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Disease Atlas · 運動器 · 外傷

膝後外側支持機構損傷

Posterolateral corner injury

別名
後外側支持機構損傷膝後外側複合体損傷後外側回旋不安定症
臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 29:膝靱帯損傷の受傷機転・診断・治療解剖学 6.3:下肢:膝と膝窩
鑑別疾患
後十字靱帯損傷
合併症
総腓骨神経麻痺関節線維症
関連疾患
前十字靱帯損傷多靱帯膝損傷膝関節脱臼
症状
腫脹関節内出血

🧠 全体像:膝の4本の安定化機構のうち、だけが「1本の」ではなく複数構造の集まりである。中心は・・の3つで、これらが・・に対するとして働く1。⚠️ この領域は「膝の暗黒面」と呼ばれてきた——構造の名前も付着部も文献ごとに違い、解剖学の教科書のあいだですら記載が揃っていない1。⭐ その曖昧さが臨床の代償になっている:後外側の不安定性を診断・治療できなかったことは、が失敗する最も多い同定可能な原因である1。だから本症の要点は術式ではなく、「見落とさないこと」そのものにある。

解剖——「支持機構」であって靱帯ではない

は多数の構造からなるが、⭐ 主要なは3つで、この点についてはLaPradeらのとChahlaの研究で整形外科医の100%が合意している1。

構造 走行 主にするもの
の近位後方(の後方のわずかな骨性のくぼみ)から約7 cm遠位へ走り、に付着(付着はの全幅のおよそ38%を覆う)
へ付着。の付着部との平均距離は約1.8 cm
とを結ぶ

解剖学的記載はいずれも同総説による1。

⚠️ の構造は、・・の3方向に対するである1。「」も含むという点が、との関係を決める——を放置したままだけを再建すると、に過剰な負荷がかかる。

💡 名前の混乱は今も続いている。 やといった周辺構造の存在率や付着部には異論があり、は現行の解剖学用語にすべて取り込まれてはいない1。文献の「」がどの構造を指しているかを、読むたびに確かめる。

受傷機転と併存損傷

最も多い機転は(の有無を問わない)・前内側からの・外力である1。

⚠️ 単独損傷はまれで、大半はの一部として現れる。 の損傷は他の靱帯損傷と併存することが多く、大半がまたはと併発する1。急性III度損傷を扱った系統的レビューでも、288例中43%(125例)が・・の3つを含む複合損傷であった2。

⭐ つまり「だけが切れている」より、「を診たらも切れていないか」と考えるほうが実際的である。 はしたでありうるので、外観が正常でも血行を評価する。

⚠️ 総腓骨神経麻痺——後外側支持機構損傷に特有の合併症

単一の外傷センターで治療された急性100膝の症例集積による3。

項目 数値
膝外側の靱帯損傷を有した例 74/100(74%)
そのうち 23/74(31%)
そのうち血管損傷 10/74(14%)
そのうち骨折 23/74(31%)
あり 対 なしの損傷率 31% 対 4%(p=0.005)

⭐ が切れているでは、の頻度が8倍近くになる3。があればを疑い、が切れていればとの感覚を必ず確かめる。

⚠️ 初診時になら回復は期待しにくい。 の17例で機能回復が得られたのは12%、の6例では100%であった(p<0.0001)3。⚠️ 「完全か不全か」を初診時に記録することが、そのまま予後の説明になる。

💡 なぜで神経が傷むのかは、損傷部位が教えてくれる。 のは74例中71例(96%)に生じ、側のが最多(65%)、次いで側の(20%)、(15%)であった3。⭐ 損傷はとくにと側で高率だった3——神経がを回る場所と、が切れる場所が重なるからである。

診断

国際合意(3巡の、40記述、全体の82.5%が合意)は、次の検査に診断的有用性があるとした4。

手段 内容
で両脛骨をさせ、左右差をみる
屈曲位で脛骨の後方への回旋をみる
を持って下肢を持ち上げ、との出現をみる
構造ごとの損傷部位の同定
の客観化
両側の股関節からまでの の評価

⭐ 全が「強く同意」したのは2点だけである4。

  1. によるを確認するためのと画像評価を定期的に行うこと
  2. 慢性のでは両側の股関節からまでのを行うこと

💡 2点目の意味は「アライメントを見逃すな」である。 が残ったままを再建しても、荷重のたびにが引き伸ばされる。慢性例でを先に考えるかどうかが、ここで決まる。

⚠️ ダイアルテストは後外側支持機構に特異的ではない

はの診断的有用性を認めているが4、この検査だけでを決められない。・・の損傷でも陽性になりうる(の項にの精度をまとめてある)。は組み合わせ、とで客観化する。

⚠️ の感度・特異度として引用される数値は、出典によって指している対象が違う。 「何を検出したときの精度か」(単独のか、の合併例を含むか)を確かめずに数字だけを持ち出さない。本ノートは原著を取得できていないため具体的な数値を掲げない。

古典的には、屈曲30°でだけが増えていればの単独損傷、30°と90°の両方で増えていればの合併を示唆すると読む。⚠️ この読み分けは本ノートの出典が支持しているものではない(診断精度研究の原著は未取得)。⚠️ も、III度のがを検出する意義は未解決だとしている4。

⚠️ 治療を導く分類体系が存在しない

⭐ これは知識の欠落ではなく、合意された事実である。 合意は、治療を導くのに有用なの分類体系は現時点で存在しないと明言した4。解剖の側でも、診断と治療の標準化されたアルゴリズムは無いとされている1。

💡 がグレードごとの mm 単位の閾値で語られるのと対照的である。 では、そもそも数字で切る土台が無い。だから治療は「何度か」ではなく「か、単一構造のか」で決まる。

治療

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterolateral corner injury'>後外側支持機構損傷</span>を疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='varus stress radiography'>内反ストレス撮影</span>で損傷構造と弛緩性を確認<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='common fibular nerve'>総腓骨神経</span>の機能を記録"]
    B --> C{"損傷の広がりは"}
    C -->|"単一の安定化構造の<br>急性の軟部組織<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avulsion'>裂離</span>"| D["修復しうる"]
    C -->|"完全なIII度損傷"| E["再建を行う<br>⚠️ 補強・再建なしの単独修復は行わない"]
    E --> F{"慢性か"}
    F -->|"慢性"| G["両側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='full-length radiograph'>全長撮影</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lower limb alignment'>下肢アライメント</span>を評価<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='varus / inversion'>内反</span>があれば矯正を先に検討"]
    F -->|"急性"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='meniscal lesion'>半月板病変</span>・神経筋損傷の有無で時期を決める"]
  • 単一の安定化構造を含む急性の軟部組織は修復しうる4。
  • ⚠️ III度の単独修復を、補強または再建なしに行ってはならない。完全なIII度損傷は再建を行う4。
  • 手術の時期は、や神経筋損傷の合併の有無で決める4。

修復か再建か——数字が出ている

受傷から4週以内に手術を受けた急性III度損傷288例の系統的レビューによる2。

修復 再建
失敗率 21.9%(21/96) 7.1%(6/84)(p=0.0058)
スポーツ復帰 94%(48/51) 100%(22/22)(有意差なし)
  • 全体の失敗率は12.4%(35/282)2。
  • 最も多い術後合併症はを要するで8.7%(25/288)2。⚠️ 可動域が固まることが、この手術のいちばんありふれた失敗である。
  • 3.8%(11/288)がのを再度受けた2。

術式

⚠️ 普遍的に受け入れられたは存在しない。 ただしは、LaPrade法——・・を2本ので解剖学的に再建し、に2本・に1本・脛骨に1本のを作る——が良好な成績をもたらしうるとした4。

⚠️ 術後のを手術成功の指標として定期的に用いることには合意が無く、の判定には信頼できないとされた4。のを定期的に行うべきかも未解決である4。

💡 こののは Level V(の合意)である4。数字ではなく「がどこで一致し、どこで割れたか」を読む文書として使う。

⚠️ 前十字靱帯再建の失敗を作らないために

⭐ 本ノートで最も実務的な一文がこれである——後外側のを診断・治療できなかったことが、術後の失敗の最も多い同定可能な原因である1。

の再建を計画するとき、とを診ておかないと、が後外側の不安定性を肩代わりして伸びる。「だけの損傷」と決める前に、を評価する。

なお、でを矯正する際に後外側構造を解離する場合も、術後のを避けるための解剖の温存が重要とされる1。

まとめ

  • の主要なは・・の3つ(の100%合意)。・・の。
  • 機転は・前内側からの・外力。⚠️ 単独損傷はまれで、大半はまたはの損傷と併発する。
  • ⚠️ が31%に合併し、を伴わない(4%)より著しく高い。 の回復率は12%にとどまる。
  • は96%でし、側のが65%。と側で神経損傷が多い。
  • 診断は・・++。慢性例では両側の股関節からまでのでアライメントを見る。
  • ⚠️ はに特異的ではない。 単独の検査で決めない。
  • ⚠️ 治療を導く分類体系が存在しない。 数字で切れないので「単一構造の急性=修復しうる/完全なIII度=再建」で考える。
  • ⭐ 急性III度では修復より再建。 失敗率は修復21.9%・再建7.1%。最多の合併症は麻酔下を要する(8.7%)。
  • ⚠️ 後外側の不安定性の見落としは、失敗の最も多い同定可能な原因である。

出典

  1. 1.Anatomy of the ligaments of the posterolateral corner of the knee: A narrative literature review(Journal of Experimental Orthopaedics・2025)Europe PMC(PMC12661223)で全文を取得して確認した。膝後外側支持機構が膝で最も理解が進んでいない解剖学的領域であり「膝の暗黒面」と呼ばれてきたこと、構成構造の骨指標・付着部・構成・相互関係について正確な解剖学的記載の合意が無く、解剖学の教科書ごとに構成要素の記載が異なること、命名法が現行のNomina Anatomicaに必ずしも取り込まれていないこと。後外側支持機構の構造が内反・外旋・後方移動に対する一次安定化機構であること。診断と治療の標準化されたアルゴリズムは現時点で存在しないが、最も信頼できる術式は外側側副靱帯・膝窩筋腱・膝窩腓骨靱帯の解剖学的再建と考えられること、LaPradeらの多施設研究とChahlaの研究がこの3構造を後外側支持機構の主要な一次構造とすることに整形外科医の100%の合意を得ていること。後外側支持機構損傷の最も多い受傷機転が過伸展(直達外力の有無を問わない)・前内側からの直達外傷・内反外力であること、後外側支持機構の損傷は他の靱帯損傷と併存して多靱帯膝損傷となることが多く、大半が前十字靱帯損傷または後十字靱帯損傷と併発すること。後外側の膝不安定性を診断・治療できなかったことが、術後の前十字靱帯再建失敗の最も多い同定可能な原因であること。外側側副靱帯が大腿骨外側顆の近位後方(外側上顆の後方のわずかな骨性のくぼみ)に主付着部を持ち、膝窩筋腱の大腿骨付着部との平均距離が約1.8 cm、遠位へ約7 cm走って腓骨頭に付着し、その付着が腓骨頭の全幅のおよそ38%を覆うこと。人工膝関節置換術では外反変形の矯正で後外側構造を解離する際に、術後の後方脱臼を避けるため後外側支持機構の解剖の温存が重要であること。閲覧 2026-09-04
  2. 2.Higher success rate observed in reconstruction techniques of acute posterolateral corner knee injuries as compared to repair: an updated systematic review(Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy・2023)受傷から4週以内に手術を受けた急性完全(III度)後外側支持機構損傷を対象とし、最短2年追跡の主観的・客観的転帰を報告した12研究288例のシステマティックレビュー。10研究が一次修復を、7研究が再建術式を報告した。損傷の43%(125/288)が後外側支持機構・前十字靱帯・後十字靱帯を含む複合損傷であった。全体の失敗率は12.4%(35/282)で、修復群の失敗率21.9%(21/96)は再建群の7.1%(6/84)より有意に高かった(p=0.0058)。スポーツ復帰は再建群100%(22/22)・修復群94%(48/51)で有意差は無かった。最も多い術後合併症は麻酔下徒手授動を要する関節線維症で8.7%(25/288)、3.8%(11/288)が後外側支持機構の再建術を再度受けた。エビデンス水準Level IV。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-04
  3. 3.The Pathoanatomy of Posterolateral Corner Ligamentous Disruption in Multiligament Knee Injuries Is Predictive of Peroneal Nerve Injury(The American Journal of Sports Medicine・2020)単一のlevel 1外傷センターで2001〜2018年に治療された急性多靱帯膝損傷100膝100例の症例集積。74例(74%)が膝外側の靱帯損傷を有し、そのうち23例(31%)に総腓骨神経麻痺、10例(14%)に血管損傷、23例(31%)に骨折を認めた。後外側支持機構損傷を伴う症例の総腓骨神経損傷の頻度は、後外側支持機構損傷を伴わない急性多靱帯膝損傷より有意に高かった(31%対4%、p=0.005)。完全な総腓骨神経麻痺の患者(17例)は不全麻痺の患者(6例)より機能回復が得られにくかった(12%対100%、p<0.0001)。外側側副靱帯の完全断裂は後外側支持機構損傷74例中71例(96%)に生じ、損傷部位は腓骨側の裂離が最多(65%)、次いで大腿骨側の裂離(20%)、実質部断裂(15%)であった。外側側副靱帯の損傷部位は総腓骨神経損傷の頻度と関連し、実質部断裂と腓骨側裂離でより高率であった。エビデンス水準Level IV。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-04
  4. 4.A Contemporary International Expert Consensus Statement on the Evaluation, Diagnosis, Treatment, and Rehabilitation of Injuries to the Posterolateral Corner of the Knee(Arthroscopy・2025)5人の作業部会が後外側支持機構損傷に関する62の記述を作成し、3巡の修正Delphi法(各巡の参加率100%)を経て40の記述を採用し、全体の82.5%が合意に達した国際専門家合意声明。合意に達した内容として、ダイアルテスト・後外側引き出し試験・外旋反張試験・MRI・内反ストレス撮影・両側の股関節から足関節までの全長撮影が診断的有用性を持つこと、半月板病変や神経筋損傷の合併が手術時期に影響すること、治療を導くのに有用な後外側支持機構損傷の分類体系は現時点で存在しないこと、単一の安定化構造を含む急性の軟部組織裂離は修復しうること、III度断裂の単独修復は補強または再建なしに行うべきでなく完全なIII度損傷は再建を行うべきこと、普遍的に受け入れられた再建術式は存在しないがLaPrade法(外側側副靱帯・膝窩筋腱・膝窩腓骨靱帯を2本のグラフトで解剖学的に再建し、大腿骨に2本・腓骨に1本・脛骨に1本の骨孔を作る)が良好な成績をもたらしうること、術後の内反ストレス撮影を手術成功の客観的指標として定期的に用いることの有用性には合意が無いことが挙げられる。全専門家が「強く同意」した記述は、後外側支持機構損傷による内反弛緩性を確認するための身体診察と画像評価を定期的に用いること、および慢性の後外側支持機構損傷において両側の股関節から足関節までの全長撮影を行うことであった。III度の後外側引き出し試験が外旋弛緩性を検出する意義、および総腓骨神経の神経剥離を定期的に行うべきかは未解決であること、術後の内反ストレス撮影は遺残弛緩性の判定には信頼できないこととされた。エビデンス水準はLevel V(専門家意見の合意)。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-04