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Disease Atlas · 運動器 · 外傷

膝蓋骨脱臼

Patellar dislocation

別名
膝蓋骨亜脱臼外側膝蓋骨脱臼
臓器系
運動器
科目
Traumatology and Orthopedics
トピック
外傷学 04:関節脱臼の受傷機転・診断・治療外傷学 30:膝関節軟骨・半月板損傷と関節鏡の原則
鑑別疾患
膝蓋骨骨折膝関節脱臼
合併症
変形性関節症
症状
関節内出血腫脹関節過可動性

🧠 全体像:⭐ まず名前で取り違えないこと——は「膝の」と呼ばれることがあるが、(の)とはまったく別の疾患である。あちらは主要4本のうち2本以上が破綻しで下肢を失いうる整形外科的緊急症、こちらは10〜20歳の膝が捻れてが外側へ外れる損傷で、多くは膝を伸ばした時点で自然に戻り、初回は保存治療が基本である。がまるで違う。そのうえで、この疾患の本質は「一度で終わる外傷」ではなく「素因の上に起きた不安定症の初回発作」という点にある。・・の外側化といった骨形態の素因は後も消えないので、初回の診療は「整復して終わり」ではなく素因を測って再発リスクを見積もるところまでを含む。

名前が似ている2疾患を最初に切り分ける

⚠️ 「膝の」という言い方は、がまったく違う2つの病態を指しうる。

(本ノート)
外れる関節
転位の方向 ほぼ常に外側へ 前方・後方・内側・外側・回旋
の破綻 (MPFL)を中心とする内側支持機構 主要4本のうち2本以上
受傷エネルギー 低エネルギー(位での捻転)が多い 高エネルギーが多いが低エネルギーでも起こる
通常は緊急ではない 整形外科的緊急症(血管損傷・神経損傷の頻度は当該ノートを参照)
まず調べるもの の有無と再発の素因 (、血管評価)
膝を伸展させると多くが自然に整復される 初診時にされていることが多い

⚠️ どちらも「されている」ことが多いという点だけは共通している。 だからこそ、膝が腫れて来院した患者で「だろう」と早合点しない。多方向の不安定性があればを疑い、血管評価へ進む。逆に、と分かったからといっての評価をルーチンに行う必要はない。

疫学

💡 「小児の血性=ACLか」と覚える。 膝を穿刺して血液が引けたとき、成人ではACL損傷が筆頭に立つが、小児・青年ではが同じ重みで候補に上がる1。脂肪滴が混じればを示唆する。

受傷機転と病態

典型的な機転は、膝を軽く屈曲したで下腿がする(あるいは体幹が足に対してする)捻転である。でが内側から外側へ押される型もある。位でははの外にあり、屈曲初期に溝へ入って安定するので、が起こるのは屈曲の浅い相である。

が外側へ逸脱すると、(MPFL)が引きちぎられる。MPFLは20〜30度までの範囲での外側移動に抵抗する主たる受動的装置であり、の約90%でする1。部位は側・側・実質部(および複合型)に分かれ、とがほぼ同数と報告されている1。

⭐ は外れる瞬間と戻る瞬間の両方で骨を削る。 外側へ乗り上げるときにの内側縁がの縁にぶつかり、双方に・を作る。の典型像は、・と内側の・軟骨または・とMPFLのである1。この対になったの分布は、されて診察時には所見が無い症例で「確かにしていた」ことを示す証拠になる。

flowchart TD
    A["素因(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='patella alta'>膝蓋骨高位</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trochlear dysplasia'>滑車形成不全</span><br>TT-TG増大・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abnormal rotation of the fetal head'>回旋異常</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='generalized joint laxity'>全身関節弛緩</span>)"] --> B["浅屈曲位での捻転または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct force (impact)'>直接外力</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='patella'>膝蓋骨</span>が外側へ逸脱"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medial patellofemoral ligament'>内側膝蓋大腿靱帯</span>(MPFL)の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rupture (tear)'>断裂</span>"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='patella'>膝蓋骨</span>内側縁と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral femoral condyle'>大腿骨外側顆</span>の衝突"]
    E --> F["対になった<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chondral contusion'>軟骨挫傷</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='osteochondral fracture'>骨軟骨骨折</span>"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='knee extension'>膝伸展</span>で多くは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spontaneous detorsion'>自然整復</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemarthrosis'>関節血症</span>として来院"]
    F --> G
    G --> H["素因は残る"]
    H --> I["反復性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='patellofemoral instability'>膝蓋大腿不安定症</span>"]

素因(再発の危険因子)

⭐ 初回の診療の眼目は、素因を測ることである。 再の危険因子として挙げられるのは・―間距離(TT-TG)の増大・・で、いずれも初回の早期に評価して患者説明に用いるべきものとされる1。

素因 測り方と目安
。正常はおよそ138±6度で、145度を超えると形成不全の指標。単純X線側面像のcrossing signも手がかり。程度はA〜Dで表す1
(長/長)。1.2を超えると、0.8未満で1
の外側化 TT-TG距離。Dejourらは20 mmを病的とし、後の著者は手術適応の基準を15 mmへ引き下げた1
・の増大1
。体幹・上肢を含めて評価する
の増大 の牽引方向が外側へ向く。・・骨盤幅と関連する

⚠️ 表の下2行(・)は、本ノートが依拠した総説の危険因子には含まれない。 この総説が名指しする再の危険因子は・TT-TG増大・・の4つである1。とは診察で併せて診る所見として挙げているにすぎず、同じ重みで「測るべき危険因子」として扱わない。

💡 「」と「」は同じことを別の側から言っている。 どちらもが溝に嵌まっている時間(屈曲角度の範囲)を短くする因子である。が高ければ深く曲げないと溝に入らず、溝が浅ければ入っても効かない。だから両者が重なると再発率が跳ね上がる。

⚠️ 既往があること自体が最大の危険因子である。 189例を2〜5年追跡した前向きコホートでは、追跡中に不安定症のエピソード(または再)を生じたのは初回例で17%、不安定症の既往がある例で49%であり、人口統計学的因子で調整した既往例のは初回例の約7倍(6.6)だった3。危険がもっとも高いのは10〜17歳の女性である3。

症状と診察

  • 受傷時に「膝が外れた/崩れた」感覚と激痛。位のまま来院すればが外側へ触れ、膝は屈曲位で伸展できない。
  • 多くは膝を伸展させた時点で自然に整復されるので、には所見が無く、腫脹とだけが残る。患者本人(とくに小児)はしたことに気づいていないことがある1。
  • ・MPFL走行(内側縁からにかけて)の圧痛。
  • :膝を軽度屈曲位(20〜30度)に置いてを外側へ押すと、患者が「また外れる」という恐怖からを収縮させて検者の手を止めようとする。を強く示唆する所見である。
  • の外側への量、、、を左右で比較する。

⚠️ 整復されているからといって画像を省かない。 の有無がを分ける唯一最大のである。

診断

  1. 単純X線(正面・側面・軸位/skyline)でとの位置を見る。側面像はcrossing signなどの評価にも使う1。
  2. MRIでMPFLの部位、・内側の、遊離した、を確認する。同時に・・TT-TG距離をして素因を数値化する1。
  3. TT-TG距離はでもできる1。

⚠️ 単純X線で見える骨片は「氷山の一角」である。 剝がれた軟骨片は単純X線に写らない。に脂肪滴が混じる、あるいは疼痛と可動域制限が説明できないほど強いときは、X線で骨片が無くてもへ進む。

治療

急性期

  • 整復されていなければ、鎮痛下に膝を伸展させながらを内側へ誘導して整復する。
  • が強くしていれば穿刺でする。
  • ・で固定し、荷重と可動域を段階的に許可しながら(とくに)と・の訓練を進める。

初回脱臼は保存治療が基本

⭐ 初回後に手術と保存治療を比較した無作為化試験を総括すると、小児・青年・成人のいずれでも明らかな有意差は認められず、大多数の患者で保存治療が適応となる1。

根拠 内容
Cochraneレビュー(5研究339例、追跡2〜7年) に対して手術・非手術のどちらかが優るという十分な根拠は無い1
4つのの 手術治療の再率24.0%に対し34.6%だが、機能スコアは改善しなかった1
手術で再は減る傾向がある一方、のは増えた1

⚠️ 合併症はほぼ手術例に限って生じる1。再発をわずかに減らすために合併症との危険を背負わせる取り引きになるので、初回では保存治療を既定とする。

手術の適応

手術は主としてなどの重要な合併損傷があるとき、次いでに対して行う1。地域住民ベースの調査でも、初回609例のうち手術を受けたのは80例で、に対するものが66例(10.8%)、急性のに対するものが14例(2.3%)であった2。

術式 適応の目安
MPFL修復・再建 TT-TGが15 mm未満でが。開存の小児・青年では再建より修復(側付着部がにあるため)1
TT-TGが病的に増大している例。内方化と遠位化を併せて行うことが多い1
高度の(Dejour B〜D)で軟骨が保たれている例に対する最後の手段。侵襲が大きく後療法も長い1
の固定・摘出 遊離したがある例。急性期手術のもっとも明確な適応

⚠️ を単独で安易に行わない。 外側支持機構を切離すると二次性の内側を招きうるため、現在はまれにしか適応とされない1。

合併症と予後

  • 反復性:素因が残るため再発しうる。既往のある例の49%が追跡期間中に新たなエピソードを生じている3。
  • ・:内側縁とから生じる。や遷延する疼痛の原因になる。
  • の:と不安定の反復が背景にある。手術後にむしろ増えたとするがある1。
  • との萎縮:そのものより長く残ることがある。

まとめ

  • ⭐ はとは別の疾患である。前者はが外側へ外れる損傷、後者はが外れる整形外科的緊急症で、の除外を要する。
  • 位での捻転では外側へし、約90%でMPFLがする。多くは膝の伸展でされ、だけを残して来院する。
  • 内側縁との衝突による対の・がの典型像で、例の証拠にもなる。
  • 小児ではの最多の原因。好発は10〜20歳、14〜18歳でが最も高い。
  • 診察は・の外側への量・の圧痛。初回の早期に評価すべき解剖学的危険因子は・TT-TG増大・・の4つである(とは併せて診るが、この4因子には含まれない)。
  • 初回は保存治療が基本。手術はなどの合併損傷とが主な適応で、合併症はほぼ手術例に生じる。
  • 再発の最大の予測因子は不安定症の既往(初回17%対既往例49%、6.6)。10〜17歳の女性で危険が最も高い。

出典

  1. 1.Current Concepts for Patellar Dislocation(Archives of Trauma Research・2015)膝蓋骨脱臼と膝蓋大腿不安定症の手術治療と保存治療を扱った総説。本総説自身の記述として、膝蓋骨は通常外側へ脱臼し約90%で内側膝蓋大腿靱帯(MPFL)が断裂すること、膝関節損傷の2〜3%を占めること、小児では外傷性関節血症の最多の原因で青年では前十字靱帯断裂に次ぐこと、好発年齢が10〜20歳で男女差がほぼ無いこと、初回脱臼の55〜72%がスポーツ中に起こること(いずれも本総説が他文献を引用して述べたもの)。MRIの典型所見が関節液貯留・大腿骨外側顆と膝蓋骨内側の軟骨挫傷・軟骨または骨軟骨片・内側支帯とMPFLの断裂であること、MPFLの断裂は完全断裂と不全断裂がありうるが文献上その分布はおよそ同等と記載されていること。再脱臼の危険因子が膝蓋骨高位・脛骨粗面―滑車溝間距離(TT-TG)の増大・滑車形成不全・回旋異常であること。正常な滑車溝角がおよそ138±6度で145度を超えると滑車形成不全の指標となること、Insall-Salvati指数が1.2を超えると膝蓋骨高位・0.8未満で膝蓋骨低位であること、TT-TGの閾値がDejourらの20 mmから後の著者により15 mmへ引き下げられたこと。初回脱臼後の手術と保存治療を比較した無作為化試験を総括すると小児・青年・成人のいずれでも明らかな有意差は無く、大多数で保存治療が適応となること、手術適応は主として骨軟骨骨折などの重要な合併損傷、次いで反復性脱臼であること、合併症はほぼ手術例に限って生じること。本総説が引用する解析として、Erickson らのメタ解析の重複レビューでは手術治療の再脱臼率24.0%に対し非手術治療34.6%であったが機能スコアは改善しなかったこと、Smith らのメタ解析では手術後に再脱臼が減る傾向がある一方で膝蓋大腿関節の変形性関節症が増えたこと、Cochrane レビュー(5研究339例)では一次性膝蓋骨脱臼に対する手術・非手術のいずれかを支持する十分な根拠が無いとされたこと。MPFL修復・再建はTT-TGが15 mm未満で滑車形成不全が軽度(Dejour A/B)のときに適応となり、骨端線開存例では再建より修復が勧められること、TT-TGが病的に増大した例では脛骨粗面移行術、高度の滑車形成不全では滑車形成術が選ばれること、外側解離は二次性の内側膝蓋大腿不安定症を生じうるため現在はまれにしか適応とされないこと(PMC4636822で全文を取得して確認)閲覧 2026-09-02
  2. 2.Incidence of First-Time Lateral Patellar Dislocation: A 21-Year Population-Based Study(Sports Health・2018)1990〜2010年に初回の外側膝蓋骨脱臼と診断された609例を地域住民ベースの多分野コホートデータベースから同定し診療録で確認したコホート研究で、年齢・性で調整した年間発生率が10万人年あたり23.2(95%CI 21.2〜24.9)であったこと。発生率は男女でほぼ同等で、14〜18歳がもっとも高く10万人年あたり147.7であったこと。脱臼時の平均年齢が21.4±9.9歳、女性が331例(54.4%)であったこと。研究期間中に手術を受けたのは80例で、内訳は反復性不安定症に対するものが66例(10.8%)、急性の骨軟骨損傷に対するものが14例(2.3%)であったこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  3. 3.Epidemiology and natural history of acute patellar dislocation(The American Journal of Sports Medicine・2004)急性膝蓋骨脱臼の患者189例を2〜5年間前向きに追跡したコホート研究で、危険がもっとも高いのは10〜17歳の女性であったこと。不安定症の既往をもって受診した患者は初回脱臼の患者より女性が多く(P<0.05)年齢も高かったこと(P<0.05)。追跡期間中に不安定症のエピソード(亜脱臼または再脱臼)を生じたのは初回脱臼例では17%であったのに対し、既往のある例では49%であったこと(P<0.01)。人口統計学的因子で調整すると、既往のある患者の追跡期間中の不安定症エピソードのオッズは初回脱臼例の約7倍(調整オッズ比6.6、P<0.001)であったこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02