脳神経内科学

脳神経内科学 · G3-19

腰仙骨神経叢障害症候群

G3-19: Syndrome of lumbosacral plexus damage

前提:正常
腹部:神経骨盤・会陰:神経
疾患
総腓骨神経麻痺
症状
Trendelenburg徴候

🧠 全体像:は、複数の神経根と末梢神経の領域にまたがる疼痛・筋力低下・感覚障害を生じる。単一末梢神経障害、、障害と区別し、原因となる腫瘍、血腫、糖尿病性炎症性障害、外傷を見逃さない。

解剖

は主にL1〜L4、は腰幹L4〜L5とS1〜S4からなる。図で示される主要枝は次のように整理できる。

神経 主な根 主な運動 主な感覚
腸骨下腹・ L1 腹壁 下腹部、、外性器の一部
L1〜L2 大腿上前部、陰嚢・大
L2〜L3 なし 大腿外側
L2〜L4 股関節屈曲の一部、 大腿前面、を介して下腿内側
L2〜L4 股関節内転 (皮枝の分布は変異が大きく、を欠くことも多い)
L4〜S1 ・骨盤安定 なし
L5〜S2 なし
L4〜S3 と下腿・足の大部分 総・領域
S1〜S3 なし 大腿後面
S2〜S4 外尿道・など 会陰部

原因

原因群 例・特徴
外傷・医原性 、股関節・骨盤手術、牽引、、分娩(特に婦・の遷延で頻度が上がる1)
圧迫・浸潤 後腹膜・骨盤腫瘍、リンパ節、動脈瘤(を有する症例では型・型・全型のいずれも生じうる2)、・後腹膜血腫(抗凝固薬使用者に多い3)
放射線 骨盤放射線治療後に遅発しうる
炎症・血管性 血管炎、、感染性膿瘍
糖尿病関連 :急性〜亜急性の強い片側大腿・痛に続く非対称性筋力低下・体重減少。長期追跡でも完全回復は少数にとどまる4

Charcot–Marie–Tooth病は通常、の遺伝性であり、局在性のの代表原因ではない。

症候と局在

  • 優位では股関節屈曲・内転、が弱く、が低下する。
  • 優位では・外転、、・運動が弱く、が低下する。
  • 障害ではと反対側の骨盤が下がる・歩行を示す。
  • 系の障害ではを来しうるが、やも鑑別する。
  • 複数末梢神経領域にまたがる感覚障害、、自律神経・括約筋症状がみられる。

⚠️ が無くても障害は否定できない。 選択的ブロックを受けた30例では、力が平均77±17%低下してブロックは全例成功したにもかかわらず、17例(57%)に由来の皮膚支配が無く、のが出たのは6例(20%)だけだった(残る7例(23%)は上部の)。のがあれば障害を支持する所見になるが、無いことを除外の根拠にはできない。機能の評価は力(股関節内転)で行う。5

急な膀胱直腸障害、会陰部、両下肢症状は・圧迫の緊急所見であり、と決めつけず直ちに脊椎を行う。

診断

flowchart TD
    A["下肢痛・筋力低下・感覚障害"] --> B["筋力・反射・感覚分布を地図化"]
    B --> C["単一神経領域"]
    B --> D["複数神経・複数根領域"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mononeuropathy'>単神経障害</span>を評価"]
    D --> F["神経叢・多根・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cauda equina'>馬尾</span>を鑑別"]
    F --> G["骨盤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lumbosacral plexus'>腰仙骨神経叢</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve conduction study (NCS)'>神経伝導検査</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='needle electromyography'>針筋電図</span>"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paraspinal muscles'>傍脊柱筋</span>温存と感覚神経電位低下なら神経叢を支持"]
    G --> J["腫瘍・血腫・炎症・外傷を同定"]

では病変がより遠位にあるためが低下しうる。で複数神経・複数根のを認め、が保たれればよりを支持する。発症直後は学的変化が揃わないことがある。

治療

原因治療を優先し、圧迫性腫瘍・血腫・膿瘍ではを判断して減圧、腫瘍治療、抗菌薬などを行う。では末梢神経外科へ談する。糖尿病性神経根神経叢では血糖・栄養を適正化し、とリハビリテーションを行う。、歩行訓練、維持、薬を病態に合わせる。

まとめ

  • は複数神経・複数根にまたがる非対称性障害として捉える。
  • は大腿前面と下腿内側の感覚を担う。の皮枝の分布は変異が大きく、を欠くことも多い(機能の評価は力で行う)。
  • とを組み合わせ、神経根・・から局在する。
  • 急な括約筋障害や会陰部は圧迫性として緊急評価する。

出典

  1. 1.Incidence of postpartum lumbosacral spine and lower extremity nerve injuries(Obstetrics and Gynecology・2003)分娩した6,048例を前向きに調査した研究で、産後の腰仙部・下肢神経障害の発生率は0.92%(56例)であり、未経産婦であることと分娩第2期の遷延がリスク因子として同定され、症状の持続期間の中央値は2か月だったこと閲覧 2026-08-27
  2. 2.The natural history of lumbosacral plexopathy in cancer(Neurology・1985)骨盤内腫瘍を有する癌患者85例の腰仙骨神経叢障害を検討した研究で、下位型(L4-S1)51%・上位型(L1-L4)31%・全型18%に分類され、CTで96%に骨盤内腫瘍が確認されたこと閲覧 2026-08-27
  3. 3.The epidemiology and management of iliopsoas hematoma with femoral nerve palsy: A descriptive systematic review of 174 cases(Injury・2023)腸腰筋血腫による大腿神経麻痺174例の系統的レビューで、血腫の54%は抗凝固薬使用に関連しており、治療法によらず約49%で最終追跡時に運動障害が残存したこと閲覧 2026-08-27
  4. 4.Non-diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy: natural history, outcome and comparison with the diabetic variety(Brain・2001)非糖尿病性腰仙骨神経根神経叢ニューロパチー57例と糖尿病性33例を比較した研究で、両者は発症年齢・経過・症候分布・電気生理学的所見がほぼ同様であり、体重減少を伴い大腿・下腿に非対称性に発症して反対側へ広がりうること、長期追跡できた42例中完全回復は3例のみで疼痛・麻痺・自律神経症状を伴う遷延した経過をとることが多いこと閲覧 2026-08-27
  5. 5.An evaluation of the cutaneous distribution after obturator nerve block(Anesthesia and Analgesia・2002)PubMed(PMID 11812716)で抄録を確認した(全文は未取得)。膝手術予定の30例に7 mLの0.75%ロピバカインで選択的閉鎖神経ブロックを行い、内転筋力は平均77±17%低下してブロックは全例成功した。一方で17例(57%)には閉鎖神経由来の皮膚支配が無く、7例(23%)は膝窩上部の感覚鈍麻、6例(20%)が大腿内側の感覚低下を示した。著者らは閉鎖神経の機能を評価する唯一の方法は内転筋力の評価であると結論している閲覧 2026-09-08