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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

先天性副腎過形成

Congenital adrenal hyperplasia

別名
CAH
臓器系
内分泌・代謝
科目
PathophysiologyPediatrics
トピック
病態生理学 I-20:急性・慢性副腎皮質機能低下症・先天性副腎過形成小児科 36:先天性副腎過形成小児科 3-16:小児副腎疾患
鑑別疾患
アンドロゲン不応症
続発疾患
原発性副腎不全思春期早発症
関連疾患
先天代謝異常症
治療薬
ヒドロコルチゾンフルドロコルチゾンデキサメタゾン
症状
高アンドロゲン血症多毛症
検査値
カリウムコルチゾール血糖17-ヒドロキシプロゲステロンアンドロステンジオンACTHDHEA-SACTH刺激試験

🧠 全体像は、副腎皮質でコルチゾールを作る酵素が遺伝で欠損する病気群であり、約90〜95%は欠損症が占める。論理は一本道である──酵素が欠ける→コルチゾールが作れない→ACTHへの負のフィードバックが消え、ACTHが上昇→副腎皮質が過形成し、欠損部位より上流の前駆体が行き場を失ってアンドロゲン合成経路へ流れ込む→がどうなるかは欠損酵素しだいで、と3β-HSDの欠損はも失われてを起こすが、と17α-水酸化酵素の欠損はむしろを持つ前駆体DOCが蓄積して高血圧を来す。「」という病名だが、本態は酵素欠損であり、過形成はACTH上昇の結果にすぎない。

概要

  • は、副腎皮質の遺伝性欠損により生じるの総称。
  • 頻度・重要度ともに(21-hydroxylase、CYP21A2)欠損症が全体の約90〜95%を占め、以下他の酵素欠損(、17α-水酸化酵素、3β-水酸化ステロイド脱水素酵素〔3β-HSD〕など)は稀である。
  • 欠損症はさらに、を来すはあるが明らかな塩喪失を来さない、小児期以降にゆるやかな高アンドロゲン症状で気づかれるに分かれる。
  • 46,XX児では出生時のが診断の契機になりやすい一方、46,XY児では外性器所見に乏しく、乳児期のが初発症状になることがある。
  • の遺伝性・小児期の重要な原因の一つだが、の代表である)が糖質・を一様に失うのに対し、CAHは欠損酵素ごとに軸・性ステロイド軸の異常パターンが異なる点が病態理解の軸になる。

病態

HPA軸とフィードバック消失のロジック

視床下部のCRHがのACTH分泌を促し、ACTHが副腎皮質()からのコルチゾール分泌を刺激する。コルチゾールは視床下部・下垂体に負のフィードバックをかけ、CRH・ACTHを抑制する。CAHではこの経路の入口にあたる酵素が欠損しているため、コルチゾールが作れず負のフィードバックが働かなくなり、ACTHが持続的に上昇する。

flowchart TD
    A["コレステロール"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='steroidogenic enzyme'>ステロイド合成酵素</span>の遺伝的欠損<br>(多くは21水酸化酵素)"]
    B --> C["コルチゾール合成障害"]
    B --> D["アルドステロン合成障害<br>(欠損酵素により有無が異なる)"]
    C --> E["負のフィードバック消失"]
    E --> F["ACTH上昇"]
    F --> G["両側副腎皮質過形成"]
    F --> H["欠損部位より上流の前駆体が蓄積"]
    H --> I["前駆体がアンドロゲン合成経路へシャント"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='androgen excess (hyperandrogenism)'>アンドロゲン過剰</span>"]
    C --> K["低血糖・低血圧・ストレス耐性低下"]
    D --> L["Na喪失・K上昇・脱水・循環不全<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='salt-wasting crisis'>塩喪失クリーゼ</span>)"]
    J --> M["46,XX:出生時外性器の男性化<br>46,XY:外性器は目立たず乳児期クリーゼで発覚しうる"]

💡 「コルチゾールが作れない」という一点から、ACTH上昇・副腎過形成・という3つの帰結がすべて説明できる。が失われるか、逆に過剰な前駆体(DOC)で高血圧になるかは、欠損酵素が経路のどこにあるかで決まる。

酵素欠損別の病型

酵素欠損 頻度 遮断される経路 ホルモンの過不足 血圧・電解質 性ステロイドへの影響
欠損(CYP21A2) 約90〜95% プロゲステロン・17-OHP→への変換 コルチゾール↓、アルドステロン↓(で著明)、アンドロゲン↑ は低血圧・低Na血症・高K血症・脱水(生後2〜4週で顕在化)。・非は電解質異常なし 46,XXの出生時。46,XYは性アンドロゲン作用(等)
(CYP11B1) 約5% →コルチゾール、DOC→コルステロンへの変換 コルチゾール↓、DOC↑(あり)、アンドロゲン↑ DOC過剰により高血圧、低K血症(塩喪失は来さない) 46,XXの出生時、男女とも性アンドロゲン作用
17α-水酸化酵素欠損(CYP17A1) ・プロゲステロン→17-OH体への変換(コルチゾールと性ステロイドの両方が下流で不足) コルチゾール↓、DOC↑、性ステロイド(アンドロゲン・エストロゲン)↓↓ DOC過剰により高血圧、低K血症 46,XYは外性器の女性化・不完全男性化。46,XXは思春期発来不全(
3β-水酸化ステロイド脱水素酵素欠損(3β-HSD) →プロゲステロン、→17-OHPへの変換(合成経路の最初期段階) コルチゾール↓、アルドステロン↓、(弱アンドロゲンのDHEAは末梢で変換され軽度のを来しうる) では低血圧・低Na血症・高K血症・脱水 46,XXで軽度の、46,XYで外性器の男性化不全(末梢変換に依存するため多様)

⭐ 覚え方の軸は「塩喪失か、高血圧か」。欠損と3β-HSD欠損はそのものが作れず塩喪失と17α-水酸化酵素欠損はを持つ前駆体DOCが遮断部位の上流に蓄積するため高血圧になる。

⚠️ かつて用いられた「男性/女性」という用語は使わない。(46,XX/46,XY)と具体的な外性器所見(出生時男性化の有無・程度)で記述し、として多職種で評価する。

臨床像

21-水酸化酵素欠損症(古典型・塩喪失型)

  • 46,XX児:出生時から外性器の男性化(など)がみられ、多くはに診断の契機となる。
  • 46,XY児:外性器は正常男性型に見えるため出生時には気づかれにくく、生後2〜4週の・嘔吐・体重増加不良・脱水・低血圧・ショック)で初めて診断されることがある。
  • 電解質は低Na血症・高K血症、血糖は低血糖傾向。ACTH過剰による皮膚・粘膜の色素沈着を伴うこともある。

21-水酸化酵素欠損症(古典型・単純男性化型、非古典型)

  • :明らかな塩喪失は来さないが、46,XXでは出生時、46,XYでは乳児期以降の性アンドロゲン作用(亢進と)がみられる。
  • ):出生時は正常で、小児期の・思春期以降の・不妊など、緩徐な高アンドロゲン症状で顕在化する。と臨床像が似るため鑑別の対象になる。

11β-水酸化酵素欠損・17α-水酸化酵素欠損

  • :46,XXの出生時に加え、DOC過剰による高血圧・低K血症を来す。診断が遅れると小児期に高血圧の原因として初めて疑われることもある。
  • 17α-水酸化酵素欠損:46,XYは外性器の女性化・不完全な男性化を示し、46,XXは思春期にが発来しない()。両者ともDOC過剰による高血圧・低K血症を伴う。

⭐ 覚え方:CAHでは「コルチゾール欠乏の手掛かり」(低血糖・体重増加不良・嘔吐・脱水・色素沈着)と「電解質・血圧の方向」(塩喪失か高血圧か)と「か性ステロイド不足か」の3軸で病型を読み解く。

診断

新生児マススクリーニング

  • 出生後数日以内に乾燥血液スポットで(17-OHP)を測定する。早産児・・重症疾患ではストレスにより偽陽性が、逆に非など軽症例では偽陰性が起こりうる。
  • 初回スクリーニング陽性例には、偽陽性を減らすために)による二次検査を行うことが推奨される。

確認検査と病型分類

  • 血清17-OHP、電解質、血糖、コルチゾール、ACTH、(またはレニン濃度)、アルドステロン、アンドロゲン(等)を測定する。
  • 境界域や非が疑われる場合は、ACTH負荷後の副腎ステロイドプロファイル(17-OHPの上昇度など)で確認する。
  • CYP21A2をはじめとする遺伝学的検査は、病型確定・重症度予測・遺伝(次子の再発リスク評価を含む)に有用である。
  • 外性器の非をもつ新生児では性別決定を急がず、小児内分泌、泌尿器/外科、遺伝、心理社会の各チームによる多職種評価を行う。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='newborn mass screening'>新生児マススクリーニング</span>:乾燥血液17-OHP"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cut-off'>カットオフ</span>を超えるか"}
    B -->|"陰性"| C["スクリーニング終了<br>(早産・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low birth weight, LBW'>低出生体重</span>は偽陽性に注意)"]
    B -->|"陽性"| D["二次検査(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liquid chromatography-tandem mass spectrometry'>LC-MS/MS</span>)または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='confirmatory test'>確認検査</span>へ"]
    D --> E["血清17-OHP・電解質・血糖・コルチゾール・<br>ACTH・レニン・アルドステロン・アンドロゲンを測定"]
    E --> F{"診断が明確か"}
    F -->|"明らかな異常高値"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classic form'>古典型</span>CAHと診断"]
    F -->|"境界域"| H["ACTH負荷後17-OHPプロファイルで確認"]
    H --> G
    H --> I["非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classic form'>古典型</span>CAHの可能性"]
    G --> J["遺伝学的検査(CYP21A2等)で<br>病型確認・遺伝<span class='jp-term jp-term-diagram' title='counseling'>カウンセリング</span>"]
    I --> J
    J --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='severity classification'>重症度分類</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='salt-wasting form'>塩喪失型</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='simple virilizing form'>単純男性化型</span>/非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='classic form'>古典型</span>)"]
    K --> L["病型に応じた<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>の決定"]

治療

維持療法

治療 内容
補充 成長期のCAHにはを1日3回に分割して用い、コルチゾール補充とACTH・の抑制を両立させる。目安はあたり約10〜15 mg/m²/日で、過量は成長抑制・骨量低下・を招くため個別に調整する。後の成人では長時間作用型への切り替えも選択肢になるが、なおが第一に推奨される
補充 欠損(を含む)ではを追加し、新生児・乳児期には食塩補充も行う。血圧・起立性所見・電解質・で調整し、ACTH値では調整しない
経過観察 身長・体重・、血圧、、電解質、レニン、17-OHP・を定期的に追跡する。過量グルココルチコイドによる成長抑制と、過少治療による早熟・の両方を避ける
CAHの治療 無症状であれば治療を行わない。急速な男性化・症候性の思春期・成人女性の高アンドロゲン症状(・無月経・不妊)がある場合にのみ治療を検討する
11β-/17α-水酸化酵素欠損の管理 補充によりACTH・DOC過剰を抑制することが高の基本だが、十分にしない場合はを個別に併用する。等のを機械的に追加投与しない(もともとDOC過剰では充足している)

ストレス投与と副腎クリーゼ

⚠️ 38.5℃を超える発熱、脱水を伴う胃腸炎、全身麻酔を要する大手術、ではグルココルチコイドを増量する()。一方、日常の心理的ストレスや軽い運動だけでは増量しない。本人・家族へ、緊急時の筋注用の携行と手技、医療用アラート(緊急カード等)の携帯を教育する。

⚠️ (嘔吐、脱水、低血圧、低血糖、低Na血症・高K血症、循環不全)を疑えば、採血結果を待たずにを直ちに静注・筋注し、の急速輸液、低血糖の補正、高K血症の治療を並行する。小児ではまたは年齢別の救急プロトコルに沿って初回投与量を決める。

出生前診断・出生前治療について

CAHの家族歴がある妊娠では、胎児が(とくに女児の)となるリスクを評価するため遺伝が検討される。⚠️ 母体への出生前投与(胎児の副腎を抑える目的で、胎盤を通過するを父母が胎児の性別・遺伝子型が判明する前の妊娠極早期から投与する治療)は、現行のEndocrine Society診療ガイドラインにおいてもなお実験的治療の域を出ないと位置づけられている。有効な治療対象は8人に1人(・女児)にすぎない一方、残り7/8の胎児(男児、非、非罹患児)は治療上の恩恵なくに曝露されることになり、出生時体重低下や、長期的な・代謝への影響を懸念する報告もある。そのため出生前治療はルーチンの診療としては推奨されず、倫理審査委員会承認済みの臨床研究プロトコルの枠内でのみ行うべきとされている。

まとめ

  • CAHは遺伝性欠損群で、約90〜95%は欠損症が占める。
  • 論理は「酵素欠損→コルチゾール↓→ACTH↑→副腎過形成+前駆体のアンドロゲンへのシャント」の一本道であり、が失われて塩喪失・3β-HSD欠損)になるか、DOC過剰で高血圧(11β-/17α-水酸化酵素欠損)になるかは欠損酵素で決まる。
  • 46,XX児は出生時が診断の契機になりやすいが、46,XY児は外性器所見に乏しく、乳児期ので初めて発覚することがある。
  • 診断は(17-OHP)に始まり、・遺伝学的検査で病型を確定する。
  • 治療の柱はによるコルチゾール補充とアンドロゲン抑制、への・食塩補充、発熱・手術時のストレス投与、での即時投与である。
  • 母体への出生前治療は依然として実験的治療にとどまり、ルーチンでは推奨されず研究プロトコル内に限られる。
  • と異なり、CAHでは酵素ごとに・性ステロイドの異常パターンが分かれる点が病態理解の軸になる。