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Disease Atlas · 神経 · 疾患

総腓骨神経麻痺

Common peroneal nerve palsy

別名
総腓骨神経障害腓骨神経麻痺
臓器系
神経運動器
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)Neurology
トピック
解剖学 6.4:下肢:下腿解剖学 6.3:下肢:膝と膝窩神経内科 G3-19:腰仙骨神経叢障害症候群
鑑別疾患
頸椎・腰椎椎間板ヘルニアによる神経根症
関連疾患
末梢神経絞扼症候群
症状
下垂足筋力低下しびれ知覚異常
元疾患
Maisonneuve骨折多靱帯膝損傷膝関節脱臼膝後外側支持機構損傷

🧠 全体像:はの代表的な原因であり、下肢では最も頻度の高いである1。理由は解剖ひとつで説明がつく——この神経はを皮下すれすれで、骨に直接接して回るので、外からの圧迫にも、膝が大きく動いたときの牽引にも逃げ場がない。だから原因は「・長時間の脚組み・やせ」という圧迫と、「・」という牽引の2系統に分かれる。診察の軸はとのどちらが落ちているかで、これで深枝と浅枝を切り分ける。そのうえで必ずL5のを鑑別に置く——足のとが保たれているかが分かれ目になる。

解剖——なぜ腓骨頸なのか

はの上方でとに分かれる。はの内側縁に沿って外下方へ下り、の後ろからを巻いて前外側へ回り込み、の起始部がつくるトンネルをくぐったところでとに分かれる。ではこの神経が骨に直接接し、上を覆うのは皮膚と薄い軟部組織だけである。が最も傷つきやすいのはまさにこの部位で、膝の外側面が弱点になる1。

枝 主な 感覚領域 落ちる動き
、、 (と第2趾の間)の背側 のとの伸展
、 と(を除く) 足の

⭐ とのどちらが落ちているかで枝が分かる。 だけが落ちての感覚が鈍ければ深枝、が落ちてからの感覚が鈍ければ浅枝、両方そろえばでの本幹の障害である1。

原因

圧迫が最も多い原因である2が、圧迫にも牽引にも弱いことがこの神経の特徴で、機転によって予後も治療も変わる。

機転 代表例
外からの圧迫 下腿・、長時間の脚組みやしゃがみ込み、手術中の体位(が手術台に当たる)、、急激な体重減少(部の脂肪が減って緩衝が失われる)
牽引 、によるの損傷
・医原性 (の近位骨折を含む)、膝周囲の手術操作、
外側の、の腫瘍
素因 糖尿病など、神経が圧迫に弱くなっている全身状態

⭐ 頻度の目安として、の後には16〜40%、脛骨・の骨折ではおよそ1〜2%に損傷が報告されている1。

⚠️ のを「圧迫」で片づけない。 に伴う麻痺は牽引によるで、しかもと同居しうる。麻痺そのものより先に血行を評価する。

臨床像

  • ——の筋力低下が最も多い初発像である1。にが垂れるため、股・膝を高く上げて振り出すになる。
  • 筋力低下は・(深枝)と(浅枝)に限られ、とは保たれる。
  • しびれ・はからに出る。は深枝の固有領域で、ここだけのは局在の手がかりになる。
  • を叩くとがへ放散することがある。
  • ⚠️ 痛みが乏しいことが多い。 「痛くないから軽い」と判断されて受診が遅れる。

鑑別——L5神経根症との切り分け

⭐ 足の()と()は、どちらもL5神経根を経由するが、は通らない。したがってではこの2つが保たれ、L5のでは落ちる。これがを見たときの最初の分岐になる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foot drop'>下垂足</span>を認める"] --> B{"足の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='varus / inversion'>内反</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tibialis posterior'>後脛骨筋</span>)は保たれているか"}
    B -->|"保たれている"| C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hip abduction'>股関節外転</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gluteus medius'>中殿筋</span>)は正常か"}
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='varus / inversion'>内反</span>も弱い"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='L5 radiculopathy'>L5神経根症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sciatic neuropathy'>坐骨神経障害</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbosacral plexopathy'>腰仙骨神経叢障害</span>を疑う"]
    C -->|"正常"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neck of fibula'>腓骨頸</span>部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='common peroneal nerve palsy'>総腓骨神経麻痺</span>を第一に考える"]
    C -->|"弱い"| D
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsiflexion'>背屈</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eversion'>外反</span>のどちらが落ちているか"}
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsiflexion'>背屈</span>のみ"| G["深<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibula'>腓骨</span>枝優位の障害"]
    F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eversion'>外反</span>も低下"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neck of fibula'>腓骨頸</span>での本幹の障害"]
    D --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbar vertebrae'>腰椎</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>と、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paraspinal muscles'>傍脊柱筋</span>を含む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='needle electromyography'>針筋電図</span>"]
    G --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve conduction study (NCS)'>神経伝導検査</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neck of fibula'>腓骨頸</span>をまたぐ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conduction block'>伝導ブロック</span>を探す"]
    H --> J
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass lesion'>占拠性病変</span>を疑えば超音波・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>を追加"]

このほか、両側性で緩徐進行ならをはじめとするを考える(とが手がかりになる)。・では、に加えてや足底の感覚まで障害が及ぶ。

診断

  • ・が中心で、の局在と・予後の判定に役立つ2。をまたぐ区間の低下・が局在の直接的な証拠になる。
  • ⚠️ 受傷直後に行うと重症度を過小評価する。 に伴うがに現れるまでには時間がかかるため、急性期の1回だけで予後を断じない。
  • 超音波・は神経の腫大や・腫瘍といったを探すときに加える2。
  • 単純X線はの確認に用いる。

治療

段階 内容
原因の除去 ・の圧迫解除、脚組みや長時間のしゃがみ込みの中止、手術中は部をする
保存療法(第一選択) (のを代償し、とつまずきを防ぐ)、、、薬物療法。多くの患者がこれで改善する21
難治例、圧迫性腫瘤、急性の裂傷、高度ので考慮する。成績は概して良好2
再建 がしない例、神経回復の見込みが乏しい例では・2

⚠️ 手術に移る目安は、急速に悪化する病変、3か月間改善しない難治例、が疑われるである1。で歩けているうちに「様子を見る」を繰り返し、の機を逃さない。

まとめ

  • は下肢で最も頻度の高いで、の代表的な原因である。
  • で骨に直接接して走るため、圧迫にも牽引にも弱い。・脚組み・やせ・手術体位が圧迫の、とが牽引の代表である。
  • 深枝はとの感覚、浅枝はとの感覚を担う。⭐ とのどちらが落ちているかで枝が分かる。
  • との鑑別はとで行う。どちらもL5を通るがは通らないため、では保たれる。
  • 電気診断が局在と予後を決める。急性期の1回で判断しない。を疑えば超音波・を加える。
  • 治療は圧迫源の除去とから始め、急速な悪化・3か月の無改善・ではへ移る。

出典

  1. 1.Peroneal Nerve Injury(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)2024年2月25日最終更新。腓骨神経障害が下肢で最も頻度の高い圧迫性ニューロパチーであり、正中神経・尺骨神経に次いで全体で3番目に多いニューロパチーであること、総腓骨神経が腓骨頸を回る部位で最も損傷されやすく膝の外側面が弱点になること、深腓骨神経が足関節背屈と母趾伸展および第1趾間の感覚を、浅腓骨神経が足の外反と第1趾間を除く足背・下腿外側の感覚を担うこと、膝関節脱臼後に総腓骨神経損傷が16〜40%の患者に生じると報告されていること、脛骨・腓骨骨折に伴う頻度がおよそ1〜2%であること、総腓骨神経損傷の最も多い臨床像が足関節背屈の筋力低下による古典的な下垂足であること、短下肢装具が歩行の遊脚期に足趾の背屈を代償すること、手術の適応が急速に悪化する病変・3か月間改善しない難治例・神経断裂が疑われる開放損傷であることを確認した閲覧 2026-09-02
  2. 2.Peroneal Nerve Palsy: Evaluation and Management(Journal of the American Academy of Orthopaedic Surgeons・2016)腓骨神経麻痺が下肢で最も頻度の高い絞扼性ニューロパチーであること、原因は多数あるが圧迫が最も多いこと、神経のどの高さでも損傷は起こりうるが圧迫性病変の最好発部位が腓骨頭の高さであること、最も多い初発像が急性の完全または部分的な下垂足であり足や下腿のしびれを伴いうること、電気診断検査が病巣の局在と治療方針・予後の判定に役立ちうること、多くの患者が活動調整・装具・理学療法・薬物といった非手術的治療で改善すること、難治例と圧迫性腫瘤・急性の裂傷・高度の伝導障害を伴う例では外科的除圧を考慮すべきこと、除圧術の成績が概して良好であること、除圧が奏効しない例や神経回復の見込みが乏しい例では腱移行術・神経移行術が用いられることを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02