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Disease Atlas · 運動器 · 外傷

半月板損傷

Meniscal tear

別名
半月板断裂半月板裂傷
臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 30:膝関節軟骨・半月板損傷と関節鏡の原則解剖学 6.3:下肢:膝と膝窩
鑑別疾患
偽痛風内側側副靱帯損傷膝関節の自然発症骨壊死離断性骨軟骨炎
合併症
変形性関節症
症状
関節痛腫脹圧痛
元疾患
前十字靱帯損傷

🧠 全体像:は一つの病名だが、中身は正反対の2つである。若年者がひねって切るでは「治せるは縫って残す」ことが目標になり、中高年に誘因なく生じるではがに優らないため「まず運動療法」が第一選択になる。この分岐を決めるのは年齢と外傷歴であり、でが写ったかどうかではない。もう一つの幹は血行——外周の red-red 帯は縫合が治り、内縁の white-white 帯は縫っても治らないという解剖が、そのまま術式選択の理由になる。

解剖が治癒能力を決める

はの C 字(内側)・O 字に近い環(外側)で、・衝撃吸収・関節安定化・潤滑・を担う。はとに強く固定されて動きにくく、は可動性が高い。動けない側のほうが逃げられず切れるため、のが多い。

血行は外周からしか入らない。

帯 位置 血行 治癒
red-red 帯 外周(側) 良好 縫合で治癒が期待できる
red-white 帯 中間 限定的 型・年齢・合併損傷で判断
white-white 帯 内縁(側) 乏しい 自然治癒も縫合治癒も乏しい

💡 「切れた場所が外周か内縁か」で術式が決まる。 縫合は血流に運ばれる細胞と栄養があって初めて成立するので、white-white 帯のを縫っても治らない。逆に、red-red 帯のを安易に切除すると、治せたはずの組織を捨てることになる。

外傷性断裂と変性断裂は別の病気として扱う

定義 十分な外傷により急性に症状が生じた1 明らかな急性外傷の既往なく35歳を超える患者に生じる病変2
典型像 でのひねり・切り返し。競技中が多い ・しゃがみ込みなど。誘因を思い出せない
形態 、、、 が典型。緩徐に進行する
合併 ・ の変化を伴うことが多い
治療の軸 温存(縫合)を第一選択1 運動療法・が第一選択2

⚠️ この2つを混ぜるとが逆になる。 「でがある」だけを根拠にへ進むと、の患者に効果の乏しい手術を行うことになる。年齢とを先に確定させる。

臨床像

  • の圧痛、関節痛、引っ掛かり感、しゃがみ込み・回旋動作での疼痛。
  • 腫脹は遅発性で、翌日以降に目立つことが多い。⭐ 受傷後数時間以内にするは、むしろ・・を示唆する(を参照)。
  • は、などの転位した片が顆間に嵌頓し、膝が伸びきらなくなった状態を指す。真のは伸展制限としてに確認でき、転位を示唆する所見として扱う。

徒手検査

圧痛、(屈曲位から内を加えつつ伸展し、と疼痛を誘発する)、(片脚荷重で膝を軽度屈曲し体幹を回旋させる)を組み合わせる。単一の検査で確定しない——、遅発性腫脹、可動域制限を合わせて評価する。

画像

  • 単純X線は骨折・・の評価に用いる。変性病変では、の診断を支持し、腫瘍・骨折といったまれな病態を除外する目的で撮る2。
  • は一律の第一選択ではない。 では、治療を検討して合併病変を同定する場合に推奨され、その適応判断は運動器の専門医が行う1。変性病変では通常、初期の精査に適応とならない2。

⚠️ 無症候の変性・は中高年に高頻度で見つかる。 画像所見と症状が対応しているかを、圧痛部位・機械的症状の有無で必ず突き合わせる。

flowchart TD
    A["膝の疼痛・引っ掛かり・遅発性腫脹"] --> B{"急性の十分な外傷があるか"}
    B -->|"あり(若年・ひねり)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic tear'>外傷性断裂</span>として扱う"]
    B -->|"なし(35歳超・誘因不明)"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='degenerative tear'>変性断裂</span>として扱う"]
    C --> E{"転位<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rupture (tear)'>断裂</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='locking'>ロッキング</span>があるか"}
    E -->|"あり"| F["早期の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arthroscopy'>関節鏡</span>:可能な限り縫合"]
    E -->|"なし"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rupture (tear)'>断裂</span>形態と合併損傷を評価<br>縫合可能なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='early surgery'>早期手術</span>"]
    D --> H["単純X線で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='osteoarthritis, OA'>変形性関節症</span>・骨折・腫瘍を評価"]
    H --> I["運動療法・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='activity modification'>活動調整</span>・鎮痛を先に行う"]
    I --> J{"標準的な保存治療に反応したか"}
    J -->|"した"| K["継続"]
    J -->|"しない"| L["改めて<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arthroscopic partial meniscectomy'>関節鏡下部分切除</span>を検討"]

治療

外傷性断裂——温存が第一選択

部分切除は縫合に比べて臨床的・画像的な長期成績が劣るため、の温存を第一選択とする。従来は修復不能と考えられてきた(、肥満患者の、長いなど)も縫合すべきであり、縫合を行うと決めたらできるだけ早期に手術する。needling やといった生物学的増強が治癒を改善するという証拠は見いだされていない1。

⭐ 安定したは、整復せずその場に残した場合の予後が内側より良いと考えられている1。すべてのを触らなければならないわけではない。

変性断裂——手術は第一選択ではない

変性膝疾患(・変性、またはその両方)を対象とした16件2,105例のCochraneレビューでは、と比較した4件380例の解析で、術後3か月の疼痛は40.1点に対し35.5点(0〜100で低いほど良い。差4.6点、95%CI 0.02〜9、高い確実性)、機能は75.9点に対し76.0点(差0.1点、95%CI −3.2〜3.4、高い確実性)で、疼痛・機能にほとんどまたはまったく差が無かった3。

⚠️ 「効かないのに無害」でもない。 同レビューで重篤な有害事象は対照1006人に対し1008人(1.35、95%CI 0.64〜2.83)で、内容は死亡・肺塞栓症・・・であった(確実性は低い)3。効果がと変わらない手術に、この種の合併症を負わせる理由は乏しい。

したがって、は標準化された臨床的・画像的評価を行い、保存的治療への反応が不十分であった場合にのみ検討する2。

半月板同種移植

若年で活動性が高く、広範な切除の後に症候性のを残した例で検討する。・・進行したがあれば適応を慎重に判断する。

鑑別

鑑別 手がかり
変形性症 としばしば併存する。X線の・骨棘。「があるから症状の原因も」とは言えない
中高年の急性の腫脹・熱感・。X線での。の結晶同定で確定する
・関節内 を起こす別の原因。X線・でを確認する
膝蓋大腿部の疼痛 昇降・長時間で悪化。ではなく周囲の圧痛
と受傷後数時間以内の。

合併症

  • 切除後の:は荷重を接触面積の拡大によって分散しており、切除するとその面積が減って軟骨への応力が上がる。実際、部分切除は縫合に比べて臨床的・画像的な長期成績が劣る1。この機序が「切らずに縫う」戦略の根拠になる。
  • 縫合後の・治癒不全、、感染、医原性の軟骨・。

まとめ

  • はとに分けて考える。は「十分な外傷による急性発症」、変性は「明らかな急性外傷なく35歳超で生じる病変」と定義される。
  • 血行は外周からのみ入り、red-red 帯は縫合で治癒しうるが white-white 帯は治りにくい。この解剖が術式選択の根拠になる。
  • 診察は圧痛・・を組み合わせ、単一検査で確定しない。腫脹は遅発性で、数時間以内のはむしろ・骨折を示唆する。
  • は一律の第一選択ではない。ではを検討する段階で、変性では初期精査には用いない。
  • では温存が第一選択で、修復不能とされてきたも縫合の対象となり、縫合するなら早期に行う。
  • 変性膝疾患(・変性)を対象としたCochraneレビューでは、手術はに対して疼痛・機能の差がほとんど無い(高い確実性)。に対する部分切除は第一選択にならず、運動療法・を先に行う。
  • 部分切除は縫合に比べて臨床的・画像的な長期成績が劣る。「切らずに残す」ことが最大の目標である。

出典

  1. 1.Management of traumatic meniscus tears: the 2019 ESSKA meniscus consensus(Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy・2020)外傷性半月板断裂を「十分な外傷により急性に症状が生じた断裂」と定義し、欧州の専門家による正式合意手続き(運営群8名・評価群19名・査読群)で27の問答を作成したこと。文献の質は低く、A評価(高い科学的裏づけ)は27問中1問、B評価も1問にとどまり、残りはC・D評価であったこと。MRIを一律に行うことについては合意に至らず、関節鏡治療を検討して合併病変を同定する場合にMRIを推奨し、その適応判断は運動器の専門医が行うとしたこと。安定した外側半月板断裂を整復せずその場に残した場合の予後は内側断裂より良いと考えられること。縫合が必要な場合はできるだけ早期に手術すること。needlingや多血小板血漿などの生物学的増強が治癒を改善する証拠は見いだされなかったこと。部分切除は縫合に比べ臨床的・画像的な長期成績が劣るため、半月板の温存を第一選択と考えるべきであり、従来は修復不能とされてきた多くの断裂(陳旧例・肥満患者の断裂・長い断裂など)は縫合すべきであるとしたこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  2. 2.Surgical management of degenerative meniscus lesions: the 2016 ESSKA meniscus consensus(Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy・2017)変性半月板病変を「明らかな急性外傷の既往なく35歳を超える患者に生じる病変」と定義し、典型的には中高年に緩徐に進行する水平裂であるとしたこと。先天性病変・外傷性断裂・若年者(とくに競技者)の変性病変は除外されていること。欧州22か国84名の外科医・研究者が参加した正式合意手続きにより20の問答とアルゴリズムを作成したこと。主要な結論は、関節鏡下部分切除を変性半月板病変の第一選択治療として提示すべきではなく、標準化された臨床的・画像的評価を行ったうえで保存的治療への反応が不十分であった場合にのみ検討すべきであること。MRIは通常初期の精査には適応とならず、単純X線を変形性関節症の診断の支持や腫瘍・骨折といったまれな病態の検出に用いること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  3. 3.Arthroscopic surgery for degenerative knee disease (osteoarthritis including degenerative meniscal tears)(Cochrane Database of Systematic Reviews・2022)変性膝疾患(変形性関節症・変性半月板断裂)に対する関節鏡手術を偽手術または非手術治療と比較した無作為化比較試験16件2,105例のレビューで、偽手術との比較は4件380例であったこと。偽手術群と比べ、術後3か月の疼痛(0〜100で低いほど良い)は偽手術40.1点に対し関節鏡35.5点で差は4.6点(95%CI 0.02〜9、4試験309例、高い確実性)、機能(0〜100で高いほど良い)は75.9点に対し76.0点で差は0.1点(95%CI −3.2〜3.4、3試験302例、高い確実性)であり、疼痛・機能にほとんどまたはまったく差が無いこと。膝特異的QOLは69.7点に対し75.3点で差は5.6点(95%CI 0.36〜10.68、2試験188例、中等度の確実性)、5年までの患者報告による治療成功は偽手術100人中74人・関節鏡100人中82人(リスク比1.11、95%CI 0.66〜1.86、3試験189例、低い確実性)であったこと。重篤な有害事象は対照100人中6人・関節鏡100人中8人(リスク比1.35、95%CI 0.64〜2.83、8試験1,206例)で確実性は低く、内容は死亡・肺塞栓症・急性心筋梗塞・深部静脈血栓症・深部感染であったこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02