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Disease Atlas · 運動器 · 外傷

前十字靱帯損傷

Anterior cruciate ligament injury

別名
前十字靭帯損傷ACL損傷
臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 29:膝靱帯損傷の受傷機転・診断・治療解剖学 6.3:下肢:膝と膝窩
鑑別疾患
後十字靱帯損傷膝関節脱臼
合併症
半月板損傷変形性関節症
関連疾患
多靱帯膝損傷内側側副靱帯損傷膝後外側支持機構損傷
症状
関節内出血腫脹

🧠 全体像:(ACL)は脛骨のと回旋を止めるで、の内側面からへ斜めに走る。この走行が分かれば、(・着地・方向転換で脛骨が前方へずれする)も、(脛骨を前へ引く/回旋を加えてを再現する)も、そこから導ける。臨床の要点は3つ——受傷直後のはを強く示唆すること、が最も信頼できる一次検査であること、そして「だから全例再建」ではなく活動要求と不安定性で再建を決めることである。

解剖が検査法を決める

走行と役割

起始・停止 する動き
(ACL) の内側面 → 脛骨の、、
(PCL) の外側面 → 脛骨の

ACLはの中を走るが、滑膜に包まれた関節内・滑膜外の構造である。栄養はを貫いて入るが担い、血流は乏しい。に浸されていることと血流の乏しさが重なるため、したACLは自然には治らない——ここが、ヒンジ付きで保存治療が成立しうる(関節外にあり血流が豊富)との決定的な違いになる。

💡 「ACLは脛骨が前へ・内へずれるのを止める」という一文が、機転と検査を同時に説明する。 が強く働く・着地の局面で脛骨は前方へ引かれ、膝が・脛骨がすると、そのを止める役目がACLだけに集中する。だからの受傷が多く、だから検査は「脛骨を前へ引く」「回旋を加えて前方を再現する」の2系統になる。

不幸三徴

・・の組合せは古典的に「」と呼ばれる。がと癒着しているという解剖が背景にある。ただし実際の急性複合損傷ではやが関与することも多く、固定した3構造の診断名として使わない。

受傷機転と初期像

  • が多数:着地、急、方向転換で、膝軽度屈曲・・が組み合わさる。
  • 接触型:膝外側からのによる。を伴いやすい。
  • 症状は、受傷後数時間以内のによる腫脹、感。

⭐ 急性外傷後に数時間以内でするは、・・のいずれかを強く示唆する。 単独損傷では腫脹のが遅く、翌日以降に目立つことが多い。腫脹が出るまでの時間を必ず聞く。

診断

徒手検査

28研究のによる統合精度は次のとおりである1。

検査 方法 感度 特異度
膝20〜30°屈曲位で脛骨を前方へ引き、移動量とを見る 85%(83〜87) 94%(92〜95)
pivot shift試験 伸展位から・を加えつつ屈曲し、脛骨前方の整復音・ずれを誘発する 24%(21〜27) 98%(96〜99)
膝90°屈曲位で脛骨を前方へ引く 慢性期92%(88〜95) 慢性期91%(87〜94)

💡 なぜLachmanがより優れるのか。 90°屈曲位()では、①が緊張して脛骨のを二次的に抑え、②が顆の前方への移動を機械的に妨げ、③急性期には疼痛とで膝を90°まで曲げられない。20〜30°屈曲位のはこれらの影響を受けにくい。実際、の精度が良好なのは慢性期であって急性期ではない1。

⚠️ pivot shift試験は陰性でもを否定できない(感度24%)。一方で陽性ならをほぼ確定できる(特異度98%)1。「陽性で確定、陰性で除外できない」検査として使い分ける。覚醒下では防御性収縮で誘発できないことが多く、麻酔下でよく陽性化する。

画像

  • 単純X線は骨折・の除外に行う。脛骨の外側縁に生じる小さな()はACLに強く随伴する所見である。
  • はそのものに加え、・軟骨・(と脛骨後外側の対をなす)の評価に有用である。
  • ⚠️ ではしたを疑い、を除外する。 外観が正常でも、脈拍、腓骨神経機能を確認する。この評価をの手配より優先する。
flowchart TD
    A["受傷直後の膝:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cracking sound'>断裂音</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemarthrosis'>関節内出血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='giving way'>膝崩れ</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurovascular assessment'>神経血管評価</span>と骨折・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dislocation'>脱臼</span>の除外"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lachman test'>Lachman試験</span>(一次検査)+pivot shift試験"]
    C --> D["ACL損傷を疑う"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='menisci'>半月板</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collateral ligament'>側副靱帯</span>・軟骨・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone bruise'>骨挫傷</span>を評価"]
    E --> F["急性期:腫脹と疼痛の管理<br>完全伸展と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='quadriceps femoris'>大腿四頭筋</span>の制御を回復"]
    F --> G["活動要求が低い・不安定性が出ない"]
    G --> H["運動療法を継続し経過を見る"]
    F --> I["反復する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='giving way'>膝崩れ</span>・修復すべき<span class='jp-term jp-term-diagram' title='meniscal injury'>半月板損傷</span><br>高い活動要求"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ligament reconstruction'>靱帯再建術</span>"]

治療

「完全断裂=全例再建」ではない

急性ACLの若年活動者121例を「リハビリテーション+早期再建」と「リハビリテーション+必要時の遅延再建」にした試験では、5年時点のKOOS4変化量が42.9点対44.9点(群間差2.0点、95%CI −8.5〜4.5、P=0.54)で差が無く、活動度・X線上のの新規発生・手術の頻度にも差が無かった。遅延再建群のうち実際に再建を受けたのは51%である2。

⚠️ この結果は「再建は不要」という意味ではない。 遅延群でも約半数は不安定性のために結局再建を受けている。読み取るべきは、構造化されたリハビリテーションを先に行い、不安定性が残る人だけを再建へ回す戦略が、全例に早期再建を行う戦略に劣らないということである。

再建を選ぶ判断材料は、活動要求(方向転換を伴う競技や職業)、反復する、修復を要するの合併、、患者の希望である。

時期

再建を行うと決めた場合の時期には、逆向きの2つの考慮がある。

早期に行う理由 遅らせる理由
中に内側が増える。3か月超で再建した群は3か月以内の群よりの頻度が高かった(2.235、95%CI 1.183〜4.223)3 腫脹が残り可動域が回復していない時期の手術はを招く。早期再建で再置換リスクが高いとする研究もある

⚠️ 「受傷後◯週以内に再建」という一律の閾値は立たない。 の頻度には時期の差が無く3、5年成績では早期再建の優位が示されていない2。腫脹の消退・完全伸展・の制御が戻ってから手術する、という機能的な条件で決める。

リハビリテーションと復帰判定

急性期は腫脹・疼痛を抑え、完全伸展の獲得との制御の回復を最優先にする。以降は筋力、、、着地・方向転換の動作の質を段階的に鍛える。は経過月数だけで決めず、疼痛・腫脹の消失、完全可動域、左右の筋力差、、動作の質、を総合して判定する。

合併症

  • 慢性不安定性と、それに続く二次性の・。
  • 外傷後の。ただし上記の無作為化試験の5年時点では、早期再建群と遅延再建群でX線上のの新規発生に差が無かった2——再建は不安定性の症状を減らす手術であって、の予防が保証されているわけではない。
  • (可動域制限)、の、採取部の障害、感染。

まとめ

  • ACLは内側面からへ走り、脛骨のとをする。関節内で血流に乏しく、は自然治癒しない。
  • (・着地・方向転換)が多い。と受傷後数時間以内ので疑う。
  • が一次検査(感度85%・特異度94%)。pivot shift試験は特異度98%だが感度24%で、陰性でも否定できない。の精度が良好なのは慢性期に限られる。
  • ではしたとして扱い、の除外を優先する。
  • 治療はリハビリテーションを基盤とし、再建は活動要求・反復する・合併で個別に決める。5年成績では早期再建は「リハビリ+必要時再建」に優らなかった。

出典

  1. 1.Clinical diagnosis of an anterior cruciate ligament rupture: a meta-analysis(Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy・2006)前十字靱帯断裂の徒手検査28研究のメタ解析で、Lachman試験の統合感度が85%(95%CI 83〜87)・特異度94%(92〜95)、pivot shift試験は特異度98%(96〜99)と高いが感度は24%(21〜27)と低いこと、前方引き出し試験は慢性期には感度92%(88〜95)・特異度91%(87〜94)と良好だが急性期では同等でないこと、疑い例ではLachman試験を行い、急性・慢性いずれでも特異度が高いpivot shift試験を併せて行うことが推奨されること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  2. 2.Treatment for acute anterior cruciate ligament tear: five year outcome of randomised trial(BMJ・2013)急性前十字靱帯損傷の若年活動者121例(平均26歳)を「リハビリテーション+早期再建」と「リハビリテーション+必要時の遅延再建」に無作為化した試験の5年成績で、遅延再建群の51%が実際に再建を受け、KOOS4のベースラインからの変化量は42.9点対44.9点(群間差2.0点、95%CI −8.5〜4.5、P=0.54)で有意差が無く、KOOS各下位尺度・SF-36・Tegner活動度・X線上の変形性関節症の新規発生・半月板手術の頻度にも有意差が無かったこと閲覧 2026-09-02
  3. 3.Timing of Anterior Cruciate Ligament Reconstruction and Relationship With Meniscal Tears: A Systematic Review and Meta-analysis(The American Journal of Sports Medicine・2021)12研究3,042例(無作為化比較試験3件272例、前向きコホート2件307例、後ろ向きコホート7件2,463例)を組み入れたシステマティックレビューで、このうち5研究2,012例のメタ解析により、受傷から3か月を超えて前十字靱帯再建を行った群は3か月以内の群より内側半月板断裂の頻度が高く(推定オッズ比2.235、95%CI 1.183〜4.223、P=0.013)、外側半月板断裂では差が無かったこと、別の4研究990例のメタ解析でも6か月を超えた場合に同じ向きの結果(推定オッズ比2.487、95%CI 1.241〜4.984、P=0.01)で外側半月板断裂では差が無かったこと、再建の適応がある患者では3か月以内の再建が勧められうるが因果関係の確定にはさらなる前向き研究を要すること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02