婦人科学

婦人科学 · 12

閉経

Menopause

前提:病態
エストロゲンおよび抗エストロゲン薬
前提:正常
女性性内分泌学カルシウム代謝・骨と成長の生理学
薬剤
フェゾリネタント
疾患
更年期症状骨粗鬆症
症状
顔面紅潮寝汗性交痛発汗卵巣機能不全

🧠 全体像:閉経は卵巣機能の生理的低下に伴うで、自然閉経は12か月の無月経後にに確定する。治療は症状と骨・心血管リスクを個別化し、子宮がある全身性者には子宮内膜保護のが必要である。

用語とSTRAW段階

段階 STRAW+10 月経の変化 主な特徴
生殖後期 −3(−3b〜−3a) 周期はおおむね規則的 が低下し始める
−2 連続周期の長さが7日以上変動 が増え、症状が始まりうる
−1 60日以上の無月経間隔 が増える
(FMP) 0 最後の月経 その時点では確定できない
+1a〜+1c FMP後 FMPから12か月で自然閉経を確定
+2 持続的無月経 加齢とエストロゲン低下の長期影響

はからFMP後12か月(Stage +1a の終わり)までを含む1。

⚠️ この表の「早期/後期」は、後述の「」「」とは別の枠組みの語である。 表の段階名はSTRAW+10の病期名(=early menopausal transition/=early postmenopause)で、「早期」が掛かっているのは移行期・閉経後という期間のほうであり、閉経が早いという意味ではない1。⭐ 年齢で閉経を早いと呼ぶときの語は下の「診断」の節に出てくるもので、この表とはに読む。 なお同じ段階を、病態生理のと閉経では「・早期」「閉経後・早期」と書いている——同じSTRAW+10の病期を指す別の訳し方である。

内分泌変化

flowchart TD
    A["卵胞数の減少"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibin B'>インヒビンB</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-Müllerian hormone'>AMH</span>低下"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>上昇・周期変動"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anovulatory cycle'>無排卵周期</span>増加"]
    D --> E["エストラジオールが大きく変動後に低下"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasomotor symptoms'>血管運動症状</span>・泌尿生殖器症候群・骨量低下"]

のエストラジオールは一方向に低下するとは限らず大きく変動する。閉経後は卵巣エストロゲン産生が低下し、負のフィードバック低下で・が上昇する。

臨床症状

領域 症状・病態
、発汗、、、後続する悪寒
睡眠・心理 不眠、疲労、気分・集中力変化。うつ・不安は別途評価
、灼熱感、、、。は通常5を超える方向へ上昇
性機能 、疼痛、興奮・潤滑低下
骨 増加、骨量低下、

骨密度

Tスコア 判定
−1.0以上 正常
−1.0未満〜−2.5超
−2.5以下 骨粗鬆症

65歳以上の女性、および65歳未満でも骨折リスクが高い閉経後女性では骨密度スクリーニングを行う。

診断

  • 45歳以上で典型的な周期変化・症状があれば通常は臨床診断で、の測定は不要である。
  • 妊娠可能性、、、を状況に応じて除外する。
  • 年齢で区切る呼び名は2段ある。 40歳未満での卵巣機能低下は(POI)、40歳以上45歳未満(40〜44歳)の卵巣機能停止はESHREの用語で「」と呼び、POIの定義の外に置かれる——ただしガイドラインは「エビデンスと推奨はの女性にも関連しうる」と添えており、だと言っているのではない2。いずれも原因検索と長期リスク評価の対象になる。
  • 超音波で「卵胞がない」ことは閉経診断の必要条件ではない。

治療

生活・非ホルモン治療

  • 室温調整、重ね着、誘因の、運動などは日常生活の工夫として広く助言されるが、の治療としては推奨されていない。

⚠️ 「生活の工夫」を有効な治療として提示しない。 2023年の北米閉経学会ポジションステートメントは、冷却手技・誘因の回避・運動・ヨガ・・リラクセーションを「推奨しない」に分類している(調節呼吸、・、大豆、、鍼、、、食事変更も同様)。エビデンスのある非ホルモン選択肢は・臨床・/・・(いずれもレベルI)、、減量である。3

  • には/、、、などを個別に選択する。非ホルモン薬によるの減少は約40〜65%で、(約75%)には及ばない。4
  • GSMには腟とを用い、不十分なら低用量(症状重症度を約60〜80%改善)、腟(、40〜80%)、経口(30〜50%)などを検討する。4

閉経期ホルモン療法

  • 中等度〜重度のに最も有効で(頻度を約75%減少)、GSMと骨量低下にも効果がある。経口と経皮でへの有効性は同程度である。4 GSMが症状の中心なら、ではなく低用量などの局所治療が主要な選択肢になる。
  • 一般に60歳未満または閉経後10年以内で禁忌がなければ、利益・は良好である。
  • 子宮あり:全身性エストロゲンに適切なを併用する。
  • 子宮摘出後:通常はエストロゲン単独を用いる。
  • 用量・経路・期間は症状、年齢、血栓・乳癌・骨リスクと本人の希望で個別化し、少なくとも年1回再評価する。

⚠️ MHTは冠動脈疾患や認知症のだけを目的に開始しない。心血管疾患の予防は適応ではない。4 乳癌・、脳卒中、心筋梗塞、血栓塞栓症、などではを通常避ける。ただしこれらは一律のとが混在しており、症例ごとに検討されるものも含まれる。

💡 乳癌リスクは製剤と期間で変わる。 108,647人の乳癌症例を含む個別患者データでは、を除くすべての製剤で乳癌リスクが上昇し、使用期間とともに増加した。使用1〜4年でエストロゲン+の相対危険1.60・エストロゲン単独1.17、5〜14年ではそれぞれ2.08・1.33。の連日投与はより高リスクだった。絶対値では、50歳から5年使用した場合の50〜69歳の乳癌増加は、エストロゲン+連日で約50人に1人、で約70人に1人、エストロゲン単独で約200人に1人に相当する。5

⭐ POI()のホルモン補充は、上の閉経後MHTとは別の枠にある。 2024年のPOI診療ガイドラインは、症状の有無にかかわらず、通常の閉経年齢まで、罹病と死亡のリスクを下げるとしてを推奨する(強い推奨、エビデンスの確実性⊕◯◯◯=非常に低い)。非使用が心血管イベントと死亡の増加に関連すること、骨密度を保ち骨粗鬆症を防ぐことも、それぞれ強い推奨として並べられている(いずれも確実性⊕⊕◯◯=低い)2。

⚠️ 推奨の強さとエビデンスの確実性は別の軸である。 同ガイドラインはGRADEで確実性を別建てに表示しており(High ⊕⊕⊕⊕/Moderate ⊕⊕⊕◯/Low ⊕⊕◯◯/Very low ⊕◯◯◯)、要約論文自身が「エビデンスに基づく推奨のおよそ76%は、エビデンスの基盤が観察データ(確実性 very low または low)に限られていても強い推奨として書かれた」と述べている2。「強い推奨」を「確立したエビデンスがある」と読み替えない。

💡 「症状が無いから要らない」は成り立たない——閉経後女性のMHTが「症状があるなら必要な期間だけ」という枠で語られるのとは前提が違う。日本内分泌学会も「一般の閉経年齢(50歳頃)まで定期的かつ継続的なが必要になります」と明示している6。

⚠️ 「」は、上の「」と同じ語ではない。 日本内分泌学会はの一亜型——卵胞が枯渇して永久に月経が停止するタイプ——を「」と呼び、卵胞が少数残って低頻度ながら排卵が起こるタイプと対にしている(両者の鑑別は困難とも書いている)6。一方「」は40〜44歳、すなわちPOIの外側の年齢帯である。似たがPOIの内側と外側を指し分けているので、語の形で判断しない(卵巣機能不全に整理がある)。

SERMの整理

まとめ

  • 自然閉経はFMP後12か月の無月経でに確定し、45歳以上の典型例では通常測定を要しない。
  • MHTはに最も有効(頻度を約75%減少、非ホルモン薬は40〜65%)で、子宮があれば内膜保護のを併用する。ただしの併用は乳癌リスクをエストロゲン単独より高める。
  • ⚠️ 似たが3つの別々の枠組みに属している。 STRAW+10の病期名(・)は期間の前半・後半を指す語、ESHREの「」は40〜44歳でPOIの外側、日本内分泌学会の「」はの一亜型である。語の形で同一視しない。
  • POI()のホルモン補充は閉経後MHTと別の枠にあり、症状の有無によらず通常の閉経年齢までとして続ける(強い推奨。⚠️ ただしエビデンスの確実性は⊕◯◯◯=非常に低く、推奨の強さと確実性は別の軸である)。
  • MHTは年齢、閉経からの期間、禁忌、本人の希望を踏まえて個別化し、心血管疾患予防を目的に開始しない。冷却手技・誘因回避・運動・ヨガなどは生活の工夫ではあるが、の治療としては推奨されていない。

出典

  1. 1.Executive summary of the Stages of Reproductive Aging Workshop + 10: addressing the unfinished agenda of staging reproductive aging(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism / STRAW+10 Collaborative Group・2012)PMC3319184のHTML全文で病期名と番号を逐語で確認した。Early menopausal transition (Stage -2)、Late menopausal transition (Stage -1)、Early postmenopause (Stage +1a, +1b, +1c)、Late postmenopause (Stage +2)、late reproductive stage (Stage -3) という対応であること。Stage +1a について「Stage +1a marks the end of the 12-month period of amenorrhea required to define that the FMP has occurred. It corresponds to the end of "perimenopause", a term still in common usage that means the time around menopause and begins at Stage -2 and ends 12 months after the FMP」と述べ、周閉経期がStage -2に始まりFMP後12か月で終わるとしていること。⚠️ これらの病期名の early/late は移行期・閉経後という期間の前半・後半を指すもので、閉経が暦年齢として早いことを指す語ではない閲覧 2026-09-13
  2. 2.Evidence-based guideline: premature ovarian insufficiency(ESHRE, ASRM, CREWHIRL, and IMS Guideline Group on POI・2024)PMC11631070(Human Reproduction Open掲載のガイドライン要約論文。145の推奨を本文に再掲している)の全文をEurope PMCから取得して次を確認した。①POIの定義と早期閉経の線引きが逐語で「Premature ovarian insufficiency (POI) is a condition defined by loss of ovarian activity before the age of 40 years. … In this guideline, cessation of ovarian function in women aged from 40 and <45 (age 40–44 years) will be termed early menopause. Early menopause is outside the scope of the current guideline, but the evidence and recommendations may be relevant to women with early menopause.」であり、対象外としつつも「エビデンスと推奨は関連しうる」という但し書きが同じ文に付いていること。②ホルモン療法について「HT is recommended for women with POI until the usual age of menopause for primary prevention to reduce the risk of morbidity and mortality, whether there are estrogen deficiency symptoms or not.」(STRONG、エビデンスの確実性⊕◯◯◯)。③「Non-use of HT is associated with an increased risk of cardiovascular events and mortality, and HT is therefore recommended until the usual age of menopause.」(STRONG ⊕⊕◯◯)。④「HT is recommended to maintain bone density and prevent osteoporosis.」(STRONG ⊕⊕◯◯)。⚠️ 推奨文は "until the usual age of menopause" と書くだけで、暦年齢の数値は示していない閲覧 2026-09-13
  3. 3.The 2023 nonhormone therapy position statement of The North American Menopause Society(Menopause(The North American Menopause Society)・2023)血管運動症状に対する非ホルモン治療として**推奨されるのは認知行動療法・臨床催眠・SSRI/SNRI・ガバペンチン・フェゾリネタント(レベルI)、オキシブチニン(レベルI〜II)、減量・星状神経節ブロック(レベルII〜III)**であること。**推奨されないのは、冷却手技・誘因の回避・運動・ヨガ・マインドフルネス・リラクセーション(レベルII)**、調節呼吸(レベルI)、サプリメント・生薬、大豆・大豆抽出物、カンナビノイド、鍼、クロニジン、プレガバリン、食事変更であること。ホルモン療法が血管運動症状に対して依然として最も有効であること閲覧 2026-08-21
  4. 4.Management of Menopausal Symptoms: A Review(JAMA・2023)閉経移行期に血管運動症状をもつ女性が50〜75%、閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)をもつ女性が50%超であること。血管運動症状は通常**7年以上**続き、GSMはしばしば慢性であること。**全身エストロゲン(±プロゲストーゲン)は血管運動症状の頻度を約75%減らし**、経口と経皮で有効性は同程度であること。非ホルモン薬(シタロプラム、デスベンラファキシン、エスシタロプラム、ガバペンチン、パロキセチン、ベンラファキシン)は約**40〜65%**の減少であること。低用量腟エストロゲンはGSM症状の重症度を約60〜80%、腟プラステロンは40〜80%、経口オスペミフェンは30〜50%改善すること。**ホルモン療法は心血管疾患の予防を適応としない**こと閲覧 2026-08-21
  5. 5.Type and timing of menopausal hormone therapy and breast cancer risk: individual participant meta-analysis of the worldwide epidemiological evidence(The Lancet・2019)閉経後女性108,647人が乳癌を発症した前向き研究の個別患者データメタ解析で、**腟エストロゲンを除くすべての閉経期ホルモン療法**が乳癌リスク上昇と関連し、使用期間とともに増加し、エストロゲン単独よりエストロゲン+プロゲストーゲンで大きかったこと。使用1〜4年でエストロゲン+プロゲストーゲンの相対危険1.60、エストロゲン単独1.17、5〜14年ではそれぞれ2.08・1.33であったこと。プロゲストーゲンの連日投与は間欠投与より高リスクであったこと。50歳から5年使用した場合の50〜69歳の乳癌増加は、エストロゲン+連日プロゲストーゲンで約50人に1人、間欠投与で約70人に1人、エストロゲン単独で約200人に1人に相当すること閲覧 2026-08-21
  6. 6.早発卵巣不全(一般の皆様へ・産婦人科)(日本内分泌学会・2026)最終更新日2026年9月8日のページ全文を取得して確認した。①見出しと本文の呼称が「早発卵巣不全(早発閉経)」であること。②「早発卵巣不全には、卵巣内の卵胞が枯渇し、永久に月経が停止するタイプ(早発閉経)と卵胞が少数存在するため非常に低い頻度ながらも卵胞発育や排卵が起こるタイプの2つが有ります。ただし、両者の鑑別は困難です。」として、早発閉経を早発卵巣不全の一亜型の名として用いていること。③「一般の閉経年齢(50歳頃)まで定期的かつ継続的なホルモン補充療法が必要になります」としていること閲覧 2026-09-13