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Disease Atlas · 運動器 · 外傷

大腿骨頸部・転子部骨折

Hip fracture (femoral neck and intertrochanteric fracture)

別名
大腿骨近位部骨折
臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMedical Rehabilitation
トピック
外傷学 23:大腿骨頸部・転子部骨折の分類・治療・合併症外傷学 24:関節包内大腿骨頸部骨折の診断・治療・予後リハビリテーション 06:整形外科疾患・外傷のリハビリテーション:変形性関節症・多発外傷・人工股関節
鑑別疾患
非定型大腿骨骨折
合併症
大腿骨頭壊死せん妄偽関節
関連疾患
褥瘡
治療薬
エノキサパリンリバロキサバンアレンドロネートゾレドロン酸デノスマブ
症状
倦怠感Trendelenburg徴候
スコア
Garden分類FIMFAC
元疾患
封入体筋炎
原因となる疾患
原発性副甲状腺機能亢進症骨粗鬆症疲労骨折慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)

🧠 全体像:は、内()か外(・)かで治療の考え方が二分される。頸部骨折はへの血流(の)が絶たれやすく、・偽関節が主な問題になる一方、は血流は保たれるが、や(固定具が骨から逸脱する現象)など骨折のが問題になる。高齢者のとしての側面が大きく、骨折そのものの手術と、入院当日〜翌日の・術翌日からの離床・多職種でのせん妄・、による多職種管理、骨粗鬆症のを一体で行うことが現代の標準治療である。

病態

解剖と血流

の主血流はからのがに沿って上行し供給する。この血流経路が内を走ることが、頸部骨折とで予後が大きく異なる理由になる。

  • (骨頭下〜転子間線までの内):転位によりが損なわれ、の危険が高まる。内はが乏しくに触れているため性が乏しく、偽関節も生じやすい。
  • (〜間の外):血流は豊富に保たれ骨癒合は得やすいが、・短縮・のが問題になる。
  • (より遠位):屈曲・内転方向への強い筋牽引と高い曲げ応力がかかり、整復困難・・固定破綻のリスクが高い。

💡 「頸部骨折=血流の病気、=力学の病気」と対比させて覚えると、(骨頭温存のか人工関節か/固定かか)の理由づけが一貫して理解できる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hip fracture'>近位大腿骨骨折</span>"] --> B["頸部骨折<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='articular capsule'>関節包</span>内)"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trochanteric (region)'>転子部</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subtrochanteric fracture'>転子下骨折</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='articular capsule'>関節包</span>外)"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medial circumflex femoral artery'>内側大腿回旋動脈</span>の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinacular vessels'>網状血管</span>が障害されやすい"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avascular necrosis, AVN'>骨頭壊死</span>・偽関節が主な問題"]
    C --> F["血流は豊富に保たれる"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='varus deformity'>内反変形</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cut-out'>カットアウト</span>・<br>整復困難が主な問題"]

分類

骨折型 部位 血流・癒合 主な問題
内(骨頭下〜転子間線) 血流障害を受けやすく性に乏しい 、偽関節
外(〜間) 血流豊富 、短縮、
より遠位 高い曲げ応力・強い筋牽引 整復困難、、固定破綻

Garden分類(頸部骨折)

型 定義 臨床上の大別
I ・ 非転位
II ・転位なし 非転位
III ・(骨片間接触あり) 転位
IV 完全転位(骨片間接触なし) 転位

⚠️ のI・IIを非転位、III・IVを転位として大別する運用は臨床的に有用だが、それだけで固定失敗リスクを言い切れない。、(の垂直度)、、骨質、整復の質も併せて評価する必要がある。

臨床像

  • 高齢者:骨粗鬆症を背景に、立位からので発生することが最も多い。の代表であり、骨粗鬆症の評価・治療と表裏一体で扱う。
  • 若年者:・高所などのが多く、同側・膝・など合併損傷の検索が必要。
  • 症状は股関節痛・で、ではの短縮・位が典型的。
  • ⭐ やでは変形を欠き、歩行可能なまま受診することがある。臨床的疑いが残る限り「骨折なし」と判断しない。

診断

  • 画像:+を基本とする。
  • X線陰性でも臨床的疑いが強い場合はを第一選択とし、24時間以内にが利用できない、または禁忌があればを考慮する。
  • では同側・膝・の損傷を系統的に検索する。
  • 高齢者では骨折の診断と並行して、、受傷前、生活場所、抗凝固薬内服、の有無など手術適応・術式選択に必要な情報を評価する。

治療

全体方針

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hip fracture'>近位大腿骨骨折</span>の診断"] --> B["頸部骨折:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='articular capsule'>関節包</span>内"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trochanteric (region)'>転子部</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subtrochanteric fracture'>転子下骨折</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='articular capsule'>関節包</span>外"]
    B --> D["非転位・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaction (impacted fracture)'>嵌入</span><br>(Garden I・II)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal fixation'>内固定</span>を中心に個別化"]
    B --> F["転位あり<br>(Garden III・IV)"]
    F --> G["若年・骨頭温存の利益が大きい"]
    G --> H["緊急整復+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal fixation'>内固定</span>"]
    F --> I["高齢・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='revision surgery'>再手術</span>リスクが高い"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemiarthroplasty'>人工骨頭置換術</span><br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='total hip arthroplasty'>人工股関節全置換術</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='total hip arthroplasty'>THA</span>)"]
    C --> K["安定型の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intertrochanteric fracture'>転子部骨折</span>"]
    K --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sliding hip screw'>スライディングヒップスクリュー</span><br>など<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extramedullary'>髄外</span>固定"]
    C --> M["不安定型(逆斜・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subtrochanteric'>転子下</span>進展・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membranous wall'>外側壁</span>破綻)"]
    M --> N["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intramedullary nail'>髄内釘</span>"]

手術のタイミング

⭐ AAOS(米国骨関節外科学会)の高齢者ガイドライン(2021年)は、入院から24〜48時間以内の手術がより良好な転帰と関連しうるとする1。英国の推奨はこれを時間ではなく暦日で表現しており、「入院当日、または入院の翌日に手術を行う」である2。

⚠️ の推奨を「受診から36時間以内」と書かない。 CG124の推奨本文に「36 hours」という語は現れない2。36時間は英国の診療で別に用いられている運用指標であって、の推奨ではない。

💡 AAOSの推奨はエビデンスの質がLow、推奨の強さはModerate(EtD枠組みで格上げ)であり、根拠は8件の観察研究である(至適時間枠は研究間で24時間〜4日とばらつき、多数が24〜48時間を支持した)1。どちらの指針でも、な問題(貧血、抗凝固、、電解質異常、コントロール不良の糖尿病・心不全、な不整脈・、急性胸部感染、慢性胸部疾患の増悪)のために手術を遅らせないことが眼目であって2、単純な時間閾値の遵守を目的化するものではない。

大腿骨頸部骨折の術式選択

状況 治療原則
若年者の頸部骨折(転位の有無を問わず骨頭温存を優先) 緊急に解剖学的整復を得て、スクリューまたはで
高齢者・(Garden I・II) が基本。後方傾斜、骨質、認知・移動機能、リスクにより人工関節も個別に検討
高齢者・(Garden III・IV) (または)を基本とする
受傷前に屋外(杖1本以内)、手術に耐えられ、2年を超える自立が見込まれる高齢者 よりを検討(機能面の利益がある一方、・リスクは増える)

💡 「高齢者の転位頸部骨折=65歳以上なら人工関節」という年齢だけのは不正確。AAOSもも年齢そのものではなく、受傷前の・・・予想される余命で人工関節の種類(かか)を選ぶことを推奨している。人工関節では、手術直後からのを目標にステムを基本とする。

転子部・転子下骨折の術式選択

  • 安定型の:などの固定、またはのいずれも許容される。
  • 不安定型(逆、破綻、進展を伴うもの):を用いる。
  • :を基本とし、・屈曲・変形を十分に整復する。

⚠️ 「不安定型なら、安定型なら」という理解は概略として有用だが、AAOSは安定型についてはとのどちらでもよいとしており、が常に優れているわけではない。の向きとの状態を踏まえて選ぶ。

周術期管理とVTE予防

  • ので鎮痛、栄養、せん妄予防、予防、排尿・便通管理を行う。⭐ せん妄は高齢者の周術期で特に頻度が高い合併症であり、予防的な多職種介入(付け、、感覚障害の補正、の見直しなど)が重視される。
  • ()予防は強く推奨される。(など)やDOAC(など)による薬物的予防を基本とし、抗凝固薬の禁忌がある場合はなどの機械的予防を組み合わせる。
  • 術翌日から評価と離床を開始し、毎日継続する。

二次骨折予防(骨粗鬆症治療)

⭐ は骨粗鬆症によるの代表であり、の枠組みで、骨密度評価・評価と並行して骨粗鬆症治療を開始する。

リハビリテーション:人工股関節置換術との違い

  • ・荷重訓練・という基本原則は、な()との術後リハビリテーションで共通する。
  • 💡 はのため(指導下での術前運動療法)を行う時間があるが、は緊急手術を要することが多く、術前にそのがないことが実務上の大きな違いになる。

合併症

全身合併症 局所合併症
、肺炎、尿路感染、、せん妄、、死亡 頸部骨折:・偽関節・固定破綻。:・・短縮。人工関節:・感染・周囲骨折

⭐ 後1年死亡率は2割を超える。 2013〜2017年に36か国で発表された36研究(計229,851例)を集めた系統的レビューでは、1年死亡率の単純平均が22.0%(SD 7.2%、中央値22.8%)で、範囲は2.4〜34.8%と地域差が大きい(欧州23.3%・アジア17.9%・米国21%・豪州24.9%)。同レビューは、従来引用されてきた「1か月10%・1年30%」という値はレジストリ整備が進んだ現在の実態より高く、22%前後がより妥当だとしている3。

⚠️ この22.0%は「各研究の1年死亡率を等しい重みで平均した値」であって、症例数で重み付けしたのプール推定値ではない。 原著自身が「コホート数が大きく異なるのに死亡率へ等しい重みを与えたこと」を限界として挙げている。60歳超のみを組み入れた21研究に限ると21.8%、1万例超の7研究に限ると20.7%で、いずれも同程度だった3。

個々の予後は年齢・・・・手術までの遅延・術後合併症で大きく変わる。とによる多職種管理は、この中で可逆的なリスクを減らすための介入である。

まとめ

  • 内(頸部)か外(・)かで、血流障害(・偽関節)と(・)のどちらが主問題かが変わる。
  • は頸部骨折の転位度を表すが、後方傾斜・骨質・整復の質も併せて評価する。
  • AAOSは入院から24〜48時間以内(エビデンスの質Low・推奨の強さModerate)1、は「入院当日または翌日」の手術を推奨するが2、な内科的問題の安定化を不要に遅らせないことが前提。
  • 高齢者の転位頸部骨折は(受傷前機能が高ければ、そうでなければ)、安定型はか、不安定型・はを基本とする。
  • 予防、せん妄予防を含む多職種、術翌日からの離床、そしてとしての骨粗鬆症治療(・)によるが、手術そのものと同じ比重で治療の一部をなす。

出典

  1. 1.Management of Hip Fractures in Older Adults Evidence-Based Clinical Practice Guideline(American Academy of Orthopaedic Surgeons・2021)PDF全文(2021年12月3日 AAOS理事会採択)を取得して確認した。SURGICAL TIMING の推奨文が逐語で「Hip fracture surgery within 24-48 hours of admission may be associated with better outcomes.」であり、Quality of Evidence は Low、Strength of Recommendation は Moderate(Upgraded)であること。Rationale が「The studies varied on the optimal time frame from admission to surgery (24 hours to 4 days); however, the majority favored surgery within 24-48 hours.」と述べ、根拠が8件の low strength 研究の観察データであること。転位頸部骨折については「In patients with unstable (displaced) femoral neck fractures, arthroplasty is recommended over fixation.」(High / Strong)と「In properly selected patients with unstable (displaced) femoral neck fractures, there may be a functional benefit to total hip arthroplasty over hemi arthroplasty at the risk of increasing complications.」(High / Moderate, Downgraded)が別々の推奨であること。VTE予防が「Venous thromboembolism (VTE) prophylaxis should be used in hip fracture patients.」(Moderate / Strong, Upgraded)であること閲覧 2026-09-14
  2. 2.Hip fracture: management(National Institute for Health and Care Excellence・2023)推奨全文(Reference number CG124、Published 22 June 2011、Last updated 06 January 2023)を取得して確認した。手術時期の推奨 1.2.1 が逐語で「Perform surgery on the day of, or the day after, admission.」であり、⚠️ この指針の推奨本文に「36 hours」という語は0件であること(36時間はNHFDのベストプラクティス関連指標で用いられる運用目標で、CG124の推奨文ではない)。1.2.2 が手術を遅らせてはならない是正可能な併存病態として貧血・抗凝固・循環血液量減少・電解質異常・コントロール不良の糖尿病・コントロール不良の心不全・是正可能な心不整脈または虚血・急性胸部感染・慢性胸部疾患の増悪の9項目を挙げること。1.1.1 が「Offer MRI if hip fracture is suspected despite negative X-rays … If MRI is not available within 24 hours or is contraindicated, consider CT.」であること。1.6.1 が「Operate on people with the aim to allow them to fully weight bear (without restriction) in the immediate postoperative period.」、1.6.2 が転位関節包内骨折へ人工関節置換(THAまたは人工骨頭置換)を offer、1.6.3(2023年)がTHAを consider する条件として「杖1本以内で屋外を独歩できた」「THAを不適切にする病態・併存疾患がない」「2年を超えてADLを自立して行えると見込まれる」の3条件を挙げることを確認した閲覧 2026-09-14
  3. 3.Changing trends in the mortality rate at 1-year post hip fracture - a systematic review(World Journal of Orthopedics・2019)PMC6428998 で全文を取得して確認した。2013〜2017年に発表された36か国・36研究・計229,851例を集めた系統的レビューで、股関節骨折後1年死亡率の記述が逐語で「The mean overall 1-year mortality rate was 22.0% (SD 7.2%, median 22.8%) with a range from 2.4%-34.8%.」であること。地域別は欧州23.3%(22研究)・アジア17.9%(10研究)・米国21%・豪州24.9%・南米26.8%(2研究のみ)。⚠️ これは各研究の1年死亡率を等しい重みで平均した値であって、症例数で重み付けしたメタ解析のプール推定値ではない——原著自身が限界として「Another limitation is equal weighting to mortality rates despite wide variation in cohort numbers.」と明記している。60歳超のみを組み入れた21研究に限ると21.8%(SD 7.6%、中央値23.6%)、1万例超の7研究に限ると20.7%(SD 2.4%、中央値20.5%)。従来の値については「The previously quoted mortality rates of 10% at 1-mo and 30% at 1-year may be outdated.」と述べている閲覧 2026-09-14