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Symptoms · Published

Trendelenburg徴候

Trendelenburg sign

別名
トレンデレンブルグ徴候Trendelenburg歩行
臓器系
運動器神経
科目
AnatomyNeurologyRehabilitation
トピック
解剖学 6.1:下肢:殿部と股関節神経内科 G3-19:腰仙骨神経叢障害症候群リハビリテーション 02:リハビリテーションにおける機能評価:移動能力・筋力・標準化スケール
関連疾患
デュシェンヌ・ベッカー型筋ジストロフィーポリオ大腿骨頸部・転子部骨折変形性関節症頸椎・腰椎椎間板ヘルニアによる神経根症

🧠 全体像は、(支持脚側)のが骨盤を水平に保てず、側(反対側)の骨盤が下がる所見である。骨盤が落ちること自体は病名ではなく、を「/機械的」のどこに置くかを絞り込むための入り口にすぎない。歩行中に繰り返されればとなり、代償として体幹をへ傾けるを伴うことが多く、両側性なら(waddling gait)として現れる。

定義と用語の整理

(Trendelenburg sign)は、患者に=stance leg)を取らせたとき、の筋力または機能が不十分であるために骨盤を水平に保持できず、側(支持脚と反対側)の骨盤が下がる現象を指す。「どちら側が悪いか」は骨盤が下がった側ではなく、立脚している側で判定する点を取り違えない。

歩行中にこの骨盤下降が周期的に繰り返されるととなる。多くの患者はこの下降を代償するため体幹をへ傾け、重心を弱い外転筋の支点(股関節)の真上へ近づけて必要な外転筋力を減らす。この体幹傾斜をと呼び、・歩行と一体で観察される。両側の外転筋が障害されると左右に骨盤下降・体幹傾斜が起こり、を呈する。

同じ「Trendelenburg」を冠する全く別概念と混同しないことが重要である。弁の逆流を評価するを用いた立位での充満観察)や、手術・蘇生の場面で用いる頭は、筋の機能をみる本徴候とは対象部位も目的も異なる別個の用語であり、本ノートでは扱わない。

病態生理

正常な歩行周期では、立脚相で対側下肢が地面を離れる(相に入る)瞬間、体重と側下肢の重さが骨盤を側へ傾けようとする回転モーメントを作る。これに対抗してが収縮し、骨盤を水平に保持する。この外転筋の作用が不十分だと、対抗するモーメントが不足し、側の骨盤が下がる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='single-leg stance'>片脚立位</span>・歩行の立脚相"] --> B["体重と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='swing phase (gait cycle)'>遊脚</span>側下肢が<br>骨盤を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='swing phase (gait cycle)'>遊脚</span>側へ傾けるモーメントを作る"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stance-phase side'>立脚側</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gluteus medius'>中殿筋</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gluteus minimus'>小殿筋</span>が<br>十分に対抗できるか"}
    C -->|"できる"| D["骨盤は水平に保たれる"]
    C -->|"できない"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='swing phase (gait cycle)'>遊脚</span>側の骨盤が下がる<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Trendelenburg sign'>Trendelenburg徴候</span>"]
    E --> F["歩行中に周期的に反復"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Trendelenburg gait'>Trendelenburg歩行</span>"]
    G --> H["体幹を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stance-phase side'>立脚側</span>へ傾けて代償<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Duchenne limp'>Duchenne跛行</span>"]
    H --> I["重心が股関節の真上に近づき<br>必要な外転筋力が減る"]
    E --> J{"両側性か"}
    J -->|"はい"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='waddling gait'>動揺性歩行</span>"]

は、外転筋そのものの収縮力が足りない場合と、力は出せても骨盤を支える「支点」の位置・安定性が崩れている場合に大別できる。

分類 機序 代表例
を支配するの伝達が障害される 単独麻痺、
神経支配は保たれても筋線維自体が変性・脱落する 、近位筋優位の
機械的 神経・筋は保たれても外転筋の支点(の位置)や関節そのものが不安定 ・人工股関節術後の転位、股

⚠️ 見逃してはいけない病態

⚠️ 医原性の損傷:股関節後方・後外側アプローチの手術(術後のなど)やへのは、がその操作野を走行する解剖学的位置のために損傷しやすい。術後・注射後に新規のが出現したら、まず医原性損傷を疑う。

⚠️ 小児のにみる股関節緊急疾患:小児がTrendelenburg様のを呈したら、(発熱・急性発症で敗血症へ進行しうる最も緊急性の高い鑑別)、の阻血性壊死)、(思春期の肥満児に多い)を鑑別に上げる。単なる外転筋の一過性脱力と決めつけない。

⚠️ 進行性・両側性の疾患:小児期発症で登攀性起立()を伴う両側性のDuchenne型・Becker型を、成人発症で近位筋優位の筋力低下が進行する場合はを疑う。一過性の整形外科的原因として片付けない。

⚠️ はL4-S1由来のため、でもが弱りうる。片側性のとして説明できる範囲を超え、両側性の筋力低下・会陰部の・膀胱直腸障害を伴う場合は、として緊急対応する。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='single-leg stance'>片脚立位</span>で骨盤の傾きを確認"] --> B{"下がるのは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stance-phase side'>立脚側</span>か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='swing phase (gait cycle)'>遊脚</span>側か"}
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stance-phase side'>立脚側</span>が下降=正常"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Trendelenburg sign'>Trendelenburg徴候</span>陰性"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='swing phase (gait cycle)'>遊脚</span>側が下降"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Trendelenburg sign'>Trendelenburg徴候</span>陽性"]
    D --> E{"感覚障害を伴うか"}
    E -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurogenic'>神経原性</span>を優先<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superior gluteal nerve'>上殿神経</span>・L5神経根・神経叢)"]
    E -->|"なし"| G{"股関節の疼痛・変形・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surgical history'>手術歴</span>があるか"}
    G -->|"あり"| H["機械的要因を優先<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hip osteoarthritis'>変形性股関節症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='greater trochanter'>大転子</span>転位・術後)"]
    G -->|"なし"| I{"両側性・近位筋優位・進行性か"}
    I -->|"はい"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myogenic'>筋原性</span>を疑う"]
    I -->|"いいえ"| K["単独の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superior gluteal nerve'>上殿神経</span>麻痺を含め再評価"]

では(術後・注射後の急性発症か、か)、疼痛の有無と部位、外傷・、家族歴を確認する。診察はでの骨盤下降に加え、歩行観察でのの有無、股・疼痛誘発、腱反射、感覚と、筋力低下の分布(近位優位か特定神経に限局するか)を組み合わせて評価する。が疑われればと腰MRIへ、機械的要因が疑われれば股関節単純X線・の評価へ、が疑われれば血清CKとへ進める。

対応の考え方

対応の中心は、という所見そのものではなく原因への対応である。

  • :医原性の損傷は多くがするため保存的に経過を追うが、明らかなが疑われれば神経外科的評価を検討する。は原疾患の治療とリハビリテーションを組み合わせる。
  • :原疾患(等)そのものの治療・管理を優先し、や呼吸・心機能のを含めた管理につなげる。
  • 機械的や術後の転位など構造的要因を是正し、並行して外転筋の筋力強化訓練を行う。
  • 共通する代償指導:杖はが陽性の患側と反対側)に持たせる。が広がり患側外転筋への要求負荷が減るためで、杖を患側に持たせる指導誤りは臨床でしばしば見られるため明示して伝える。

まとめ

  • は、が骨盤を保持できず、側(反対側)の骨盤が下がる所見である。
  • 歩行中に反復するととなり、代償として体幹をへ傾けるを伴い、両側性ならになる。
  • 下肢を評価する、頭とは全く別の概念であり混同しない。
  • )、等)、機械的(転位、術後)に大別する。
  • 見逃してはいけないのは医原性損傷、小児の股関節緊急疾患()、進行性両側性の疾患、である。
  • 対応は所見そのものでなく原因治療が中心で、外転筋強化と、杖をに持たせる代償指導を組み合わせる。