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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 先天性疾患

アンドロゲン不応症

Androgen insensitivity syndrome

別名
AISCAISPAIS精巣性女性化症候群
臓器系
生殖・産婦人科内分泌・代謝
科目
Pathophysiology
トピック
病態生理学 I-24:男性性腺機能低下症とアンドロゲン不応症
鑑別疾患
クラインフェルター症候群ターナー症候群先天性副腎過形成男性性腺機能低下症
治療薬
エストラジオール

🧠 全体像は、核型46,XYでありながら(AR)遺伝子の変異により男性ホルモンが正常〜高値でもが反応できないというX連鎖劣性のDSD()である。精巣は正常に存在しAMHを産生するため由来(子宮・卵管・上部腟)は退縮するが、同じ理由で由来(精巣上体・)もアンドロゲンに反応できず発達しない——つまりは男女どちらの管も完成しない。は外性器が完全に女性型、は曖昧な外性器をとる。かつては悪性化リスクを理由に性腺を早期摘出するのが標準だったが、現行の標準治療は思春期後まで摘出を遅らせ、末梢性アロマターゼ変換による自然な女性化・骨成熟を活かしたうえでで時期を決める点が最大の実践的ポイントである。

概要

  • 形式をとるAR()遺伝子の変異により、核型46,XYの個体でテストステロン・(DHT)に対するの反応性が障害される46,XYのDSD(differences of sex development:)。
  • 精巣は正常に発生し、テストステロンとAMH()をともに産生する。しかし受容体が効かないため、男性化に必要なアンドロゲン作用(外性器の男性化、の発達)が起こらない一方、AMHの作用自体は受容体非依存のため由来構造(子宮・卵管・上部腟)は正常どおり退縮する
  • 表現型の幅でに大別する。CAISは外性器が完全に女性型、PAISは軽度の男性化所見から曖昧な外性器までスペクトラムを示す。
  • 頻度はCAISで46,XY出生の約1/20,000〜1/64,000程度とされる。
  • 学習上の位置づけ:がLH/FSHとテストステロンの高低で原発性・中枢性を鑑別する疾患であるのに対し、AISはホルモンは正常〜高値なのに受容体で反応できないという全く別の軸に立つ46,XYのDSDである。

病態

AR遺伝子変異とX連鎖劣性遺伝

flowchart TD
  A["Xq11-12上のAR(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='androgen receptor'>アンドロゲン受容体</span>)遺伝子変異"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='androgen receptor'>アンドロゲン受容体</span>の機能低下・消失"]
  B --> C["精巣は正常に発生しテストステロン・AMHを産生"]
  C --> D["AMHはAR非依存に作用<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Müllerian duct'>ミュラー管</span>由来(子宮・卵管・上部腟)は退縮"]
  C --> E["テストステロン・DHTの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='target tissue'>標的組織</span>作用がAR非依存には働かない<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Wolffian duct (mesonephric duct)'>ウォルフ管</span>由来(精巣上体・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ductus deferens'>精管</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seminal vesicle'>精嚢</span>)は発達しない"]
  C --> F["外性器のアンドロゲン依存的男性化が障害される"]
  F --> G{"受容体機能の残存度"}
  G -->|"完全に消失"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CAIS'>完全型</span>:外性器は完全に女性型"]
  G -->|"部分的に残存"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PAIS'>部分型</span>:曖昧な外性器(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Quigley classification'>Quigley分類</span>で評価)"]
  • AR遺伝子(Xq11-12)はテストステロン・DHTのをコードする。変異により能や化能が障害されると、(外性器原基、毛包、前立腺原基、)はアンドロゲンに曝露されても反応できない。
  • X連鎖劣性のため、母親が保因者()であることが多く、母親のきょうだい・娘の保因者検索を含む遺伝が重要になる。変異による孤発例もある。
  • 💡 AMHはから作られ、その作用(抑制)はを介さない独立した経路であるため、AR変異があってもAMHの作用自体は正常に働く。この非対称性が「精巣はあるのに子宮・卵管はない、かつ男性内性管も未発達」という一見矛盾した所見を説明する。

完全型(CAIS)と部分型(PAIS)の対比

観点
AR機能 ほぼ完全に消失 部分的に残存
外性器 完全に女性型 曖昧(軽度の男性化所見〜女性型に近いものまで幅がある)
(後述) grade 6〜7 grade 2〜5
性自認 ほぼ一貫して女性 が大きく、慎重な評価と家族とのを要する
診断契機 思春期の腫瘤としての精巣触知 出生時の外性器異常(
乏しい(依存のため) 残存する男性化の程度に応じて様々

Quigley分類

⭐ PAISのの程度を7段階で評価する尺度。grade 1が完全な男性型、grade 6・7が完全な女性型で、grade 2〜5が(PAISに相当)にあたる。

grade 外性器所見
1 完全な男性型(軽微な不妊のみで気づかれることもある)
2〜5 男性化の程度が段階的に減少する(PAISの範囲)
6 完全な女性型+思春期のあり
7 完全な女性型+思春期のなし(多くのCAISに相当)

臨床像

CAIS

  • 外性器は完全に女性型で、出生時には正常な女児として認識される。
  • 思春期になるとが正常〜良好に進むが、これは精巣から分泌されるテストステロンが末梢でアロマターゼによりエストラジオールへ変換されるためであり、卵巣由来ではない。
  • は乏しい〜欠如する(を介した毛包への作用が働かないため)。
  • 子宮・卵管を欠くためを来す。腟はで短いことが多い。
  • 精巣は腹腔内・内・大内のいずれかに存在し、または腫瘤として乳幼児期に発見されることがある。

PAIS

  • 出生時に外性器の男女判定が困難(であることが診断契機になる。で重症度を評価し、性別割り当てやの検討材料とする。
  • 様の外性器、様の陰茎など、残存する機能の程度に応じて多彩な表現型をとる。

⚠️ 「男性/女性」という旧称は用いず、核型(46,XY)と具体的な外性器所見・で記述し、として小児内分泌・泌尿器/婦人科・遺伝・心理の多職種で評価する。

診断

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary amenorrhea'>原発性無月経</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thelarche'>乳房発育</span>あり+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pubarche'>恥毛</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axillary hair'>腋毛</span>乏しい<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inguinal hernia'>鼠径ヘルニア</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Labia'>陰唇</span>腫瘤<br>または出生時の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ambiguous genitalia'>曖昧性器</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='karyotyping'>核型検査</span>:46,XY"]
  B --> C["ホルモン評価<br>テストステロン正常〜高値<br>LH高値(正常〜上昇)<br>AMH正常〜高値"]
  C --> D["骨盤超音波・MRI<br>子宮・卵管の欠如、精巣の位置を確認"]
  D --> E["AR<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic testing'>遺伝子検査</span>で変異を同定し確定診断"]
  E --> F{"外性器の表現型"}
  F -->|"完全女性型"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CAIS'>完全型</span>"]
  F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ambiguous genitalia'>曖昧性器</span>"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PAIS'>部分型</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Quigley classification'>Quigley分類</span>で重症度を評価"]
  G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multidisciplinary team'>多職種チーム</span>(小児内分泌・婦人科/泌尿器・遺伝・心理)で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonadectomy'>性腺摘除術</span>の時期・性別/ケアの方針を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shared decision-making'>共同意思決定</span>"]
  H --> I
  I --> J["母系<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood relative'>血縁者</span>の保因者検索を含む遺伝<span class='jp-term jp-term-diagram' title='counseling'>カウンセリング</span>"]
  • で46,XYを確認する。46,XX女性の男性化(など)とは核型の時点で区別できる。
  • ホルモン評価:総テストステロンは正常〜高値(男性の)、LHは高値またはを介した視床下部・下垂体への負のフィードバックが働かないため)、AMHは精巣機能を反映し正常〜高値をとる。
  • 画像評価(骨盤超音波・MRI)で子宮・卵管の欠如と精巣の位置(腹腔内・内・大内)を確認する。
  • AR(Xq11-12)で病的変異を同定し確定診断とする。同定された変異は診断確定に加え、母系の保因者検索・遺伝にも用いる。
  • CAHとの対比が診断学的に有用:CAHは46,XX個体の男性化、AISは46,XY個体の女性化という対照的なDSDであり、外性器の方向性が逆になる点で鑑別の軸になる。

治療

性腺摘除術のタイミング

⭐ かつては悪性化リスクを理由に性腺の早期摘出が標準治療とされていたが、現行の標準治療は摘出を思春期後まで遅らせる方針へ転換している。

  • 腹腔内に精巣を温存した場合の)リスクは、古典的な推定では完全型で25歳時点約3.6%、50歳時点約33%とされてきたが、より新しい系統的レビューでは実際の悪性化率はこれより低い(数%〜十数%程度)と報告されており、小児期・思春期前の悪性化はきわめて稀である点は一致している。
  • この「思春期前のリスクはほぼゼロに近い」という知見を根拠に、摘出を思春期完了後まで遅らせ、精巣からの内因性テストステロン→末梢アロマターゼ変換によるエストラジオール産生を活かして自然な・骨成熟を促す方針が現行標準となっている。
  • 摘出時期は年齢で一律に決めず、患者本人(が備わった時点)・家族・によるで決定し、温存を選ぶ場合は定期的な画像評価によるを行う。

ホルモン補充療法

  • 性腺摘除後は内因性エストロゲン産生源を失うため、エストロゲン補充療法エストラジオール)が必須になる。骨密度・心血管保護・女性化の維持を目的に、自然閉経相当年齢まで継続するのが原則。
  • 精巣を温存し自然な内因性エストロゲン産生が保たれている間は、外因性エストロゲン補充は必ずしも必要ない。

腟の管理

  • 腟が短く性交渉に支障をきたす場合、(進行性使用)を第一選択とし、反応不良例や本人の希望がある場合に外科的を検討する。

心理社会的支援・妊孕性・遺伝カウンセリング

  • CAISでは性自認はほぼ一貫して女性であることが多く、女性として養育・ケアされるのが一般的である。診断の告知方法、であることの受容、・不妊についての心理的支援を継続的に行う。
  • 妊孕性は温存できない(子宮を欠くため妊娠は不可能、精巣機能もアンドロゲン不応により生殖に寄与しない)。将来のパートナーシップ・挙児希望に関する率直な情報提供とが必要。
  • のため、母親が保因者である可能性を念頭に母系への保因者検索を含む遺伝を行う。

まとめ