(Archives of Orthopaedic and Trauma Surgery・2025)膝蓋骨骨折に対するカニューレスクリュー単独(CS)・カニューレスクリューとテンションバンドワイヤの併用(CSTBW)・テンションバンドワイヤ単独(TBW)を比較した14研究の系統的レビューとメタ解析で、CSTBW群がTBW群に対し術後3か月の屈曲角度(SMD 0.92、95%CI 0.28〜1.56、p=0.0048)、3か月のVAS(SMD −1.27、95%CI −1.73〜−0.82、p<0.001)、12か月のLysholmスコア(SMD 0.80、95%CI 0.21〜1.39、p=0.0082)で良好であったこと、合併症がTBW群でCS群・CSTBW群より高頻度に観察され抜釘の頻度も高かったこと、系統的レビューではVASとLysholmスコアでCSがTBWより良好であったこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-03